意匠の先願要件に関する意匠審査基準
先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外(意匠法第3条の2)について、特許庁編『意匠審査基準』(令和3年3月改訂版)を確認してみます。下記において、意匠審査基準の記載そのままではありません。弊所において、編集・加工を行っています。本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、「特許庁編『意匠審査基準』のご案内」から、特許庁ホームページにてご確認ください。
目次
第III部 第4章 先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外
3. 願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠
4. 【先願意匠】を特定するための図
4.1 全体意匠の意匠登録出願の場合
4.2 部分意匠の意匠登録出願の場合
4.3 組物の意匠又は内装の意匠の意匠登録出願の場合
7. 先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠
7.1 【先願意匠】の一部と後願の部分意匠との類否判断
7.2 第3条の2の規定に該当する部分意匠の意匠登録出願の例
8. 第3条の2ただし書の規定の適用の判断
8.1 意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であること
8.2 先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(秘密意匠解除公報を除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があったこと
9. 第3条の2の規定の適用に関する時期的要件
9.1 意匠登録出願の分割、出願の変更及び補正後の意匠についての新出願に対する第3条の2の規定に関する判断の基準日
9.2 パリ条約による優先権等の主張を伴う意匠登録出願の第3条の2の規定の判断の基準日
9.3 第3条の2の規定により拒絶理由を通知する時期
9.4 国際意匠登録出願の第3条の2の規定の判断の基準日
10. 第3条の2の規定に該当する全体意匠の意匠登録出願の例
(1)先願が全体意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
(2)先願が分離できる物品等に係る意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部である分離した一の意匠と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
(3)先願が部分意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
(4)先願が組物の意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の中の一の構成物品等に係る意匠と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
その他
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第III部 第4章 先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外
1. 概要
意匠法第3条の2の規定は、先願意匠の一部がほとんどそのまま後願意匠として出願されたときのように、後願意匠に何ら新しい意匠の創作が見受けられない場合は、意匠登録を受けることができない旨を規定したものである。
ただし、同一の出願人による出願が、先願の登録意匠公報(秘密意匠解除公報を除く。)の発行日前に出願された場合は、この限りでない(第3条の2ただし書)。また、同一人による後願が関連意匠の意匠登録出願である場合も、適用対象外となる(第10条第3項)。
この章では、先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外について取り扱う。
2. 第3条の2本文の規定の適用の基礎となる意匠公報
適用の基礎となる意匠公報は、適用の対象となる後願の出願日前に出願された意匠について、後願の出願後に発行された以下のいずれかの意匠公報である。
(1)登録意匠公報
(2)同日競願に係る協議不成立・不能による拒絶確定公示公報
3. 願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠
第3条の2に規定する「意匠公報に掲載されたものの願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠」とは、具体的に、意匠公報に掲載されたもののうち、先願の意匠登録出願人が創作した意匠、すなわち、先願の意匠登録出願人によって、願書の「意匠に係る物品」の欄に記載された意匠に係る物品等の形状等として開示された意匠である。この意匠を、「先願に係る意匠として開示された意匠」といい、弊所読解では単に【先願意匠】という。
よって、意匠の理解を助けるために必要があるときに加える使用状態を示した図又はその他の参考図の中に記載されている『「先願に係る意匠として開示された意匠」以外のもの』は、第3条の2の規定の適用の基礎となる資料とはしない。
4. 【先願意匠】を特定するための図
4.1 全体意匠の意匠登録出願の場合
立体的なものの場合は、正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図、又はそれらと置き換え可能な図「一組の図面」が、【先願意匠】を特定するための図となる。
平面的なものの場合は、表面図及び裏面図「一組の図面」が、【先願意匠】を特定するための図となる。
