特許法第64条~第65条の条文解読(出願公開・補償金請求権)

はじめに

 


目次

 


(出願公開)
第64条

特許庁長官は、
特許出願の日から1年6月を経過したときは、
特許掲載公報の発行をしたものを除き
その特許出願について出願公開をしなければならない。

次条第1項に規定する出願公開の請求があつたときも、同様とする。

  • 出願日から1年6月経過すると、審査段階のいかんにかかわらず、出願内容は公開される。出願内容を早期に公開することで、重複研究、重複投資、重複出願の防止を図ることができる。
  • 既に特許掲載公報(特許権の設定登録があったときに発行される公報)が発行されている場合、法律上は、出願公開を要しない。しかしながら、先行技術調査の対象とするニーズを考慮し、現状、特許掲載公報を発行した場合においても、行政サービスとして公開公報が発行されている。
  • 出願公開前に、出願が取下、放棄、却下された場合や、拒絶査定が確定している場合、原則として、出願公開されない。但し、出願公開の請求があったときは、その請求後に取下げ等があっても、必ず出願公開される。
  • 出願公開されることで、第29条の2の「拡大された先願の地位」を得られ、出願公開前に出願された後願については、同一発明であれば排除することができる。出願公開後に出願された後願については、同一発明であれば新規性違反として、同一発明でなくても改良改変の程度によっては進歩性違反として排除することができる。また、後述する「補償金請求権」が発生し、出願公開後特許権設定登録前の第三者の実施に対し、一定要件下、補償金の支払を請求することができる(第65条)。
  • 特許出願の日とは?第36条の2第2項括弧書きにおいて「第64条第1項において同じ」とある。)
    ・第41条第1項(国内優先権主張)の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日
    ・第43条第1項(パリ条約優先権主張)、第43条の2第1項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項(パリ条約の例による優先権主張)の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、「最初の出願」若しくは「パリ条約第4条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願」又は「同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願」の日
    ・第41条第1項(国内優先権主張)、第43条第1項(パリ条約優先権主張)、第43条の2第1項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項(パリ条約の例による優先権主張)の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日
  • 分割出願または変更出願などの場合には、原出願日(もとの出願日)から起算する(第44条第2項、第46条第6項)。分割または変更が原出願日から1年6月経過後になされた場合、分割または変更後、速やかに出願公開される。

 

2 出願公開は、次に掲げる事項を特許公報に掲載することにより行う。

ただし、第四号から第六号までに掲げる事項については、
当該事項を特許公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは、
この限りでない

  一 特許出願人の「氏名又は名称」及び「住所又は居所」

  二 特許出願の「番号」及び「年月日」

  三 発明者の「氏名」及び「住所又は居所」

  四 願書に添付した「明細書及び特許請求の範囲」に記載した事項並びに「図面」の内容

  五 願書に添付した「要約書」に記載した事項

  六 外国語書面出願にあつては、「外国語書面及び外国語要約書面」に記載した事項

  七 出願公開の「番号」及び「年月日」

  八 前各号に掲げるもののほか、「必要な事項

  • 第四号~第六号の事項については、公報掲載することが公序良俗を害するおそれがあると特許庁長官が認めるときは、公報掲載しない。明細書、特許請求の範囲、図面、要約書の他、外国語書面出願の外国語書面及び外国語要約書面についてである。

 

3 特許庁長官は、
願書に添付した「要約書」の記載が第36条第7項の規定に適合しないときその他必要があると認めるときは、
前項第五号の要約書に記載した事項に代えて、自ら作成した事項を特許公報に掲載することができる。

  • 公報フロントページ(表紙)の【要約】の欄に「(修正有)」と表示される。

 


(出願公開の請求)
第64条の2

特許出願人は、次に掲げる場合を除き
特許庁長官に、その特許出願について出願公開の請求をすることができる

  一 その特許出願が出願公開されている場合

  二 その特許出願が第43条第1項(パリ条約優先権主張)、第43条の2第1項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項(パリ条約の例による優先権主張)の規定による優先権の主張を伴う特許出願であつて、
    第43条第2項(パリ条約優先権証明書)(第43条の2第2項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)及び第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)に規定する書類及び第43条第5項(優先権書類の電子的交換のために必要な事項を記載した書面)(第43条の2第2項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)及び第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)に規定する書面が特許庁長官に提出されていないものである場合

  三 その特許出願が外国語書面出願であつて第36条の2第2項に規定する外国語書面の翻訳文が特許庁長官に提出されていないものである場合

 

2 出願公開の請求は、取り下げることができない。

 


第64条の3

出願公開の請求をしようとする特許出願人は、次に掲げる事項を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない。

  一 請求人の「氏名又は名称」及び「住所又は居所」

  二 出願公開の請求に係る特許出願の表示

 


