組立家屋事件:物品と建築物の意匠(意匠権侵害訴訟)

組立前は動産としての「物品」であるが、組立後は不動産としての「建築物」になる「組立家屋」の意匠権侵害訴訟について、確認してみます。被告の建物は、原告の登録意匠と類似のデザインとされました。そして、製造販売等の差止めと、損害賠償が認められております。一方、建築後の建物の除去は認められませんでした。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

目次

 


組立家屋事件:東京地裁、平成30年(ワ)第26166号、令和2年11月30日

本件登録意匠 被告製品
組立家屋事件:物品と建築物の意匠:アールシーコア 組立家屋事件:物品と建築物の意匠:被告建物
後述の【構成態様d】と【構成態様e】、つまり「略十字を形成する柱部及び梁部がそれぞれ3つの矩形からなっていること」は、図面を拡大(本ページをブラウザで拡大)してみてください。本件意匠では、2本の部材の間に空間(隙間)があり、被告意匠では、凹部となっています。

 

主文

1 被告は、別紙被告製品目録1記載の建物を製造し、販売し、販売の申出をし、又は販売のために展示をしてはならない

2 被告は、原告に対し、85万1238円及びこれに対する平成30年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え

3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを5分し、その2を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

 


本件意匠権及びその構成

原告(株式会社アールシーコア)は、次の登録意匠に係る意匠権(本件意匠権)を有している。

  • 登録番号 第1571668号
  • 意匠に係る物品 組立家屋

なお、本件意匠は、組立て家屋のうち、その正面において梁部及び柱部により形成されるもので、本件意匠公報の図面の実線で表された部分に係る部分意匠である。

 


争点1(本件意匠権侵害の成否)について

ア 認定事実

枠組壁工法(わくぐみかべこうほう)とは、木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類するものを打ち付けることにより、壁及び床版を設ける工法をいい、いわゆるツーバイフォー工法は枠組壁工法の一種である。

枠組壁工法では、規格化され、工場等で量産される木材及び構造用合板が使用され、かつ、施工方法はマニュアル化されていることから、我が国において木造家屋の建築に一般的に用いられてきた木造軸組工法(在来工法)と比較して、短い工期で木造家屋を建築することができるほか、コストダウンを図れたり、均質な製品を供給できるなどの長所がある。

被告各建物の施工方法には、いずれも枠組壁工法が採用されている。

 

イ 意匠に係る物品の同一性について

(ア) 意匠は、「物品」とその「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」と不可分一体の関係にあるものと解される。したがって、登録意匠と相手方意匠とが同一又は類似であるというためには、まずその意匠に係る「物品」が同一又は類似であることを必要とする

(イ) 使用される時点においては不動産として取り扱われる物であっても、工業的な量産可能性が認められ、動産的に取り扱われ得る物である限り、「物品」に該当すると解するのが相当である。この解釈に照らせば、組立て後、使用される時点においては不動産として扱われる組立て家屋であっても、それより前の時点において、その構成部分を量産し、運搬して組み立てるなど、動産的に取り扱うことができるものである限り、意匠法施行規則別表第1に規定する「組立て家屋」に該当するというべきである。

本件についてこれをみるに、被告は、被告各建物を建築する上で枠組壁工法を採用しているから、被告各建物について、工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し、同所で組み立てて建築するという工程を経たことが推認される。このことは、被告各建物がいずれも3か月程度という短い工期で完成したことや、被告各建物がいずれも共通した形状を有していることによっても裏付けられるといえる。

以上によれば、被告各建物は、その建築工程等に照らし、使用される時点においては不動産として取り扱われるものの、それよりも前の時点においては、工業的に量産された材料を運搬して現場で組み立てるなど、動産的に取り扱うことが可能な建物であるから、「組立て家屋」に該当すると認められる。被告製品1は、いずれも、「組立て家屋」として「物品」に該当するといえる。

