意匠の類否判断事例1(意匠登録無効審判:パンダぬいぐるみ)

 

意匠の類否判断

意匠の類否(類似/非類似)でご紹介のとおり、意匠の類否判断は、次の観点により行われます。

  1. 対比する両意匠の「意匠に係る物品」認定及び類否判断
  2. 対比する両意匠の「形態」認定
  3. 「形態」共通点及び差異点の認定
  4. 「形態」共通点及び差異点の個別評価
  5. 意匠全体としての類否判断

上記中、「形態の認定」は、「基本的構成態様」と「具体的態様(具体的構成態様)」とに分けて判断されることが多いです。どうも昭和時代から行われているようです。その内の一件をご紹介します。本件登録意匠と甲号意匠とが類似するか否かが争われた無効審判事件です。審決取消訴訟も提起されましたが、裁判所で特許庁審決が維持されております。

  • 昭和58年審判第25889号(無効審判):登録無効
  • 昭和63年(行ケ)第139号:請求棄却
  • 平成元年(行サ)第7号:上告棄却

なお、基本的構成態様とは何か、具体的態様(具体的構成態様)とは何か、これらを用いた類否判断をどのように行うのか、については、次のページをご覧ください。

 


特許庁(無効審判):昭和58年 審判第25889号

被請求人(意匠権者)の主張

本件登録意匠は、親パンダが首に鈴をつけた極めて小さな子パンダを抱き、一体に構成された形状となっているのに対し、

甲号意匠は、単に大小パンダを前後に機械的に並べただけであり、大小パンダの間にはつながりがなく、表情にも変化がなく、

両意匠は全く異なるものであって、相互に類似するものではない。

 

特許庁の判断(審決)

本件登録意匠は、甲号意匠と類似する。

 

本件登録意匠

甲号意匠

動物おもちゃ

動物おもちゃ

本件登録意匠:パンダぬいぐるみ

甲号意匠:パンダぬいぐるみ

基本的構成態様
【共通点】

ほぼ正面を向いた親パンダが両脚を前方へ折り曲げ、両腕を前方へ出して坐ったポーズを形成している。

親パンダは、その腹部正面に、両脚を前方へ折り曲げ、ほぼ正面を向いた子パンダを抱きかかえている。

具体的構成態様
【差異点】

親パンダについて

頭部をやや右上方に向け、両腕をその先端が接触するくらい前にまわし子パンダの首の下を抱いている。

頭部を正面に向け、両腕をやや前方に差し出し、子パンダの首の側面を抱いている。

子パンダについて

首に鈴をつけ、やや小さめのものとしている。

腕を前にまわしたやや大きめのものとしている。

 

意匠に係る物品については、使用目的を同一にした同種の物品と認められる。

形態については、上記の一致点、差異点等を総合して両意匠を全体として考察するに、両者は、具体的構成態様においては若干の差異が認められるものであるが、基本的構成態様においてはほぼ一致するものである。

特に、両脚を前方へ折り曲げて坐った親パンダが、その腹部正面に親パンダとほぼ同様のポーズをした子パンダを抱きかかえているという両者に共通する構成態様が、両意匠の形態上の特徴として視覚的に強い印象を与える点であり、意匠上の要部と認められるものであるから、これらの一致点、共通点が差異点を凌駕して看者に類似感を惹起せしめるものと認めざるを得ない。

従って、前記の各点において一致、共通する両意匠は、全体として観察した場合、互いに類似するものと認められる。

 

基本的構成態様は、意匠の骨格ともいえるものであって、視覚を通じて起こさせる美感への影響が最も大きいことから、意匠が類似するためには、原則として、基本的構成態様が共通することが必要である。但し、例外もある。
詳しくは、意匠の類否判断手法(基本的構成態様と具体的態様の認定による形態の類似/非類似)をご覧ください。

 


関連情報

 


(作成2022.10.02、最終更新2022.10.02)
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