目次
- 実用新案権の権利行使
- (事例1)実用新案登録第3096809号
- (事例2)実用新案登録第3157614号(+意匠登録第1392789号)
- (事例3)実用新案登録第3170112号
- (事例4)実用新案登録第3159269号
- (事例5)実用新案登録第3198778号
- 実用新案登録は意味がないのか?
- 実用新案登録による他社牽制効果について
- 本ページの解説動画:実用新案登録は意味がないのか(実用新案権の権利行使と権利者勝訴の例)【動画】
実用新案権の権利行使
無審査登録制度の下で取得した実用新案権に基づき、実用新案権侵害訴訟において、権利行使できた事例をご紹介します。地裁判決として実用新案権に基づく差止請求や損害賠償請求が認められた事例です。少なくとも地裁において、権利者勝訴の事例となります。
件数は少ないですが、もともとの出願件数が特許と比較して非常に少ないです(2020年の出願件数)。また、権利行使に先立ち審査(実用新案技術評価)を受けますが、その結果によって権利行使を断念したケースもあると思われます。
以下、判決主文(結論)のみを示します。事件番号は、敢えて表示しておりません。判決全文をご覧になりたい場合、裁判所のホームページで検索いただくか、弊所にお問合せください。控訴審判決や関連事件を確認できたものについては、その番号もお知らせできます。
実用新案権者の勝訴判決をご紹介した後、「実用新案登録は意味がないのか?」「実用新案登録による他社牽制効果について」について解説します。
なお、実用新案権の権利行使については、「実用新案登録後の留意点」の「権利行使するには」もご覧ください。
(事例1)実用新案登録第3096809号
主文
- 被告は,原告P1に対し,別紙イ号物件目録記載の爪切りを輸入し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
- 被告は,原告ら各自に対し,2万0897円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 被告は,原告有限会社***に対し,11万3559円及びこれに対する平成18年7月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
- 訴訟費用は甲乙事件を通じてこれを10分し,その7を原告らの,その3を被告の負担とする。
- この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。
(事例2)実用新案登録第3157614号(+意匠登録第1392789号)
主文
- 被告は,別紙被告製品目録記載の被告製品を製造し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸し渡しのために展示してはならない。
- 被告は,別紙被告製品目録記載の被告製品及びその半完成品(別紙被告製品目録記載の構造を具備しているが製品として完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
- 被告は,原告に対し,20万3700円及びこれに対する平成24年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
- 訴訟費用はこれを10分し,その7を被告の負担とし,その3を原告の負担とする。
- この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。
(事例3)実用新案登録第3170112号
主文
- 被告は,別紙被告商品目録記載の商品を製造し,譲渡し,又は,譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
- 被告は,別紙被告商品目録記載の商品を廃棄せよ。
- 被告は,原告有限会社***に対し,1億6290万6617円及びこれに対する平成27年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告有限会社***のその余の請求をいずれも棄却する。
- 訴訟費用は,原告有限会社***と被告との間に生じた費用はこれを50分し,その11を原告有限会社***の負担とし,その余を被告の負担とし,原告P1と被告との間に生じた費用は被告の負担とする。
- この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
(事例4)実用新案登録第3159269号
主文
- 被告は,別紙1被告製品目録記載のプレハブ式階段を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
- 被告は,別紙1被告製品目録記載のプレハブ式階段を廃棄せよ。
- 被告は,原告に対し,165万9952円及びこれに対する平成29年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
- 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
- この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
(事例5)実用新案登録第3198778号
主文
- 被告は,別紙2物件目録記載の各製品の譲渡又は譲渡の申出をしてはならない。
- 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。
- 被告は,原告に対し,1537万5027円及びうち36万円に対する平成29年7月25日から,うち1306万6381円に対する平成31年3月1日から,うち194万8646円に対する令和元年5月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
- 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
- この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
実用新案登録は意味がないのか?