(ウ) これに対し、被告は、被告各建物は、土地と合わせて不動産として販売されており、動産として流通させたものでもないから「物品」に該当しないと主張する。しかしながら、被告各建物が動産的に取り扱うことが可能な建物であると認められることは、前記(イ)のとおりであるし、土地と一体として販売されたという事実によって、直ちにその動産としての性質が失われるものではないというべきである。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(エ) よって、被告製品1は、「組立て家屋」として意匠法2条1項の「物品」に該当するとともに、本件意匠に係る物品(組立家屋)と同一であると認められる。

 

ウ 意匠に係る形状の類似性について

 (ア) 本件意匠と被告意匠との対比

 a 共通点

  • 【構成態様A】本件意匠と被告意匠とは、家屋の正面視において、地面と垂直に設けられた柱部及び地面と平行に設けられた梁部によって、略十字の模様が形成されているとの基本的構成態様において共通する。

また、両者は、具体的構成態様のうち、以下の各点がそれぞれ共通する。

  • 【構成態様a】正面視において柱部が地面と垂直にかつ家屋の1階床部から2階天井部の間に形成されている点
  • 【構成態様b】正面視において梁部が地面と平行にかつ家屋の左右両側の壁の間に形成されている点
  • 【構成態様c1、c2】正面視において梁部が柱部の略中央の高さにおいて、柱部を左右から挟むように形成されており、柱部と梁部によって、縦棒が横棒を貫通するような略十字の模様が形成されている点
  • 【構成態様d】正面視において、柱部により縦棒に相当する縦長の矩形が形成されるとともに、この矩形は、横方向に順に接する、矩形と高さが同一の3つの矩形からなり、両側の矩形の横幅は中央の矩形の横幅より長い
  • 【構成態様e】正面視において、梁部により横棒に相当する横長の矩形が形成されるとともに、矩形は、縦方向に順に接する、矩形と横幅が同一の3つの矩形からなり、両側の矩形の縦幅は中央の矩形の縦幅より長い
  • 【構成態様f】柱部が、家屋の正面側壁面の前面(正面側)に、当該壁面から離れて形成されている点
  • 【構成態様g】梁部が柱部と家屋の正面側壁面との間に設けられた2階床部と接している点

 b 差異点

本件意匠においては、家屋の正面視において、柱部により形成される縦棒が、家屋の中心からやや左に外れた位置に配置されているのに対し、被告意匠においては、家屋の正面視において、柱部が中心からやや右または左に外れた位置に形成されているというものであるから、上記柱部により形成される縦棒が左寄りにある場合に限られるか、それとも、左寄りに限らず、右寄りにある場合も含まれるかという点に差異点がある。

なお、被告意匠の構成態様を有する被告各建物のうち、J建物については、上記縦棒が左寄りに形成されているから、本件意匠の構成態様を全て満たすのに対し、H建物及びI建物については、上記縦棒が右寄りに形成されているから、本件意匠の構成態様の一部を満たさないという差異点が存在する。

 

 (イ) 本件意匠の要部

登録意匠と相手方意匠とが類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者ないし需要者の最も注意をひきやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して、観察を行うべきである。このことは、部分意匠においても異なるものではないというべきである。

本件意匠及び被告意匠に係る各物品の需要者は、いずれも、木造の戸建て住宅の購入に関心がある一般消費者と認めるのが相当である。

そして、本件意匠は、家屋の正面視に、3つの矩形からなる柱部及び梁部を、梁部が柱部を挟み込むようにして配置し、これにより、家屋の正面視に略十字の形状を作出するというものである。また、柱部は正面側壁面から離れて設置され、梁部は2階床部と接している。

本件意匠のこうした構成態様を踏まえて、本件意匠の機能的な特徴を検討すると、まず、梁部は、2階床部と接するように配置されているところ、梁部に形成される3つの矩形のうち、一番上の矩形のみが2階床部と接するように設置され、一番下の矩形は2階床部とは接しておらず、これらの矩形に挟まれて形成される中央の矩形は空間をなしていることから、梁部は、家屋の構造上必須のものとして配置されるものではなく、専ら、柱部と相まって略十字を形成させ、かつ、上記略十字の形状を浮き出るように配置するなどというデザイン面を考慮して配置されたものであることが推認される。

