特許出願に対する情報提供(特許付与前の情報提供)

特許付与前の情報提供制度

特許庁に係属している特許出願に対しては、何人も、特許庁長官に対し、刊行物や特許出願書類の写しなどの書類を提出することにより、特許出願が所定の拒絶理由に該当する旨の情報を提供することができます(特許法施行規則第13条の2)。

情報の提供は、無料で誰でもすることができます。匿名でも可能です。

特許庁に係属している特許出願に対して、情報提供することができます。
そのため、拒絶査定が確定した特許出願や、放棄、取下げ、却下された特許出願に対しては、情報提供できません。
また、特許権の設定登録がされた特許出願に対しては、本規定(特許法施行規則第13条の2)に基づく情報提供【特許付与前の情報提供】はできませんが、別規定(特許法施行規則第13条の3)に基づく情報提供【特許付与後の情報提供】ができます。

情報の提供は、「刊行物等提出書」により行います(特許法施行規則 様式20)。
郵送でも、オンライン手続でも提出可能です。書面で郵送しても、電子化手数料は不要です。
匿名での情報提供を希望する場合、刊行物等提出書の【住所又は居所】及び【氏名又は名称】の欄に「省略」と記載します(様式20備考5)。

特許庁の注意喚起によれば、「オンライン手続においてPDFまたはJPEGイメージを添付する場合、ファイルのプロパティなどに作成者情報が設定されている場合がありますので、匿名を希望される場合は御注意ください。」とのことです。

提出する情報が特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)に蓄積されている公報である場合は、刊行物等提出書の【提出する刊行物等】の欄に公報番号を記載し、公報の添付を省略することができます。

その他、必要に応じて、引用箇所を下線などで指摘したり、外国語文献には関連箇所の翻訳文も提出することが望ましい、とされています。

情報提供者が匿名でない場合、希望すれば、提供した情報が審査に利用されたか否かのフィードバックを受けることができます。

 


特許付与前の情報提供理由【一覧】

何人も、特許庁長官に対し、刊行物や特許出願書類の写しなどの書類を提出することにより、特許出願が下記のいずれかに該当する旨の情報を提供することができます。

 

1. 新規事項追加(新規事項を追加する補正がされた場合):施行規則第13条の2第1項第1号、特許法第17条の2第3項

明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正(補充又は訂正)は、原則として、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければなりません。我が国では最先の出願人にのみ権利を付与する先願主義を採用するので、出願後に明細書等に新規事項を追加することは許されません。新規事項を追加する補正がされた出願(外国語書面出願、外国語特許出願、及びみなし外国語特許出願を除く)である場合、情報提供理由となります。

 

2. 発明該当性(「発明」でない場合):施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第29条第1項柱書

「発明」といえるためには、「自然法則を利用した技術的思想の創作」である必要があります。

以下の(i)から(vi)までの類型に該当するものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではないので、「発明」に該当しません

  • (i) 自然法則自体(エネルギー保存の法則、万有引力の法則)
  • (ii) 単なる発見であって創作でないもの(例えば鉱石のような天然物。但し、天然物から人為的に単離した化学物質、微生物等は、「発明」に該当する。)
  • (iii) 自然法則に反するもの(永久機関)
  • (iv) 自然法則を利用していないもの(自然法則以外の法則(例:経済法則)、人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)、数学上の公式、人間の精神活動、これらのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体))
  • (v) 技術的思想でないもの(技能(例:フォークボールの投球方法)、情報の単なる提示(例:機械の操作方法又は化学物質の使用方法についてのマニュアル)、単なる美的創造物(例:絵画、彫刻等)。但し、情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法等)に技術的特徴があるものは、情報の単なる提示に当たらない(例:文字、数字、記号からなる情報を凸状に記録したプラスチックカード)。)
  • (vi) 発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、課題を解決することが明らかに不可能なもの

 

