意匠の類否判断(意匠審査基準の読解)

意匠審査基準による類否判断(類似・非類似)

意匠の類否(類似/非類似)の続編です。

意匠の類否判断(類似か非類似か)について、特許庁編『意匠審査基準』(令和3年3月改訂版)を確認してみます。下記において、緑の囲み枠内の緑字は、意匠審査基準の記載そのままです。その他は、弊所において、編集・加工を行っています本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、「特許庁編『意匠審査基準』のご案内」から、特許庁ホームページにてご確認ください。

 

目次

類否判断の基本
第I部 第2章 意匠審査の手順
3.2 新規性等の判断における意匠の類否判断
 (1) 判断主体は需要者(取引者を含む)
 (2) 物品等の認定と類否判断(用途・機能の同一・類似)
 (3a) 形態の認定(特に引用意匠の開示の程度)
 (3b) 形態の共通点・差異点の認定(基本的構成態様と具体的態様)
 (3c) 形態の共通点・差異点の個別評価
 (3d) 部分意匠の場合
 (4) 意匠全体としての類否判断

類否判断の詳細1
第III部 第2章 新規性・創作非容易性
第1節 新規性
2. 新規性の判断
2.2 類否判断
2.2.1 判断主体
2.2.2 類否判断の手法
 (1) 出願意匠が【全体意匠】の場合
 (2) 出願意匠が【部分意匠】の場合
2.2.2.1 意匠の類否判断の観点
 (ア) 意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】認定及び類否判断(→2.2.2.2
 (イ) 部分意匠の場合、当該部分における【用途】及び【機能】共通点・差異点の認定(→2.2.2.3
 (ウ) 部分意匠の場合、当該部分の【位置】、【大きさ】、【範囲】共通点・差異点の認定(→2.2.2.4
 (エ) 対比する両意匠の【形状等】認定(→2.2.2.5
 (オ) 対比する両意匠の【形状等】共通点・差異点の認定(→2.2.2.5
 (カ) 対比する両意匠の【形状等】共通点・差異点の個別評価(→2.2.2.6
 (キ) 総合的な類否判断(→2.2.2.7
2.2.2.2 意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】の認定及び類否判断
2.2.2.3 部分意匠の場合、当該部分における【用途】及び【機能】の共通点・差異点の認定
2.2.2.4 部分意匠の場合、当該部分の【位置】、【大きさ】、【範囲】の共通点・差異点の認定
2.2.2.5 対比する両意匠の【形状等】の認定、その共通点・差異点の認定
 (1)肉眼による観察
 (2)観察方法
 (3)形状等の認定
 (4)形状等における共通点・差異点の認定
2.2.2.6 対比する両意匠の【形状等】の共通点・差異点の個別評価
 (1)対比観察した場合に【注意を引く部分】か否かの「認定」及び「評価」
  (a)意匠全体に占める割合についての評価
  (b)物品の大きさの違いについての評価
  (c)物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価
  (d)物品等の内部の形状等の評価
  (e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価
 (2) 先行意匠群との対比に基づく評価
  (a)先行意匠調査を前提とする共通点の評価
  (b)先行意匠調査を前提とする差異点の評価
 (3)機能的意味を持つ形状等及び材質に由来する形状等の取扱い
  (a)【機能的形状】の評価
  (b)物品等の【機能面】からの要求を加味して構成された【模様】の評価
  (c)【材質】から生じる【模様及び色彩】の評価
2.2.2.7 総合的な類否判断
 (1)共通点及び差異点についての総合判断
 (2)意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)
 (3)出願に係る意匠中に用いられた公知の形状等
 (4)意匠の構成要素間の関係
 (5)同一の物品等の分野における既存の類否判断事例との関係

類否判断の詳細2
第III部 第5章 先願
3. 類否判断
3.1 【全体意匠同士】の類否判断
3.2 【部分意匠同士】の類否判断
3.2.1 【部分意匠同士】の類否判断の観点
3.3 【全体意匠と部分意匠】の類否判断
3.3.1 【全体意匠と部分意匠】の類否判断の観点