同様に、柱部についてみても、柱部と梁部が交差する箇所において2階床部と柱部の一部が接するほか、1階床部及び天井部と柱部の両端が接するものの、その他に家屋の構成部分と接する部分はない。また、断面図によれば、柱部を構成する左右の2つの矩形の断面は、正面視と平行な辺と比較して正面視と垂直な辺が短いという長方形をなしており、天井部分を支える構造物としては細すぎる。これらの事実によれば、柱部も、家屋の構造上必須のものとまでは認めがたく、主として上記のようなデザイン面を考慮して配置されたものであることが推認される。

また、本件意匠に係る物品は組立て家屋であるところ、家屋は、その性質上、家屋に出入りする際など、居住者や訪問者等が必ずその外観を目にすることから、居住に直接関係する内部の構造のみならず、その外観のデザインそのもの、特に通常玄関の存在する正面視のデザインが、看者である需要者の注意や関心をひくという側面もある。

そして、原告は、本件意匠に係る意匠登録出願より前に、引用意匠の建物を製造、販売等していたところ、同建物の正面視には、本件意匠の柱部及び梁部に相当する縦棒及び横棒により略十字の形状が配されていたから、本件意匠の従前のものにはない特徴は、略十字の形状を有するという点のみならず、略十字を形成する柱部及び梁部がそれぞれ上記のとおり3つの矩形からなっていることや、梁部が柱部を挟み込む態様によって梁部と柱部の交差部が形成されていることに存するといえる。

このように、意匠に係る物品である家屋の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を総合すれば、本件意匠のうち、看者である需要者の注意を最もひく部分は、前記の【構成態様A】及び【構成態様a~g】により特定された家屋の正面視の形状であり、これらの部分が本件意匠の要部であると認めるのが相当である。

 

 (ウ) 差異点についての評価

以上を踏まえて検討すると、前記両意匠の差異点、すなわち、柱部が形成されている位置が中心からやや左に外れた箇所であるか(本件意匠)、それとも中心からやや右または左に外れた箇所であるか(被告意匠)という相違は、基本的構成態様A及び具体的構成態様a~gにより特定された家屋の正面視の形状に含まれることから、要部に関するものであるといえる。

しかしながら、上記の差異は、柱部の位置が家屋の正面視の中心から、左と右のいずれに外れているかという点に関するものにすぎず、柱部がその中心に位置するものではないという限りにおいては共通の形状となっている。

そして、柱部を家屋の中心からやや外れた箇所に位置することにより、正面視において左右の対称性が欠ける形状となる結果、柱部を家屋の中心に配置する場合と比較して、看者に対し、より斬新さや独創性を感得させる効果を生じさせると考えられるところ、そのような効果は、柱部が中心からみて右寄りに位置するか、左寄りに位置するかによって、違いはないといえる。

そうすると、柱部が右寄りに位置するか、左寄りに位置するかという差異点は、要部に関するものではあるが、本件意匠が看者に起こさせる美感に決定的な影響を与える差異であるということはできない

以上を踏まえて、本件意匠と被告意匠の共通点及び差異点について検討するに、前記(ア)bの差異点は、本件意匠が看者に起こさせる美感に決定的な影響を与えるものではないのに対し、要部の大部分において前記(ア)aの共通点がみられることから、両意匠は、差異点が共通点を凌駕するものではないというべきである。

これに対し、被告は、H建物及びI建物の柱部及び梁部の断面図が「凹」の字状をなしており、柱部と梁部の間に空間が形成されないので、これらの建物の形状は本件意匠と類似しないと主張する

しかしながら、H建物及びI建物のように、柱部及び梁部の断面が「凹」の字状の形状となっていても、家屋の正面視において柱部及び梁部に3つの矩形が形成されるという点においては何ら変わりがなく、家屋の正面を見る看者に起こさせる美感の内容に有意な差を生じさせないというべきである。