3. 産業上の利用可能性:施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第29条第1項柱書

以下の(i)から(iii)までのいずれかに該当する発明は、産業上の利用可能性の要件を満たしません

  • (i) 人間を手術、治療又は診断する方法の発明
  • (ii) 業として利用できない発明(個人的にのみ利用される発明(例:喫煙方法)、学術的、実験的にのみ利用される発明)
  • (iii) 実際上、明らかに実施できない発明(例:オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフイルムで覆う方法)

 

4. 新規性(新しいか):施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第29条第1項各号

以下の(i)から(iii)までのいずれかに該当する発明は、新規性を有しません。

  • (i) 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明(公知
  • (ii) 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(公用
  • (iii) 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明(文献公知)又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明(インターネット公知

詳しくは、発明の新規性・進歩性をご覧ください。

 

5. 進歩性(通常考えつく程度の改良・改変か):施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第29条第2項

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が前記新規性阻却事由となる公知、公用、文献公知等の発明(先行技術)に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、特許を受けることができません。

詳しくは、発明の新規性・進歩性をご覧ください。

 

6. 拡大先願:施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第29条の2

先願が出願公開等される前に後願が出願されても、先願の当初明細書等に記載された発明と同一発明については、後願は特許を受けることができません。但し、発明者が同一の場合、又は後願の出願時において出願人が同一である場合は、この限りではありません。

詳しくは、拡大先願(特許法29条の2)をご覧ください。

 

7. 先願:施行規則第13条の2第1項第2号、特許法第39条第1~4項

  • (1) 異なった日にされた特許出願同士
    同一の発明について異なった日に二以上の特許出願があったときは、最先の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができます。
  • (2) 同日にされた特許出願同士
    同一の発明について同日に二以上の特許出願があったときは、特許出願人の協議により定めた一の特許出願人のみがその発明について特許を受けることができます。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、いずれも、その発明について特許を受けることができません。
  • (3) 異なった日にされた特許出願と実用新案登録出願
    特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が異なった日にされたものであるときは、特許出願人は、実用新案登録出願人より先に出願をした場合にのみその発明について特許を受けることができます。
  • (4) 同日にされた特許出願と実用新案登録出願
    特許出願に係る発明と実用新案登録出願に係る考案とが同一である場合において、その特許出願及び実用新案登録出願が同日にされたものであるときは、出願人の協議により定めた一の出願人のみが特許又は実用新案登録を受けることができます。協議が成立せず、又は協議をすることができないときは、特許出願人は、その発明について特許を受けることができません。

詳しくは、先願(特許法39条)をご覧ください。

 

8. 明細書の記載要件:施行規則第13条の2第1項第3号、特許法第36条第4項

明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること)、委任省令要件(経済産業省令で定めるところにより記載されていること)、先行技術文献情報開示要件(その発明に関連する文献公知発明のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知っているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在が記載されていること)を具備する必要があります。

 

9. 特許請求の範囲の記載要件:施行規則第13条の2第1項第3号、特許法第36条第6項(第4号を除く)

特許請求の範囲の記載は、サポート要件(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)、明確性要件(特許を受けようとする発明が明確であること)、簡潔性要件(請求項ごとの記載が簡潔であること)を具備する必要があります。

但し、特許請求の範囲の記載要件のうち委任省令要件(その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること)は、情報提供理由ではありません。

詳しくは、特許請求の範囲の記載要件特許請求の範囲の明確性をご覧ください。

 

10. 原文新規事項:施行規則第13条の2第1項第4号

その特許出願が外国語書面出願である場合、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項は、外国語書面に記載した事項の範囲内になければなりません。

外国語特許出願、みなし外国語特許出願についても、同様に、原文新規事項を含んでいる場合には、情報提供理由となります。

 


