意匠法の「3条1項三号の類似(新規性)」と「3条2項の創作容易(創作非容易性)」との関係を示した「帽子事件(拒絶審決取消訴訟、最高裁)」を確認してみます。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。
- 本ページの解説動画:帽子事件(最高裁):意匠の類似と創作容易【動画】
手続の経緯
- 昭和39年12月31日 意匠登録出願
- 昭和42年 5月31日 拒絶査定
- 昭和42年 9月 4日 拒絶査定不服審判請求(昭和42年審判第6486号)
- 昭和44年11月24日 拒絶審決(同年12月10日謄本送達)
- 東京高裁へ出訴(昭和45年(行ケ)第1号)
- 昭和48年 5月31日 東京高裁判決(請求棄却)
- 最高裁へ出訴(昭和48年(行ツ)第82号)
- 昭和50年 2月28日 最高裁判決(上告棄却)
帽子事件:最高裁、昭和48年(行ツ)第82号、昭和50年2月28日
本願意匠 | 引用意匠 |
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(省略) |
黒い部分は黒色で、白い部分は黄色である。 | 濃赤色と密柑色とが交互に表れる帽子である。 |
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
意匠法3条1項三号は、同項一、二号に掲げる意匠(公知意匠)と類似の意匠でないことを登録要件としたものであって、そこでは、同一又は類似の物品の意匠間において、一般需要者の立場からみた美感の類否が問題となるのである。
これに対し、同条2項は、物品との関係を離れた抽象的なモチーフとして日本国内(その後の法改正で「日本国内又は外国」)において広く知られた(その後の法改正で「公然知られ…た」)形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(周知のモチーフ(その後の法改正で「公知のモチーフ」で「画像」も含む))を基準として、それから当業者が容易に創作することができる意匠でないことを登録要件としたものであって、そこでは、物品の同一又は類似という制限をはずし、右の周知のモチーフを基準として、当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性が問題となるのである。
それゆえ、同条1項三号の類似と同条2項の創作の容易とは、その考え方の基礎を異にするものであって、同条1項三号の類似の意味を創作の容易と同義に解し、同条1項三号は、同条1項一、二号に掲げる意匠に基づき容易に創作できた意匠につき登録拒絶を定めたものである旨の原審の判断は誤りであるといわなくてはならない(可撓伸縮ホース事件:最高裁、昭和45年(行ツ)第45号、昭和49年3月19日)。
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意匠法(2024年7月現在)
第2条第1項
この法律で「意匠」とは、物品(…)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)…であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
第3条
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠
2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
ところで、原審の判示するところによると、
(1)本願意匠の本体の裏面はその機能上無視されるものであり、
(2)その全体の形状はありふれたものであり、
(3)本願意匠と引用意匠とを対比したときに、本体の表面を八等分したか六等分したか、つば(又は錏庇(しころびさし))の巾が均一か否か、リボン及びその結着部があるかないか、本体の表面に黒色の模様があるかないかは、軽微な差異であって、全体的観察において、看者の目を惹くものではない、
というのであり、右判断は両意匠の構成に徴(ちょう)し是認することができる。
そして、原審が両意匠の差異として指摘する色彩の配合(本願意匠においては黒色と黄色、引用意匠においては濃赤色(こきあかいろ)と密柑色(みかんいろ))の点は、明度及び色相において原審判示のごとき違いがあることを考慮にいれても、要するにともに二色の配合であるにすぎず、しかも、本願意匠の二色の配合がごくありふれたものであること原審の判示するとおりであるから、両意匠の色彩の配合の点の差異も、必ずしも顕著なものとはいい難い。
そうであるとすると、本願意匠と引用意匠とを全体的観察により対比すれば、両意匠は類似するものであるというを妨げず、本願意匠は、公知意匠である引用意匠との関係で法3条1項三号に該当するものと解するのが相当である。
そうすると、本願意匠が同条1項三号に該当し登録することができない旨の本件審決を維持した原審の判断は、その過程において適切を欠くところもあるが、その結論において正当である。
関連情報
(作成2024.07.24、最終更新2024.07.24)
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