また、一組の図面だけでは出願意匠を十分表現できないときに加える、展開図、断面図、切断部端面図、拡大図、斜視図、画像図その他必要な図であって参考図ではないもの「その他必要な図」も、【先願意匠】を特定するための図となる。
4.2 部分意匠の意匠登録出願の場合
部分意匠の意匠登録出願の場合は、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」を含む、意匠に係る物品等の全体の形状等を表している「一組の図面」と、「その他必要な図」が、【先願意匠】を特定するための図となる。
4.3 組物の意匠又は内装の意匠の意匠登録出願の場合
組物の意匠又は内装の意匠の意匠登録出願の場合は、構成物品等に係る意匠についてのそれぞれの「一組の図面」、又は構成物品等を組み合わせた状態の「一組の図面」と、「その他必要な図」が、【先願意匠】を特定するための図となる。
5. 意匠の一部について
意匠の一部とは、【先願意匠】の外観の中に含まれた一つの閉じられた領域をいう。したがって、意匠の構成要素である形状、模様、色彩の一を観念的に分離したものについては、意匠の一部に該当するものとは取り扱わない。例えば、【先願意匠】が、物品等の形状と模様の結合からなる意匠である場合には、その結合した状態の意匠全体における一部を指し、模様を除いた形状のみは意匠の一部に該当するものとは取り扱わない。
また、後願意匠が、先願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」を含む、意匠に係る物品等の全体の形状等を表したものである場合は、後願意匠は、【先願意匠】の一部に該当するものとは取り扱わない。
6. 【先願意匠】の一部と後願の全体意匠との類否判断
第3条の2の規定の適用にあたっては、【先願意匠】の中に、原則的に、後願の全体意匠の全体の形状等が開示されていること(対比可能な程度に十分に表されている場合を含む。)が必要である。
【先願意匠】と後願の全体意匠とが、(1)【先願意匠】が全体意匠であるか部分意匠であるか、(2)【先願意匠】の「意匠に係る物品等」と後願の全体意匠の「意匠に係る物品等」の類否を問わず、【先願意匠】中の後願の全体意匠に相当する一部と、後願の全体意匠の「意匠に係る物品等」との用途及び機能が同一又は類似であって、それぞれの形状等が同一又は類似である場合、後願の全体意匠と【先願意匠】中の一部とは類似するものと判断する。
7. 先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠
第3条の2の規定の規定は、先願意匠の一部とほとんどそのままのものが後願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」として出願されたときのように、後願の部分意匠が何ら新しい意匠の創作とは認められない場合にも適用される。
7.1 【先願意匠】の一部と後願の部分意匠との類否判断
第3条の2の規定の適用にあたっては、【先願意匠】の中に、原則的に、後願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の全体の形状等が開示されていることが必要である。ただし、【先願意匠】の中に、後願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の全体の形状等が開示されていない場合であっても、対比可能な程度に十分表されている場合には、当該規定を適用することができる。
【先願意匠】と、後願の部分意匠との類否判断において、(1)【先願意匠】が全体意匠であるか部分意匠であるか、(2)【先願意匠】の「意匠に係る物品等」と後願の部分意匠の「意匠に係る物品等」の類否を問わない。そして、【先願意匠】の中の、後願の部分意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分と、後願の部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」との用途及び機能が同一又は類似であって、それぞれの形状等が同一又は類似である場合、【先願意匠】の一部と後願の部分意匠とは類似するものと判断する。
7.2 第3条の2の規定に該当する部分意匠の意匠登録出願の例
第3条の2の規定に該当する部分意匠の意匠登録出願の事例については、第Ⅲ部第2章第1節「新規性」2.2「類否判断」2.2.2.8「公知意匠に類似する物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の例」における事例1から事例6において、公知意匠を【先願意匠】に読み替える。
≪参考≫ 2.2.2.8 公知意匠に類似する物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の例
【事例1】
公知意匠先願意匠「電気掃除機本体」>出願された意匠「電気掃除機本体」(先願意匠の一部を破線に)
【事例2】
公知意匠先願意匠「カメラ」(意匠公報掲載の意匠(部分))>出願された意匠「カメラ」(先願部分意匠の実線部の一部を破線に)
【事例3】
公知意匠先願意匠「カメラ」(意匠公報掲載の意匠(部分))>出願された意匠「ファインダー付カメラ用レンズ」(先願部分意匠の実線部の一部を破線に)
【事例4】
公知意匠先願意匠「包装用びん」(意匠公報掲載の意匠(部分))>出願された意匠「包装用びん」(先願部分意匠の破線部の一部を実線に)
【事例5】
公知意匠先願意匠「カメラ」(意匠公報掲載の意匠(部分))>出願された意匠「カメラ」(先願部分意匠の実線部の一部を変更)
【事例6】
公知意匠先願意匠「デジタルカメラ」(意匠公報掲載の意匠(部分))>出願された意匠「デジタルカメラ」(先願部分意匠の実線部の位置を変更)
8. 第3条の2ただし書の規定の適用の判断
第3条の2本文の規定により意匠登録を受けることができない出願であっても、以下の要件をいずれも満たす場合は、同条ただし書の規定により、拒絶理由に該当しない。
