特許拒絶理由

はじめに

 


特許出願の審査

特許庁への出願後、3年以内に、出願審査の請求をすることで、特許出願は審査に付されます。

特許出願の審査において、特許庁審査官は、特許出願に拒絶理由を発見した場合、拒絶理由を通知し、出願人に反論の機会を与えます。

拒絶理由通知に対し出願人が応答しないか、応答しても拒絶理由が解消しない場合、拒絶査定がなされます。拒絶査定に対しては、審判や訴訟で争うことができます。

拒絶理由を発見しないか、拒絶理由が解消した場合、特許査定がなされます。出願人が特許料を納付することで、特許権が成立します。

 


特許出願の拒絶理由【一覧】

特許出願が下記のいずれかに該当するとき、出願人に拒絶理由が通知され、拒絶理由が解消しない場合、拒絶査定がなされます。

 

1. 新規事項追加(新規事項を追加する補正がされた場合):第49条第1号、第17条の2第3項

明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正(補充又は訂正)は、原則として、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければなりません。我が国では最先の出願人にのみ権利を付与する先願主義を採用するので、出願後に明細書等に新規事項を追加することは許されません。

 

2. シフト補正(発明の特別な技術的特徴を変更する補正がされた場合):第49条第1号、第17条の2第4項

拒絶理由が通知された後は、たとえ明細書又は図面に記載されていても、特許請求の範囲に記載の審査対象の発明の内容を大きく変更する(発明の特別な技術的特徴を変更する)ことはできません。審査のやり直しが生じるからです。

発明の特別な技術的特徴を変更する補正とは、以下の(i)及び(ii)の発明の間で発明の単一性(一出願に含めることができる発明の範囲)の要件を満たさないものとなる補正をいいます。

  • (i) 補正前の特許請求の範囲に記載されていた発明のうち、拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された全ての発明
  • (ii) 補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される全ての発明

 

3. 外国人の権利の享有:第49条第2号、第25条

日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次のいずれかに該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することができません。

  • (i) その者の属する国において、日本国民に対しその国民と同一の条件により特許権その他特許に関する権利の享有を認めているとき。
  • (ii) その者の属する国において、日本国がその国民に対し特許権その他特許に関する権利の享有を認める場合には日本国民に対しその国民と同一の条件により特許権その他特許に関する権利の享有を認めることとしているとき。
  • (iii) 条約に別段の定があるとき。

 

4. 発明該当性(「発明」でない場合):第49条第2号、第29条第1項柱書

「発明」といえるためには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である必要があります。

以下の(i)から(vi)までの類型に該当するものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないので、「発明」に該当しません

  • (i) 自然法則自体(エネルギー保存の法則、万有引力の法則)
  • (ii) 単なる発見であって創作でないもの(例えば鉱石のような天然物。但し、天然物から人為的に単離した化学物質、微生物等は、「発明」に該当する。)
  • (iii) 自然法則に反するもの(永久機関)
  • (iv) 自然法則を利用していないもの(自然法則以外の法則(例:経済法則)、人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動、これらのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体))
  • (v) 技術的思想でないもの(技能(例:フォークボールの投球方法)、情報の単なる提示(例:機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル)、単なる美的創造物(例:絵画、彫刻等)。但し、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法等)に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示に当たらない(例:文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード)。)
  • (vi) 発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの

 

5. 産業上の利用可能性:第49条第2号、第29条第1項柱書

以下の(i)から(iii)までのいずれかに該当する発明は、産業上の利用可能性の要件を満たしません

  • (i) 人間を手術、治療又は診断する方法の発明
  • (ii) 業として利用できない発明(個人的にのみ利用される発明(例:喫煙方法)、学術的、実験的にのみ利用される発明)
  • (iii) 実際上、明らかに実施できない発明(例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフイルムで覆う方法)

 

6. 新規性(新しいか):第49条第2号、第29条第1項各号

以下の(i)から(iii)までのいずれかに該当する発明は、新規性を有しません。

  • (i) 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明(公知
  • (ii) 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(公用
  • (iii) 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明(文献公知)又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明(インターネット公知

詳しくは、発明の新規性・進歩性をご覧ください。

 

7. 進歩性(通常考えつく程度の改良・改変か):第49条第2号、第29条第2項

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が前記新規性阻却事由となる公知、公用、文献公知等の発明(先行技術)に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、特許を受けることができません。

詳しくは、発明の新規性・進歩性をご覧ください。

 

