新規性喪失後の意匠登録出願(意匠登録無効審判:ゲーム機)

自ら公開後、直ちに意匠登録出願を行ったが、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続をしなかった場合、救済されるか?

意匠登録出願前に「公然知られた意匠」や「頒布された刊行物に記載された意匠」などは、意匠登録を受けることができません(意匠法第3条第1項)。そのため、仮に自分の意匠であっても、出願前に公知となった意匠については、原則として意匠登録を受けることができません。出願前に、展示会に出品したり、商品を販売したり、ウェブサイトに掲載したりした場合、意匠登録を受けることができなくなってしまいます。

しかし、最初の公開日から1年以内に出願すれば、例外的に意匠登録を受けられる場合もあります(第4条第2項)。この新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を出願と同時に提出し、かつ、所定の証明書を出願日から30日以内に提出しなければなりません(第4条第3項)。

新規性喪失の例外期間は、平成30年の法改正により「1年」に延長されましたが、それ以前は「6ヶ月」でした。そのため、後述の審決で「6ヶ月」とあるのは、現在では、「1年」となります。

なお、新規性喪失の例外規定の適用を受けても、現実の出願日を基準に審査され、出願日前の第三者の出願等には対抗できません。そのため、できるだけ早く出願することが必要となります。

展示会で自ら公開後の意匠について、直ちに意匠登録出願を行ったが、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続をしなかった場合、手続的瑕疵として救済されるか否かについて判断した特許庁審決を確認してみます。

 


特許庁(無効審判):昭和59年 審判第12928号

出願までの経緯

  • 昭和56年10月6日から3日間:展示会に出品
  • 昭和56年10月8日:意匠登録出願(展示会での公開後すぐの出願だが、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続はしなかった。手続的瑕疵だから救済されるか?)

結論

本件意匠の登録を無効とする。

理由

被請求人は、本件登録意匠について、意匠法第3条第1項第1号に規定した意匠に該当するものであることは認めるが、公然知られるようになった日から6ヶ月以内に意匠登録出願をしており、本件登録意匠は、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けることができるものであるから、新規性喪失の例外とされるものである。なお、同法同条第3項に定める届出をなさなかったために、手続的要件を満たさなかったが、この手続上の瑕疵は無効事由にならないものである旨主張しているので、これらについて検討する。…

ところで、同法第4条第2項の適用を受けようとするものは、意匠登録出願と同時に同条第3項に規定した手続をしなければ適用を受けることができない。しかし、被請求人は、本件登録意匠の意匠登録出願にあたり、その手続をしていないことは明らかである。

以上の各事実に基づいて本件登録意匠を考察するに、被請求人は、同法第4条第3項に規定した手続をしていないものであり、本件登録意匠は、同法同条第2項に規定した同法第3条第1項第1号に該当するに至らなかったものとみなすことができないものといわざるを得ない。

従って、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第1号に規定した意匠に該当するものであり、その意匠登録は、同法同条第1項の規定に違反してなされたものであるから、無効にすべきものとする。

 


意匠法(2023年3月25日現在)

(意匠登録の要件)
第3条

工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
 一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
 二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
 三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

 

(意匠の新規性の喪失の例外)
第4条

意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、同条第1項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。

2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、前項と同様とする。

3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項及び第60条の7において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。

4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から14日(在外者にあつては、2月)以内でその期間の経過後6月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。

 


関連情報

 


(作成2023.03.25、最終更新2023.03.25)
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