その他
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関連情報

 


類否判断の基本

第I部 第2章 意匠審査の手順

3.2 新規性等の判断における意匠の類否判断

審査官は、新規性(意匠法第3条第1項各号)、先願(意匠法第9条)、先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外(意匠法第3条の2)に関する拒絶理由を検討する際の、先行意匠と出願された意匠との対比及び判断は、主に以下の点に留意して行う。

◆次の規定での類否判断である。

  • 新規性(第3条第1項各号)
  • 先願(第9条)
  • 先願意匠の一部と同一類似の後願意匠の保護除外(第3条の2)

◆先行意匠と出願意匠との対比及び判断は、主に以下の点に留意して行う。

 

(1)出願された意匠と拒絶理由の通知において引用する先行意匠(以下「引用意匠」という。)の類否判断は、需要者(取引者を含む)を判断主体とする。

◆1◆ 判断主体は需要者(取引者を含む)

出願意匠と引用意匠(先行意匠)の類否判断は、需要者(取引者を含む)を判断主体とする。

 

(2)出願された意匠と引用意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であるか否かを判断する。この場合、物品等の詳細な用途及び機能を比較した上でその類否を決するまでの必要はなく、物品等の用途(使用目的、使用状態等)及び機能に共通性がある物品等であれば、物品等の用途及び機能に類似性があると判断するに十分である。

◆2◆ 物品等の認定と類否判断(用途・機能の同一・類似)

出願意匠と引用意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一・類似であるか否かを判断する。【用途(使用目的・使用状態等)】及び【機能】に共通性があれば足りる。

※意匠に係る物品等=『意匠に係る物品』又は『意匠に係る「建築物若しくは画像」』

 

(3)出願された意匠と対比可能な程度に十分に引用意匠が表されていることを確認し、出願された意匠と引用意匠を対比し、意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)及び各部の形状等における共通点及び差異点を認定したうえで、さらに共通点及び差異点の個別評価を以下の①と②の観点から行う。
 ① その形状等を対比観察した場合に注意を引く部分か否かの認定及びその注意を引く程度の評価
 ② 先行意匠群との対比に基づく注意を引く程度の評価
 物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠については「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能、位置、大きさ、範囲、形状等の共通点及び差異点を認定したうえで、さらに共通点及び差異点の個別評価を行う。

◆3a◆ 形態の認定(特に引用意匠の開示の程度)

出願意匠と対比可能な程度に十分に、引用意匠が表されていることが必要である。

 

◆3b◆ 形態の共通点・差異点の認定(基本的構成態様と具体的態様)

出願意匠と引用意匠を対比し、【基本的構成態様】及び【具体的態様】における共通点・差異点を認定する。

※基本的構成態様=「意匠に係る物品等」の全体の形状等

※具体的態様(具体的構成態様)=「意匠に係る物品等」の各部の形状等

 

◆3c◆ 形態の共通点・差異点の個別評価

形態の共通点・差異点の個別評価を以下の①と②の観点から行う。

① 対比観察した場合に【注意を引く部分】か否かの認定、その【注意を引く程度】の評価

② 先行意匠群との対比に基づく【注意を引く程度】の評価

 

◆3d◆ 部分意匠の場合

「意匠登録を受けようとする部分」の【用途及び機能】、【位置】、【大きさ】、【範囲】、【形状等】の共通点・差異点を認定したうえで、さらに共通点・差異点の個別評価を行う。

 

(4)両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に、意匠全体として需要者(取引者を含む)に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断する。

◆4◆ 意匠全体としての類否判断

 ・両意匠の全ての共通点・差異点を総合的に観察する。

 ・意匠全体として需要者(取引者を含む)に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断する。

 


類否判断の詳細1

第III部 第2章 新規性・創作非容易性

第1節 新規性

2. 新規性の判断

2.2 類否判断

以下に説明する意匠の類否判断の手法は、意匠審査における客観的な類否判断を担保するために必要な意匠的特徴、すなわち、意匠の美感を形成する要素の抽出方法と、その対比方法に関する基本的な考え方を示したものである。

