はじめに
被告の乙標章は、原告の登録商標と人物ポパイの姿態が異なる上、登録商標にはない図形(サンドバッグ)もあります。
被告の丙標章は、原告の登録商標と人物ポパイの姿態が異なる上、登録商標にはない図形(蒸気機関車、男の子、女性(オリーブ)など)もあります。
このような場合において、被告の乙、丙の各標章の使用が、原告の商標権の侵害となるかが争われた事件です。
今回は、請求が認容された東京地裁判決を確認してみます。本判決とは別に、請求が棄却された大阪地裁判決もあります。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。被告の乙標章、丙標章についても、裁判所のウェブサイトからご確認いただけます(https://www.courts.go.jp)。
ポパイ事件:東京地裁、昭和48年(ワ)第7060号、昭和49年4月19日
主文
1 被告は、乙、丙各標章を附したアンダーシャツを販売、頒布してはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 この判決は、仮に執行することができる。
理由
原告は、次の商標権(本件商標権)を有する。
- 登録番号 第536992号
- 指定商品 第36類「被服、手巾(しゅきん・ハンカチ)、釦鈕(こうちゅう・ボタン)及び装身用ピンの類」
本件登録商標 |
![]() |
被告は、乙、丙各標章を附したアンダーシャツを販売し、頒布している。
被告は、本件のようなわずらわしい事情があるとすれば、事が判明するまでは、右商品を取り扱わない所存であるというのであるところ、その意は、事が判明すれば、再び乙、丙各標章を附したアンダーシャツを取り扱う意図を有するものであるということが窺われるから、仮に現在、被告が右アンダーシャツを取り扱っていないとしても、将来これを販売頒布するおそれがあるものといわなければならない。
本件登録商標は、
「POPEYE」の文字を上部に、
「ポパイ」の文字を下部にそれぞれ横書きし、
右各文字の中間に、水兵帽をかぶり、水兵服を着た人物ポパイが口にマドロスパイプをくわえ、錨を描いた左腕を胸に、右腕に力瘤をつくり、両足を開いた状態にあらわされた、
文字と図形との結合から成るものであることが認められる。
乙標章は、
上部に大きく「POPEYE」の文字を横書きし、
その末尾の「E」の文字から、紐で、苦痛の表情を表わしたサンドバッグが下げられ、
そのサンドバッグの左側で前記「POPEY」の文字部分の下方に、船員帽をかぶり、水兵服を着て、口にマドロスパイプをくわえ、両方の手及び前胸部をふくらませ、左前腕部に錨を表わし、右眼を閉じ、両膝をくっつけて、サンドバッグを殴り終った様子をあらわした人物ポパイの図形が表わされ、
右全体の図形の右下方には、「© King Features Syndicate.」と表示された、
文字と図形から成るものであることが認められる。
丙標章は、
野原の線路上に、前面に「POPEYE」の文字を横書きした玩具の蒸気機関車が描かれ、
右蒸気機関車の後ろに、人物ポパイが乗り、ポパイは、頭に白い水兵帽をかぶり、水兵服を着て、口にはマドロスパイプをくわえ、両方の手及び前腕部をふくらませ、左手を上に向けて開き、右前腕部に錨を表わし、
ポパイの後ろには男の子が右手を開いて乗車し、
地面左側にはオリーブ(女性)がポパイらに話しかけながら立っている図を表わし、
ポパイの背景には樹木二本が表わされ、
前記蒸気機関車の右下方には「ポパイ」の文字が、その下部には「© KING FEATURES SYNDICATE.」と各横書きされた、
文字と図形との結合から成るものであることが認められる。
乙標章と本件登録商標とは、「POPEYE」の字体や人物の姿態が異なっている。また、乙標章には、本件登録商標の「ポパイ」なる文字を欠くが、本件登録商標にはないサンドバッグの図形と「© King Features Syndicate」の文字表示があり、それらの点で乙標章は本件登録商標と異なる。
しかし、両者は、
いずれも「ポパイ」なる称呼において共通し、
また、そこに描かれた人物は、ともにわが国においてもポパイ漫画として著名な漫画の人物ポパイを観念せしめる点において共通し、
さらに、右のように著名なポパイを表示したものであるという点で全体の外観において類似するものということができるから、
結局乙標章は、本件登録商標に類似するものということができる。
次に、本件登録商標と丙標章は、ともにその表示された位置、文字の大きさに差はあっても「POPEYE」の文字を共通にし、また「ポパイ」の字体においてはほぼ共通するものを有し、ポパイの姿態において差異はあるが水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にマドロスパイプをくわえたポパイを表示している点では共通している。
ただ丙標章では、ポパイのほかに人物二名が表示され、玩具の蒸気機関車とレール、樹木及び「© KING FEATURES SYNDICATE」の表示がある点で右標章は本件登録商標と異なる。
しかし、両者とも、「POPEYE」「ポパイ」の文字と人物ポパイの表示がある点で同一であり、その人物も一見ポパイであることが明瞭に覚知されうる。
そこで、結局丙標章は、前記乙標章について説明したと同様、本件登録商標と称呼、観念を共通にし、外観において類似するものといわなければならない。従って、丙標章は、本件登録商標と類似する。
以上のとおり、被告において乙、丙各標章を使用するにつき、正当の権限を有する旨主張し立証しない本件では、乙、丙各標章を附したアンダーシャツを販売、頒布する行為は、商標法第37条第一号により原告の本件商標権を侵害するものと見做される。
よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条、仮執行の宣言につき同法第196条を各適用して、主文のとおり判決する。
関連事件
- ポパイ事件(アンダーシャツ・大阪地裁):キャラクターの保護(商標権侵害訴訟)
- ポパイ事件(マフラー・大阪地裁):商標権侵害訴訟
- ポパイ事件(マフラー・大阪高裁):商標権侵害訴訟
- ポパイ事件(マフラー・最高裁):商標権侵害訴訟
- ポパイ事件(ネクタイ・最高裁):著作権侵害訴訟
- ポパイ事件一覧
関連情報
(作成2024.10.19、最終更新2024.10.24)
Copyright©2024 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.