はじめに
「ポパイ事件(マフラー・大阪地裁):商標権侵害訴訟」の控訴審です。
本件でも、ポパイの名称自体に著作物性はなく、商標法29条は適用されず、損害賠償請求が認められています。
差止請求については、仕入先の倒産により侵害のおそれはないとして、認められませんでした。
本件については、その後、最高裁判決があります。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。被告の乙標章、丙標章についても、裁判所のウェブサイトからご確認いただけます(https://www.courts.go.jp)。
ポパイ事件:大阪高裁、昭和59年(ネ)第1803号、昭和60年9月26日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人は参加人に対し、金108万5100円及び内金84万5100円に対する昭和58年1月18日から、内金24万円に対する昭和59年2月28日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 参加人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用及び参加により生じた費用は、第一、二審ともこれを三分し、その二を参加人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
三 この判決は、参加人勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
理由
一 原判決理由中一ないし五において説示するところは、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、当裁判所の判断と同一であるからこれを引用する。
◆ 原判決理由一ないし五中「被告」とあるのをすべて「控訴人」と改める。
◆ ・・・の「原告」を「脱退被控訴人」と、・・・「原告」を「参加人」と改める。
◆ ・・・から・・・までを次のとおり改める。
次に丙標章中「POPEYE」の文字部分についてみると、右ポパイの名称自体に著作物性のないことは前述のとおりであるけれども、前示ファンシフル・キャラクターの名称が、その姿態(図形)を要部としそれに付随し一体として説明的に結合したものでそれが漫画の人物などの名称である場合にまで、文字部分のみが商標権の侵害に当たるとすることは、本来著作物としての保護を受ける図形に名称を付加した一事をもって全体として著作権の効力を主張しえない結果を招来することになり、著しく妥当を欠く。したがって、このような場合には、右文字部分を付加したことは商標権の侵害にはならないものと解するのを相当とするところ、丙標章における「POPEYE」の文字は、右図形に付随し、それと一体をなして説明的に結合した名称と認められるから、丙標章は全体として、本件商標権に対する侵害とはならず、したがって商標権に基づく禁止権ないし損害賠償請求権の行使を受けないものというべきである。
ところで、登録商標が著作権と抵触する場合に、商標法29条に基づき商標権の効力を否定できるのは、当該著作権者又は著作権者から複製許諾を受けた者に限るものではないと解するのが相当である。けだし、右の場合には一般的に専用権が制限されると解するのが条文に忠実であるところ、右法条に相対的な効力しか認めないと、専用権が制限されるのに禁止権や損害賠償請求権だけが存在することとなって不合理であるからである。右のように解したところで、先行著作権を援用し得ない第三者に対しては、著作権法又は不正競争防止法による救済(差止請求権及び損害賠償請求権の行使)に委ねれば足りることであるから、商標権者に不利益を生ずる筋合いはない。したがって、本件においては、漫画ポパイのキャラクターのライセンサーから許諾されているライセンシーは…社であり、控訴人は同社の製造にかかる商品を買い受けた者で、直接著作権者から複製許諾を受けた者ではないけれども、本件商標権の効力を否定しうると解すべきである。
◆ ・・・の次に改行の上左のとおり付加する。
・・・控訴人は、右事実関係から、脱退被控訴人の本件商標権に基づく権利行使は権利の濫用であると主張する。
しかしながら、脱退被控訴人が漫画ポパイの著作権侵害行為をしていることになるとしても、本件において脱退被控訴人が、行使せんとする権利は控訴人が著作権の及ばない乙標章を使用したマフラーを販売することにより本件商標権が侵害されたことに基づく差止請求権ないし損害賠償請求権であって、著作権に対する前記侵害行為と行使せんとする右権利の取得との間には信義則の有無を論じなければならないような密接な関係は認められないし、右権利行使を許したところで、その結果が反社会性を帯びるものでもない。そして、仮に右の場合権利の濫用として脱退被控訴人の権利行使が許されないとすれば、必然的に漫画ポパイの著作権者から脱退被控訴人に対する著作権侵害に基づく権利の行使も許されないこととならざるをえず、かくては権利の実現が広い範囲において果たされない結果を招き、その結果の妥当でないことは明らかである。
次に控訴人は、腕カバーに本件商標を使用することを黙認したのに著作権者を訴えるのは信義に反する旨主張するが、その主張によっても、黙認した相手は…であって、脱退被控訴人でも参加人でもないから、右主張は理由がない。
又、控訴人は、参加人がポパイキャラクターの顧客吸引力に只乗りする目的で本件商標権を譲り受けたもので不正競争の典型であり著しく悪質である旨主張する。
しかし、右事実関係を認めるに足る証拠がないばかりでなく、「只乗り」なる概念が不明確であって、これを「対価を払わずに他人の業績を巧みに利用する」との趣旨だとすれば、それは常に必ずしも違法行為となるとは限らないであろうし、成立に争いのない…によれば、ポパイ漫画のライセンサーがわが国においてポパイキヤラクターの商品化事業に乗り出したのは昭和35年ころ以降であって、…が連合商標の出願をした昭和14年4月21日当時にはポパイキャラクターを登録商標とすることから保護すべき法的利益の対象となるものは何ら存在しなかったこと、…は脱退被控訴人に対し、昭和55年6月2日ころ代理人たる…弁護士を通じて本件商標権を買い取りたい旨申し入れるまで、何らの申入れをしたこともないことが認められることからすれば、控訴人の右主張も採用し難いものである。
したがって、控訴人の権利濫用の主張はいずれも理由がない。
二 以上説示のとおりであって、控訴人は、乙標章を原判決添付目録の態様で使用したマフラーを販売することにより脱退被控訴人の本件商標権を侵害したということができる。
ところで、成立に争いのない…によれば、…は、親会社である訴外株式会社…が昭和58年8月11日不渡手形を出して倒産したことに伴い同月22日同様に倒産し、その結果控訴人はその後乙丙標章のついたマフラーを仕入れることができず、したがって昭和58年夏以降は本件マフラーを販売していないことが認められる。
してみると、参加人において、控訴人が本件マフラーの販売を現に継続していることを前提とする主張をするのみで、右認定による事実関係(倒産による仕入れの中止)の存在にもかかわらず将来本件商標権が控訴人により侵害される蓋然性があることにつき主張立証をしない以上、参加人の控訴人に対するマフラー販売差止請求は失当というほかない。
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(作成2024.10.23、最終更新2024.10.25)
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