カップヌードル事件:文字は意匠を構成するか

目次

 


はじめに

意匠における文字の扱いについて争われた「カップヌードル事件」を確認してみます。

カップヌードル事件:文字は意匠を構成するか

意匠法において、物品の意匠であるためには、「物品の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合」が要件となります(意匠法2条1項)。

ところが、問題となった本件意匠には、「CUP NOODLE」の文字がありました。意匠法上の意匠の構成要素にはなり得ない文字を構成要素とするから、意匠登録は無効であるか否かが争われた事件です。

図案化された「CUP NOODLE」の文字が、意匠法2条1項でいう「模様」と認められる範囲のものか、判断が示されました。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。また、特許庁審査基準についても、最新版は、特許庁ホームページにてご確認ください。

 


カップヌードル事件の流れ

  1. 特許庁、無効審判、昭和48年第9234号:請求棄却(無効でない)
  2. 東京高裁、昭和53年(行ケ)第30号、昭和55年3月25日:審決取消
  3. 最高裁、昭和55年(行ツ)第75号、昭和55年10月16日:上告棄却
  4. 特許庁、無効審判、昭和48年第9234号:請求棄却(無効でない)
  5. 東京高裁、昭和57年(行ケ)第208号、昭和58年7月28日:請求棄却
  6. 最高裁、昭和58年(行ツ)第130号、昭和59年3月30日:上告棄却

ここでは、上記2~4について、確認してみます。2の判決内で、1の要約がありますから、実質的に1~4の確認となります。そして、その4の判断は、5の東京高裁、6の最高裁で支持されています。

最後に、2024年11月現在の特許庁審査基準に基づき、物品等に表された文字の取扱い(文字が意匠を構成するか)について、確認してみます。

 


東京高裁、昭和53年(行ケ)第30号、昭和55年3月25日

主文

特許庁が・・・昭和48年審判第9234号事件についてした審決を取り消す

訴訟費用は被告の負担とする。

 

事実

第一 当事者の求めた裁判

・・・(省略)・・・

第二 当事者の主張

一 請求の原因

(一) 特許庁における手続の経緯

被告は、意匠に係る物品を「包装用容器」とする登録第359633号意匠(本件意匠)の意匠権者である。

原告は、被告を被請求人として、本件意匠につき登録無効の審判を請求したところ、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があった。

(二) 審決理由の要旨

請求人は、本件意匠の登録を無効とする旨の審決を求め、その理由として、本件意匠は、周知の形状の容器の周側部に、意匠法上の意匠に該当しない文字を表わしたものであるから、無効とされるべきものであると主張した。

これに対して、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決を求め、その理由として、本件意匠の周側部には文字以外の模様も表わされており、文字も単なる文字ではなく、登録要件を具備しているものであると主張した。

ところで、本件意匠の要旨は、全体形状を略逆円錐台形状とし、上面全体を開口部とした容器において、全体の地色を明調子として、周側部に中間調子および暗調子で模様を表わしたものであって、これを具体的にみると、・・・上下の横縞状帯条に挾まれた正背面周側中央部に、CUPおよびNOODLEのローマ字を中間調子の線条(せんじょう)で囲むかなり図案化した字体で左右に重ね合わさるように構成して二段に表わし、さらに右側面周側中央部に、暗調子の円形中央を明調子の波線が横切るように構成した図形を表わした態様のものであることが願書添付の図面代用写真および願書の記載によって認められる。

そこで案ずるに、本件意匠の容器の形状と類似する形状の容器が、出願前より公知であるとしても、本件意匠は、その周側部に前記したように横縞状の帯条および文字などの図形が表わされており、しかも文字もその構成態様に創作があり模様と認められる範囲のものであるから、単に形状の類似する容器と類似しているものということはできない。

したがって、本件意匠は、意匠法第3条第1項第三号に規定する意匠に該当せず、無効とすることができない。

(三) 審決を取り消すべき事由

原告は、審判手続において、本件意匠は意匠法上意匠の構成要素とはなりえない文字を構成要素としているから登録は無効である旨主張したにかかわらず、審決は右主張に対する判断を脱漏(だつろう)した。すなわち、原告は本件意匠が意匠法第3条第1項柱書にいう意匠、ひいては同法第2条第1項にいう意匠にあたるかどうかについての判断を求めたのであって、本件意匠が公知意匠と類似しているかどうかについての判断を求めたわけではない。

かりに、本件意匠は意匠法第3条第1項柱書にいう意匠ひいては同法第2条第1項にいう意匠にあたるとの判断があったとみられるとしても、模様化されず、模様として認識されない単なる文字は意匠法上の意匠の構成要素とはなりえないところ、本件意匠における「CUP NOODLE」は商品名を表わしており文字としての機能を失っていないから、本件意匠法第3条第1項柱書ひいては同法第2条第1項にいう意匠にあたるとはいえない。