◆意匠的特徴(意匠の美感を形成する要素)の「抽出方法」と、その「対比方法」に関する基本的な考え方を示す。

 

2.2.1 判断主体

類否判断の判断主体は、需要者(取引者を含む)である。
…類否判断は、人間の感覚的な部分によるところが大きいが、その判断を行う際は、創作者の主観的な視点を排し、需要者(取引者を含む)が観察した場合の客観的な印象をもって判断する。

判断主体は需要者

需要者には取引者を含む。

 

2.2.2 類否判断の手法

意匠は、物品等と形状等が一体不可分のものであるから、対比する両意匠の意匠に係る物品等が同一又は類似でなければ意匠の類似は生じない。したがって、審査官は、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断する。なお、物品、画像、建築物の各意匠の間においても、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合は、両意匠は類似すると判断する。

◆意匠は、「物品等」と「形状等」が一体不可分のものである。

「物品等」が同一・類似であることが、意匠類似の前提である。

以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似する。

◆物品、画像、建築物の各意匠の間においても、同様である。

 

(1)出願された意匠が物品等の全体について意匠登録を受けようとするものである場合
 ① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
 ② 出願された意匠と公知意匠の形状等が同一又は類似であること
 なお、上記①及び②がいずれも同一の場合、両意匠は同一と判断する。

◆1◆ 出願意匠が【全体意匠】の場合

① 「物品等」が同一・類似であること

出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一・類似であること

※意匠に係る物品等=『意匠に係る物品』又は『意匠に係る「建築物若しくは画像」』

② 「形状等」が同一・類似であること

出願意匠と公知意匠の【形状等】(形態)が同一・類似であること

※上記①及び②がいずれも同一の場合、両意匠は同一である。

 

(2)出願された意匠が物品等の部分について意匠登録を受けようとするものである場合
 ① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
 ② 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の用途及び機能が同一又は類似であること
 ③ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の当該物品等の全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること
 ④ 出願された意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の形状等が同一又は類似であること
 (注)「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。
 なお、上記①から④が全て同一の場合、両意匠は同一と判断する。

◆2◆ 出願意匠が【部分意匠】の場合

① 「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一・類似であること

出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一・類似であること

② 「意匠登録を受けようとする部分」の【用途】及び【機能】が同一・類似であること

出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【用途】及び【機能】が同一・類似であること

③ 「意匠登録を受けようとする部分」の【位置】、【大きさ】、【範囲】が、同一又はありふれた範囲内のものであること

出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】と、公知意匠における「相当する部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること

④ 「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】が同一・類似であること

出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【形状等】(形態)が同一・類似であること

「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。

※上記①から④が全て同一の場合、両意匠は同一である。

※「その他の部分」=「意匠登録を受けようとする部分」以外の部分

 

2.2.2.1 意匠の類否判断の観点

審査官は、次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。
 (ア) 対比する両意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能の認定及び類否判断(→2.2.2.2参照)
 (イ) 物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分における用途及び機能の共通点及び差異点の認定(→2.2.2.3参照)
 (ウ) 物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合、当該部分の位置、大きさ、範囲の共通点及び差異点の認定(→2.2.2.4参照)
 (エ) 対比する両意匠の形状等の認定(→2.2.2.5参照)
 (オ) 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の認定(→2.2.2.5参照)
 (カ) 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価(→2.2.2.6参照)
 (キ) 総合的な類否判断(→2.2.2.7参照)

◆ 次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。

(ア) 意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】認定及び類否判断(→2.2.2.2

(イ) 部分意匠の場合、当該部分における【用途】及び【機能】共通点・差異点の認定(→2.2.2.3

(ウ) 部分意匠の場合、当該部分の【位置】、【大きさ】、【範囲】共通点・差異点の認定(→2.2.2.4

(エ) 対比する両意匠の【形状等】認定(→2.2.2.5

(オ) 対比する両意匠の【形状等】共通点・差異点の認定(→2.2.2.5

(カ) 対比する両意匠の【形状等】共通点・差異点の個別評価(→2.2.2.6

(キ) 総合的な類否判断(→2.2.2.7

 