拒絶理由であって(特許付与前の)情報提供理由でないもの

  • 特許法第49条第1号(第17条の2第4項):シフト補正禁止
  • 特許法第49条第2号(第25条):外国人の権利の享有
  • 特許法第49条第2号(第32条):不特許事由(公序良俗・公衆衛生)
  • 特許法第49条第2号(第38条):共同出願
  • 特許法第49条第3号:条約違反
  • 特許法第49条第4号(第36条第6項第4号):特許請求の範囲の記載要件のうち委任省令要件
  • 特許法第49条第4号(第37条):発明の単一性
  • 特許法第49条第7号:冒認出願
  • その他、外国語書面出願及び外国語特許出願等に係る第17条の2第3項の翻訳文新規事項に関しても、情報提供することはできません(特許法第49条第1号、特許法施行規則第13条の2第1項第1号括弧書き)。

 


条文解読

特許法施行規則

(情報の提供)
第13条の2 何人も、特許庁長官に対し、刊行物、特許出願又は実用新案登録出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲若しくは図面の写しその他の書類を提出することにより、特許出願が次の各号のいずれかに該当する旨の情報を提供することができる。ただし、当該特許出願が特許庁に係属しなくなつたときは、この限りでない。

  一 その特許出願(特許法第36条の2第2項の外国語書面出願、同法第184条の4第1項の外国語特許出願及び同法第184条の20第4項の規定により特許出願とみなされた国際出願であつて外国語でされたものを除く。)の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が特許法第17条の2第3項(新規事項追加禁止)に規定する要件を満たしていないこと。

  二 その特許出願に係る発明が特許法第29条(新規性・進歩性)、第29条の2(拡大先願)又は第39条第1項から第4項まで(先願)の規定により特許をすることができないものであること。

  三 その特許出願が特許法第36条第4項(発明の詳細な説明の記載要件としての実施可能要件・委任省令要件・先行技術文献情報開示要件)又は第6項(特許請求の範囲の記載要件としてのサポート要件・明確性要件・簡潔性要件)(第四号(委任省令要件)を除く。)に規定する要件を満たしていないこと。

  四 その特許出願が特許法第36条の2第2項の外国語書面出願である場合において、当該特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が同条第1項の外国語書面に記載した事項の範囲内にないこと。

 2 前項の規定による情報の提供は、様式第20により作成した書面(刊行物等提出書)によらなければならない。

 3 前項の書面には、第1条第3項の規定にかかわらず、提出者の印を押すことを要しない

 4 第2項の書面には、第1条第3項の規定にかかわらず、提出者の「氏名若しくは名称」、「住所若しくは居所」又は法人にあつては「代表者の氏名」を記載することを省略することができる

 

(情報の提供等の特例)
第38条の12 国際特許出願については、第31条の3中「出願公開」とあるのは、特許法第184条の6第2項の日本語特許出願にあつては「特許法第184条の9第1項の国際公開」と、同法第184条の4第1項の外国語特許出願にあつては「特許法第184条の9第1項の国内公表」とする。

 2 特許法第184条の4第1項の外国語特許出願については、第13条の2第1項第四号及び第13条の3第1項第四号中「第36条の2第2項の外国語書面出願」とあるのは「第184条の4第1項の外国語特許出願」と、「同条第1項の外国語書面」とあるのは「同項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」とする。

 3 特許法第184条の20第4項の規定により特許出願とみなされた国際出願であつて外国語でされたものについては、第13条の2第1項第四号及び第13条の3第1項第四号中「特許法第36条の2第2項の外国語書面出願」とあるのは「外国語でされた国際出願」と、「同条第1項の外国語書面」とあるのは「特許法第184条の20第4項に規定する国際出願日となつたものと認められる日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」とする。

 


参考文献

  • 特許庁ウェブサイト『情報提供制度の概要(https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/jyouhou_01.html)』、『情報提供を行う際の手続(https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/johotekyo/jyouhou_02.html)』
  • 特許庁編『特許・実用新案審査基準』、『特許・実用新案審査ハンドブック』

 


関連情報

 


(作成2020.01.22、最終更新2020.01.22)
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