商標類否判断支援システムの判定基準と特許庁の商標審査基準との関係

はじめに

特許庁の商標審査基準には、「両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準のいずれかに該当するときは、原則として、称呼上類似するものとする。」として、商標の類否判断の判定基準が列挙されています。

この審査基準に基づき、商標類否判断支援システムは構築されています。実際の判定手順や判定例については、「商標類否判断支援システムのアルゴリズム(類否判断手順)」にてご紹介しました。

今回は、「商標類否判断支援システムの判定基準」と「特許庁の称呼類否に関する審査基準」との対応関係について、具体的にみていきます。

 


商標類否判断支援システムの判定基準と特許庁の商標審査基準との関係

商標類否判断支援システム 特許庁商標課編、商標審査基準〔改訂第7版〕、第4条第1項第11号
【注】2021年3月現在の最新の審査基準は〔改訂第15版〕ですが、下記に示すものは旧審査基準〔改訂第7版〕の内容であり、最新版ではありません。第7版と第15版との違いは別資料をご覧ください。
同数音かつ1音相違(音数差0&相違数1)の場合 1音差かつ1音相違(音数差1&相違数1)の場合 2音相違(相違数2)の場合 3音以上相違の場合   両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準のいずれかに該当するときは、原則として、称呼上類似するものとする。
× × 第1類否判断処理 母音を共通とするか? (1)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするとき (8)その他、全体の音感が近似するとき・・・(イ)2音相違するが上記(1)ないし(5)に挙げる要素の組合せであるとき
子音を共通とするか? (2)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するとき
清音、濁音、半濁音の差か? (3)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき
弱音同士か? (4)相違する1音がともに弱音である…とき
長音と促音の差か? (5)相違する1音が…長音と促音…の差にすぎないとき
長音と弱音の差か? (5)相違する1音が…長音と弱音の差にすぎないとき
× × × 第2類否判断処理 比較的長い称呼で1音だけ異なるか? (6)同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるとき なお、基準(6)…は、基準(1)ないし(5)に該当しない場合に適用される。
拗音と直音の差か? (8)(ロ)相違する1音が拗音と直音の差にすぎないとき  
母音が近似するか? (8)(ハ)相違する音の一方が外来語におこわなれる発音であって、これと他方の母音又は子音が近似するとき
(8)(ニ)相違する1音の母音又は子音が近似するとき
子音が近似するか?
× × 第3類否判断処理 弱音の有無の差か? (4)相違する1音が…弱音の有無の差にすぎないとき (8)その他、全体の音感が近似するとき・・・(イ)2音相違するが上記(1)ないし(5)に挙げる要素の組合せであるとき
長音の有無の差か? (5)相違する1音が長音の有無…の差にすぎないとき
促音の有無の差か? (5)相違する1音が…促音の有無の差にすぎないとき
× × × 第4類否判断処理 比較的長い称呼で1音だけ多いか? (7)比較的長い称呼で1音だけ多いとき なお、…基準(7)は、基準(1)ないし(5)に該当しない場合に適用される。
× × × 隣接2音入替判断処理 隣接する2音の入替えか?
【注】審査基準とは完全には対応しません。
(8)(ヘ)その他  

上記において

○=実行する

×=実行しない

  基準(1)ないし(8)に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときには、例外とされる場合がある。
(イ)語頭音に音質又は音調上著しい差異があるとき
(ロ)相違する音が語頭音でないがその音質(例えば、相違する1音がともに同行音であるが、その母音が近似しないとき)音調(例えば、相違する音の部分に強めアクセントがあるとき)上著しい差異があるとき
(ハ)音節に関する判断要素において
  (i) 称呼が少数音であるとき(3音以下)
  (ii)語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)が明らかに異なるとき
(8)(ホ)発音上、聴覚上印象の強い部分が共通するとき

 

【注1】上記表のとおり、商標類否判断支援システムの判定基準は、特許庁の商標審査基準と概ね対応させています。しかしながら、実際には、子音が近似とは?、弱音とは?、などの問題が残されています。そのため、商標類否判断支援システムの判定結果は、商標審査基準とは完全に合致しません。

【注2】商標類否判断支援システムは、特許庁の商標審査基準を参考に構築しておりますが、特許庁の審査基準そのものではありません。そのため、「類似」「非類似」の出力を直接には行わない設定としています。商標類否判断支援システムによる出力結果(各判定基準に合致するか否か)の他、特許庁審査基準(上記又は下記の表の内容(特に例外規定))、過去の審判決例なども考慮して、類似するか否かをご検討ください。

【注3】商標の類否は、比較する両商標がその「外観」、「称呼」又は「観念」等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、同一又は類似の商品又は役務に使用した場合に、出所混同のおそれがあるか否かにより判断します。詳しくは、商標の類否(類似/非類似)をご覧ください。

 


商標審査基準に基づく商標の称呼の類否(類似・非類似)
(商標審査基準の改訂第7版と第15版との比較)

