特許出願の拒絶理由通知への対応

目次

 


拒絶理由通知とは

特許出願に対する拒絶理由通知とは、審査官が特許出願について審査した結果、所定の拒絶理由に該当すると認めるとき、その旨を出願人に伝えて反論の機会を与えるための通知をいいます。

 


拒絶理由通知の概要

特許出願について審査した結果、特許できる場合は「特許査定」がなされ、特許できない場合は「拒絶査定」がなされます。

しかし、いきなり拒絶査定をしたのでは出願人に酷であるし、審査官の間違いである可能性も残ります。

そこで、拒絶査定に先立ち、まずは「拒絶理由通知」がなされます。拒絶理由通知は、出願人に「拒絶理由通知書」を送付してなされます。拒絶理由通知書には、拒絶の根拠となる条文や理由が示されます。

 

拒絶理由の一覧は、次のリンク先をご覧ください。

 

拒絶理由通知では、たとえば、次のような拒絶理由が通知されます。

  • そもそも特許法が保護する発明に当たらない(発明該当性)。
  • 出願前から知られた先行技術と同一である(新規性)。
  • 先行技術と同一ではないが、それから容易に発明できる(進歩性)。
  • 出願日前になされた出願に記載されている(先願拡大先願)。
  • 出願書類が所定の要件を満たしていない(記載要件)。

典型的には、新規性または進歩性の欠如を理由とする拒絶理由通知となります。その場合、先行技術が記載された「引用文献」が示されます。多くの場合、内外国の特許公報となります。その引用文献に記載の発明「引用発明」と同一(新規性がない)か、引用発明から容易に発明できる(進歩性がない)として、特許できない旨の通知となります。

 

拒絶理由通知に対し、出願人は、以下のような対応をとることができます。

なお、拒絶理由通知書に記載の期間内に対応する必要があります。但し、所定の手続により、応答期間を延長することができます。

 


意見書の提出

◆意見書とは、審査官が示した拒絶理由には該当しない根拠を述べたり、特許請求の範囲等の補正により拒絶理由が解消した旨を述べたりする書類です。

◆拒絶理由通知に対し、出願人は、意見書を提出することができます。意見書では、審査官が示した拒絶理由には該当しないか、後述する手続補正書により拒絶理由は解消した旨を述べます。たとえば、次のとおりです。なお、補正する場合、補正の適法性(補正の根拠など)についても、意見書で述べます。

  • 発明該当性の拒絶理由に対しては、特許法上の発明に当たる理由を述べます。
  • 新規性や進歩性の拒絶理由に対しては、先行技術と同一ではないし、先行技術から容易に発明できない理由を述べます。
  • 先願や拡大先願の拒絶理由に対しては、先願発明と同一ではない理由を述べます。
  • 記載不備の拒絶理由に対しては、記載要件を満たしている理由を述べます。

特許請求の範囲(権利範囲)との整合性に注意します。たとえば、権利範囲が「断面形状の限定のない鉛筆(断面円形も含む鉛筆)」であるのに、意見書において「断面六角形だから転がりにくい」といくら主張しても、拒絶理由の解消には不十分です。後述する手続補正書も提出して、特許請求の範囲(権利範囲)を「断面六角形の鉛筆」に限定する必要があります。

◆意見書(および後述の手続補正書)提出後の流れ
意見書を提出すると、審査官による再審査に付されます。拒絶理由が解消していれば、特許査定がなされ、解消していなければ、拒絶査定がなされます。通知済の拒絶理由が解消しても、別の拒絶理由があれば、再度の拒絶理由通知がなされます。

 


手続補正書の提出

◆手続補正書とは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面を補正(修正)するための書類です。

◆拒絶理由通知に対し、出願人は、手続補正書を提出することができます。手続補正書では、明細書、特許請求の範囲または図面の補正ができます。たとえば、次のとおりです。なお、補正の効果は出願時まで遡ります。つまり、補正後の内容で出願したことになります。補正が適法である(補正の要件を満たしている)旨、別途、意見書で説明する必要があります。

  • 発明該当性の拒絶理由に対しては、特許法上の発明に当たるように、特許請求の範囲を補正します。
  • 新規性や進歩性の拒絶理由に対しては、先行技術と同一ではなく、先行技術から容易に発明できない内容に、特許請求の範囲を補正します(構成要件を追加して権利範囲を狭めます)。たとえば、「鉛筆」を「断面六角形の鉛筆」や「消しゴム付きの鉛筆」に補正し(権利範囲を狭め)、意見書において、そのメリットなどを主張します。「特許請求の範囲の記載」と「権利範囲」との関係については、特許請求の範囲についてをご覧ください。
  • 先願や拡大先願の拒絶理由に対しては、先願発明と同一ではない内容に、特許請求の範囲を補正します。
  • 記載不備の拒絶理由に対しては、記載要件を満たすように、明細書、特許請求の範囲または図面を補正します。

