進歩性の主張(拒絶理由通知に対する反論のヒント)

はじめに

  • 本願発明(特許を受けようとする発明)は、先行技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、進歩性を有する、との主張のヒントとなり得るものを、検討してみます。特許庁審査基準の進歩性判断フローを逆に読んでいくことで、ヒントを得たいと思います。「逆に読んでいく」とは?=後述の「【審査基準】と【進歩性主張観点】」をご覧ください。
  • 特許庁審査基準に基づく進歩性判断フロー(進歩性判断フローチャート)については進歩性判断をご覧ください。
  • 【進歩性主張観点】は、弊所による審査基準の分析結果です。そのため、弊所独自の見解が含まれる場合があります。
  • 本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。審査基準について、最新かつ正確な情報は、特許庁ホームページなどでご確認ください。
  • 本ページの解説動画進歩性の主張(拒絶理由通知に対する反論のヒント)【動画】

 


【審査基準】【進歩性主張観点】

以下、進歩性に関する【審査基準】の抜粋と、それに基づく【進歩性主張観点】(拒絶理由反論ヒント)を検討してみます。

進歩性判断で確認したとおり、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたか否かの判断では、【進歩性が否定される方向に働く要素】と【進歩性が肯定される方向に働く要素】とが総合的に評価されます。

この内、【進歩性が否定される方向に働く要素】については、その裏返しとして、【進歩性主張観点】が導かれます。

一方、【進歩性が肯定される方向に働く要素】については、そのまま【進歩性主張観点】となります(【審査基準】=【進歩性主張観点】)。

 



請求項に係る発明の認定

【審査基準】

進歩性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である。

【進歩性主張観点】(前提)

  • 意見書にて主張しようとする構成要件は、請求項に明記されていなければならない。仮に明細書又は図面に記載があっても、請求項に記載されていない事項は、進歩性判断において考慮されない。例えば、意見書において「本願発明は構成Aを備えるから作用効果Xを奏する」と主張するならば、構成Aは、明細書又は図面にだけ記載があっても足りず、請求項に記載される必要がある。

 


主引用発明の認定

【審査基準】

審査官は、先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで主引用発明とし、・・・主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて主引用発明としてはならない

審査官は、主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。

また、請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである場合は、請求項に係る発明と主引用発明とは、解決すべき課題が大きく異なることが通常である。したがって、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る。

【進歩性主張観点】

  • 請求項に係る発明と主引用発明とは、「技術分野」又は「課題」が大きく異なる。その場合、その後の論理付けに無理が生じやすい。例えば、主引用発明に副引用発明を適用するに当たり十分に動機付けとなる事情が存在しない。
  • 請求項に係る発明の解決すべき課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものである。

 


請求項に係る発明と主引用発明との対比

【審査基準】

審査官は、認定した請求項に係る発明と、認定した引用発明とを対比する。請求項に係る発明と引用発明との対比は、請求項に係る発明の発明特定事項と、引用発明を文言で表現する場合に必要と認められる事項(…「引用発明特定事項」という。)との一致点及び相違点を認定してなされる。審査官は、独立した二以上の引用発明を組み合わせて請求項に係る発明と対比してはならない。

【進歩性主張観点】

  • 請求項に係る発明と主引用発明との対比(両発明の発明特定事項の一致点及び相違点の認定)は正しいか。
  • 請求項に係る発明について、発明特定事項の全てが対比されているか。
  • 一致点の中に、相違点といえるものが含まれていないか。

 


主引用発明に副引用発明を適用する動機付け(進歩性が否定される方向に働く要素1)

(1) 技術分野の関連性

【審査基準】

主引用発明の課題解決のために、主引用発明に対し、主引用発明に関連する技術分野の技術手段の適用を試みることは、当業者の通常の創作能力の発揮である。例えば、主引用発明に関連する技術分野に、置換可能又は付加可能な技術手段があることは、当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。

審査官は、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの有無を判断するに当たり、(1)から(4)までの動機付けとなり得る観点のうち「技術分野の関連性」については、他の動機付けとなり得る観点も併せて考慮しなければならない

【進歩性主張観点】

  • 主引用発明(A)に副引用発明(B)を適用しても、請求項に係る発明(A+B+C)には至らない。請求項に係る発明(A+B+C)には、主引用発明(A)にも副引用発明(B)にも開示のない構成(C)があり、その点が(後述の)設計変更等にも当たらない。
  • 主引用発明と副引用発明とでは、技術分野が異なる。
  • 他の動機付けとなり得る観点(2)~(4)も考慮すべきである。

 

(2) 課題の共通性

【審査基準】

主引用発明と副引用発明との間で課題が共通することは、主引用発明に副引用発明を適用して当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。

