部分意匠の類否判断事例(範囲の相違)

部分意匠の類否判断では、部分意匠に係る部分の物品全体における「位置」「大きさ」「範囲」も参酌されます。

ここでは、「範囲」の違いについて事例を確認してみます。

事例は、順次、追加予定です。

なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から審決全文をご確認ください。図面もご確認いただけます。

 


(1) 不服2017-4669:「スポットライト」拒絶査定不服審判事件

原審における拒絶の理由は、本願意匠が、願書に記載した本意匠に類似する意匠と認められず、意匠法第10条第1項の規定に該当しないとしたものである。

これに対して、出願人は、審判請求と同日に手続補正書を提出し、願書に記載の「本意匠の表示」を削除し、本願を関連意匠の意匠登録出願ではないものに変更した。

 

本願意匠の意匠に係る物品は、「スポットライト」であり、本意匠の意匠に係る物品は、「スポットライト」であって、両意匠の意匠に係る物品は、一致する。

両意匠部分は共に、略筒状のスポットライトから左側面図に表された照光部(光源及び反射板)と天井取付部材を除く、照明器具であるスポットライト本体部及びそれを上方で支持するアーム部からなるものであって、その、用途及び機能、並びに大きさは共通するものであるが、
本意匠の全体が正面図においてスポットライト本体部より約2倍長い略横長直方体状の天井取付部材の端部にアーム部を介してスポットライト本体部を設けているのに対し、本願意匠の全体は正面図においてスポットライト本体部より小さい約3.5分の1の長さの略円柱状の天井取付部材の直下にアーム部を介してスポットライト本体部を設けているから、全体に対する両意匠部分の位置及び範囲は、相違する

 

両意匠部分は、その用途及び機能、並びに大きさが共通するが、両意匠の意匠に係る物品「スポットライト」の物品分野において、両意匠部分と同様の照光部と天井取付部材を除く、スポットライト本体部及びアーム部の部分として対比可能な、用途及び機能並びに大きさを有する意匠は、本願出願前にごく普通に見受けられるので、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

一方、位置及び範囲については相違する。

まず、位置については、両意匠部分共に、天井取付部材にアーム部を介して支持される下方の位置であって、その一端部寄りであるか、ほぼ直下であるかは、「スポットライト」の物品分野において、双方共によく見られる位置といえ、類否判断に大きな影響を与えるほどのものとはいえない。

しかしながら、その範囲については、
本意匠の全体が正面図においてスポットライト本体部より約2倍長い略横長直方体状の天井取付部材とスポットライト本体部及びアーム部からなる「スポットライト」であるのに対し、
本願意匠の全体は正面図においてスポットライト本体部より小さい約3.5分の1長さの略円柱状の天井取付部材を含むスポットライト本体部及びアーム部からなる「スポットライト」であって、
そのうちの両意匠部分であるところの「照光部を除くスポットライト本体部及びアーム部」の占める範囲は、一見して看取できる程度に、その全体に対する範囲が相違するといわざるを得ず、類否判断に一定の影響を与えるものである。

 

両意匠部分の具体的構成態様に係る相違点については、スポットライト本体の後方から確認できる態様であって、使用時にも斜め下方から観察できるもので、スポットライト本体の後端部の下方について塞がれて内部の態様が看取できないものか、内部が看取でき、複数の板状体が後端から内部に向けて設けられているのが観察できるものであるかは、一見して目に付く、構造上の相違であって、両意匠部分の類否判断に大きな影響を与えるものである。

したがって、相違点が両意匠部分の類否判断に与える影響は大きい影響を与えるものであって、相違点は、共通点を凌駕して、両意匠部分を別異のものと印象づけるものである。

 

そうすると、形態における共通点の両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は、共に小さいものであって、両意匠部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、形態の相違点については、一見して十分目に付く構造上の相違であって、両意匠部分の類否判断に与える影響は大きく、相違点は、共通点を凌駕して、両意匠部分を別異のものと印象付けるものである。

したがって、本願意匠部分が本意匠部分に類似するということはできない。

以上のとおりであって、本願意匠は、本意匠に類似せず、意匠法第10条第1項の規定に該当しないものであるが、本願願書の本意匠の表示を削除する補正がなされ、原審の拒絶の理由は解消している。

 


(2) 不服2015-4299:「排水案内板」拒絶査定不服審判事件

本願意匠の意匠に係る物品は「排水案内板」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「排水案内具」であって、表記は異なるが、いずれも排水溝を備えた板体であるから、両意匠の意匠に係る物品は共通する。

本願実線部分と引用相当部分は、ドレイン排水をベランダ等の床面に沿って排出案内するための排水溝を備えた板体に関するものであるから、その用途や機能は一致する。

両意匠部分は、それぞれ、両意匠の中央に位置しているから、両意匠部分の位置は一致するといえる。

排水溝の幅や高さは、排出するドレイン水の流量に応じて決められるべきものといえるから、同程度のドレイン水を排出するとすれば、両意匠部分の大きさはおおむね共通するといえる。

しかし、本願実線部分の面積は、本願意匠全体の1/8程度であって、小さな範囲であるのに対して、引用相当部分の面積は、引用意匠全体の2/5程度であって、大きな範囲であるから、両意匠部分の範囲は相違する

 

