遊技機用表示灯事件(部分意匠の類否判断基準、創作性を考慮した権利行使可否と類否判断)

目次

 


はじめに

部分意匠の類否判断基準を示した「遊技機用表示灯事件」を確認してみます。部分意匠の類否判断に先立ち、本件意匠部分の登録が創作容易なため無効にされるべきか(本件意匠権に基づく権利行使が認められないか)についても判断しています。

また、類否判断では、公知意匠の存否だけでなく、公知意匠に基づく創作性も考慮しています。本件意匠部分の構成態様が、それぞれ、出願前に公然知られていた形態か、当業者にとってありふれた手法で若干変更したものであっても、それらを組み合わせた形態は、容易に創作することができたものではない、とされました。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

 


大阪地裁、平成23年(ワ)第14336号、平成25年9月26日

主文

1 被告は、別紙イ号物件目録記載の遊技機用表示灯を製造し、販売し、輸入し、又は広告宣伝してはならない

2 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項の遊技機用表示灯及びその半製品を廃棄せよ

3 被告は、原告に対し、・・・金員を支払え

 ・・・(省略)・・・

 

事実及び理由

第1 請求

・・・(省略)・・・

 

第2 事案の概要

本件は、原告が、

被告において、原告の登録意匠(部分意匠)に類似する意匠を備える別紙イ号物件目録記載の遊技機用表示灯を広告宣伝し、輸入又は製造し、販売しているとして、

被告に対し、上記登録意匠に係る意匠権に基づき、被告製品の製造、販売、輸入又は広告宣伝の差止めを求めると共に、意匠権侵害の不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。

 

1 判断の基礎となる事実

 (1)本件意匠部分1

原告は、以下の意匠登録に係る意匠権(本件意匠権1)を有している。そして、その意匠登録を受けた部分を「本件意匠部分1」という。

  • 登録番号 第1375128号
  • 意匠に係る物品 遊技機用表示灯

遊技機用表示灯事件:本件意匠部分1:部分意匠の類否判断:創作容易のため権利行使不可

 (2)本件意匠部分2

原告は、以下の意匠登録に係る意匠権(本件意匠権2)を有している。そして、その意匠登録を受けた部分を「本件意匠部分2」という。

  • 登録番号 第1375129号
  • 意匠に係る物品 遊技機用表示灯

遊技機用表示灯事件:本件意匠部分2:部分意匠の類否判断:創作容易でないため権利行使可

 

2 争点

 (1)意匠権1侵害の有無

  • ア 被告意匠部分1は本件意匠部分1に類似するか(争点1-1)
  • イ 本件意匠部分1の登録は創作容易なため無効にされるべきか(争点1-2)

 (2)意匠権2侵害の有無

  • ア 被告意匠部分2は本件意匠部分2に類似するか(争点2-1)
  • イ 本件意匠部分2の登録は創作容易なため無効にされるべきか(争点2-2)

 (3)原告の損害(争点3)

 

第3 争点に対する当事者の主張

・・・(省略)・・・

 

第4 当裁判所の判断

1 争点1-2(本件意匠部分1の登録は創作容易なため無効にされるべきか)について

以下(1)ないし(3)で述べる理由により、本件意匠部分1は、その登録出願前に公然知られた意匠である乙7意匠に基づき、当業者が容易に創作することができた(意匠法3条2項)もので、意匠登録無効審判により登録無効にされるべきものである(意匠法48条1項1号)から、意匠権1に基づく原告の権利行使は認められない(意匠法41条、特許法104条の3)。

  • 意匠法 第41条(特許法の準用)
    特許法第104条の2から第105条まで…の規定は、意匠権又は専用実施権の侵害に準用する。
  • 特許法 第104条の3 第1項(特許権者等の権利行使の制限)
    特許権…の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により…無効にされるべきものと認められるときは、特許権者…は、相手方に対しその権利を行使することができない。

 (1)本件意匠部分1

本件意匠部分1は、意匠に係る物品を遊技機用表示灯とし、その形態は、別紙意匠目録1の実線で表された部分意匠である。つまり、本件意匠部分1は、破線で表された遊技機用表示灯の正面やや上寄りに形成された発光部を覆う透明カバー中の上下面及び左右側面を除く正面の外表面であり、その形態は、概ね以下のとおりである。

  • A1 正面視が略横長長方形状で、中央を縦方向の稜線として、その左右面が平面視で偏平した略倒「く」の字状に背面側へ傾斜している。
  • B1 正面の略横長長方形の縦横比率が約1:6である。
  • C1 平面視で偏平した「く」の字状の開き角度が約150°である。
  • D1 側面視で前屈みに傾斜している。
  • E1 透明である。