商標類否判断支援システムのアルゴリズム(類否判断手順)」は、特許庁の旧審査基準「改訂第7版」に基づきます。一方、2021年3月現在の最新の審査基準は、「改訂第15版」です。そこで、特許庁商標審査基準の「改訂第7版」と「改訂第15版」との比較を、下記のとおり行いました。両者は、概ね一致しております。

商標審査基準〔改訂第15版〕:特許庁編 商標審査基準〔改訂第7版〕:特許庁編
(≒商標類否判断支援システムの判定基準)
以下の(ア)から(オ)の例示は、称呼が類似する例であり、商標全体として、類否を判断したものではない。 両商標が下記(II)の(1)ないし(8)の基準のいずれかに該当するときは、原則として、称呼上類似するものとする。
(ア)音質(母音、子音の質的きまりから生じる音の性質)に関する判断要素 ① 相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似しているか (1)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にするとき
(例) ともに同音数の称呼からなり、相違する1音が母音を共通にする場合
② 相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似しているか (2)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属するとき
(例) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が50音図の同行に属する場合
(例) ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎない場合 (3)ともに同数音の称呼からなり、相違する1音が清音、濁音、半濁音の差にすぎないとき
(イ)音量(音の長短)に関する判断要素 ① 相違する1音が長音の有無、促音の有無又は長音と促音、長音と弱音の差にすぎないか (5)相違する1音が長音の有無、促音の有無又は長音と促音、長音と弱音の差にすぎないとき
(例) 相違する音が長音の有無にすぎない場合
(例) 相違する音が促音の有無にすぎない場合
(例) 相違する音が長音と促音の差にすぎない場合
(例) 相違する音が長音と弱音の差にすぎない場合
(ウ)音調(音の強弱及びアクセントの位置)に関する判断要素 ① 相違する音がともに弱音であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の 差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい。) (4)相違する1音がともに弱音であるか、又は弱音の有無の差にすぎないとき
(例) 相違する1音がともに弱音である場合
(例) 弱音の有無の差にすぎない場合
② 相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか (6)同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なるとき なお、基準(6)及び(7)は、基準(1)ないし(5)に該当しない場合に適用される。
(例) 同数音からなる比較的長い称呼で1音だけ異なる場合
③ 語頭又は語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか  
(例) 語頭において共通する音が同一の強音の場合
④ 欧文字商標の称呼において強めのアクセントがある場合に、その位置が共通するか  
(例) 強めのアクセントの位置が共通する場合
(エ)音節に関する判断要素 ① 音節数(音数)の比較において、ともに多数音であるか (7)比較的長い称呼で1音だけ多いとき
(例) 比較的長い称呼で1音だけ多い場合
② 一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落) において共通性があるか  
(例) 一つのまとまった感じとして語が切れる場合
(オ)その他、称呼の全体的印象が近似すると認められる要素 ① 2音相違するが、上記(ア)から(エ)に挙げる要素の組合せである場合 (イ)2音相違するが上記(1)ないし(5)に挙げる要素の組合せであるとき (8)その他、全体の音感が近似するとき
② 相違する1音が拗音と直音の差にすぎない場合 (ロ)相違する1音が拗音と直音の差にすぎないとき
③ 相違する音の一方が外国語風の発音をするときであって、これと他方の母音 又は子音が近似する場合 (ハ)相違する音の一方が外来語におこわなれる発音であって、これと他方の母音又は子音が近似するとき
④ 相違する1音の母音又は子音が近似する場合 (ニ)相違する1音の母音又は子音が近似するとき
⑤ 発音上、聴覚上印象の強い部分が共通する場合 (ホ)発音上、聴覚上印象の強い部分が共通するとき
⑥ 前半の音に多少の差異があるが、全体的印象が近似する場合 (ヘ)その他
(カ)上記(ア)から(オ)に該当する場合であっても、全体的印象が近似しないと認められる要素 ① 語頭音に音質又は音調上著しい差異があること (イ)語頭音に音質又は音調上著しい差異があるとき 〔注7〕基準(1)ないし(8)に該当する場合であっても、つぎに挙げる(イ)ないし(ハ)等の事由があり、その全体の音感を異にするときには、例外とされる場合がある。
② 相違する音が語頭音でないがその音質(例えば、相違する1音がともに同行音であるが、その母音が近似しないとき)音調(例えば、相違する音の部分に強めアクセントがあるとき)上著しい差異があること (ロ)相違する音が語頭音でないがその音質(例えば、相違する1音がともに同行音であるが、その母音が近似しないとき)音調(例えば、相違する音の部分に強めアクセントがあるとき)上著しい差異があるとき
③ 音節に関する判断要素において
(i)称呼が少数音であること
(ii)語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)が明らかに異なること
(ハ)音節に関する判断要素において
(i)称呼が少数音であるとき(3音以下)
(ii)語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)が明らかに異なるとき

 


関連情報

 


(作成2021.03.10、最終更新2021.03.11)
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