8.1 意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であること
出願人が同一の者であるか否かの判断は、当該適用の判断時、すなわち、査定の謄本又は拒絶理由通知書の送達時における、それぞれの願書の意匠登録出願人の記載に基づいて行う。したがって、当該適用の判断時以外の時における「出願人の異同」及び「意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願に係る意匠権者との異同」については、当該適用の判断において考慮しない。
なお、共同出願に係る場合における「同一の者」は、全ての出願人が一致することをいう。
8.2 先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(秘密意匠解除公報を除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があったこと
先の意匠登録出願の登録意匠公報(秘密意匠解除公報を除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願がなされていることを要する。
なお、先願の意匠登録出願の出願人と関連意匠の意匠登録出願人が同一の者である場合は、本条の規定の適用の対象外となる(第10条第3項)。
9. 第3条の2の規定の適用に関する時期的要件
第3条の2の規定は、先願の意匠登録出願の出願日後から、その意匠登録出願に係る意匠公報(登録意匠公報、同日競願に係る協議不成立・不能による拒絶確定公示公報)の発行日(同日を含む。)までに出願された意匠登録出願(ただし書の規定を適用するものを除く。)に適用する。
なお、先願の意匠登録出願に係る意匠公報発行の時以降に意匠登録出願されたことが明らかな意匠登録出願に対しては、新規性の規定を適用する。
9.1 意匠登録出願の分割、出願の変更及び補正後の意匠についての新出願に対する第3条の2の規定に関する判断の基準日
意匠登録出願の分割、特許出願又は実用新案登録出願から意匠登録出願への変更、あるいは補正却下後の新たな意匠登録出願において、手続が適法に行われた場合、これらの意匠登録出願はもとの出願の時あるいは手続補正書を提出した時にしたものとみなされる。
ただし、第3条の2の規定は、意匠登録出願の日単位で判断することから、分割による新たな意匠登録出願、変更による新たな意匠登録出願、及び補正却下後の新たな意匠登録出願については、遡及が認められたもとの出願の出願日あるいは手続補正書の提出日を判断の基準日とする。
9.2 パリ条約による優先権等の主張を伴う意匠登録出願の第3条の2の規定の判断の基準日
第3条の2の規定の適用にあたっては、その主張が適正であるとき、第一国の出願日を判断の基準日とする。
9.3 第3条の2の規定により拒絶理由を通知する時期
第3条の2の規定による拒絶理由は、先願の意匠に係る意匠公報(登録意匠公報、同日競願に係る協議不成立・不能による拒絶確定公示公報)の発行日後に通知する。
なお、秘密意匠に係る意匠公報の場合は、指定された秘密請求期間の経過後であり、さらに、意匠登録出願について掲載すべき事項のすべてが掲載された意匠公報の発行日後に拒絶理由を通知することとする。それまでの期間に関し、審査官は待ち通知を発する。
9.4 国際意匠登録出願の第3条の2の規定の判断の基準日
国際意匠登録出願についての第3条の2の規定の適用にあたっては、意匠登録出願がされたとみなされる国際登録の日を判断の基準日とする(ただし、パリ条約による優先権等の主張が適正になされている場合を除く。)。
10. 第3条の2の規定に該当する全体意匠の意匠登録出願の例
(1)先願が全体意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
【適用できる事例1】
先願意匠「洗面化粧台(洗面化粧棚を含む。)」>後願意匠「洗面化粧棚」
【適用できる事例2】
先願意匠「のこぎり(のこぎり用柄を含む。)」>後願意匠「のこぎり用柄」
(2)先願が分離できる物品等に係る意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部である分離した一の意匠と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
【適用できる事例】
先願意匠「コーヒーわん及び受け皿」>後願意匠「コーヒーわん」
【適用できない事例】
先願意匠「噴霧器」≠後願意匠「噴霧器の押し出しポンプ」
(説明)後願意匠の全体の形状等が、先願意匠の中に対比可能な程度に十分表れていない。
(3)先願が部分意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の一部と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
【適用できる事例1】
先願意匠「電気掃除機本体(ホース取付口を含む。)」>後願意匠「電気掃除機用ホース取付口」
【適用できる事例2】
先願意匠「のこぎり(のこぎり用柄を含む。)」>後願意匠「のこぎり用柄」
(4)先願が組物の意匠の意匠登録出願のとき、当該【先願意匠】の中の一の構成物品等に係る意匠と後願の全体意匠とが同一又は類似である場合
【適用できる事例】
先願意匠「一組の飲食用具セット(飲食用スプーンを含む。)」>後願意匠「飲食用スプーン」
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- 意匠審査基準(特許庁)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/shinsa_kijun/index.html
関連情報
(作成2022.03.15、最終更新2022.03.16)
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