 (2)乙7意匠

遊技機用表示灯事件:公知意匠:創作容易なため無効であるか、権利行使が認められるか

本件意匠部分1の登録出願日は、乙7意匠の公開日から10年以上を経ているところ、乙7意匠は、上記出願前には、公然と知られるに至っていたものと認められる。

また、乙7意匠に係る物品は、発明の名称である遊技機用表示装置そのもので、遊技機に関する数値情報等を表示し、遊技者などに伝達するものであるところ、本件意匠部分1に係る物品である遊技機用表示灯と用途及び機能を共通にしている。

 

 (3)創作容易性の判断

 ア 構成態様A1

本件意匠部分1の構成態様A1は、乙7意匠の表示面71の形態として公然知られていたものといえる。

すなわち、表示面71正面の外表面は、色付きの透明なプラスチック樹脂でできたカラーレンズ74であり、情報表示機能を有する後方のランプ73を覆うカバーであるから、遊技用表示灯の透明カバーとして後方の表示発光部を覆う本件意匠部分1に係る部分と用途及び機能を共通にする。そして、表示面71正面の外表面は、正面視で略横長長方形状な上、中央を縦方向の稜線として、その左右面が平面視で偏平した略倒「く」の字状に背面側へ傾斜しており、構成態様A1同一の態様を開示するものといえる。

 イ 他の構成態様

乙7意匠の表示面71の縦横比率は約1:7であるが、これを約1:6(構成態様B1)とすること、表示面71の「く」の字状の開き角度は約143°であるが、これを約150°(構成態様C1)とすることは、当業者にとってありふれた手法による変更に過ぎない

また、本件意匠部分1は、側面視で前屈みに傾斜しており(構成態様D1)、乙7意匠にこのような構成は開示されていないが、本件意匠部分1に係る遊技機用表示灯は、遊技者の目線よりも上方に設置されるのが一般的であるため、見上げた状態で視認しやすいよう表示面を前屈みに傾斜させることはごく自然な発想で、他の遊技機用表示灯にも見られる形態であるから、この点が創作性の根拠となるものではない。

本件意匠部分1が透明である(構成態様E1)点も、遊技用表示灯の表示カバーとして、後方の発光部を視認できるようすべきことに由来するごく当然の選択であり、創作性の根拠とならない。

 ウ 位置、大きさ及び範囲の創作性

本件意匠部分1に係る部分は、別紙意匠目録1の破線で表されているように、遊技用表示灯の正面上方の広範囲を占めるものであるが、このような位置、大きさ及び範囲は、遊技機用表示灯の発光部分を覆うカバーとしてごく当然な選択であり、この点に創作性を見出すことはできない。

 エ 小括

以上によれば、本件意匠部分1の形態は、同一の用途及び機能を有する乙7意匠に係る表示部71正面外表面の形態を、ありふれた手法によってわずかに変更した上、遊技機用表示灯のカバー部として特段創作性のない態様並びに位置、大きさ及び範囲を選択したにとどまるものであるから、公然知られた意匠である乙7意匠に基づき、当業者が容易に創作することができたといえる

したがって、本件意匠部分1は、意匠登録無効審判請求により登録無効にされるべきものと認められる。

 

2 争点2-2(本件意匠部分2の登録は創作容易なため無効にされるべきか)について

以下(1)ないし(3)で述べるとおり、本件意匠部分2については、その登録出願前に公然知られた意匠に基づき当業者が容易に創作することができた(意匠法3条2項)とは認められない

 (1)本件意匠部分2

本件意匠部分2は、意匠に係る物品を遊技機用表示灯とし、その形態は、別紙意匠目録2の実線で表された部分意匠である。つまり、本件意匠部分2は、破線で表された遊技機用表示灯の正面やや上寄りの位置に透明カバーで覆われた表示部のうち正面視中央で2分された左側部分で上下面及び左右側面を除く正面の外表面並びに同面に略8の字状に突出して配置されたセグメント部のうち左側2つの部分であり、その形態は、概ね以下のとおりである。

  • A2 正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜している。
  • B2 正面の略横長長方形の縦横比率が約1:3である。
  • C2 平面視で右辺から左辺に傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°である。
  • D2 側面視で前屈みに傾斜している。
  • E2 正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である。

 

 (2)乙7意匠

前記1(2)のとおりである。

 

