意匠法第23条の条文解読(意匠権の効力)

はじめに

 


(意匠権の効力)
第23条

意匠権者は、業として「登録意匠及びこれに類似する意匠」の実施をする権利を専有する。

ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者が「その登録意匠及びこれに類似する意匠」の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

 

意匠権の効力

意匠権者は、業として「登録意匠及びこれに類似する意匠」の実施をする権利を専有する(第23条本文)。

 

類似範囲まで効力を認める理由

特許や実用新案と同様、抽象的なアイデアを保護するためである。

出願意匠・登録意匠の特定だけを考えても、次のような事情がある。すなわち、意匠は、典型的には図面に特定して出願されるので、実際の物品等と完全一致の特定は困難である。また、(模様や色彩のない)形状のみの意匠の登録も認められるが、実際の物品等には必ず色彩がある。そのため、登録意匠と同一の意匠のみを保護するとすれば、実質的に意匠の保護を図ることができない。そこで、登録意匠のみならず、これに類似する意匠についても、意匠権の効力が及ぶものとした。

 

専用実施権との関係

意匠権者は、その意匠権について専用実施権を設定することができる(第27条第1項)。その場合、専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業として「その登録意匠又はこれに類似する意匠」の実施をする権利を専有する(第27条第2項)。そのため、意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者が「その登録意匠及びこれに類似する意匠」の実施をする権利を専有する範囲については、意匠権者といえども、業として実施をすることはできない(第23条但書)。

 

意匠権の侵害とは?

意匠権の侵害とは、正当な権原又は理由なく、業として、他人の登録意匠と同一・類似の意匠を実施することをいう(第23条)。所定の間接侵害行為(直接侵害の予備的行為)も、意匠権を侵害するものとみなされる(第38条)。なお、正当な権原には、たとえば「専用実施権」が含まれ(第23条但書)、正当な理由には、たとえば「意匠権の効力が及ばない範囲」での実施(単に日本国内を通過するに過ぎない船舶や航空機など)が含まれる(第36条において準用する特許法第69条)。

 

業(ぎょう)としてとは?

  • 広く「事業として」の意であり、営利非営利を問わない。
  • 個人的・家庭的な実施は、「業として」ではない。

 

登録意匠とは?

  • 登録意匠とは、意匠登録を受けている意匠をいう(第2条第3項)。
  • 登録意匠の範囲は、願書及び添付図面等で特定された意匠に基いて定めなければならない(第24条第1項)。
  • 登録意匠と類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行われる(第24条第2項)。
  • 登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲については、特許庁に対し、判定を求めることができる(第25条第1項)。

 

実施とは?

意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう(第2条第2項)。

 一 意匠に係る【物品】の「製造」、「使用」、「譲渡」、「貸渡し」、「輸出」、「輸入」、「譲渡又は貸渡しの申出」をする行為

 二 意匠に係る【建築物】の「建築」、「使用」、「譲渡」、「貸渡し」、「譲渡又は貸渡しの申出」をする行為

 三 意匠に係る【画像】について行う次のいずれかに該当する行為
  イ 意匠に係る【画像】の「作成」、「使用」又は「電気通信回線を通じた提供」、「その申出(電気通信回線を通じた提供の申出)」をする行為
  ロ 意匠に係る【画像を記録した記録媒体】又は【画像を内蔵する機器】の「譲渡」、「貸渡し」、「輸出」、「輸入」、「譲渡又は貸渡しの申出」をする行為

  • 「輸入」には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む(【改正予定】2021年4月現在未施行)。つまり、配送業者等を介して外国から国内に持ち込む行為も「輸入」である。
  • 「譲渡又は貸渡しの申出」には、譲渡又は貸渡しのための展示を含む。
  • 「画像」には、その画像を表示する機能を有するプログラム等を含む。
  • 「プログラム等」とは、特許法第2条第4項に規定するプログラム等、つまり「プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるもの」をいう。
  • 「電気通信回線を通じた提供の申出」には、提供のための展示を含む。

 

専有するとは?

  • 実施をする権利を専有するとは、権利者のみが独占排他的に実施できることをいう。
  • 権利侵害に対しては、差止請求権や損害賠償請求権などを行使することができる。
  • 意匠権を侵害した場合には、刑事罰を科される場合もある。

 


関連情報

 


(作成2022.04.12、最終更新2022.05.05)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2022 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.