部分意匠の類否判断では、部分意匠に係る部分の物品全体における「位置」「大きさ」「範囲」も参酌されます。
ここでは、「位置」の違いについて事例を確認してみます。
事例は、順次、追加予定です。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から審決全文をご確認ください。図面もご確認いただけます。
(1) 不服2011-24732:「ゴルフクラブヘッド」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2010-029874/30/ja
両意匠を対比すると、いずれも「ゴルフクラブヘッド」に係るものであるから、意匠に係る物品は、一致する。
そして、それらの形態は、略板状の本体部とシャフト接続部とからなり、本体部は、略倒水滴形で、球打面を表面としたものである。
本願意匠の裏面は突状縁部とその縁部に囲まれた凹面部とから成り、本願実線部分は、その凹面部であるのに対して、引用意匠の裏面は、溝を介して設けた下辺突出部を設けた態様で、引用意匠の相当部分は、その溝の底まで続く裏面のうちの本願実線部分に相当する部分であって、両意匠の態様が異なり、かつ本願実線部分と引用意匠の相当部分の位置が異なるのであるから、両意匠の部分の輪郭が類似していても、両意匠を類似とすることはできない。
(2) 不服2012-19547:「包装用容器」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2011-026166/30/ja
本願意匠と引用意匠を対比すると、意匠に係る物品は、共に「包装用容器」であって、一致している。
そして、両意匠は、細口を持つ、有底略四角筒状容器であって、その容器本体略中央に水平帯状括(くび)れ部を有したものであって、本願実線部分と引用相当部分は、その括れ部分である。
両意匠の部分は、包装用容器本体略中央に位置する水平帯状括れ部分であって、当該容器を持ちやすくするためのものと考えられるため、その用途及び機能、並びに、大きさ及び範囲は、共通していると認められるが、位置に関しては、本願実線部分は、本体中央やや下側であるのに対して、引用相当部分は、本体中央やや上側であって、異なり、この差異点は、括れ部を持って中身を注ぐときの重量バランスに影響を与えることから、看者の注意を引く点であって、類否判断に一定程度の影響を与えるものと認められる。
両意匠の部分には、以下の相違点が認められる。
(ア)括れ部の深さにつき、本願実線部分は浅いのに対して、引用相当部分は深い点、
(イ)斜面(円すい面)の形につき、本願実線部分は直線で、細径部と合わせて正面視で断面台形状の溝を形成しているのに対して、引用相当部分は、膨らみ曲線とへこみ曲線から成り立っており、正面視で断面略波形である点、
(ウ)細径部の態様につき、本願実線部分は、単なる円筒状であるのに対して、引用相当部分は、中央に段差を設けて溝がある点、で主に相違している。
相違点(ア)については、持ったときの感覚に影響を与える形状の差であるし、この相違点によって、本願実線部分は低く、引用相当部分は高いという、括れ部と本体の境目の波形の高さが異なるという、視覚効果の差異となって表れ、斜面の面積の大小と合わさって、類否判断に大きな影響を与えるものであり、
相違点(イ)については、一般的な観察方向であるふかんした状態で見えやすい部分の違いといえ、類否判断に大きな影響を与えるものであり、
相違点(ウ)については、ほぼ真横から見なければ観察し得ない細径部の差であるが、類否判断には一定程度の影響を与えるものと認められる。
そうすると、本願意匠と引用意匠に係る物品は一致し、両意匠の部分の用途及び機能、並びに、大きさ及び範囲については共通しているが、位置は異なり、また、形態については、上記のとおり類似しないものといえるから、本願意匠と引用意匠は類似しないものと認められる。
(3) 不服2017-3520:「飲用グラス」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2016-006398/30/ja
両意匠を対比すると、意匠に係る物品は、本願意匠が「飲用グラス」であって、引用意匠が「コップ」であるから、共通している。
両部分は共に、グラス部の略下半部分であって、台座部につながる脚部分であるから、その用途及び機能は一致する。
飲用グラスの一般的な大きさからして、両部分の大きさ及び範囲は、おおむね共通するといえるが、本願部分は、全体の高さに対して、下から約27%の高さから上に位置しているのに対して、引用部分は、全体の高さに対して、下から約5%の高さから上に位置している。
両意匠の意匠に係る物品は共通しており、両部分の用途及び機能は一致し、大きさ及び範囲がおおむね共通しているが、両部分の位置が異なる上に、両部分の形態は類似しないから、両意匠は類似しているとはいえない。
- 詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
意匠の類否判断事例5(拒絶査定不服審判:飲用グラス)
(4) 不服2021-611:「自動車用タイヤ」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2020-007485/30/ja
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、いずれも「自動車用タイヤ」であるから、一致するものである。
