包装用缶事件:包装・パッケージ業界の常識を考慮した意匠類否判断

容量に応じたサイズ変更、色違いもある包装用容器(包装用缶)について、意匠の類否が争われた「包装用缶事件」を確認してみます。

「包装(パッケージ)業界の常識」を考慮した類否判断がなされました。

また、文字が意匠の構成要素となるかについても判断が示されました。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

 


東京高裁、平成元年(行ケ)第129号、平成2年3月7日

包装用缶事件:包装・パッケージ業界の常識を考慮した意匠類否判断

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実

第一 当事者の求めた裁判

 原告は、「特許庁が、同庁昭和60年審判第18421号事件について、平成元年4月14日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

 被告は、主文同旨の判決を求めた。

 

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「包装用かん」とする別紙記載の意匠(本願意匠)につき、類似意匠登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので、これに対し審判の請求をした。特許庁は、これを審理した上、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は原告に送達された。

 

二 本件審決の理由の要点

 1 本願の意匠は、類似意匠登録出願したものであって、意匠に係る物品を「包装用かん」とし、意匠に係る形態を図面等によって表したものであり、その全体としての構成態様を別紙に示すとおりにしたものと認める。

 2 原審において拒絶の理由とした引用意匠は、意匠に係る物品を「包装用かん」とし、意匠に係る形態を写真版等で表したものであり、その全体としての構成態様を別紙に示すとおりにしたものと認める。

 3 両意匠を比較するに、意匠に係る形態について、両者は、(a)全体を細長円筒状とし、上下端周縁を玉縁状とした点、(b)上下端周縁以外の容体全体を暗調子とし、その容体の上端から下端までの間に、ほぼ波形をした曲線状の模様複数本を明調子で表した点等、各部の基本的形状及びそれらによって構成された全体の基本的構成態様がほぼ一致しているものと認められる。更に全体の具体的構成態様についても、次の点につき差異が認められるのみであって、その余の点につきほぼ一致しているものと認められる。

 4 即ち、両意匠は各部の具体的構成態様のうち、曲線状の模様につき、本願意匠は、上端の幅を最も太くし、下方へ向かって波形を描きつつ次第に細くなり、下端の玉縁直上では先端を尖らした態様のものとしているのに対し、引用意匠は、上端の幅を太くし、下方へ向かって波形を描きつつ次第に細くなり、ほぼ中央付近で最小幅となった後、再び下方へ向かって次第に太くなり、下端の玉縁直上では上端とほぼ同じ太さの幅とした態様のものとしている点に差異が認められる。

 5 以上の一致点、差異点を総合して両意匠を全体として考察するに、前記差異点は、両者の具体的構成態様のうちのごく一部分における差異と認められるものである。

 6 即ち、曲線状の模様の差異は、たとえ本願意匠が前記のように形成しているとしても、上下端の玉縁間の容体の高さ一杯に、ゆるやかな曲線で構成された波形の模様を、縦に、明調子で表したという点では酷似するものであり、かつ、この点が両意匠の要部と認められる。したがって、この両者に共通する特徴からみれば最小幅の部位の若干の差異は微差といわざるをえず、前記の要部における一致点を凌駕して看者に別異感を与えるまでには未だ到っていないから、全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められるほどの差異ということはできない。

 7 以上のとおり、本願意匠は引用意匠と前記の点につき差異が認められるものであるが、その余において前記のとおり一致点が認められるものであり、全体として引用の意匠に類似するものと認められる。

 8 したがって、本願意匠は、意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するものであるから、意匠登録を受けることができない。

 

三 本件審決を取り消すべき事由

 ・・・省略・・・

 

第三 請求の原因に対する認否及び主張

 ・・・省略・・・

 

第四 証拠関係

 ・・・省略・・・

 

理由

 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

 1 本願意匠と引用意匠の各構成が本件審決認定のとおりであることは原告の認めるところであり、両意匠を対比すると、本件審決認定のとおり請求の原因二4(曲線状の模様の差異)に示される差異があることも原告の認めるところである。そして、両意匠には、原告の主張する次の差異があることが一応認められる。

  • 【直径と高さの割合の相違】全体の缶の形状が、本願意匠では縦長で、直径と高さの割合が約1対2.32であるのに対し、引用意匠では幅広で、直径と高さの割合が約1対1.92である。
  • 【色彩の相違】本願意匠は地色が明るい青色であって、これに白の図形を配したものであるのに対し、引用意匠は地色と図形の色に特徴はない。
  • 【文字の有無の相違】本願意匠には文字はないのに対し、引用意匠は図案化された英文字が模様となって意匠を構成している。