2.2.2.2 意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】の認定及び類否判断

対比する両意匠の「意匠に係る物品等」の【使用の目的】、【使用の状態】等に基づき、「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】を認定する。

意匠の類似は、対比する意匠同士の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であることを前提とする。

部分意匠の場合も同様であり、例えば、カメラのグリップ部分について意匠登録出願された場合、「意匠に係る物品」は、当該グリップ部分を含む「カメラ」であることから、新規性の判断の基礎となる資料は、「カメラ」及びそれに類似する物品等に係る意匠となる。

具体的な物品等に表された形状等の価値を評価する範囲において、【用途(使用目的、使用状態等)】及び【機能】に共通性があれば足りる

「意匠に係る物品等」の【用途(使用目的、使用状態等)】及び【機能】に共通性がない場合には、意匠は類似しない。

 

2.2.2.3 部分意匠の場合、当該部分における【用途】及び【機能】の共通点・差異点の認定

出願意匠が部分意匠である場合は、「意匠登録を受けようとする部分」と公知意匠における「相当する部分」のそれぞれの【用途】及び【機能】について共通点・差異点を認定する

 

2.2.2.4 部分意匠の場合、当該部分の【位置】、【大きさ】、【範囲】の共通点・差異点の認定

出願意匠が部分意匠である場合は、「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】と、公知意匠における「相当する部分」の当該物品等全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】について共通点・差異点を認定する

なお、【位置】、【大きさ】、【範囲】は、当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであれば、ほとんど影響を与えない

 

2.2.2.5 対比する両意匠の【形状等】の認定、その共通点・差異点の認定

(1)肉眼による観察

観察は、肉眼による視覚観察を基本とする(ただし、肉眼によって認識できないものであっても、取引の際、拡大観察することが通常である場合には、肉眼によって認識できるものと同様に扱う。)。

(2)観察方法

類否判断は、「意匠に係る物品等」を観察する際に通常用いられる観察方法により行う。

例えば、購入の際にも使用時にも実際に手に持って視覚観察する筆記具の意匠の場合は、意匠全体を同じ比重で観察するが、通常の設置状態では背面及び底面を見ることのないテレビ受像機の意匠の場合は、主に正面、側面、平面方向に比重を置いて観察する。

(3)形状等の認定

両意匠の「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】(意匠を大づかみに捉えた際の骨格的形状等)及び各部の形状等【具体的態様】認定する。

(4)形状等における共通点・差異点の認定

両意匠の「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】及び各部の形状等【具体的態様】における共通点・差異点を認定する。

出願意匠が部分意匠である場合は、「意匠登録を受けようとする部分」と公知意匠における「相当する部分」のそれぞれの全体の形状等【基本的構成態様】及び各部の形状等【具体的態様】について共通点・差異点を認定する。ただし、「その他の部分」の形状等については直接共通点・差異点を認定しない

 

2.2.2.6 対比する両意匠の【形状等】の共通点・差異点の個別評価

両意匠の各共通点・差異点における形状等に関し、以下の(1)その形状等を対比観察した場合に【注意を引く部分】か否かの認定及びその【注意を引く程度】の評価と、(2)先行意匠群との対比に基づく【注意を引く程度】の評価を行う。

各共通点・差異点における形状等が(1)及び(2)の観点からみてどの程度注意を引くものなのかを検討することにより、各共通点・差異点が意匠全体の美感に与える影響の大きさを判断する。

(1)対比観察した場合に【注意を引く部分】か否かの「認定」及び「評価」

両意匠の各共通点・差異点における形状等が、対比観察した場合に【注意を引く部分】か否か及びその【注意を引く程度】は、①その部分が意匠全体の中で占める割合の大小、及び②その部分が「意匠に係る物品等」の特性からみて視覚的印象に大きな影響を及ぼす部分かにより、認定及び評価を行う。

