意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)

意匠の類否判断手法を意匠審査基準に基づき検討

意匠の類否(形態の類似/非類似)を判断する際、「基本的構成態様」と「具体的態様(具体的構成態様)」とに分けることが行われます。基本的構成態様とは何か、具体的態様(具体的構成態様)とは何か、これらを用いた類否判断をどのように行うのか、特許庁の意匠審査基準に基づき、解明していきます。

特許庁編『意匠審査基準』(平成31年4月26日版)を、弊所なりに読解し、一部を展開し、表にまとめました。

下記において、緑の囲み枠内の緑字は、意匠審査基準の記載そのままです。その他は、弊所において、編集・加工を行っています。「物品」の意匠に絞って検討した関係上、意匠審査基準は最新のものではありません。但し、2022年11月現在の最新版(令和3年3月31日版)にも同様の記載があります。意匠審査基準について、最新の情報、さらに詳細な情報は、特許庁ホームページにてご確認ください。

目次

 


意匠の類否判断の手法

意匠審査において、類否判断は次の(ア)~(オ)の観点によって行われる。
(ア)対比する両意匠の意匠に係る物品の認定及び類否判断
(イ)対比する両意匠の形態の認定
(ウ)形態の共通点及び差異点の認定
(エ)形態の共通点及び差異点の個別評価
(オ)意匠全体としての類否判断

 

意匠の類否(類似/非類似)でご紹介のとおり、意匠の類否判断は、次の観点により行われます。

  1. 対比する両意匠の「意匠に係る物品」認定及び類否判断
  2. 対比する両意匠の「形態」認定
  3. 「形態」共通点及び差異点の認定
  4. 「形態」共通点及び差異点の個別評価
  5. 意匠全体としての類否判断

上記中、「形態の認定」は、「基本的構成態様」と「具体的態様(具体的構成態様)」とに分けて判断されることが多いです。

 


基本的構成態様とは?、具体的態様とは?

基本的構成態様とは、意匠に係る物品の全体の形状等(意匠を大づかみに捉えた際の骨格的形状等)をいいます。

具体的態様(具体的構成態様)とは、意匠に係る物品の各部の形状等をいいます。

なお、形状等とは、形状模様若しくは色彩又はこれらの結合をいいます。単に「形態」ということもできます。

 


基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類否判断

前述の意匠の類否判断の手法に基づき、形態の類否については、まず、(a)「基本的構成態様」の認定とその共通点及び差異点の認定、(b)「具体的態様」の認定とその共通点及び差異点の認定、を行います。その後、認定した各点を評価して、意匠全体としての類否判断を行います。

 

意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)は、意匠の骨格ともいえるものであって、視覚を通じて起こさせる美感への影響が最も大きいことから、意匠が類似するためには、原則として、意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)が共通することが必要である。

 

基本的構成態様は、意匠の骨格ともいえるものであって、視覚を通じて起こさせる美感への影響が最も大きいことから、意匠が類似するためには、原則として、基本的構成態様が共通することが必要である

  • 基本的構成態様が共通→原則として類似(具体的態様が共通か否かを問わず)
  • 基本的構成態様に差異→原則として非類似

 

ただし、出願意匠と引用意匠の意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)に差異点があったとしても、いずれもありふれた形態であって、かつ、各部の形態における共通点が顕著であるような場合には、意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)における差異を超えて両意匠が類似する場合もある。

 

ただし、基本的構成態様に差異点があったとしても、いずれもありふれた形態であって、かつ、具体的態様における共通点が顕著であるような場合には、基本的構成態様における差異を超えて両意匠が類似する場合もある。

  • 基本的構成態様に差異→原則として非類似
  • 基本的構成態様に差異があっても、ありふれた形態であって、具体的態様の共通点が顕著→類似の場合も

この場合の例として、審査基準には、次のとおりあります。

『例えば、模様付きの直方体型包装用箱において、箱全体の縦、横、高さの比率が異なる2つの意匠があった場合、いずれも包装用箱の比率としてはありふれていて注意を引くものではなく、かつ、共通する模様が特徴的で強く注意を引くものと認められるならば、意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)における差異(箱全体の縦、横、高さの比率)を超えて、両意匠は類似することがある。』

 

各部の形態における差異点についても類否判断に与える影響の大きさが小さい場合には、共通する意匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)がありふれたものであっても、なお、その意匠の中で最も類否判断に与える影響が大きいものとなり、両意匠が類似する場合もある。

 

具体的態様における差異点についても類否判断に与える影響が小さい場合には、共通する基本的構成態様がありふれたものであっても、なお、その意匠の中で最も類否判断に与える影響が大きいものとなり、両意匠が類似する場合もある。

  • 基本的構成態様が共通で、ありふれたものであっても、具体的態様における差異点の影響が小さい→類似の場合も

逆にいえば、

  • 基本的構成態様が共通であっても、ありふれたものであり、具体的態様における差異点の影響が大きい→非類似の場合も

なお、

  • 基本的構成態様が共通で、ありふれたものでない(特徴的)→原則として類似

 


基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類否判断表

上記をまとめると、つぎの表のようになります。

意匠の類否判断表(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類否)

 


先行意匠群との対比に基づく評価

ありふれたものか否かは、先行意匠調査により知ることができます。

先行意匠調査を前提とする共通点の評価

出願の意匠と引用意匠の各共通点における形態が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた態様であった場合には、その形態は特徴的な形態とはいえない。したがって、他の先行意匠においても見られる形態ではあるが、ごく普通に見られるありふれた態様とはいえない場合と比べて、その形態が注意を引く程度は小さい。いずれの場合も、ありふれた形態や、公然知られた形態を単純に除外することはしない。

 

  • 共通点が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた態様である場合→特徴的な形態とはいえない
  • ありふれた形態や公然知られた形態を、単純に除外しない。

 

先行意匠調査を前提とする差異点の評価

出願の意匠と引用意匠との対比によって認定される各差異点における形態が、他の先行意匠には見られない新規な形態であって、創作的価値が高いと認められる場合、その形態は、過去のものとは異なっているという強い印象を与え、強く注意を引くものである。各差異点における形態が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた態様である場合は、その形態は、強く注意を引くものとはなり得ない。ただし、ありふれた形態や公知形態の組合せによっては、その組合せの態様が、注意を引く場合もある。

 

  • 差異点が、他の先行意匠においてごく普通に見られるありふれた態様である場合→強く注意を引くものとはなり得ない
  • ありふれた形態や公知形態の組合せによっては、注意を引く場合もある。

 


意匠の類否判断事例

 


関連情報

 


(作成2022.10.02、最終更新2024.01.13)
出典を明示した引用などの著作権法上の例外を除き、無断の複製、改変、転用、転載などを禁止します。
Copyright©2022-2024 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.