従属項の作成理由

はじめに

 


独立項と従属項

独立項と従属項」で述べたように、特許請求の範囲の請求項には、「独立項(独立形式請求項)」と「従属項(引用形式請求項)」とがあります。

独立項とは、先行する他の請求項を引用しないで記載した請求項をいい、「請求項○に記載の…」のような文言がない請求項です。一方、従属項とは、先行する他の請求項を引用して記載した請求項をいい、「請求項○に記載の…」のような文言がある請求項です。

 

たとえば、特許請求の範囲が次の場合、請求項1が独立項、請求項2と請求項3が従属項です。

≪具体例≫
【請求項1】 軸材の中心線に沿って芯が設けられた ことを特徴とする鉛筆。
【請求項2】 前記軸材が断面六角形である ことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。
【請求項3】 前記軸材の一端部に消しゴムが設けられた ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉛筆。

 

請求項1では、鉛筆全般について権利請求する一方、請求項2では、請求項1記載の鉛筆のうち、特に断面六角形の鉛筆について権利請求しています。さらに、請求項3では、請求項1記載の鉛筆(または請求項2記載の断面六角形鉛筆)のうち、特に消しゴム付きの鉛筆について権利請求しています。

請求項2の断面六角形鉛筆や、請求項3の消しゴム付き鉛筆は、請求項1の鉛筆の一形態であって、請求項1の鉛筆に含まれます。つまり、断面六角形鉛筆や消しゴム付き鉛筆も、「鉛筆」(請求項1記載の「軸材の中心線に沿って芯が設けられた…鉛筆」)ですから、請求項1記載の発明に含まれます。

そのため、仮に、請求項2,3がなく、請求項1だけで出願し特許を得たとしても、断面六角形鉛筆や消しゴム付き鉛筆も、特許発明の技術的範囲(権利範囲)に含まれます。

 

このように、独立項(請求項1)は、通常、それを引用する従属項(請求項2,3)よりも、権利範囲が広くなります

そうだとすると、請求項2,3は、最初から不要ではないか、という思いが生じるかもしれません。請求項の数に応じて、特許庁印紙代(出願審査請求料や特許料)が高くなるので、従属項を作成することがデメリットに感じるかもしれません。

それでも、なぜ、多くの出願人は、従属項を作成しておくのでしょうか。
従属項を作成しておく理由について考えてみます。

 


従属項を作成する理由・意味

(1)特許性がどこにあるのか、知ることができる。

前記具体例に示すように、発明を徐々に具体化するように、段階的に請求項を作成しておけば、どのレベルで特許を受けることができるのか、知ることができます。

つまり、審査において、一部又は全部の請求項に拒絶理由(特許できない理由)がある場合、原則として、請求項ごとに特許性の有無(特許すべきか拒絶すべきか)の判断が示されるので、どのラインで特許を受けることができるのかを知ることができます

たとえば、前記具体例において、請求項1については特許できない(拒絶理由がある)が、請求項2や請求項3については、特許できる(拒絶理由を発見しない)旨の判断が、拒絶理由通知書(特許できない旨の事前通知)で示される場合があります。

その場合、請求項1を削除して、たとえば請求項2の内容を繰り上げる(新請求項1=旧請求項1+2として、請求項1を断面六角形鉛筆に限定する)ことで、特許を得られることになります。

 

一方、仮に、請求項1だけで出願し審査を受けた場合について考えてみます。出願前に鉛筆が公知であるなどにより、請求項1に特許性がないとの判断が示された場合、特許請求の範囲(つまり権利範囲)を狭めるように、請求項1の鉛筆について、何らかの限定が必要となります。

つまり、単なる鉛筆自体について権利請求したけれども、審査において単なる鉛筆については特許できない旨の判断が示された場合、単なる鉛筆ではなく、特定構造の鉛筆である旨、特許請求の範囲を限定する必要があります。限定事項の候補として、たとえば(a)「軸材が断面六角形である」点、(b)「軸材の一端部に消しゴムが設けられた」点があるとします。もちろんこれらの点は、出願当初から明細書や図面には開示があるものとします。

ところが、aとbのうち、いずれを限定すべきか、出願人は迷うことになります。もし限定事項が周知慣用技術であるなら、通常、再度の拒絶理由は通知されず、拒絶査定(特許しない旨の審査官の最終判断)に至るからです。請求項1だけで出願し審査を受けた場合、aの点についても、bの点についても、拒絶理由通知書において先行技術調査の結果を得られないので、これらの点に新規性や進歩性があるのか分かりません。

その点、最初からaやbの点を従属項で作成しておけば、それらの点についても先行技術調査がなされ、特許性があるか否かの判断が示されるので、いずれを限定すべきかや、他の限定をすべきかなどを知ることができ、拒絶査定を回避しやすいことになります。

 

また、出願時から従属項を作成しておけば、段階的・階層的に、発明を把握して、発明を整理することができます。各段階の発明について、その構成と、それに基づく作用効果とを把握することができます。結果として、出願書類の品質が向上しやすいように思います。

 

