包装用容器事件:S字模様の向きと本数、星形と鋸歯円

円筒体の周側面に模様が付された包装用容器(包装用缶)について、意匠の類否と創作非容易性が争われた「包装用容器事件」を確認してみます。

「2本の逆S字状模様と、星形模様」が表された本件意匠について、「1本のS字状模様と、周縁が鋸歯状の小円模様」が表された引用意匠との間での類否と、創作の容易性とが争われた事件です。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。

 


東京高裁、昭和63年(行ケ)第129号、平成1年3月14日

包装用容器事件:S字模様の向きと本数、星形と鋸歯円

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

 

事実

第一 当事者の求めた裁判

一 原告

「特許庁が昭和58年審判第18326号事件について昭和63年2月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二 被告

主文同旨の判決

 

第二 請求の原因

一 特許庁における手続の経緯

被告は、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、意匠に係る形態を別紙に示すとおりのものとした登録第566407号意匠(本件意匠)の意匠権者である。

原告は、被告を被請求人として、特許庁に対し本件意匠の登録無効審判を請求し、昭和58年審判第18326号事件として審理された結果、「本件審判の請求は、成り立たない」との審決があり、その謄本は原告に送達された。

 

二 審決の理由の要点

 1 本件意匠の意匠に係る物品、構成及び出願、登録関係は前項記載のとおりである。

 

 2 本件意匠の基本的構成態様は、容体を直径対高さの比率を略1対2とした円筒状に形成し、上面に、中央にリング状の引抜環を設けた落とし蓋を嵌入したものとし、左右両側面に同じ模様、すなわち、ほぼ中央付近で最も接近し、上下端に向かってやや離れる、等幅で逆S字状の曲線模様各二本を容体の高さ一杯に、また、下端寄りの右側の曲線側近に星形模様各一個をそれぞれ表したものである。

次に、具体的構成態様は、容体の地色を赤色、曲線模様、星形模様を白色、落とし蓋を乳白色とし、さらに、星形模様については、その内部に両眼及び口様のものを赤色で、外側に放射線状の細線四本を白色で、それぞれ表したものである。

 

 3 これに対し、引用意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、意匠に係る形態を別紙に示すとおりにしたものと認める。

その形態の基本的構成態様は、容体を直径対高さの比率を略1対2.7とした円筒状に形成し、上面を馬蹄形状の引抜環を設けた蓋で密封したものとし、左右両側面に同じ模様、すなわち、上方寄り3分の1付近で最も細く、上下端へ向って幅が漸増(ぜんぞう)するゆるやかなS字状の曲線模様各一本を容体の高さ一杯に、また、左側面の曲線の上方寄り右側近に周縁を鋸歯状にした小円模様一個をそれぞれ表したものである。

次に、具体的構成態様は、容体の地色を赤褐色、曲線模様、小円模様を白色、蓋を銀色にそれぞれ表したものである。

 

 4 本件意匠と引用意匠との対比

両意匠を比較するに、両者はまず、容体を細長い円筒状に形成し、地色を赤を基調とした色調にした点でやや共通点が認められる。しかしながら、これらの共通点は、包装用容器、就中(なかんずく)、包装用缶などにおいては、従来よりごく普通にみられるところであって、特に本件意匠と引用意匠との間にのみ認められる共通点ということはできない。

これに反し、両意匠の間には、

まず曲線模様において、本件意匠が、二本の等幅、逆S字状の曲線模様をほぼ中央付近で最も接近し、上下端に向かってやや離れる態様で左右側面に表しているのに対し、引用意匠は、一本の、上方寄り3分の1が最も細く、上下端に向かって幅が漸増するゆるやかなS字状の曲線模様を左右両側面に表している点、

及び両者の曲線模様の側近に、本件意匠は、内部に両眼及び口様のものを表し、外側に放射状の細線四本を伴った星形模様二個を表しているのに対し、引用意匠は、周縁を鋸歯状にした小円模様一個を表している点に顕著な差異が認められ、