手続補正書の提出は任意です。たとえば、新規性や進歩性の拒絶理由に対し、特許請求の範囲を補正しなくても既に引用発明との違いが十分に出ていると考えるならば、意見書でその旨説明することも考えられます。しかし、“本当に”補正する必要がないのか、たとえば現状の請求項の記載では引用発明も含むように読めなくもない場合もあるので、いま一度、十分な確認が必要です。

◆拒絶理由通知には、「最初の拒絶理由通知」と「最後の拒絶理由通知」とがあります。最初か最後かに応じて、補正の要件が異なります。「最後の拒絶理由通知」の場合、拒絶理由通知書に「最後」との明示があります。最後の拒絶理由とは、「原則として、最初の拒絶理由に対する補正により通知することが必要となった拒絶理由のみを通知するもの」をいいます(特許庁編『工業所有権法逐条解説 第22版』第17条の2)。単純に、2回目の拒絶理由通知が「最後の拒絶理由通知」になる訳ではありません。また、最初の拒絶理由通知に対する応答(意見書および/または手続補正書の提出)後、再度の拒絶理由通知なく、拒絶査定になることもあります。

 

最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正は、次の要件を満たす必要があります。詳しくは、「明細書・特許請求の範囲・図面の補正(まとめ)」をご覧ください。

 

最後の拒絶理由通知に対する応答時の補正は、次の要件を満たす必要があります。詳しくは、「明細書・特許請求の範囲・図面の補正(まとめ)」をご覧ください。

 


出願の分割

◆出願人は、二以上の発明を包含する特許出願の一部を、一又は二以上の新たな特許出願とすることができます。

◆たとえば、次のような目的のために、出願の分割を行います。なお、分割出願については、別途、出願審査請求が必要です。

  • 発明の単一性違反(一出願に含めることができる発明の範囲を超えている旨)の拒絶理由を解消するために、特許請求の範囲の各請求項を複数の出願に分ける。
  • 特許性(権利化できる見込み)の高低、審査状況などを考慮して、特許請求の範囲の各請求項を複数の出願に分ける(特許できるものは迅速に特許化し、争うものと分ける)。
  • 明細書又は図面に記載しているが特許請求の範囲には記載していない発明について、分割出願により権利化を目指す。
  • 最後の拒絶理由通知に対する応答時の特許請求の範囲の補正は、前述したとおり要件が厳しいため、補正が難しい場合には分割出願する。

 


出願の変更

実用新案登録出願への変更

特許出願人は、所定要件下、特許出願を実用新案登録出願に変更することができます。但し、特許出願についての最初の拒絶査定謄本送達日から3月を経過した後、又はその特許出願日から9年6月を経過した後は、この限りではありません。出願変更があったとき、その実用新案登録出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされます。

 

意匠登録出願への変更

特許出願人は、所定要件下、特許出願を意匠登録出願に変更することができます。但し、特許出願についての最初の拒絶査定謄本送達日から3月を経過した後は、この限りではありません。出願変更があったとき、その意匠登録出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされます。

 


新たな出願

別途の新規出願

拒絶理由通知を受けた出願が未公開(出願公開前)であれば、出願内容を充実させた新たな出願をして再トライすることも考えられます。

但し、先の出願の出願日を確保できませんから(つまり新たな出願の出願日を基準に審査されるので)、先の出願後に他人の出願がなされていると、それが新たな拒絶理由となる可能性があります。

また、先の出願内容を既に公開・実施(ホームページ掲載や製造販売等)している場合、特許を受けられない場合があります。所定の場合、新たな出願について、新規性喪失の例外規定の適用を受けたり、先の出願に基づき国内優先権を主張することも考えられます。

 


権利化の断念

放置(対応しない)

拒絶理由通知の内容を受け入れる場合、そのまま放置すれば足ります。後日、拒絶査定がきますが、それも放置すれば足ります。それにより拒絶査定は確定します。

出願公開前に拒絶査定が確定した場合、原則として、出願公開されません。そのため、拒絶査定確定の時期によっては、出願内容の公開を防止できる場合があります

出願公開後に拒絶査定が確定した場合、特許を受けられなくても、出願公開されていれば、同一発明について後日他人が出願して権利化するのを防止することができます出願による他者権利化阻止効果(防衛出願))。

 

出願の取下げ・放棄

所望により、出願を取下げ又は放棄することもできます。

出願公開前に出願が取下げ又は放棄された場合、原則として、出願公開されません。そのため、出願の取下げ又は放棄の時期によっては、出願内容の公開を防止できる場合があります

 

◆その他

拒絶理由の引用文献として、他人の先願が挙げられた場合、その権利を侵害しないように留意する必要があります。先行技術とされた公報の出願が権利化されたのか、その権利が現在も存続中なのか、その権利の内容と自社製品の関係など、様々な検討が必要です。

 


特許出願の拒絶理由通知に対するご相談

 


関連情報

 


(作成2023.04.19、最終更新2023.04.20)
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