なお、具体的な評価方法及び評価結果は個別の意匠ごとに異なるが、一般的には以下のとおり。

 (a)意匠全体に占める割合についての評価

 出願意匠と公知意匠の共通点・差異点に係る部分について、その大きさが「意匠に係る物品等」全体に占める割合が大きい場合には、小さい場合と比較して、その部分が注意を引く程度は大きい

 「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】は、意匠の骨格ともいえるものなので、視覚的印象に与える影響は、通常最も大きい

 (b)物品の大きさの違いについての評価

 両意匠の「意匠に係る物品等」自体の大きさが異なっていたとしても、それが物品等の【用途】及び【機能】の認定に影響を及ぼさない限り、その違いは、強く注意を引くものとはならない

 (c)物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価

 意匠には、視覚観察を行う場合に【観察されやすい部分】、【観察されにくい部分】が存在する。両意匠の共通点・差異点における形状等が【観察されやすい部分】の形状等であれば、注意を引きやすいといえる。

 【観察されやすい部分】は、「意匠に係る物品等」の【用途(使用目的、使用状態等)】及び【機能】、その【大きさ】等に基づいて、(1)意匠に係る物品等が選択・購入される際に見えやすい部位か否か、(2)需要者(取引者を含む)が関心を持って観察する部位か否かを認定することにより抽出する。

 ただし、このようにして抽出される部分であったとしても、その形状等が機能的必然性のみに基づくものであった場合には、意匠的特徴としては考慮しない

 (d)物品等の内部の形状等の評価

 意匠は、「意匠に係る物品等」を観察する際に目に付きやすい部位の形状等を中心に比較されるべきであるから、類否判断においては、通常の使用状態において目にすることのない内部の形状等は、意匠の特徴として考慮しない。他方、通常の使用状態において内部の形状等を観察するものについては、使用時に目に付きやすい形状等が注意を引きやすい部分となる。

 例えば、冷蔵庫の意匠の場合、扉を開けた状態も使用時の形状等である一方、冷蔵庫の用途及び機能は、扉を閉めた状態で内部に食品等を冷却保管するものであるから、通常は、扉を閉めた状態で視覚観察されるものであるといえる。よって、このような場合は扉を閉じた状態の外観が注意を引く程度は内部の形状等のそれよりも大きい。一方、人が内部に入って使用する浴室の意匠等の場合には、内部の形状等が注意を引く部分となる

 (e)流通時にのみ視覚観察される形状等の評価

 使用時・設置時にはその一部が目に触れないような物品等(例えば、一部が土に埋まるフェンスや、壁や天井に一部が埋め込まれる照明器具等)の場合、流通時にのみ視覚観察される部位が注意を引く程度は、原則として、その他の部位よりも小さい

 ただし、その他の部位における形状等が、ありふれた形状等であるなど意匠全体の美感に与える影響が小さいような場合には、相対的に、流通時にのみ視覚観察される部位の意匠全体の中での重要度が上がり、意匠全体での最終的な判断の際に類否を左右する場合もある。

(2) 先行意匠群との対比に基づく評価

出願意匠と公知意匠の各共通点・差異点における形状等が、先行意匠群と対比した場合に、【注意を引きやすい形状等】か否かを評価する。形状等が注意を引きやすいものか否かは、同じ形状等を持つ公知意匠の数や、他の一般的に見られる形状等とどの程度異なった形状等であるか、又その形状等の創作的価値の高さによって変わる。

 (a)先行意匠調査を前提とする共通点の評価

 出願意匠と公知意匠の各【共通点】における形状等が、他の先行意匠において【ごく普通に見られるありふれた態様】であった場合には、その形状等は特徴的な形状等とはいえない。したがって、他の先行意匠においても見られる形状等ではあるが、【ごく普通に見られるありふれた態様】とはいえない場合と比べて、その形状等が注意を引く程度は小さい。