さらに、蓋についても、本件意匠が中央にリング状の引抜環を設けた落とし蓋としているのに対し、引用意匠は、馬蹄形状の引抜環を設け密閉状の蓋としている点にも差異が認められる。

そして、両意匠のように、ごく普通の単純な円筒状の包装容器においては、その表面に表された各種の模様の態様に意匠の要部が存するのは明らかであり、その要部において前記のごとき顕著な差異点が認められる両意匠は、全体として観察した場合、到底類似しているものと認めることはできない。

また、本件意匠は、二本の逆S字状模様及び星形模様等の形状及び態様等に形態全体のまとまりを形成する上で意匠の創作があったというほかなく、請求人の主張するごとく、引用意匠に基づいて当業者が容易に創作することができたものであると認めることはできない。

 

 5 以上のとおりであるから、請求人(原告)の提出した証拠及び主張をもっては、本件意匠が、意匠法第3条第1項第3号の規定、同法第3条第2項の規定に違反して登録されたものとして、その登録を無効とすることはできない。

 

三 審決の取消事由

引用意匠の構成態様が審決の理由の要点3記載のとおりであることは認める。

しかしながら、審決は、本件意匠と引用意匠を対比判断するに当たり、本件意匠の形態の要旨の認定を誤り、ひいて、両意匠は類似しているとは認められず、また、本件意匠は引用意匠に基づいて当業者が容易に創作することができたものであると認めることはできない、と誤って判断したものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

 1 類否判断の誤り

 ・・・省略・・・

 2 創作の容易性における判断の誤り

 ・・・省略・・・

 

第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張

 請求の原因一及び二の事実は認める。

 同三は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

 1 類否判断の主張について

 ・・・省略・・・

 2 創作の容易性について

 ・・・省略・・・

 

第四 証拠関係

 ・・・省略・・・

 

理由

 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当時者間に争いがない。

 

 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

 1(一) 本件意匠は、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、意匠に係る形態を別紙に示すとおりにしたものであり、

その基本的構成態様は、容体を直径対高さの比を略1対2とした円筒状に形成し、上面に、中央にリング状の引抜環を設けた落とし蓋を嵌入したものとし、左右両側面には、容体の高さ一杯に、二本の等幅でやや幅太な逆S字状の曲線がほぼ中央附近で最も接近し、上下端に向かってやや離れる態様の模様を表し、また、左右両側面下端寄りの右側の曲線側近に星形模様を各一個を表したものであり、

その具体的構成態様は、円筒体側面の地色を赤色、曲線模様を白色、上面落とし蓋を乳白色とし、星形模様は白色とし、その内部に両眼及び口様のものを赤色で、外側に放射状の細い直線四本を白色で表したものであることが認められる。

 

 (二) 一方、引用意匠が、意匠に係る物品を「包装用容器」とし、意匠に係る形態を別紙に示すとおりとしたものであり、その構成態様が次のとおりであることは当事者間に争いがない。

引用意匠の基本的構成態様は、容体を直径対高さの比率を略1対2.7とした円筒状に形成し、上面を馬蹄形状の引抜環を設けた蓋で密閉したものとし、左右両側面に同じ模様、すなわち、上寄り3分の1附近で最も細く、上下端に向かって幅が漸増する緩やかなS字状の曲線模様各一本を容体の高さ一杯に、また、左側面の曲線の上方寄り右側近に周縁を鋸歯状にした小円模様一個をそれぞれ表したものであり、

具体的構成態様は、容体の地色を赤褐色、曲線模様、小円模様を白色、蓋を銀色にそれぞれ表したものである。

 