 (3)創作容易性の判断

 ア 構成態様A2

本件意匠部分2の構成態様A2は、乙7意匠の表示面71の形態として公然知られていたものといえる。

すなわち、表示面71正面の外表面は、色付きの透明なプラスチック樹脂でできたカラーレンズ74であり、情報表示機能を有する後方のランプ73を覆うカバーである。一方、本件意匠部分2に係る部分は、透明カバーで覆われた表示部であるため、カバーである表示面71正面の外表面と、個々具体的に見ると機能が同一なわけではないが、遊技機用表示灯における表示部とそのカバーは、表裏一体のものとして遊技者及び周囲の者に対して情報を表示するものであり、その意味において、両者は用途を共通にするといえる。そして、表示面71正面の外表面は、正面視中央で2分された左側部分が正面視が略横長長方形状な上、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜しているのであるから、構成態様A2同一の態様を開示するものといえる。

また、乙7意匠に係る遊技機用表示装置は、表示部を取付面より前面に突出させることで遊技場内の島通路を通行する遊技客の視線に入りやすくするものであるから、表示面71のカバーで覆われ、カラーレンズ73が配置されている後方部分も、カバー部分と同様の傾斜形状であることを前提にしているといえる。かかる観点からも、構成態様A2は、公然知られていたというべきである。

 イ 構成態様B2、C2及びD2

乙7意匠の表示面71の正面視中央で2分された左側部分の縦横比率は約1:3.5であるが、これを約1:3(構成態様B2)とすること、表示面71正面の外表面は、平面視で右辺から左辺に傾斜する角度が前後方向の直線に対して約71.5°であるが、これを約75°(構成態様C2)とすることは、当業者にとってありふれた手法による変更に過ぎない

また、本件意匠部分2は、側面視で前屈みに傾斜している(構成態様D2)が、この点も創作性の根拠となるものでないことは前記1(3)イで論じたとおりである。

 ウ 構成態様E2

しかし、公然知られた乙7意匠に基づくとしても、その表示面71に配置されたランプ73を、「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置(され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である。)」(構成態様E2)との態様に置換することは、当業者にとって容易に創作することができたとはいえない

すなわち、遊技機用表示灯の表示部において、7個のセグメントを略8の字状に配置し、数字等の情報表示を可能とすることは、ありふれた手法であったといえるところ、乙7文献において、表示面71に数字を表示する態様が実施の変形例として記載されていることも考慮すれば、当業者が乙7意匠のランプ74を、7個のセグメントを略8の字状に2個横並びに配置する形態へ置換することまでは創作容易といい得る。

しかし、略8の字状のセグメントを突出させることは、遅くとも平成20年10月18日に公表された(乙54の1・2)と認められる商品「プリセグ」に係る乙15意匠として公然知られていたことこそ認められるものの、当該態様に係る証拠はこの1つにとどまり、ありふれた態様であったことを認定するに十分ではない上、上記他の公知意匠に照らせば、液晶表示などでセグメントを突出させない態様こそがありふれたものであったとうかがわれる。

 エ 小括

以上によれば、本件意匠部分2の形態のうち、構成態様A2からD2までは、乙7意匠に基づき、容易に創作することができたといえるものの、さらに表示面71に配置されたランプ73を構成態様E2の態様に置換することについては、遊技機用表示灯の当業者にとってありふれた手法であったということはできず、その容易性を認めることはできない

したがって、本件意匠部分2は、その登録出願前に公然知られた意匠に基づき、当業者が容易に創作することができた(意匠法3条2項)とは認められず、意匠登録無効審判により登録無効にされるべきものとはいえない。

 

3 争点2-1(被告意匠部分2は本件意匠部分2に類似するか)について

以下のとおり、被告意匠部分2は、本件意匠部分2に類似するものと認められる。

 (1)意匠に係る物品について

本件意匠部分2に係る物品は遊技機用表示灯であり、パチンコ等の遊技機に接続され、遊技機に関する数値情報等を表示し、遊技者などに伝達するとの用途及び機能を備えるものである。

一方、証拠(乙25~27)によれば、被告製品は、パチンコ等の遊技機に直接接続されるものではなく、被告が別に販売する呼出ランプに接続され、そこに表示される遊技機の情報を連動表示するものであるが、他機器を介してとはいえパチンコ等の遊技機に接続され、その数値情報等を表示し、遊技者などに伝達するとの用途及び機能を有することに違いはなく、本件意匠部分2に係る物品と類似することは明らかである。