 いずれの場合も、ありふれた形状等や、公然知られた形状等を単純に除外することはしない。

 (b)先行意匠調査を前提とする差異点の評価

 出願意匠と公知意匠との対比によって認定される各【差異点】における形状等が、【他の先行意匠には見られない新規な形状等】であって、【創作的価値が高い】と認められる場合、その形状等は、過去のものとは異なっているという強い印象を与え、強く注意を引くものである。

 各【差異点】における形状等が、他の先行意匠において【ごく普通に見られるありふれた態様】である場合は、その形状等は、強く注意を引くものとはなり得ない。ただし、ありふれた形状等や公然知られた形状等の組合せによっては、その組合せの態様が、注意を引く場合もある。

(3)機能的意味を持つ形状等及び材質に由来する形状等の取扱い

【機能的意味を持つ形状等】及び【材質に由来する形状等】について、一般的には以下のように扱う。

 (a)【機能的形状】の評価

 機能的な要求の実現に造形的な自由度があり、その形状でなければならない必然性がない場合の形状については、その造形的な特徴を考慮する。ただし、物品等の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠は、意匠法が本来保護を予定しない技術的思想の創作に対して排他的独占権を付与することになるため、保護しない(意匠法第5条第3号)。

 また、視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について、その相違が機能に大きく関わっていても、ことさら重要視しない

 (b)物品等の【機能面】からの要求を加味して構成された【模様】の評価

 単に装飾を目的とする模様(例えば、食卓用皿の表面に付される模様。)に加え、近年、シートキーやタッチパネルなど、入力・操作部の態様が凹凸の立体形状を伴わない平面的な図形等として構成される例が多くなってきている。このような「意匠に係る物品等」との関係において一定の【機能】を有する【模様】についての意匠的な特徴の評価は、【その模様が有する意味】、すなわち、【何を意図した模様なのか】、【物品等の用途及び機能との関係においてどのような機能を担う模様なのか】、という点を理解した上で行うものであり、形状の場合と同様に評価する。

 (c)【材質】から生じる【模様及び色彩】の評価

 意匠の構成要素として真に考慮すべき模様及び色彩は、創作者の創作行為に基づいて表された模様及び色彩であるが、願書に添付した図面等に表された意匠が、「意匠に係る物品等」を製造等する際に通常用いられる【材質】そのままの【模様・色彩】をもって表されていると認められる場合、その模様・色彩はその意匠の属する分野においてはありふれたものであるから、その模様・色彩が意匠全体の美感に与える影響は極めて小さい。

 

2.2.2.7 総合的な類否判断

両意匠の形状等における各共通点・差異点についての個別評価に基づき、意匠全体として両意匠の全ての共通点・差異点を総合的に観察した場合に、需要者(取引者を含む)に対して異なる美感を起こさせるか否かを判断する。

意匠は、全体が有機的なつながりを持って結合されたものであるから、各共通点・差異点を個別に評価するだけでは、類否を判断することはできない。各形状等の組合せにも注意しつつ共通点・差異点を総合的に検討した場合に、それら共通点・差異点が意匠全体の美感の類否に対し、どのような影響を与えているかを評価しなければならない。

基本的な考え方は以下のとおり。

(1)共通点及び差異点についての総合判断

ある共通点・差異点が類否判断をする上で最も重要な要素となるか否かは、他の共通点・差異点との【相対的な関係】で決まる。ある共通点・差異点が類否判断に与える影響の大きさを考えるとき、他の共通点・差異点が意匠全体の美感に与える影響が小さければ、その共通点・差異点が類否判断に与える影響は相対的に大きいものとなる。他方、意匠全体の美感に与える影響が同程度、あるいはより大きな共通点・差異点が他にある場合には、その共通点・差異点が類否判断に与える影響の大きさは、相対的に小さくなる。

(2)意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)

