日本特許第1号

日本特許第1号:堀田錆止塗料及びその塗法

堀田 瑞松(ほった ずいしょう)氏による、日本特許の第1号について、“解読”してみました。

正確には、特許第1号公報(pdf)をご確認ください。

なお、以下において、青字には、本書末尾に用語解説を入れています。

 


特許第1号公報

東京府・・堀田瑞松より明治18年7月1日に出願し明治18年8月14日付をもって15箇年を期限とし特許した第1号専売特許証に属する明細書摘要は、左のとおりである。

堀田錆止塗料及びその塗法

鉄製及び鋼製の艦体、橋梁、その他同質製の機械器具等の錆食を予防するのに使用できる新奇有益の塗料、つまり命じて堀田錆止塗料と称する組成剤及びその塗法を発明し、これを左に明解する。

この塗料には四種ある。その第一号塗料は、生漆、鉄粉、鉛丹油煤柿渋酒精、生姜、酢及び鉄漿、第二号塗料は、生漆、鉄粉、鉛丹、油煤、柿渋、酢及び鉄漿、第三号塗料は、生漆、鉄粉、鉛丹、油煤、柿渋、生姜、酢及び鉄漿、第四号塗料は、生漆、鉄粉、鉛丹、油煤、酢及び鉄漿、を混合攪擾して製成するものとする。そこで、その成分の割合を掲げると、左のとおりである。

第一号塗料
       
一 生漆  100、0
一 鉄粉   20、0
一 鉛丹    2、0
一 油煤    0、3
一 柿渋    1、0
一 酒精    0、4
一 生姜    0、4
一 酢     1、0
一 鉄漿    0、5

第二号塗料
       匁
一 生漆  100、0
一 鉄粉   20、0
一 鉛丹    2、0
一 油煤    0、3
一 柿渋    1、0
一 酢     1、0
一 鉄漿    0、5

第三号塗料
       匁
一 生漆  100、0
一 鉄粉   20、0
一 鉛丹    2、0
一 油煤    0、3
一 柿渋    1、0
一 生姜    0、4
一 酢     1、0
一 鉄漿    0、5

第四号塗料
       匁
一 生漆  100、0
一 鉄粉   20、0
一 鉛丹    2、0
一 油煤    0、3
一 酢     1、0
一 鉄漿    0、5

右諸成分の割合を少し変更してもよい。また、帯色塗料を欲するときは、適宜の顔料を添加する。

この塗料を塗抹するには、まず、その塗抹すべき物体に現れた錆を削脱し清水をもって洗浄し、また塩気を含むものにあっては順次に希硫酸及び清水をもって丁寧に洗浄し、これを速やかに乾燥し、その後、強毛製の刷子回旋して第一号塗料を塗抹し、その上に第二号塗料を前のように塗抹し、次に第三号塗料を横に塗抹し、砂紙をもって摩擦して平滑にし、最後に第四号塗料を交互縦横に塗抹すること二回ずつして乾燥し、その工を終わる。但し、冬日にあっては、大気中の水分が少なく塗料の乾燥速やかでないので、蒸気を噴射し、その乾燥を助けるのがよい。

この塗料は、通常の生漆とは異なり、これを鉄製および鋼製の艦体、橋梁、その他同質製の機械器具等に施すときは、よく密着し、その乾燥したる後は堅硬で、鉄及び鋼と弾性を一にし、亀裂剥脱の心配がないので、大いに防錆の効果がある。特に、艦体のごときは常に海水中にあるので、電気を発生するためにその錆食を来すのが速く、従来の防錆剤を用いるときは僅か六か月を保たないけれども、この塗料を施すときは少なくとも三年間は艦体に錆を生じることがないばかりか、介藻をも付着せず常に光沢を保有する。

この発明の専売特許を請求する区域は、上文に記載する第一号から第四号塗料、及びその塗法である。

 


用語解説

*出典のないものは、弊所解釈です。

  • 新奇(しんき)=「新しくて珍しいこと・さま。変わっていること・さま。」(梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明 監修「日本語大辞典」講談社、1989年)
  • 生漆(きうるし)=「木からとったままで、精製していない漆。」(前記「日本語大辞典」)
  • 鉛丹(えんたん)=「赤色の無機顔料。酸化鉛を空気中で熱してつくる。主成分は四酸化三鉛Pb3O4 さび止め塗料・釉(うわぐすり)・鉛ガラスなどの原料に利用。光明(こうみょう)丹。」(前記「日本語大辞典」)
  • 油煤=すす
  • 柿渋(かきしぶ)=「渋柿から採取した液。防腐・防水剤として、木・麻布・紙などに塗る。」(前記「日本語大辞典」)
  • 酒精(しゅせい)=「エチルアルコール。すべのアルコール飲料に含まれていることから。」(前記「日本語大辞典」)
  • 鉄漿(てっしょう)=「鉄を長く水に浸して得る黒い汁。」(「大辞林 第3版」三省堂)
  • 攪擾(かくじょう)=「かきまわして混ぜ合わせること。」(「大辞林 第3版」三省堂)
  • (もんめ)=「め。尺貫法の重さの単位。一貫の一000分の一。約3.75g」(前記「日本語大辞典」)
  • 帯色=色を帯びさせること。色を付けること。
  • 塗抹(とまつ)=「(1)ぬりつけること。塗布。(2)塗りけすこと。抹消。」(前記「日本語大辞典」)
  • 削脱=削り取ること。はつること。
  • 刷子(さっし)=「はけ。ブラシ。」(「大辞林 第3版」三省堂)
  • 回旋(かいせん)=「くるくる回ること。回すこと。」(前記「日本語大辞典」)
  • 砂紙(すながみ)=「紙やすり。サンドペーパー。」(「デジタル大辞泉」小学館)
  • 介藻=貝や藻のこと。

 


(作成2019.10.16、最終更新2019.10.16)
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