(2)権利範囲に含まれるのか、明確にできる。

前記具体例において、請求項2が、次のようなものだったとします。

【請求項2】 前記軸材が断面多角形である ことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。

つまり、断面多角形鉛筆について権利請求しています。出願人としては、将来、断面六角形鉛筆の他、安価に製造可能なら、断面星形のものも製造したいと考えているとします。ところが、請求項2の断面多角形鉛筆には、断面六角形鉛筆は含まれるだろうが、断面星形鉛筆は含まれるのだろうか、と少し不安になるかもしれません。

あるいは、もともと、出願人は断面星形の鉛筆の製造販売を考えているが、断面星形の権利では狭い印象があるので、やや広めの断面多角形の権利を請求するとします。ところが、断面多角形の請求項だけでは、本命の断面星形が権利範囲に含まれるのか、不安になるかもしれません。

このような場合、つまり請求項2の「多角形」に「星形」が含まれるか心配な場合、請求項2の従属項として、次の請求項を作成しておくことが考えられます

【請求項3】 前記多角形が星形である ことを特徴とする請求項2に記載の鉛筆。

もちろん、請求項3を請求項2に従属させずに、請求項2と並列に「前記軸材が断面星形である ことを特徴とする請求項1に記載の鉛筆。」としても構いません。ただ、星形が(多角形と並列の概念である印象を排除して)多角形の一種と明確にしたければ、請求項3を請求項2に従属させたい場合があるかもしれません。

 

(3)特許請求の範囲を補正しやすい。

前記(1)にも関連しますが、審査結果に応じて、特許請求の範囲を減縮したい場合があります。
たとえば、請求項1の鉛筆そのものでは特許できない旨の心証が示された場合に、請求項1に何らかの限定を加えて、特定構造の鉛筆とする必要があります。そのためには、特許請求の範囲を「補正(補充又は訂正)」する必要があります。

前記(1)に記載のとおり、たとえば、請求項1には特許性がなく、請求項2に特許性があった場合、請求項1を削除(新請求項1=旧請求項1+2)することで、特許を得られることになります。請求項の削除補正は、簡単で安全な補正であり、特許化への手続を円滑に進めることができます

また、「明細書・特許請求の範囲・図面の補正(まとめ)」の「最後の拒絶理由通知の指定期間内、拒絶査定不服審判の請求と同時の補正」で述べたように、特に、最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正は、請求項の削除や、特許請求の範囲の限定的減縮などに限られ、補正の制限が厳しくなります。それに備えて、予め従属項を作成しておけば、対応が比較的容易となります。

 

なお、従属項を作成しておけば、特許後の訂正も容易となります。特に、一旦特許されると、原則として請求項を増加する訂正はできませんので、最初から従属項を作成しておく方がよいのです。

たとえば、前記(1)の具体例で、請求項1のみで特許された場合を考えてみます。つまり、請求項1のみで出願し、審査をパスすることで、鉛筆そのものについて権利を取得したとします。

ところが、特許後、鉛筆そのものは出願前から公知であったと判明した場合、そのままでは特許が無効となるので、特許請求の範囲について、何らかの訂正が必要となります。限定事項の候補として、たとえば(a)「軸材が断面六角形である」点、(b)「軸材の一端部に消しゴムが設けられた」点があるとします。もちろんこれらの点は、明細書や図面には開示があるものとします。

できれば、(a)断面六角形鉛筆と(b)消しゴム付き鉛筆との双方の権利にしたいところです。しかしながら、特許後には、原則として請求項を増加する訂正が許容されませんから、もはや、いずれか一方を選ぶしかなくなるのです。

その点、最初から各種の従属項を作成しておけば、一部の請求項の無効にも対応しやすく、また権利行使もしやすくなります。

 


従属項として記載すべきか?

特許請求の範囲の読み方/書き方」の「従属項について」で述べたように、従属項を独立項に書き換える(書き下しする)こともできます。つまり、従属項を独立項として記載することも可能です。

しかしながら、「引用形式で請求項を記載すると、文言の繰り返し記載が省略できるとともに、引用される請求項とその記載を引用して記載する請求項との相違をより明確にして記載できるので、出願人の手間が軽減されるとともに、第三者の理解が容易になる」といった利点があります(特許庁編『特許・実用新案審査ハンドブック』)。

実務的には、従属項で記載できるものは、従属項で記載することが多いように思います。

なお、特許後の訂正において、従属項を独立項に書き下し可能です。

 


平均請求項数?

普通は、どのくらいの数の請求項を立てるのか、従属項はどのくらいの数でしょうか。

従属項の平均数までは不明ですが、特許庁編『特許行政年次報告書2023年版』によれば、通常の国内出願(PCT経由以外の出願)の「特許出願時における平均請求項数」は、2022年で「9.8」とのことです。

仮に、独立項が1個なら、従属項が9個程度ということになります。

ただ、発明内容にも大いに左右されます。請求項が1項だけというのはあまり見かけませんが、全請求項が5項以下の出願は、普通にあります。

 

ちなみに、PCT経由の出願も含めた全出願の「特許出願時における平均請求項数」は、2022年で「12.3」とのことです。

なお、PCTとは、特許協力条約の略称です。詳しくは、「国際出願、国際特許出願、外国語特許出願、日本語特許出願とは?」をご覧ください。

 


関連情報

 


(作成2020.07.01、最終更新2023.07.29)
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