本願の出願時において、当業者にとって自明な課題又は当業者が容易に着想し得る課題が共通する場合も、課題の共通性は認められる。審査官は、主引用発明や副引用発明の課題が自明な課題又は容易に着想し得る課題であるか否かを、出願時の技術水準に基づいて把握する。

【進歩性主張観点】

  • 主引用発明と副引用発明との間で課題が共通しない。
  • 本願の出願時において、当業者にとって自明な課題又は当業者が容易に着想し得る課題が共通する訳でもない。

 

(3) 作用、機能の共通性

【審査基準】

主引用発明と副引用発明との間で、作用、機能が共通することは、主引用発明に副引用発明を適用したり結び付けたりして当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための根拠となる。

【進歩性主張観点】

  • 主引用発明と副引用発明との間で、作用、機能が共通しない。

 

(4) 引用発明の内容中の示唆

【審査基準】

引用発明の内容中において、主引用発明に副引用発明を適用することに関する示唆があれば、主引用発明に副引用発明を適用して当業者が請求項に係る発明に導かれる動機付けがあるというための有力な根拠となる。

【進歩性主張観点】

  • 引用発明の内容中において、主引用発明に副引用発明を適用することに関する示唆はない。

 


主引用発明からの設計変更等(進歩性が否定される方向に働く要素2)

【審査基準】

請求項に係る発明と主引用発明との相違点について、以下の(i)から(iv)までのいずれか(…「設計変更等」という。)により、主引用発明から出発して当業者がその相違点に対応する発明特定事項に到達し得ることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。

  • (i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択
  • (ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化
  • (iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換
  • (iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用

【進歩性主張観点】

  • 後述の進歩性が肯定される方向に働く要素(有利な効果、阻害要因)がある。
  • 主引用発明の内容中に、設計変更等についての示唆はない。

 


先行技術の単なる寄せ集め(進歩性が否定される方向に働く要素3)

【審査基準】

先行技術の単なる寄せ集めとは、発明特定事項の各々が公知であり、互いに機能的又は作用的に関連していない場合をいう。発明が各事項の単なる寄せ集めである場合は、その発明は当業者の通常の創作能力の発揮の範囲内でなされたものである。先行技術の単なる寄せ集めであることは、進歩性が否定される方向に働く要素となる。さらに、主引用発明の内容中に先行技術の寄せ集めについての示唆があることは、進歩性が否定される方向に働く有力な事情となる。

【進歩性主張観点】

  • 請求項に係る発明には、公知でない発明特定事項が含まれる。
  • 発明特定事項が、互いに機能的又は作用的に関連しており、単なる寄せ集めではない。
  • 主引用発明の内容中に先行技術の寄せ集めについての示唆はない。

 


有利な効果(進歩性が肯定される方向に働く要素1)

【審査基準】【進歩性主張観点】

引用発明と比較した有利な効果は、進歩性が肯定される方向に働く要素である。このような効果が明細書、特許請求の範囲又は図面の記載から明確に把握される場合は、審査官は、進歩性が肯定される方向に働く事情として、これを参酌する。

引用発明と比較した有利な効果が、例えば、以下の(i)又は(ii)のような場合に該当し、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることは、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる。

  • (i) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合
  • (ii) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、際だって優れた効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合

しかし、審査官は、意見書等で主張、立証がなされた効果が明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない場合は、その効果を参酌すべきでない。

 


阻害要因(進歩性が肯定される方向に働く要素2)

【審査基準】【進歩性主張観点】

(1) 副引用発明を主引用発明に適用することを阻害する事情があることは、論理付けを妨げる要因(阻害要因)として、進歩性が肯定される方向に働く要素となる。

阻害要因の例としては、副引用発明が以下のようなものであることが挙げられる。

  • (i) 主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような副引用発明
  • (ii) 主引用発明に適用されると、主引用発明が機能しなくなる副引用発明
  • (iii) 主引用発明がその適用を排斥しており、採用されることがあり得ないと考えられる副引用発明
  • (iv) 副引用発明を示す刊行物等に副引用発明と他の実施例とが記載又は掲載され、主引用発明が達成しようとする課題に関して、作用効果が他の実施例より劣る例として副引用発明が記載又は掲載されており、当業者が通常は適用を考えない副引用発明

(2) 刊行物等の中に、請求項に係る発明に容易に想到することを妨げるほどの記載があれば、そのような刊行物等に記載された発明は、引用発明としての適格性を欠く。したがって、主引用発明又は副引用発明がそのようなものであることは、論理付けを妨げる阻害要因になる。

 



関連情報

 


(作成2020.11.03、最終更新2020.11.03)
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