「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】は、意匠の骨格ともいえるものであって、視覚を通じて起こさせる美感への影響が最も大きい。よって、意匠が類似するためには、原則として、意匠に係る物品等の全体の形状等【基本的構成態様】が共通することが必要である

ただし、出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】に差異点があったとしても、いずれもありふれた形状等であって、かつ、各部の形状等【具体的態様】における共通点が顕著であるような場合には、「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】における差異を超えて両意匠が類似する場合もある。

例えば、模様付きの直方体型包装用箱において、箱全体の縦、横、高さの比率が異なる2つの意匠があった場合、いずれも包装用箱の比率としてはありふれていて注意を引くものではなく、かつ、共通する模様が特徴的で強く注意を引くものと認められるならば、意匠に係る物品等の全体の形状等【基本的構成態様】における差異(箱全体の縦、横、高さの比率)を超えて、両意匠は類似することがある。

各部の形状等【具体的態様】における差異点についても類否判断に与える影響の大きさが小さい場合には、共通する「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】がありふれたものであっても、なお、その意匠の中で最も類否判断に与える影響が大きいものとなり、両意匠が類似する場合もある。

また、公知・周知の形状等を寄せ集めた意匠であったとしても、その組合せの態様が新規であって、「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】として新規である場合には、その組合せによる「意匠に係る物品等」の全体の形状等【基本的構成態様】が新規な形状等として評価される。

(3)出願に係る意匠中に用いられた公知の形状等

出願意匠中に用いられた【公知の形状等】が類否判断に与える影響の大きさは、新規な形状等に比べて一般的に小さくなるが、意匠は全体が有機的な結合によって成立するものであるから、共通点・差異点における形状等が【公知の形状等】であったとしても、その共通点・差異点を単純除外して、その他の共通点・差異点のみについて判断することはしない

【公知の形状等】の組合せが新規である場合は、その組合せに係る態様を評価する。

(4)意匠の構成要素間の関係

意匠の構成要素である形状、模様、色彩のうち、どの構成要素が類否判断に大きな影響を与えるかは、一概には言えず、先行する公知意匠群との関係において、最も特徴が大きく注意を引くものが類否判断に与える影響が大きいといえる。

しかしながら、形状及び模様は、人知に基づく創作を必要とする場合が多いのに比し、色彩はそれが模様を構成しない限り、「創作」というよりも「選択」と形容するのが適当であって、色彩のみを変更した多数の製品バリエーションが通常用意されていることから、色彩は形状及び模様よりも注意を引きにくいといえる。したがって、一般的に色彩は、形状及び模様よりも類否判断に与える影響が小さい

(5)同一の物品等の分野における既存の類否判断事例との関係

一般に、対比する2つの意匠の共通点・差異点が意匠全体の美感に与える影響の大きさについての評価が、同一の物品等の分野の既存の判断事例と同様の場合には、既存の類否判断事例と同様の結果となる。

しかし、意匠の類否判断は、その他の部分を含む意匠全体について行うものであるため、対比する2つの意匠が、既存の判断事例と同様の共通点・差異点を有していたとしても、それらが物品等の特性等からみて、意匠全体の中で【注意を引く部分】における共通点・差異点なのか否かの認定、及びその【注意を引く程度】についての評価は、常に同じというわけではない。また、先行公知意匠は日々累積されるものであるので、当該先行公知意匠群との対比に基づく評価は常に同じというわけではない。

このように、同様の共通点・差異点を有していても、それらが類否判断に与える影響の大きさについての評価は常に同じとは限らないことから、同一の物品等の分野における既存の類否判断事例であっても、その結論のみを別の事例に単純には適用しない

 