8. 拡大先願:第49条第2号、第29条の2

先願が出願公開等される前に後願が出願されても、先願の当初明細書等に記載された発明と同一発明については、後願は特許を受けることができません。但し、発明者が同一の場合、又は後願の出願時において出願人が同一である場合は、この限りではありません。

詳しくは、拡大先願(特許法29条の2)をご覧ください。

 

9. 不特許事由(公序良俗・公衆衛生):第49条第2号、第32条

公の秩序、善良の風俗又は公衆の衛生を害するおそれがある発明については、特許を受けることができません。

例えば、遺伝子操作により得られたヒト自体、専ら人を残虐に殺戮することのみに使用する方法は、不特許事由に該当します。

 

10. 共同出願:第49条第2号、第38条

特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができません。

 

11. 先願:第49条第2号、第39条第1~4項

  • (1) 異なった日にされた特許出願同士
    同一の発明について異なった日に二以上の特許出願があったときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができます。
  • (2) 同日にされた特許出願同士
    同一の発明について同日に二以上の特許出願があったときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができます。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができません。
  • (3) 異なった日にされた特許出願と実用新案登録出願
    特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が異なった日にされたものであるときは、特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願をした場合にのみその発明について特許を受けることができます。
  • (4) 同日にされた特許出願と実用新案登録出願
    特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができます。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができません。

詳しくは、先願(特許法39条)をご覧ください。

 

12. 条約違反:第49条第3号

その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるときは、出願は拒絶されます。

 

13. 明細書の記載要件:第49条第4号、第36条第4項第1号

明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること)、委任省令要件(経済産業省令で定めるところにより記載されていること)を具備する必要があります。

 

14. 特許請求の範囲の記載要件:第49条第4号、第36条第6項

特許請求の範囲の記載は、サポート要件(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)、明確性要件(特許を受けようとする発明が明確であること)、簡潔性要件(請求項ごとの記載が簡潔であること)、委任省令要件(その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること)を具備する必要があります。

詳しくは、特許請求の範囲の記載要件特許請求の範囲の明確性をご覧ください。

 

15. 発明の単一性:第49条第4号、第37条

二以上の発明については、経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、一の願書で特許出願をすることができます。この規定に反して、一出願に含めることができる発明の範囲を超えて出願することはできません。

 

16. 先行技術文献情報開示要件:第49条第5号、第36条第4項第2号、第48条の7

明細書の発明の詳細な説明の記載について、先行技術文献情報開示要件が課されます。すなわち、その発明に関連する文献公知発明のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を、発明の詳細な説明に記載する必要があります。

先行技術文献情報開示要件を満たしていない場合、特許出願人に対しその旨が通知され、反論の機会が与えられます。それでもなお先行技術文献情報開示要件を満たすこととならない場合、出願は拒絶されます。

詳しくは、明細書への先行特許文献等の記載(先行技術文献情報開示要件)をご覧ください。

 

17. 原文新規事項:第49条第6号

その特許出願が外国語書面出願である場合、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項は、外国語書面に記載した事項の範囲内になければなりません。

 

18. 冒認出願:第49条第7号

冒認(ぼうにん)、すなわち特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき、出願は拒絶されます。

 


条文解読

特許法

(拒絶の査定)
第49条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない

  一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項(新規事項追加禁止)又は第4項(シフト補正禁止)に規定する要件を満たしていないとき。

  二 その特許出願に係る発明が第25条(外国人の権利享有)、第29条(新規性・進歩性)、第29条の2(拡大先願)、第32条(不特許事由(公序良俗・公衆衛生))、第38条(共同出願)又は第39条第1項から第4項まで(先願)の規定により特許をすることができないものであるとき。

  三 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。

  四 その特許出願が第36条第4項第一号(発明の詳細な説明の記載要件としての実施可能要件・委任省令要件)若しくは第6項(特許請求の範囲の記載要件としてのサポート要件・明確性要件・簡潔性要件・委任省令要件)又は第37条(発明の単一性)に規定する要件を満たしていないとき。

  五 前条の規定による通知(発明の詳細な説明の記載要件としての先行技術文献情報開示要件を満たしていない旨の通知)をした場合であつて、その特許出願が明細書についての補正又は意見書の提出によつてもなお第36条第4項第二号(先行技術文献情報開示要件)に規定する要件を満たすこととならないとき。

  六 その特許出願が外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。

  七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき(冒認出願)。

 


参考文献

特許庁編『特許・実用新案審査基準』、『特許・実用新案審査ハンドブック』

 


関連情報

 


(作成2020.01.16、最終更新2020.06.04)
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