本願部分と引用部分は、いずれも自動車用タイヤのトレッド部の溝部分であり、トレッド部は、自動車の重量を支え、路面からの衝撃を吸収し、路面をつかんで進路保持し、その発進、加速、減速および制動時のエンジンやブレーキの力を路面に伝える部分であるから、用途および機能が一致するものである。
両部分は、いずれも全体が環状体をなすタイヤの、横方向溝部を除く、外周を周方向に略帯状に並行して一周する3本の溝部分であって、それぞれ大きさは共通するが、位置および範囲については、
本願意匠は、正面視で左側の溝部分は位置が全体の横方向の左から約4/13で、範囲は、横幅の約1/13幅の縦方向溝部であるのに対して、引用意匠は、位置が全体の横方向の左から約1/3で、範囲は、横幅の約1/15幅の縦方向溝部である点で相違し、
正面視で中央の溝部分は、本願意匠の位置が横方向の中央よりもやや左寄りの左から約2/5で、範囲は、横幅の約2/43幅の縦方向溝部であるのに対して、引用意匠は位置が横方向の略中央で、範囲は、横幅の約2/37幅の縦方向溝部である点で相違し、
正面視で右側の溝部分は本願意匠の位置が横方向の中央よりもやや右寄りの左から約4/7で、範囲は、横幅の約1/16幅の縦方向溝部であるのに対して、引用意匠の位置は全体の横方向の左から約2/3で、範囲は、横幅の約1/15幅の縦方向溝部である点で相違する。
両部分は、物品全体の形態の中における大きさは、一致するから同一であるが、それぞれ位置については、引用意匠が左から約1/3、略中央、約2/3(右から約1/3)と横方向の中央に対し線対称に配置されているのに対し、本願部分は中央に対して左寄りに配置され、横方向の中央が、中央溝部と右側溝部間に位置する点は、本願部分の特徴でもあるから、範囲については多少の相違にとどまるものの、類否判断に一定程度の影響を与えるものである。
両意匠は、意匠に係る物品並びに両部分の用途および機能は同一であり、大きさも同一であるが、両部分の位置および範囲は相違するものであって、類否判断に一定の影響を与え、また、形態においては、両部分は類似しないものであって、これは、両部分の類否判断を決定付けるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似しない。
- 詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
意匠審決の読解11(類否判断事例)
(5)不服2016-2857:「電線」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2015-004778/30/ja
本願意匠の意匠に係る物品は「電線」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「ケーブル」であって、表記は異なるが、両意匠の意匠に係る物品が共通することは明らかである。
引用相当部分は、ケーブルを保護管内に引き込む際の摺動抵抗を減少させる用途や機能を有するものである。そして、本願実線部分も、ほぼ同様の用途や機能を有すると推認できるし、この推認を妨げる記載がないことから、両意匠部分の用途及び機能は共通する。
両意匠部分は、電線の被覆部外周に複数設けられた1条の突起の全体を占める部分であるから、大きさ及び範囲は一致する。
しかし、本願実線部分は、両隣の突起と接する位置にあるのに対して、引用相当部分は、両隣の突起と間隔を開けた位置にあるから、両意匠部分の位置は相違する。
両意匠部分の用途及び機能が共通し、両意匠部分の大きさ及び範囲が一致するものの、両意匠部分の位置は相違しており、この相違は、両意匠部分の機能の優劣に関係するといえる。すなわち、引用相当部分の機能は、ケーブルと保護管との間の摺動抵抗を減少させるというものであって、そのために突起を設けてケーブルの接触面積を減少させていることから、引用相当部分の突起は、両隣の突起と間隔を開けた位置にあるように創作されたと解される。そして、本願実線部分も引用相当部分と同様の機能を有すると推認でき、この機能を前提とする限り、両隣の突起と接する位置にあるか、それとも間隔を開けた位置にあるかという相違は、機能の優劣に関わる両意匠部分の位置の相違であり、その相違に対して需要者は着目するというべきであるから、両意匠部分の位置が相違する点は、両意匠部分の類否判断に大きな影響を及ぼすものというほかない。
そうすると、両意匠の意匠に係る物品は共通し、両意匠部分の用途及び機能は共通し、両意匠部分の大きさ及び範囲は一致するものの、両意匠部分の位置は相違する。
また、形態においては、共通点が未だ両意匠部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、相違点が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており、両意匠部分全体として見た場合、相違点の印象は共通点の印象を凌駕し、両意匠部分は視覚的印象を異にするというべきである。
したがって、本願意匠は、引用意匠に類似するということはできない。
関連情報
- 部分意匠について
- 部分意匠の類否判断事例(大きさの相違)
- 部分意匠の類否判断事例(範囲の相違)
- 意匠登録とは・意匠権の取り方
- 意匠の類否(類似/非類似)
- 意匠の類否判断(意匠審査基準の読解)
- 意匠審決の読解(意匠の類否と創作性の判断事例のまとめ)
- 意匠登録解説
(作成2025.01.26、最終更新2025.04.02)
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