(出願公開の効果等)
第65条

特許出願人は、
出願公開があつた後特許出願に係る発明の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、
その警告後特許権の設定の登録前業としてその発明を実施した者に対し
その発明が特許発明である場合にその実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる

当該警告をしない場合においても
出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知つて
特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者に対しては、同様とする

  • 補償金請求権
    特許出願人は、出願公開後(そして所定の警告後)特許権設定登録前に業として「特許出願に係る発明」を実施した者に対し、実施料相当額の補償金の支払を請求することができる。原則として、「特許出願に係る発明」の内容を記載した書面を提示して警告する必要があるが、警告をしない場合でも、出願公開がされた「特許出願に係る発明」であることを知って実施した者に対しても、支払を請求することができる。

 

2 前項の規定による請求権は、
特許権の設定の登録があつた後でなければ、行使することができない

  • 補償金請求権は、特許権の設定登録後でなければ、行使することができない。

 

3 特許出願人は、
その仮専用実施権者又は仮通常実施権者が、その設定行為で定めた範囲内において当該特許出願に係る発明を実施した場合については、
第1項に規定する補償金の支払を請求することができない

 

4 第1項の規定による請求権の行使は、特許権の行使を妨げない

  • 登録前の実施に対しては、補償金請求権に基づき補償金の支払を請求でき、登録後の実施に対しては、特許権に基づき差止請求や損害賠償請求できる。
  • 「出願公開中の実施により製造した物について特許権に基づく差止請求権等の行使を免れるためには、特許出願人と実施者との間で、その旨の特約を結ぶ必要がある。」(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第21版』)

 

5 出願公開後に
 ・特許出願が放棄され、取り下げられ、若しくは却下されたとき、
 ・特許出願について拒絶をすべき旨の査定若しくは審決が確定したとき、
 ・第112条第6項(猶予された特許料の不納による特許権遡及消滅)の規定により特許権が初めから存在しなかつたものとみなされたとき(更に第112条の2第2項(特許権の回復)の規定により特許権が初めから存在していたものとみなされたときを除く。)
 ・第114条第2項(特許異議申立てにおける取消決定)の取消決定が確定したとき、
 ・又は第125条ただし書(後発的無効理由での特許権消滅)の場合を除き特許を無効にすべき旨の審決が確定したときは、
第1項の請求権は、初めから生じなかつたものとみなす

 

6 
 ・第101条(101:間接侵害)
 ・第104条から第104条の3まで(104:生産方法の推定、104-2:具体的態様の明示義務、104-3:特許権者等の権利行使の制限)
 ・第105条から第105条の2の11まで(105:書類の提出等、105-2:査証人に対する査証の命令、105-2-2:査証人の指定等、105-2-3:忌避、105-2-4:査証、105-2-5:査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒む場合等の効果、105-2-6:査証報告書の写しの送達等、105-2-7:査証報告書の閲覧等、105-2-8:査証人の証言拒絶権、105-2-9:査証人の旅費等、105-2-10:最高裁判所規則への委任、105-2-11:損害計算のための鑑定)
 ・第105条の4から第105条の7まで(105-4:秘密保持命令、105-5:秘密保持命令の取消し、105-6:訴訟記録の閲覧等の請求の通知等、105-7:当事者尋問等の公開停止)
 ・及び第168条第3項から第6項まで(訴訟との関係)
 ・並びに民法(明治29年法律第89号)第719条及び第724条(不法行為)(民719:共同不法行為者の責任、民724:不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
の規定は、第1項の規定による請求権を行使する場合に準用する。

この場合において、当該請求権を有する者が特許権の設定の登録に当該特許出願に係る発明の実施の事実及びその実施をした者を知つたときは、同条第一号中「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」とあるのは、「特許権の設定の登録の日」と読み替えるものとする。

  • 特許権侵害に関する規定の内、間接侵害(101)、生産方法の推定(104)、具体的態様の明示義務(104-2)、特許権者等の権利行使の制限(104-3)、書類の提出等(105)、査証制度(105-2~105-2-10)、損害計算のための鑑定(105-2-11)、秘密保持命令(105-4~105-6)、当事者尋問等の公開停止(105-7)、訴訟との関係(168条3-6項)、共同不法行為(民719)、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民724)の規定は、補償金請求権を行使する場合に準用する。
  • 但し、過失の推定(103)は、準用しない
  • 民法第719条(共同不法行為者の責任)
    数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
    2 行為者を教唆した者及び幇(ほう)助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。
  • 民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)【読替後】【特許権設定登録に知ったとき】
    不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
      一 特許権の設定の登録の日から3年間行使しないとき。
      二 不法行為の時から20年間行使しないとき。
  • 民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)【特許権設定登録に知ったとき】
    不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
      一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
      二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

 


(作成2021.08.09、最終更新2021.08.09)
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