二 被告の答弁と主張

・・・(省略)・・・

 

理由

審決を取り消すべき事由の有無について検討する。

(一) まず、審決には判断の脱漏があるかどうかの点から考案する。

 1 原告が審判手続において、本件意匠は意匠法上意匠の構成要素とはなりえない文字(「CUP NOODLE」)を構成要素としているから登録は無効である旨主張したことは当事者間に争いがない。

 2 そこで検討するのに、たしかに審決には右主張についての判断を直接的、結論的に表現した部分はないけれども、審決理由中に「本件登録意匠は、その周側部に…横縞状の帯条及び文字などの図形が表わされており、しかも文字もその構成態様に創作があり模様と認められる範囲のものである…」と説示されているところをみると、審決は原告の前記主張を採用せず、CUP NOODLEの部分を模様と認めて、本件意匠は意匠法第3条第1項柱書にいう意匠、ひいては同法第2条第1項にいう意匠にあたると判断し、これを前提として議論を進めていることは明らかであるから、審決理由の説示の当不当の問題はとも角として、原告の主張に対する判断を脱漏したとはいえない。

 

(二) そして、審決は右の判断を前提として、周知意匠との関係につき、本件意匠は意匠法第3条第1項第三号に該当する意匠とはいえない旨説示し、原告の無効審判請求を成り立たないとしたものと認められる。

 

(三) そこで、審決の右(一)2及び(二)の判断の適否について検討する。

 1 本件意匠の要旨は審決認定のとおりであることが認められるところ、問題の部分は、CUPおよびNOODLEのローマ字を中間調子の線条で囲むかなり図案化した字体で左右に重ね合わさるように二段に構成して容器の正背面周側中央部に表わしたものである。

 2 ところで、元来は文字であっても模様化が進み言語の伝達手段としての文字本来の機能を失っているとみられるものは、模様としてその創作性を認める余地があることはいうまでもない。

 しかし、本件意匠における前記部分についてみるに、CUPおよびNOODLEは、ローマ字を続むための普通の配列方法で配列されており、カップ入りのヌードル(麺の一種)をあらわす商品名をあたかも商標のように表示して、これを看る者をしてそのように読み取らせるものであり、かつ読み取ることは十分可能とみられるから、いまだローマ字が模様に変化して文字本来の機能を失っているとはいえない

 したがって、これを模様と認められる範囲のものとした審決の判断は誤りといわざるをえない。

 3 そうとすれば、この誤った判断を前提として本件意匠を意匠法第3条第1項柱書(ひいては第2条第1項)、第三号に該当しないとした審決の判断を正当として是認することができない。

 

(四) そうすると、審決は違法として取消しを免れない。

 


最高裁、昭和55年(行ツ)第75号、昭和55年10月16日

主文

本件上告を棄却する。上告費用は上告人の負担とする。

 

理由

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠及びその説示に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。

 


特許庁、昭和48年審判第9234号

登録第359633号意匠「包装用容器」の登録無効審判事件についてなされた昭和52年12月9日付けの審決に対する東京高等裁判所の審決取消の判決が、最高裁判所の判決により確定したので、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は成り立たない。

審判費用は請求人の負担とする。

 

理由

意匠法第2条第1項の規定には、『「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。』と定義されている。

そこで案ずるに、前述の正背面周側の中央部に表されたCUPおよびNOODLEのローマ字が、未だ文字としての機能を失っておらず模様と認められる範囲のものでないとしても、周側の上縁(じょうえん)部および下縁(かえんき)部に表された横縞状帯条などに新規性が認められるものであって、本件の意匠は、カップの形状と横縞状帯条とによって包装用容器の形状および模様の結合にかかる意匠と認められるものであるから、その意匠に模様の構成要素と認められない文字が添附図面代用写真に表されているからといって、その余の意匠の構成要素を無視して、ただちに本件の意匠全体が意匠を構成しないものとすることはできない

したがって、本件登録意匠は、無効とすることはできない。

よって結論のとおり審決する。

 


特許庁編『意匠審査基準』(2024年11月現在)

物品等に表された文字、標識は、専ら情報伝達のためだけに使用されているものを除き、意匠を構成するものとして扱う。

<専ら情報伝達のためだけに使用されている文字等の例>

a 新聞、書籍の文章部分

b 成分表示、使用説明などを普通の態様で表した文字

 


関連情報

 


(作成2024.11.01、最終更新2024.11.29)
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