両意匠は、意匠に係る物品が共通し、部分意匠としての用途及び機能並びに位置及び大きさも、一致ないし共通するが、部分意匠としての範囲は、本願実線部分が小さな範囲であるのに対して、引用相当部分が大きな範囲であり、明らかに相違するから、この相違点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は、一定程度あるものといわざるを得ない。

 

共通点は、排水溝に傾斜底面と湾曲側面を設けているというものであるところ、そのような形態は、この種の物品において、ほかにも見られるものであって、両意匠部分のみに見られる形態とまではいえない。また、排水案内板の施工後においては、近付いてのぞき込んだとしても、見えにくい部位である。

これらを踏まえると、共通点が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響を大きいということはできず、両意匠部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものである。

 

これに対して、相違点(ア)及び(イ)は、いずれも平面視において容易に看取できるものである上に、本願実線部分のみに見られる形態であるから、両意匠部分の類否判断に非常に大きな影響を与えるといえる。

また、相違点(ウ)は、排水案内板を施工し、排水溝に沿ってドレイン排水が流れる際には、水面との対比により、際立って目に付くものといえるし、この点も、本願実線部分のみに見られる形態であるから、両意匠部分の類否判断に与える影響は非常に大きいというほかない。

そして、相違点(ア)から(ウ)までが相まった視覚的効果を考慮すると、相違点の印象は、共通点の印象を凌駕して、両意匠部分は、部分意匠全体として視覚的印象を異にするというべきである。

 

したがって、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、また、部分意匠としての用途及び機能並びに位置及び大きさも、一致ないし共通するものの、部分意匠としての範囲が明らかに相違しており、形態においては、共通点が未だ両意匠部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、相違点が両意匠部分の類否判断に及ぼす影響は共通点のそれを凌駕しており、両意匠部分全体として見た場合、相違点の印象は、共通点の印象を凌駕し、両意匠部分全体として需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、両意匠は、意匠全体として視覚的印象を異にするというべきであり、本願意匠は、引用意匠に類似するということはできない。

 


(3) 不服2022-8226:「便器用タンク」拒絶査定不服審判事件

本願意匠の意匠に係る物品は、「便器用タンク」であるのに対し、引用意匠の意匠に係る物品は、「取付け用便器」であって、意匠に係る物品は、一致しない。

本願部分と引用部分は、共に便器の後方に設けられた便器用タンクの上面の背面寄りの中央に設けられた吐水部の外側面の正面下端の中央に任意に区画された部分であって、その用途及び機能は、いずれも、手洗いボウル部上で便器用タンクに水を供給する吐水部の外側面の正面下端の中央部分であるから、両部分の用途及び機能は、一致する。

両部分の位置は、便器用タンクの上面の背面寄りに取り付けた吐水部の正面下端中央であるから、一致し、大きさは、便器用タンクの上面の吐水部の正面下端中央の部分であるから、おおむね一致するが、範囲は、本願部分は、正面視において全体の約1/600であるのに対し、引用部分は、正面視において全体の約1/1100であるから、一致しない

両部分は、位置及び大きさが一致し、範囲が相違するが、占める範囲の相違は、意匠に係る物品が完成品であるか、部品であるかの点に起因し、両部分は、便器後方に取り付けたタンクの上面に形成される吐水部の外側面の正面下端の中央部分である点は同様であって、吐水部に占める範囲としては、大差がなく、この点が両意匠の類否判断に与える影響は小さいものである。

両意匠の意匠に係る物品は相違するものの、両意匠の類否判断にほとんど影響を与えず、両部分は、その用途及び機能、並びに位置及び大きさが共通し、範囲の相違が両部分の類否判断に与える影響が小さいものだとしても、形状等においては、両部分は類似せず、両部分の類否判断を決定付けるものであるから、本願意匠は引用意匠に類似しない。

 


(4) 不服2014-5158:「フォルダ用袋部材」拒絶査定不服審判事件

本願意匠の意匠に係る物品は「フォルダ用袋部材」であり、引用意匠の意匠に係る物品は「書類入れ」であるが、いずれも書類を収納するために用いられるものであるから、本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は共通する。

両意匠部分の用途及び機能について、本願実線部分の用途及び機能はフォルダ用袋部材にハガキやカード等を収納した際の仕切り部の役割をするものであり、引用相当部分の用途及び機能は書類入れに蛇腹状に形成した収容部を仕切るものであるため、両意匠部分の用途及び機能は一致する。

両意匠部分の位置、大きさ及び範囲について、本願実線部分の位置、大きさ及び範囲は仕切り部のうち上部見出し部及び折り返し部を除いた部分であり、引用相当部分の位置、大きさ及び範囲は見出用突起及び左右鉤片を除いた部分であって、両意匠部分の位置及び大きさは一致するが、範囲は異なる

両意匠は、意匠に係る物品については共通し、両意匠部分の用途及び機能は一致し、位置及び大きさは一致するが、範囲は異なる。また、両意匠部分の形態については、共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるのに対して、各相違点が類否判断に及ぼす影響は大きく、相違点が相まって生じる視覚的効果は、共通点のそれを凌駕して、類否判断を支配しているものであるから、両意匠部分は類似しないものと認められる。

 


関連情報

 


(作成2025.01.27、最終更新2025.02.10)
Copyright©2025 Katanobu Koyama. ALL RIGHTS RESERVED.