意匠の類否(類似/非類似)

目次

 


はじめに

意匠の類否(るいひ)、つまり類似するか否かについて、かんたんにご説明いたします。

以下の説明において、旧審査基準とは、令和2年3月31日までの出願に適用されるものをいい、新審査基準とは、令和3年3月31日改訂版をいいます。

意匠の類否について、旧審査基準では(保護対象が物品に限られていたこともあり)シンプルに記載され、新審査基準では(保護対象が建築物や画像に拡大されたこともあり)詳細な説明となりました。

以下、まずは旧審査基準に基づき概略を確認した後、新審査基準を確認してみます。なお、審査基準の記載を弊所において、編集加工した箇所があります。最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、「特許庁編『意匠審査基準』のご案内」から、特許庁ホームページにてご確認ください。

意匠の類否判断の具体例については、意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)意匠の類否判断事例をご覧ください。

 


意匠の類否(類似/非類似)

意匠法には、次のとおり規定されています(第24条第2項)。
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。

これに対応して、旧意匠審査基準では、次のとおり規定されています。
「意匠の類否判断とは、意匠が類似するか否かの判断であって、需要者(取引者を含む)の立場からみた美感の類否についての判断をいう。」

そして、類否判断は次の(ア)~(オ)の観点によって行われる旨、規定されています。
(ア)対比する両意匠の「意匠に係る物品」認定及び類否判断
(イ)対比する両意匠の「形態」認定
(ウ)「形態」共通点及び差異点の認定
(エ)「形態」共通点及び差異点の個別評価
(オ)意匠全体としての類否判断

なお、上記(ア)に関連して、意匠とは「物品」の「形態」であることから、意匠の類似は、対比する意匠同士の「意匠に係る物品」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であることを前提とします

従って、仮に形態が同じでも物品が異なれば意匠は異なります。たとえば、亀の形状を有する置物と石鹸は、別個の意匠を構成します。
意匠の同一/類似/非類似を判断する場合、物品面形態面とを考慮する必要があります。

また、多くの場合、形態の認定は、「基本的構成態様」と「具体的態様(具体的構成態様)」とに分けてなされます。基本的構成態様と具体的態様とによる意匠の類否判断手法については、意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)をご覧ください。基本的構成態様とは何か、具体的態様(具体的構成態様)とは何か、これらを用いた類否判断をどのように行うのか、特許庁の意匠審査基準に基づき、解説しています。

 


意匠の類否(物品面と形態面)

意匠の類否(類似/非類似)

意匠Aは、出願(そして登録)された意匠そのものです。意匠Aを中心とする円内は、意匠Aの類似範囲を示しています。

意匠B1は、「○」で示され、意匠Aと物品が同一で形態も同一です。この場合、意匠B1は、意匠Aと「同一の意匠」ということになります。

意匠B2は、「△」で示され、意匠Aと次のいずれかの関係にあります。すなわち、(a)物品が同一で形態が類似、(b)物品が類似で形態が同一、(c)物品が類似で形態も類似、の関係にあります。いずれの場合も、意匠B2は、意匠Aと「類似の意匠」ということになります。

意匠B3は、「×」で示され、意匠Aとの関係で、物品および形態の内、一方または双方が非類似です。この場合、意匠B3は、意匠Aと「非類似の意匠」ということになります。

意匠権の効力は、登録意匠およびこれに類似する意匠にまで及びます。

 


意匠審査基準の「類否判断」

判断主体

類否判断の判断主体は、需要者(取引者を含む)である。

類否判断は、人間の感覚的な部分によるところが大きいが、その判断を行う際は、創作者の主観的な視点を排し、需要者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断する。

 

類否判断の手法

意匠は、「物品等」と「形状等」が一体不可分のものであるから、対比する両意匠の「意匠に係る物品等」が同一又は類似でなければ意匠の類似は生じない。

したがって、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断する。

なお、物品、画像、建築物の各意匠の間においても、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合は、両意匠は類似すると判断する。

 

(1)出願意匠が物品等の全体について意匠登録を受けようとするものである場合

  • [1] 出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること
  • [2] 出願意匠と公知意匠の「形状等」が同一又は類似であること

なお、上記[1]及び[2]がいずれも同一の場合、両意匠は同一と判断する。

※意匠に係る物品等=「意匠に係る物品」又は「意匠に係る建築物若しくは画像」
※形状等=「形状、模様若しくは色彩」又は「これらの結合」

 

(2)出願意匠が物品等の部分について意匠登録を受けようとするものである場合

  • [1] 出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること
  • [2] 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること
  • [3] 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】とが、「同一」又は「当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内」のものであること
  • [4] 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の【形状等】が同一又は類似であること
    (注)「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。

なお、上記[1]から[4]が全て同一の場合、両意匠は同一と判断する。

 

意匠の類否判断の観点

次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。

  • (ア) 対比する両意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】認定及び類否判断
  • (イ) 物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分における【用途】及び【機能】共通点及び差異点の認定
  • (ウ) 物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分の【位置】、【大きさ】、【範囲】共通点及び差異点の認定
  • (エ) 対比する両意匠の【形状等】認定
  • (オ) 対比する両意匠の【形状等】共通点及び差異点の認定
  • (カ) 対比する両意匠の【形状等】共通点及び差異点の個別評価
  • (キ) 総合的な類否判断

 

さらに詳細な情報は、下記のリンク先をご覧ください。

 


関連情報

 


(作成2002.10.06、最終更新2022.11.23)
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