したがって、柱部及び梁部の断面が「凹」の字状であることは、本件意匠との差異点であるとは認められないから、被告の上記主張は採用することができない。

以上の次第で、本件意匠と被告意匠の形状は、全体として需要者に一致した印象を与えるものであり、美感を共通にするというべきであるから、被告意匠の形状は本件意匠の形状に類似すると認められる。

 


争点2(不正競争行為の成否)について

・・・省略・・・

以上の次第で、争点2に関するその余の点について判断するまでもなく、不競法に基づく原告の請求にはいずれも理由がない。

 


争点3(損害の発生及びその額)について

(1) 侵害の行為により被告が受けた「利益」の額について

意匠法39条2項の「利益」の意義について

意匠法39条2項は、意匠権者又は意匠権の専用実施権者が、意匠権侵害によって被った損害の賠償を求めるに当たり、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を意匠権者又は意匠権の専用実施権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。

こうした趣旨に照らすと、同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは、原則として、侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって、このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。

そして、同項の「利益」の額は、侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は意匠権者側にあるものと解すべきである。

本件についてこれをみるに、本件意匠権の物品は組立て家屋であるから、本件意匠権を侵害する行為は、組立て家屋の譲渡等であり、侵害品は組立て家屋である。したがって、被告が本件意匠権を侵害することによって受けた「利益」を算定する際には、組立て家屋を製造、販売するなどしたことにより被告が受けた限界利益の額と認めるのが相当である。

本件意匠権の侵害について、意匠法39条2項の「利益」を算定するに当たっては、H建物及びI建物の販売利益のみを対象として算定すべきであり、これらに加えてH土地とI土地の販売利益をも対象として「利益」の額を算定することは相当でないというべきである。

ところで、意匠権の侵害品とそうでない物品が同時に譲渡等された場合において、そのうち侵害品の売上高を認定するに当たっては、第一次的には上記譲渡等の当事者間で合意された販売額の内訳によるとしても、侵害者が侵害品に付した価格が不当に低い場合には、侵害者が付した価格によらず、客観的価格によって被告の受けた利益を算定すべきである。

侵害品と非侵害品が同時に取引される場合において、常に、当事者間で合意された販売価格の内訳に従って侵害品の売上高を認定することとすると、侵害者において、侵害品と非侵害品の価格の内訳を変更することにより、意匠法39条2項により推定される「利益」を恣意的に減額することが可能となり、立証の負担を軽減して権利者の保護を図るという同項の立法趣旨を没却することとなり、相当ではない。

・・・省略・・・

 

(2) 推定の覆滅事由の存否について

 ア 販売地域及び需要者の競合について

原告は、岡山、広島、京都、滋賀及び兵庫に販売拠点を設置・運営しているところ、鳥取市からこれらの販売拠点を訪れることは、公共交通機関ないし自家用車を利用することにより、十分に可能であるといえる。また、・・・原告製品形態を有する建物、すなわち本件意匠権が実施されている建物のモデルハウスが設置されている販売拠点を訪れた鳥取県の住民が存在する。さらに、鳥取市内には、・・・原告の製品である建物を購入した顧客が存在する。これらの事情を総合すれば、原告と被告の製品(建物)の販売が、鳥取市内で競合していないとまでは認められない。なお、原告と被告の製品の需要者の層に相違があるともいえない。

 イ 本件意匠の寄与度について

本件意匠は部分意匠であり、意匠の対象となっているのは、建物の外観のうち、正面視に係る部分であるから、本件意匠の上記販売利益に対して寄与していない部分については、上記の推定が覆滅される。