 原告は、本件審決が右の点を相違点として摘示しなかったことをもって、相違点の看過誤認がある旨主張するので更に判断する。

 

 (一)【直径と高さの割合の相違】について

直径と高さの割合の相違が主として缶の容量差に起因するものであり、しかもほぼ同じ態様のもののシリーズとして段階的に品揃えすることが包装(パッケージ)業界の常識であることは、原告の明らかに争わないところである。

そうすると、本件における両意匠の直径と高さの割合の相違は、両意匠の意匠に係る物品がいずれも包装用缶であることを考慮すると、右の相違は、両意匠の類否判断の要素として採り上げるに足りないものというべきである。

したがって、本件審決が右の点を相違点として適示しなかったことをもって、類否の判断に影響を及ぼすべき相違点の看過誤認があるということはできない。

 

 (二)【色彩の相違】について

成立に争いのない証拠によれば、ケース販売者及び製造者は何種類かの色替わりのもの及び容量に応じたサイズのケースを用意していることが認められる。右事実によれば、色替わりのもの及び大小のケースが用意されていることは、パッケージ業界において常識とされていると認めることができる。そして、そのような場合においては、色彩そのものに意匠の類否判断の対象となるほどの創作性は、認められないものといわなければならない。

そうすると、無限ともいえる色彩の中からどのような色彩を組み合わせるかという点に創作の余地があるとしても、前示のとおり包装用缶を意匠に係る物品とする本願意匠においては、色彩の相違は、類否判断の要素として採り上げるに足りないものというべきである。

したがって、本件審決が色彩の相違を両意匠の相違点として摘示しなかったことをもって、類否の判断に影響を及ぼすべき相違点の看過誤認があるということはできない。

 

 (三)【文字の有無の相違】について

意匠法2条1項の規定によれば、「意匠」とは、物品の形状模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるものをいうとされていることは明らかである。したがって、意匠中に文字が存在する場合、その文字が模様と認められる場合を除き、文字は意匠の構成要素と認めることができないものである。

そこで、引用意匠についてみるに、引用意匠中に認められるCoca-Colaの文字及びCOKEの文字は、前者はかなり図案化されていることは認められるけれども、両文字とも、コカコーラ及びコークと十分読みとることができ、未だ模様に変化したとは認めることができない

したがって、引用意匠中の文字部分は、意匠の類否判断の要素として採り上げるべきでないものというべきであるので、本件審決が文字の有無について相違点として適示しなかったことをもって、相違点の看過誤認があるということはできない。

 

 2 次に、原告は、本願意匠における白図形は波形であるのに対し、引用意匠の白図形はリボン形であるとし、その相違点を本件審決は看過誤認している旨主張する。

本願意匠と引用意匠との間に、本件審決認定のとおり相違点(請求の原因二4)があることは、原告の認めるところである。そして、原告が引用意匠についてリボン形であると主張する点は、審決の相違点認定のうちの、引用意匠の曲線状の模様を指しているものと認められる。

そうすると、原告がリボン形と主張する点は、同じ模様について、本件審決とは異なる言葉を用いて表現しているにすぎないといわざるをえない。

したがって、本件審決には、原告指摘の点に相違点の看過誤認はない。

 

 3 更に、原告は、本願意匠と引用意匠とは看者に与える美的感覚が全く異なっており、両者は非類似の意匠であると主張する。

本願意匠と引用意匠との間には本件審決認定のとおりの一致点(請求の原因二3)が存在することが認められる。そして、両意匠の間に本件審決認定のとおりの相違点が存在することは前記1のとおりであり、その他にも、相違点が存在することも前記1のとおりである。

そこで、右一致点及び相違点を総合して、両意匠を全体として考察すると、本件審決が相違点として取り上げた具体的構成態様のうちの曲線状の模様の差異は、上下端の玉縁間の容体の高さ一杯に、ゆるやかな曲線で構成された波形の模様を縦に明調子で表した点で両意匠とも酷似するものであって、この点が両意匠について看者の最も注意をひくところと認められるのであって、両意匠は美感を共通にするといわなければならない。

両意匠の「右波形模様の最小幅部分の位置が異なる点」、「直径と高さの割合の相違点」及び「色彩の相違点」等、原告指摘の相違点は、未だ、両意匠の右共通点を凌駕して看者に別異の印象を与えるとは認めることができない。

 

 4 以上のとおりであるから、本願意匠が全体として引用意匠に類似するものとした本件審決の判断は正当であり、本件審決には原告主張の点にこれを取り消すべき違法はない。

 

 よって、その主張の点に判断を誤った違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

 


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(作成2024.11.29、最終更新2024.11.29)
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