類否判断の詳細2

第III部 第5章 先願

3. 類否判断

3.1 【全体意匠同士】の類否判断

先願の規定における【全体意匠同士】の類否判断は、公知意匠と全体意匠との類否判断と同様に行うため、第III部第2章第1節「新規性」2.2「類否判断」に従う。

新規性の要件の判断においては、刊行物に記載されるなどして公知となった物品等に係る意匠に加えて、その物品等の中に含まれる、その物品等とは非類似の物品等に係る意匠(例えば部品に係る意匠)であっても、当該意匠自体の具体的な形状等を認識できるものについては、あわせて公知となったと考えられることから新規性の判断の基礎とする資料として取り扱うが、先願の要件の判断においては、このような他の意匠の中に含まれる意匠との間では、先願の規定の適用を行わないことから、判断の基礎とする資料として取り扱わない

また、新規性の要件の判断においては、意匠公報に掲載された「部分意匠」の「意匠登録を受けようとする部分」以外の「その他の部分」において、意匠に係る物品等の具体的な形状等を識別できるものについても、同様に新規性等の判断の基礎とする資料として取り扱うが、先願の要件の判断においては、このような「その他の部分」との間では、先願の規定の適用を行わないことから、判断の基礎とする資料として取り扱わない

 

3.2 【部分意匠同士】の類否判断

先願の規定における【部分意匠同士】の類否判断において、【部分意匠同士】が以下の全てに該当する場合、両意匠は類似すると判断する。

① 本願意匠と先願意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が、同一・類似であること

② 本願意匠と先願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【用途】及び【機能】が、同一・類似であること

③ 本願意匠と先願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】が、同一又はありふれた範囲内のものであること

④ 本願意匠と先願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】が、同一・類似であること

※「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。

※上記①から④が全て同一の場合、両意匠は同一と判断する。

 

3.2.1 【部分意匠同士】の類否判断の観点

次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。なお、以下に記載した事項以外の点については、第Ⅲ部第2章第1節「新規性」2.2.2「類否判断の手法」に準じて判断を行う。

(ア)意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】認定及び類否判断

(イ)「意匠登録を受けようとする部分」における【用途】及び【機能】共通点・差異点の認定

(ウ)「意匠登録を受けようとする部分」の【位置】、【大きさ】、【範囲】共通点・差異点の認定

(エ)「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】認定

(オ)「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】共通点・差異点の認定

(カ)「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】共通点・差異点の個別評価

(キ)「部分意匠」総合的な類否判断

 

3.3 【全体意匠と部分意匠】の類否判断

先願の規定における【全体意匠と部分意匠】の間の類否判断において、以下の全てに該当する場合、両意匠は類似すると判断する。

① 両意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が、同一・類似であること

② 全体意匠の【用途】及び【機能】と、部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【用途】及び【機能】が、同一・類似であること

③ 全体意匠の物品等の全体に対し、部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】が、ありふれた範囲内のものであること

④ 全体意匠の【形状等】と、部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】が、同一・類似であること

※「その他の部分」の形状等のみについては対比の対象とはしない。

※上記①から④が全て同一の場合、両意匠は実質的に同一であると判断する。

 

3.3.1 【全体意匠と部分意匠】の類否判断の観点

次の(ア)から(キ)の観点により、類否判断を行う。なお、以下に記載した事項以外の点については、第Ⅲ部第2章第1節「新規性」2.2.2「類否判断の手法」に準じて判断を行う。

(ア)意匠に係る物品等の【用途】及び【機能】認定及び類否判断

(イ)全体意匠の【用途】及び【機能】と、部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【用途】及び【機能】の、共通点・差異点の認定

(ウ)全体意匠と部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】共通点・差異点の認定

(エ)全体意匠と部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】認定

(オ)全体意匠と部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】共通点・差異点の認定

(カ)全体意匠と部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】共通点・差異点の個別評価

(キ)全体意匠と部分意匠総合的な類否判断

 


特許庁編『意匠審査基準』のご案内

意匠審査基準には、「画像を含む意匠の類否判断」、「建築物の意匠の類否判断」、「内装の意匠の類否判断」など解説もあります。

最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、次のURLから、特許庁ホームページにてご確認ください。

  • 意匠審査基準(特許庁)
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/shinsa_kijun/index.html

 


関連情報

 


(作成2022.01.02、最終更新2022.03.04)
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