 (2)本件意匠部分2の構成態様

別紙意匠目録2の破線で表された遊技機用表示灯の正面やや上寄りの位置に透明カバーで覆われた表示部のうち正面視中央で2分された左側部分で上下面及び左右側面を除く正面の外表面並びに同面に略8の字状に突出して配置されたセグメント部のうち左側2つの部分に係る本件意匠部分2の構成態様は、以下のとおりである

  • A2 正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜している。
  • B2 正面の略横長長方形の縦横比率が約1:3である。
  • C2 平面視で右辺から左辺に傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°である。
  • D2 側面視で前屈みに傾斜している。
  • E2 正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である。
  • F2 正面視で上下辺及び左右辺はいずれも直線で、向かいの辺と長さが等しく、かつ、平行で、四隅の角度は全て略直角である。

 (3)本件意匠部分2の要部

登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。そのため、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の注意を惹き付ける部分を要部と把握した上で、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し、全体としての美感を共通にするか否かを判断すべきであり、これは部分意匠においても異なるものではない

そして、本件意匠部分2に係る物品である遊技機用表示灯は、パチンコ店等の事業主によって購入されるものであるから、意匠の類否判断における「需要者」(意匠法24条2項)は、パチンコ店等の事業主である。

以下、かかる需要者の観点から、本件意匠部分2の要部について検討する。

 ア 意匠に係る物品の性質、用途、使用態様など

本件意匠部分2に係る物品である遊技機用表示灯は、遊技機周辺に設置され、その正面に数値情報等を表示し、遊技者等に伝達するものであるが、本件意匠部分2は、「正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)し、その「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°」(構成態様C2)であることにより、正面からだけでなく、左側面からもその表示を視認しやすい点に特徴があるといえる。

また、正面視で左寄り部分に、略8の字状に配置されたセグメントは、数値等の情報を表示する部分であり、遊技機用表示灯の使用時に遊技者等が最も注意を払う箇所といえるが、これが「突出」(構成態様E2)していることで、平坦な場合とは違った美感をもたらしている。

これらに比べ、正面視における上下左右辺の形状、角度、縦横比率等(構成態様B2F2)は、格別特徴のある形態ではないし、また、側面視で前屈みに傾斜している(構成態様D2)点も、遊技機用表示灯の使用時に格別遊技者等の注意を惹き付ける箇所とは言い難い

したがって、本件意匠部分2に係る物品の需要者であるパチンコ店等の事業主は、顧客である遊技者等が注意を払う箇所も念頭に、「正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)し、その「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°」(構成態様C2)であること、「正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」(構成態様E2)していることに最も注意を惹かれるものと認められる

 イ 公知意匠

前記2で論じたとおり、「正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)との態様は、本件意匠部分2の登録出願前に乙7意匠によって公然知られていた形態であり、また、構成態様C2で特定された傾斜角度も、乙7意匠における傾斜角度を、当業者にとってありふれた手法で若干変更したものにとどまる。構成態様B2及びD2が、創作性の根拠となるものでないことも前記2記載のとおりである。また、「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」(構成態様E2)していることについても、本件意匠部分2の登録出願前に乙15意匠として公然知られていた形態である。

ただ、構成態様A2及びC2と構成態様E2を組み合わせた形態は、本件意匠部分2の登録出願前の公知意匠ではないし、また、公然知られた意匠に基づき、容易に創作することができたものでもない

 ウ 本件意匠部分2の要部の認定

以上の事情に照らせば、本件意匠部分2のうち、「正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」(構成態様A2)し、その「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°」(構成態様C2)であることは、乙7意匠によって公然知られていた形態をありふれた手法で若干変更したにとどまるものであるから、この部分のみをもって、本件意匠部分2の要部とすることはできないし、また、「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」(構成態様E2)との形状についても、同様にこれのみを要部とすることはできないが、これら各構成態様を組み合わせた態様については、本件意匠部分2の要部と認めることができる

 

 (4)被告意匠部分2の構成

遊技機用表示灯事件:被告意匠(イ号物件)

別紙イ号物件写真の被告製品において、透明カバーに覆われた表示部のうち正面視中央で2分された左側の平面部分で上下面及び左右側面を除く正面の外表面並びに略8の字状に突出して配置されたセグメント部のうち左側2つの部分からなる意匠(被告意匠部分2)の構成は、以下のとおりである(乙21の1・2)。

