モーターのない「レコードプレーヤー用ターンテーブル」が、一物品の意匠か、工業用利用することができる意匠かが争われた「レコードプレーヤー用ターンテーブル事件(拒絶審決取消訴訟、東京高裁)」を確認してみます。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。
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レコードプレーヤー用ターンテーブル事件:東京高裁、昭和52年(行ケ)第121号、昭和53年7月26日
主文
特許庁が昭和51年審判第3213号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
原告(出願人)は、主文同旨の判決を求めた。
被告(特許庁)は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、「レコードプレーヤー用ターンテーブル」について、意匠登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので、審判を請求したところ、特許庁は、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
二 審決の理由の要点
本願意匠のターンテーブルは、モーターが装着されて初めて完成品と目されるものであり、モーターなくしては、回転速度の切り換えや速度の微調整、押釦による操作等が機能しえぬものと認められ、
また、仮りに互換性のある部分品としての使用を考えてみても、添付図面代用写真及び図面(断面図)に示されたままのものでは、回転軸とモーターとの連結はもちろん、その他の操作機構とモーターとの連結さえも可能なものとは認め難く、部品としての取り付けも想像し難いものであり、
所詮ターンテーブル、ターンテーブル用シート及び操作部付フレーム等から成る未完成品であり、一意匠全体を表わす一物品の出願とは認められない。
したがって、本願意匠は、意匠法第3条第1項本文の工業上利用することができる意匠に該当しないとして、登録を拒絶すべきである。
三 審決の取消事由
・・・(省略)・・・
第三 被告の答弁
・・・(省略)・・・
第四 証拠関係
・・・(省略)・・・
理由
原告主張の審決の取消事由の存否について考察する。
(一)本願ターンテーブルは、外周のターンテーブルフレームと、その上部内側に挿着された狭義のターンテーブルと、当該ターンテーブルの中心にあるセンタースピンドルとから成るものであり、モーターはない。
そして、本願ターンテーブルが(従来のベルトドライブ方式ではなく)ダイレクトドライブ方式と呼ばれるものであるとの原告主張事実は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなされる。
原告は、本願ターンテーブルにあっては、モーターと不可分の関係にあるセンタースピンドルが図示されているところから、モーターが装着されているのと同一に解することができると主張する。
しかしながら、モーター付きの物品の意匠であるためには、モーター部分が外観に表われる限りにおいて、その外観が意匠の要素となる。すなわち、モーター自体が外観に表われればモーター自体が意匠の要素となり、モーターキャビネット等が外観に表われモーター自体は外観に表われないときは、モーターキャビネット等が意匠の要素となり、モーター自体は意匠の要素とはならない。
本願ターンテーブルにあっては、その外部(おそらくは底面)にモーター部分が装備されるものであり、その内部にモーターが包蔵されるものではない。したがって、モーター部分の外観を採り上げていない本願意匠をもって、モーターが装備されている物品の意匠と同一に解することはできず、原告の主張は採用の限りでない。
(二)そこで、モーターが装備されていない本願ターンテーブルが、意匠法第7条にいう「物品の区分」に該当するとして、すなわち意匠法上の一物品として、意匠の対象となりうるかどうかについて考察する。
およそ部品が意匠法上の一物品といいうるためには、(a)互換性を有すること、(b)通常の状態で独立して取引の対象となること、が必要である。
そして、電気蓄音機ないしその部品の意匠の登録例において、モーターの装備の有無がどのように取扱われているかを検討してみると、次のとおりである。
(1)モーターの装備されているもの
(イ)本願意匠の出願前の出願に係るもの(登録第…号、・・・省略・・・)
(ロ)本願意匠の出願後の出願に係るもの(登録第…号、・・・省略・・・)
(2)モーターの装備されていないもの
(イ)本願意匠の出願前の出願に係るもの(登録第…号、・・・省略・・・)
(ロ)本願意匠の出願後の出願に係るもの(登録第…号、・・・省略・・・)
各登録例のうち、(2)(ロ)のターンテーブルは、意匠法第7条、意匠法施行規則第5条別表第1の「物品の区分」に掲げられている蓄音器用回転盤、すなわち狭義のターンテーブル(回転盤そのもの)であり、もともと意匠法上、一物品として取扱われているものであり、本願ターンテーブルとは別種の物品である。
そこで、(2)(ロ)の物品を除いて、その余の登録例を通観するに、本願意匠の出願の前後にわたり、同じような物品について、あるいはモーターを装備したものを一物品として取扱い、あるいはモーターを装備しないものを一物品として取扱っていることが認められる。
すなわち、モーターを装備しない(2)(イ)のものも、互換性を有し、通常の状態で独立して取引の対象となるものとして、取扱われているものということができる。(2)(イ)のものは、本願意匠の出願前の出願に係るものであり、「意匠に係る物品」の名称こそ異なり種々であるが、いずれも回転盤、操作パネル及びモーターのセンタースピンドルから成るものであり、その点においては本願ターンテーブルと同じである。そして、モーターの装備の有無が、当該物品の互換性、独立取引の対象性に及ぼす影響に関して、(2)(イ)の物品のようなベルトドライブ方式のものと本願ターンテーブルのようなダイレクトドライブ方式のものとの間で異別に解しなければならない特別の事情も認められない。
したがって、前記の各登録例によれば、モーターの装備されていない本願ターンテーブルも、本願意匠の出願時において、互換性を有し、通常の状態で独立して取引の対象となりうるものであつたことを推認することができ、意匠法上の一物品として意匠の対象となりうるものと解するのが相当である。
(三)被告は、回転盤のみを指す狭義のターンテーブルを除き、ターンテーブルと呼ばれるものは、回転盤、操作パネル及びモーターによって構成されるものであり、また、このようなものを「フォノモーター」と称する場合もある旨主張する。しかしながら、甲第8号証の10の登録意匠は、モーターのないターンテーブルに係るものであるから、モーターを装備していないターンテーブルというもののあることもうかがわれるし、また、モーターのないターンテーブルをも意匠法上の一物品と認めるべきかどうかは、各事例にかかわりなく、独自に決すべきことであり、前記(二)の判断を左右するに足りるものではない。
(四)以上のとおりであって、本願意匠をもって、意匠法上、一物品の意匠とは認められず、意匠法第3条第1項本文の工業上利用することができる意匠に該当しないとして、その登録を拒絶すべきものとした審決の判断は誤りであって、審決は違法として取消されるべきである。
関連情報
(作成2024.07.09、最終更新2024.07.09)
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