本多光太郎のKS鋼特許

本多光太郎の代表特許:特殊合金鋼

本多 光太郎(ほんだ こうたろう)氏による特殊合金鋼(KS鋼・磁石鋼)の特許について、“解読”してみました。

正確には、特許第32234号公報(pdf)をご確認ください。

本多光太郎氏は、日本の十大発明家のお一人で、鉄鋼の世界的権威です。

なお、以下において、赤字には、本書末尾に用語解説を入れています。

 


特許第32234号

第85類
出願 大正6年6月15日
特許 大正7年2月22日
仙台市・・・
 発明者 理学博士 本多 光太郎
大阪市・・・
 特許権者 株式会社 住友鋳鋼所

明細書

特殊合金鋼

発明の性質及び目的の要領

本発明は、特に磁石を造るため、鋼鉄と20から60パーセントのコバルトとを合金し、これに若干量のタングステン、モリブデン、バナジウム又はその同族の金属を加えてなる特殊合金鋼に係り、その目的とする所は、頑性力 強さ及び耐久力ともに甚大な永久磁石を得ようとするにある。

 

発明の詳細な説明

本発明は、
 コバルト 20から60パーセント
 鋼鉄   右歩合以外の全量

概ね右のような配合を基礎としてなる合金であって、これに0.5から20パーセントのタングステン、もしくは0.2から15パーセントのモリブデンを加え、あるいは更に0.3から10パーセントのクロムを加えることにより、一層良好な結果を発揮させる。そうして、本発明に用いる鋼鉄は、含炭量、約0.3から2パーセントを適当とし、コバルトの分量は他の資料の配合率により多少の差異あっても、35パーセント前後を最良とする。

この磁石鋼を造る方法は、上記の割合に各金属元素を混ぜて、これを摂氏1700度から1800度にて熱して十分に溶解し、徐々に冷却する。次に、これを鍛錬して磁石の形とした後、焼入をする。焼入の温度は、普通磁石鋼の焼入温度「約800度」より著しく高く、約900度から1000度を最も適当とする。

このように焼入した磁石鋼を強大な電磁石あるいはコイルによって強く付磁するのである。これを付磁して得た磁石は、従来公知の磁石に比べて左記の二点において、著しく優越である。

(イ)頑性力 従来公知の最も優良な磁石においては、その頑性力は75CGS単位を超えなかったが、本発明においてはこれを200CGS単位にならせることができる。従って、従来の磁石鋼に比べて磁気の強さの耐久力は甚だ大きい。

(ロ)磁気の強さ 従来公知の最も優良な磁石においても、加年後の磁気の強さは、450CGS単位を超えるもの稀だが、本発明の磁石においては、頑性力が大きいので、加年後700CGS単位の磁気の強さを有する。

従来、鋼鉄にコバルトを配合した合金鋼の存在することは発明者の知るところであるが、本発明の特徴は、鋼鉄に20から60パーセントという多量のコバルトを配合して、はじめて求め得られたものであって、これ本発明者の永き深き研究に起因し、このため磁石応用の種々の研究及び工業状態に一大革新を起こすものと言える。

本発明の精神を変えない程度において設計的変更を加えることができる。

 

特許請求の範囲

 前記目的をもって鋼鉄と20から60パーセントのコバルトとよりなる特殊合金鋼

 前記の目的をもって鋼鉄と20から60パーセントのコバルトと、タングステン、モリブデン、バナジウム又はその同族の金属とよりなる特殊合金鋼

 前記の目的をもって鋼鉄と20から60パーセントのコバルトと、タングステン、モリブデン、バナジウム又はその同族の金属と、クロームとよりなる特殊合金鋼

 前記各項記載の特殊合金鋼を付磁したもの

 


用語解説

*出典のないものは、弊所解釈です。

  • 頑性=保磁性(濱住松二郎「金属合金最近の進歩」電気学会、昭和12年5月、第57巻、第586号、p.398)
  • 鍛錬(たんれん)=「金属を打ってきたえること。」(「デジタル大辞泉」小学館)
  • 焼入(焼入れ:やきいれ)=「高温に加熱した金属材料を、水・油などで急冷する熱処理。硬さ・強度を増すため鋼に広く適用される。刀など。」(梅棹忠夫・金田一春彦・阪倉篤義・日野原重明 監修「日本語大辞典」講談社、1989年)
  • 付磁(ふじ)=磁力を付けること。

 


(作成2019.10.20、最終更新2019.10.20)
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