そこで、本件意匠の特徴を検討すると、本件意匠は、建物の正面視を構成する柱部及び梁部によって形成される略十字部分であって、本件意匠が建物の正面視を占める面積は少なく、建物の外観全体に占める面積はより一層少ない他方、木造戸建て住宅の外観のうち、看者が最も注目するのは正面視の外観であり、このことは、販売する建物を宣伝ないし広告する際には、主として当該建物の正面の写真ないし画像が使用されることからもうかがわれるところである。

原告製品の販売に対しては、その外観、とりわけ正面視の形状が一定程度寄与していると認められ、かつ、当該正面視の形状を特徴づけているのが本件意匠であることからすると、本件意匠自体もまた、上記販売に寄与する面があると認められる。もっとも、上記のとおり、本件意匠は、原告製品全体を占めるものではなく、このことは、侵害品であるH建物及びI建物も同様である。

そうすると、本件意匠の侵害部分がH建物及びI建物の販売に寄与しているとしても、その寄与の度合いを認定するに当たっては、同部分がH建物及びI建物の外観の一部を占めるにすぎないことをしん酌するのが相当である。加えて、需要者は、住宅を購入することを、建物の外観のデザインのみによって決定するものではなく、立地、間取り、価格、屋内設備等の仕様などを総合的に考慮して決定するものであると認められる。

以上に加え、H物件及びI物件の購入者が、被告の申出に応じて、柱部を撤去する工事に同意したことをも併せ考えると、本件意匠が、被告が受けた利益の全額に寄与したとは認められないから、当該寄与をしていない部分については、意匠法39条2項の推定覆滅事情として認めるのが相当である。

そして、以上の諸事情を総合すれば、本件意匠が被告の利益に与えた寄与度は10パーセントと認めるのが相当であり、その余の90パーセントについて上記の推定が覆滅されるというべきである。

 

(3) 弁護士費用について

原告は、本件訴訟の追行等を弁護士に依頼したところ、被告の意匠権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は8万円と認めるのが相当である。

 


争点4(差止め等の必要性)について

(1) 差止めの必要性について

証拠によれば、被告は、被告各建物を製造、販売等する行為が意匠権侵害及び不正競争に当たる行為である旨などが記載された原告からの通知書を受領したことを受けて、被告各建物について、建物の正面視に位置する柱部を撤去する工事を完了したことが認められる。

しかしながら、被告製品1は、枠組壁工法により、工場において量産が可能な建材を用いて建築される組立て家屋であるから、いったん製造、販売等を中止したとしても、その再開はさほど困難ではないと推認される。また、被告は、本件において、本件意匠と被告製品1の意匠との類否を争うとともに、本件意匠権は無効であると主張して、本件意匠権の侵害を争っている

そうすると、上記のとおり、被告が、被告各建物の柱部を除却する工事を完了したことを考慮しても、現時点において、被告において再び被告製品1を製造、販売等し、もって本件意匠権を侵害するおそれがあると認められる。

そして、本件意匠権は組立て家屋である建物の正面視に関する部分意匠ではあるが、当該部分意匠の実施部分を含む建物の正面は、建物の全体と一体をなすものであるから、本件意匠権を侵害する建物の全体について、製造、販売等の差止めをする必要性があるというべきである。

したがって、本件においては、原告が被告に対して被告製品1の製造、販売等の差止めを求める必要性があるものと認められる。

 

(2) 建物の除去の必要性について

原告による別紙被告製品目録1記載の建物の除去請求は、意匠法37条2項に基づき、「侵害の行為を組成した物品」の廃棄を請求するものと解される。

この点、被告各建物を製造、販売等する行為は本件意匠権を侵害するものであるところ、そのうち、H建物及びI建物は既に顧客に販売されたから、それらの所有権は当該各顧客に移転したと認められる。

また、J建物については、前記(1)のとおり、被告がその正面視の柱部に当たる構成部分を除去する工事を完了したことにより、J建物に係る意匠は、本件意匠と同一であるとも、類似であるともいえなくなったと認められる。

以上によれば、被告製品1の除去に係る原告の請求は理由がないというべきである。

 


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(作成2024.10.13、最終更新2024.10.14)
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