  • a2 正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜している。
  • b2 正面の略横長長方形の縦横比率が約1:2.8である。
  • c2 平面視で右辺から左辺に傾斜する角度が前後方向の直線に対して約76.5°である。
  • d2 側面視で前屈みに傾斜している。
  • e2 正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが若干右に傾いた略8の字状に2個横並びで突出して配置され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である。
  • f2 正面視で、上下辺は、上辺が下辺よりもやや長い互いに平行な略直線で、右辺は直線で下辺との角度が88°で右上角では上辺にかけて円弧を描き、左辺は左側に若干膨らむ凸弧状で、下辺との角度は104.6°、上辺との角度86.7°である。

 (5)類否

 ア 共通点

本件意匠部分2と被告意匠部分2は、正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜している上、正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である点のほか、側面視で前屈みに傾斜している点で共通する。また、正面視で上下辺が互いに平行な略直線で、右辺が直線であることも共通である。

 イ 差違点

本件意匠部分2は、平面視で右辺から左辺に傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75°であるのに対し、被告意匠部分2では対応する傾斜角度が約76.5°である。また、本件意匠部分2は、正面の略横長長方形の縦横比率が約1:3であるのに対し、被告意匠部分は同比率が約1:2.8である。

加えて、本件意匠部分2は、正面視で四隅の角度は全て略直角で、上下辺の長さが等しく、また、左辺も直線であるのに対し、被告意匠部分2では、左右辺が上下辺と直角に交わらず(右上角は円弧を描いている。)、若干左寄りに傾いており、上辺が下辺よりもやや長く、また、左辺が左側に若干膨らむ凸弧状である点でも相違する。被告意匠部分2において、略8の字状に配置されたセグメントが若干右に傾いている点も、本件意匠部分2との差違である。

 ウ 類否判断

 (ア) 以上を踏まえて検討するに、本件意匠部分2と被告意匠部分2は、前記(3)で認定の要部において、その態様を共通とするものである。すなわち、両意匠部分は、いずれも、正面視において略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜している上、正面視で左寄り部分に、7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置され、周囲の6個のセグメントは略横長台形状で、残りの1個のセグメントは略横長六角形状である点を共通にしている。そして、要部でこそないものの、側面視で前屈みに傾斜している点が同じであることも、両意匠部分の美感の共通性を補強するものである。

 (イ) 一方、被告意匠部分2は、左右辺が上下辺と直角に交わらず(右上角は円弧を描いている。)、若干左寄りに傾いており、上辺が下辺よりもやや長く、また、左辺が左側に若干膨らむ凸弧状であるが、この点でも、四隅が全て略直角で、左辺も直線である本件意匠部分2との差違がある。しかし、要部に係る差違ではない上、その範囲及び差違の程度からしても、上記共通点に埋没する程度の違いでしかなく、美感を異にさせるようなものではない。被告意匠部分2における略8の字状に配置されたセグメントの傾きについても同様である。

 (ウ) また、本件意匠部分2は、部分意匠であるため、類否判断に当たっては、その形態のみでなく、部分意匠に係る部分の物品全体における位置、大きさ及び範囲も参酌すべきと解されるが、本件意匠部分2及び被告意匠部分2は、いずれも表示本体部分の正面視中央で2分された左側の広範囲にわたり、正面を透明カバーで覆われた部分の意匠である点で共通している以上、本件意匠部分2がほぼ上半分のみを占めるのに対し、被告意匠部分2が上下ほぼ全面を占めているという違いは、部分意匠としての美感を異にさせるほどのものではない

 (エ) したがって、本件意匠部分2と被告意匠部分2は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通しているといえ、類似するものと認められる。

 

 (6)小括

 以上検討したところによれば、本件意匠部分2の登録は無効にされるべきものではなく、被告意匠部分2は本件意匠部分2に類似するから、被告製品の製造販売等は、本件意匠権2の侵害となる。

 

 (7)差止めの必要性

 ア 弁論の全趣旨によれば、現在被告は被告製品の製造、販売、輸入を中止していることが認められるが、本件訴訟における被告の主張などに照らせば、被告製品の販売等による侵害のおそれはなお存在しており、また、在庫品の存在もうかがわれるため、被告製品の製造、販売、輸入又は広告宣伝の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄の必要性が認められる。

 イ 一方、被告が被告製品の製造のみに用いる金型を有していることを認めるに足りる証拠はなく、廃棄の必要性は認められない。

 

4 争点3(原告の損害)について

・・・(省略)・・・

 

5 結論

以上の次第で、原告の請求は、主文掲記の限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、主文第2項に係る仮執行宣言については、相当でないからこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

 


関連情報

 


(作成2024.11.04、最終更新2024.11.04)
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