 (三) 以上の事実によれば、本件意匠及び引用意匠は共に、意匠に係る物品を包装用容器とし、その容体を細長い円筒状に形成したものであるところ、このような容器自体の形状はごく普通にみられるものであるから、看者が強く注意を惹かれる意匠の要部は、その側面に表された模様の態様、すなわち、本件意匠にあっては「二本の逆S字状の曲線模様、星形模様」にあり、引用意匠においてもその側面に表された「一本のS字状模様と小円模様」にあると認められる。

 

 2 原告は、本件意匠の基本的構成態様として、赤色のリボン状の模様が存在すると主張する。

しかしながら、前記1(一)で認定したとおり、本件意匠の容体側面部の地色は赤色であり、これに対し二本の等幅の逆S字状の曲線模様の色彩は白色で、しかも右二本の曲線はやや幅太に表されているのであるから、看者が本件意匠から看取する模様は、ほぼ中央附近で最も接近し、上下端に向かってやや離れる、等幅で逆S字状の曲線模様であると認められ、右曲線に挟まれた地色と同色の赤色部分がリボン状の模様として看取されるとは認めることができない

してみると、本件意匠には赤色のリボン状の模様が存在し、この点を看過したまま引用意匠との類似性を否定した審決は誤りであるとする原告の主張は理由がない。

 

また、原告は、本件意匠の星形模様は意匠の要部ではなく、その態様及び配置個所が引用意匠の小円模様と同様であることからすると、右星形模様は、むしろ、本件意匠と引用意匠を類似のものとする要素であると主張する。

しかしながら、前記1(一)で認定したとおり、本件意匠の星形模様は、その内部に両眼及び口様のものを赤色で、外側に放射状の細線四本を白色で表したものであって、単純な星形模様とは異なる特異なものであり、しかも本件意匠の側面に表された模様は右星形模様と前記逆S字状の曲線模様しかないことからすると、右星形模様は意匠を構成する模様としての比重の高い、看者にとって注意を喚起される創作性のある図形であると認められるから、右星形模様は意匠の要部というべきである。そして、その模様は、前記1(二)で認定したとおりの周縁を鋸歯状にした小円型の引用意匠の模様とは明らかに異なるものであると認められるから、これが本件意匠と引用意匠を類似するものとする要素であるとは到底いい得ない。

したがって、本件意匠の星形模様に意匠の要部が存するとして、引用意匠の小円模様との間に顕著な差異があるとした審決の認定、判断に誤りは認められない。

 

 3 創作の容易性について

前記認定のとおり、本件意匠の要部たる模様の態様は、容体左右両側面に二本の等幅でやや幅太な逆S字状の曲線でほぼ中央附近で最も接近し、上下端に向かってやや離れる態様の模様を表し、また、左右両側面下端寄りの右側の曲線側近に、内部に両眼及び口様のものを、外部に放射状の四本の細い直線を配した星形模様各一個を表しているものだけであり、原告の主張するリボン状の模様なるものは存在しない。そして、右「二本の逆S字状曲線模様」は前記1(二)で認定した引用意匠のS字状の曲線模様が、一本の曲線で、上寄り3分の1が最も細く、上下端へ向かって幅が漸増する緩やかなS字状であることからすれば、その形状を全く異にする模様であると認められる。

また、本件意匠の星形模様についても、引用意匠の周縁を鋸歯状にした小円模様から星を連想することが容易であるとは認められない上、前記2で認定したとおり、本件意匠の星形模様は単純な星形模様とは異なる態様を示していることからすれば、本件意匠における「二本の逆S字状の曲線模様」や「星形模様」は引用意匠に基づいて、当業者が容易に創作することができたものとは認められないものである。

したがって、本件意匠にリボン状の模様が存在することを前提として、本件意匠は創作容易であったとする原告の主張は採用できず、この点に関する審決の認定、判断に誤りはない。

 

 4 以上のとおり、本件意匠と引用意匠との類否判断及び創作の容易性についての審決の認定、判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。

 

 よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の附与につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項を適用して、主文のとおり判決する。

 


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(作成2024.12.19、最終更新2024.12.19)
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