商標類否判断のための子音の比較

はじめに

商標類否判断支援システムのアルゴリズム(類否判断手順)でご紹介のように、二つの商標が称呼において類似するか否かを考える際、「子音を共通とするか」や「子音が近似するか」という観点でも検討します。現状、商標類否判断支援システムでは、子音が近似するか否かの判定には、過去の商標審決例に基づき作成した「子音間の類否表」を用いています。

今回は、この「子音間の類否表」に代えて、もう少し客観的に、“なぜ類似なのか”“なぜ非類似なのか”、について検討してみます。

二つの商標(称呼)の相違音を、「調音位置」「呼気の流れ方」「有声・無声の別」に基づき検討して、互いに類似するか否かの判断資料にできたらと思います。

もう少し説明を加えると、次のとおりです。

 

(1)「調音位置」について

音声器官のどの箇所を動かして声を出すか、いいかえれば調音位置の違いにより、音を分類できます。

具体的には、「両唇音」、「歯茎音」、「硬口蓋歯茎音」、「硬口蓋音」、「軟口蓋音」、「口蓋垂音」、「声門音」に分類されます。

  • 読み方(下記参考文献に記載の佐藤亮一先生が講義でおっしゃっていたと記憶する読み方を優先(先頭に記載)しています。)
    ・両唇=りょうしん
    ・歯茎=はぐき・しけい
    ・硬口蓋=かたこうがい・こうこうがい
    ・軟口蓋=やわこうがい・なんこうがい
    ・口蓋垂=こうがいすい
    ・声門=せいもん

 

(2)「呼気の流れ方」について

調音器官を呼気がどのように流れるかにより、音を分類できます。

具体的には、「破裂音」、「摩擦音」、「破擦音(はさつおん)」、「弾き音(はじきおん)」、「鼻音(びおん)」、「接近音」に分類されます。

 

(3)「有声・無声の別」について

声を出すとき、声帯が振動するか否かで、音を分類できます。

声帯が振動するものを「有声音」、声帯が振動しないものを「無声音」といいます。

 


子音間の類否関係(調音位置、呼気の流れ方、有声・無声の別)

次の表は、「子音間の類否関係(調音位置、呼気の流れ方、有声・無声の別)」を示しています。

ここでは、「調音位置」「呼気の流れ方」「有声・無声の別」の内、少なくとも二つを共通とするものを類似と考えます。グレー、オレンジ、ブルー、グリーンの塗りつぶし欄となります。詳しくは、後述します。

子音間の類否関係(調音位置、呼気の流れ方、有声・無声の別)

 

(1)丸印「〇」と三角印「△」について

  • 丸印「〇」は、(a)「調音位置」が同じもの(各欄の上側の〇)、又は(b)「呼気の流れ方」が同じで「有声・無声の別」も同じもの(各欄の下側の〇)です。たとえば、「カ」と「ガ」は、軟口蓋音で共通するので、カ行とガ列とが交差する欄の上側には「〇」が付されています。また、「カ」と「タ」は、「破裂音」「無声」で共通するので、カ行とタ列とが交差する欄の下側には「〇」が付されています。
  • 三角印「△」は、「呼気の流れ方」は同じで「有声・無声の別」が異なるものです(各欄の下側の△)。たとえば、「カ」と「ガ」は、破裂音で共通するが、無声と有声とが異なるので、カ行とガ列とが交差する欄の下側には「△」が付されています。
  • 丸印「〇」と三角印「△」の内、赤色のものは、商標類否判断支援システムで用いた「子音間の類否表」と同じ結果のもの、緑色のものは、異なる結果のものを示します。

 

(2)塗りつぶした欄について【子音の同一・類似】

  • 「調音位置」「呼気の流れ方」「有声・無声の別」から、類似の傾向があると考えられる欄は、塗りつぶしました。但し、調音位置などの共通性のみを考慮しており、たとえば調音位置の近似性については考慮しておりません(そのため、他に類似傾向がある欄はあり得ます)。
  • グレーの塗りつぶし欄は、「調音位置」「呼気の流れ方」「有声・無声の別」が同じため、子音の比較という観点からは、同一又は類似傾向が出ると考えられるものです。
  • オレンジの塗りつぶし欄は、「調音位置」と「呼気の流れ方」が同じため、子音の比較という観点からは、類似傾向が出ると考えられるものです。
  • ブルーの塗りつぶし欄は、「呼気の流れ方」と「有声・無声の別」が同じため、子音の比較という観点からは、類似傾向が出ると考えられるものです。
  • グリーンの塗りつぶし欄は、「調音位置」と「有声・無声の別」が同じため、子音の比較という観点からは、類似傾向が出ると考えられるものです。

 

(3)具体例

以下の例では、母音の共通性・近似性も考慮しています。母音が共通か近似かについては、商標類否判断支援システムのアルゴリズム(類否判断手順)の第1類否判断処理と第2類否判断処理をご参照ください。

例1(グレーの欄)

  • 「ガ」と「ゲ」は、ともに「軟口蓋音」「破裂音」「有声」で共通するため、類似の傾向が出ると考えられる。

例2(オレンジの欄)

  • 「カ」と「ガ」は、無声か有声かの違いはあるものの、ともに「軟口蓋音」「破裂音」で共通するため、類似の傾向が出ると考えられる。

例3(ブルーの欄)

  • 「ゲ」と「デ」は、軟口蓋音か歯茎音かの違いはあるものの、ともに「破裂音」「有声」で共通するため、類似の傾向が出ると考えられる。

例4(グリーンの欄)

  • 「シ」と「チ」は、摩擦音か破擦音かの違いはあるものの、ともに「硬口蓋歯茎音」「無声」で共通するため、類似の傾向が出ると考えられる。

例5(無地の欄)

  • 「カ」と「ミ」は、軟口蓋音か両唇音か、破裂音か鼻音か、無声か有声か、いずれも異なるので、非類似の傾向が出ると考えられる。

 

(4)ご注意

 

(5)参考文献

  • 佐藤亮一(国立国語研究所 言語変化第一研究室 室長)
    「音声学・音韻論からみた商標称呼の類否性」(昭和62年3月17日、弁理士会)

 


関連情報

 


(作成2022.04.02、最終更新2024.03.03)
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