はじめに
六面図は相互に一致するが、斜視図や参考図と一致せず、意匠を正確に認識できないので、意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないとして、意匠登録の無効審判を請求したが、請求が棄却されたので、その取消しを求めた事件です。
斜視図、断面図、拡大図、参考図などの必要性についても判断を示しました。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。
建築構造材用継手事件:東京高裁、平成14年(行ケ)第374号、平成14年12月11日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
特許庁における手続の経緯
被告らは、意匠に係る物品を「建築構造材用継手」、その形態を別紙「本件登録意匠」のとおりとする意匠の意匠権者である。
原告は、被告らを被請求人として、本件意匠の意匠登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は、同請求を審理した上、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、原告に送達された。
審判での請求人(原告)の主張
請求人(原告)は、次の2点に基づき、意匠登録を無効とすべきであると主張する。
(1)本件意匠は、出願の願書に添付した図面の記載が相互に一致せず、登録意匠を正確に認識できないので、意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないにもかかわらず誤って登録されたものである。具体的には、左右の側面図を見ると、水平方向の短円管は、その下底部を中心角にして約120度相当分をスリット状に切除して、下向きにC字形状のいわゆる「1/3割管」に形成されているが、斜視図及び使用状態を示す参考図を見ると、前記水平方向の短円管は「完全に閉じた円管」として記載されており、不一致である。
(2)本件意匠は、出願前に頒布された刊行物である請求人(原告)の「イレクター仕様書」に記載された意匠と類似し、改正前の意匠法10条1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」ではないにもかかわらず誤って登録されたものである。
審決の理由
審決は、次の理由で、その登録を無効とすることはできないとした。
(1)願書添付図面に記載の6面図(意匠法施行規則に規定する「正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図」)は相互に一致しており、これらの図面から把握できる形状は特定できるものであり、斜視図及び使用状態を示す参考図は、誤って記載されたと解釈するのが相当である。
(2)本件意匠は、引用意匠に類似するものと認めることができない。
原告主張の審決取消事由
審決は、意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」該当性の判断を誤り(取消事由1)、かつ、本件意匠と引用意匠の類否判断を誤った(取消事由2)結果、本件意匠は意匠法10条1項に規定する「自己の登録意匠にのみ類似する意匠」に該当する旨の誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。
裁判所の判断:取消事由1について
本件意匠登録出願の願書に添付した図面によれば、本件意匠は、6面図では、水平方向の短円管は、その下底部を中心角にして約120度相当分をスリット状に切除して、下向きにC字形状のいわゆる「1/3割管」に形成されているが、斜視図及び使用状態を示す参考図では、上記水平方向の短円管は、完全に閉じた円管として記載され、その間に不一致はあるが、6面図は相互に一致していることが認められる。
ところで、意匠法6条は、意匠登録出願の願書には、意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付することを規定し、同施行規則は、願書に添付すべき図面は、所定の様式により作成しなければならないとしている。そして、同様式の備考において、
立体を表す図面は、正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図及び底面図をもって一組として記載するとし、
立体を表す図面において、6面図だけでは、その意匠を十分表現することができないときは、展開図、断面図、切断部端面図、拡大図、斜視図その他の必要な図を加え、そのほか意匠の理解を助けるため必要があるときは、使用の状態を示した図その他の参考図を加えるとしている。
上記意匠法及び同施行規則の規定によれば、6面図は、意匠登録出願の願書に添付することが必要な必須図面であるが、斜視図及び参考図等は、6面図によりその意匠を十分表現することができるときは、添付することを要しない図面である。そして、本件意匠は、6面図により十分表現できる意匠であることは、上記のとおり6面図の記載自体から明らかであるから、斜視図等は、上記規定の趣旨からすれば、本来、添付することを要しない図面であって、添付すべき場合に該当しないのにもかかわらず添付したものといわざるを得ない。したがって、斜視図等の記載に誤りがあったとしても、必須図面とされる6面図により意匠を十分表現できる以上、その誤りは、意匠登録を無効とするほど重大なものということはできない。
以上のとおり、本件意匠は、願書添付図面に記載の6面図は相互に一致しており、これらの図面から把握できる形状は特定できるものであって、斜視図及び使用状態を示す参考図は、誤って記載されたと解釈するのが相当であるから、意匠法3条1項柱書の「工業上利用することができる意匠」に該当しないということはできないとした審決の判断に、誤りはない。
関連情報
(作成2024.08.29、最終更新2024.08.29)
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