以上のとおり、権利の有効性があれば(新規性や進歩性などを備えていれば)、実用新案権も特許権と同様に権利行使可能です。
“実用新案登録は意味がない・無駄だ” と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、特許と比較して、権利取得までの手続が楽ですし、何よりも費用が各段に安いです(特許と実用新案の違い>費用)。また、登録後も一定要件下特許に変更可能に法改正されていますから、実用新案登録制度はもう少し評価されてもよいのではないかと思います。存続期間が短いという問題も指摘されますが、特許権を長期に維持することは非常に高額となり(特許料・登録料)、途中で手放されることも多いです(特許行政年次報告書2021年版によれば特許権設定登録からの現存率は10年後で41%、15年後で9%、平均請求項数9)。
「実用新案登録後の留意点」の「権利行使するには」で述べたように、実用新案の場合、登録しただけでは、直ちに警告や権利行使ができません。警告や権利行使をするには、実質的には審査をパスする必要(肯定的な実用新案技術評価を得る必要)があります。審査をパスしなければ権利行使できない点で、特許と変わりません。審査をパスする前の状況だけみれば、実用新案登録を受けただけでは、まさに“使えない権利”といえます。ところが、審査をパスできれば、基本的には特許と同様に権利行使できます。(但し、実用新案技術評価は、文献公知、公知文献から見た進歩性、拡大先願、先願の要件に関する評価です。そのため、警告や権利行使に際しては、その他の無効理由がないか(公知・公用技術等により無効とされないかなど)について、相当の注意を払う必要はあります。)
一方、一旦紛争事件となると、実用新案の場合、減縮訂正の機会が限られ、権利を守りにくくはなります。そのため、それを見越した出願書類が求められることになります。実際、無審査登録制度の導入時、登録前の補正の機会が限られることに関連して、特許庁は次のとおり解説しています。すなわち、「実体的な要件の審査が行われず、早期に権利付与が行われることから、出願人は自ら先行技術調査を十分に行い、質の高い明細書を作成することが求められる」とされています(特許庁総務部総務課工業所有権制度改正審議室編著『改正特許法・実用新案法解説』有斐閣,1993年)。そのため、実用新案だから出願書類が簡単という訳ではありません。
なお、念のためですが、権利範囲を相当具体化した実施例レベルの請求項でも新規性や進歩性がないのなら、特許出願しても拒絶されますし、実用新案登録しても有効性はなく権利行使できませんので、いずれで出願しても結果は同じです。
意匠登録と比較される場合もありますが、実用新案登録とは保護対象が異なり、それぞれ役割があると思います(双方出願して重複保護は可能です)。また、費用面でも、意匠登録の場合、実用新案登録と同等の効果を狙うなら(それが可能だとしても)、1件ですべて保護という訳にはいかないように思えます。たとえば、関連意匠制度を活用して、権利範囲(類似範囲)を明確にしたり、権利範囲を拡張したりするには、複数の意匠登録を行う必要があります。
特許と実用新案登録とを比較して、もちろん特許を取得できるなら、それが一番でしょうが、実際は費用の問題を避けて通れないと思います。また、出願・登録すること自体で一応他社牽制になる上、実際に権利行使に至ることはまれでしょうから、手間や費用をかけて、常に登録前に審査を受けておく必要があるのか、という観点での検討があってもよいと思います。
また、「特許出願の必要性、特許権取得の意味」で述べたように、そもそも特許出願や実用新案登録出願をする目的は、権利を取るだけではなく、将来における自社の実施を確保する点にもあります。つまり、万一、自社が出願しない内に他社に出願されては困るので、まずは出願しておくという訳です。その後、特許出願の場合、実際に審査を受けて権利化するか否かの考慮期間(つまり出願することでもう他人に権利を取られることはないが、他人の実施を排除するには審査を受けて特許にする必要があるので、審査を受けるべきかの考慮期間)として、出願審査請求期間の3年が与えられているのです。そして、特許出願の場合、出願日から3年以内に出願審査請求しないと取下げ扱いとなり権利化できませんが、実用新案登録の場合、3年後も比較的低額で権利を維持することができます。さらに、万一の場合には、“使える権利”になるかもしれません。
「特許」か「実用新案登録」か、これに代えてまたは加えて「意匠登録」か、
保護対象、保護期間、発明等の重要度、出願の目的(自社実施を確保できればよいのか、他社実施を排除したいのか)、実施予定、権利行使のし易さ、ご予算などを考慮されて決定いただければと存じます。
次のリンク先もご参考になさってください。
- 特許と実用新案の違い
- 特許と実用新案、どちらで出願すべき?
- 実用新案登録は特許出願中と類似の状況!?
- 実用新案登録後の留意点(特許に変更、技術評価、権利行使、訂正など)
- 特許出願の必要性、特許権取得の意味
実用新案登録による他社牽制効果について
実用新案権の場合、直ちに警告や権利行使ができず、また特許のように侵害者に過失が推定される訳でもありません。そのため、実用新案登録を受けただけで他社牽制効果があるのか、という疑問があるかもしれません。
実用新案登録しただけでは、有効な権利かもしれないし、そうでないかもしれない状況です。将来、審査をパスする(肯定的な実用新案技術評価が出る)かもしれないし、そうならないかもしれない状況です。
この状況は「特許出願中」つまり「特許出願したが特許になる前の状況」(特許になるかもしれないし、ならないかもしれない状況)に似ていると思います。実際、出願日から3年以内なら、特許に変更可能ですから、その場合は、まさに「特許出願中」になります。
そのため、実用新案登録済は、「特許出願中」程度の効果になると思います。(なお、特許の場合、出願公開後、補償金請求権が発生しますが、その行使には、実質的には相手方への警告が要件ですし、審査をパスする(特許にする)必要もあります。実用新案の場合、実用新案技術評価を受けて、その評価書を提示して警告した後でなければ、権利を行使することができません。)
実用新案登録表示に牽制効果があるのかは議論があるかもしれませんが、権利者としては、法律上、実用新案登録表示を付するように努めなければなりません(実用新案登録表示とは)。
そのような表示をされては困る、権利が邪魔だと思う第三者は、実用新案登録無効審判を請求できます。また、権利の有効性を確認するだけなら、比較的安価に誰でも、実用新案技術評価を請求できます。
(作成2021.10.16、最終更新2021.10.26)
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