部分意匠の類否判断では、部分意匠に係る部分の物品全体における「位置」「大きさ」「範囲」も参酌されます。
ここでは、「大きさ」の違いについて事例を確認してみます。
事例は、順次、追加予定です。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から審決全文をご確認ください。図面もご確認いただけます。
(1) 不服2018-4306:「包装用フィルム」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2017-005698/30/ja
本願意匠に係る物品は「包装用フィルム」であり、その内容は、ペットボトル等の容器をシュリンク包装するために使用されるものであって、使用の目的は、ラベルと認められる。
これに対して、引用意匠に係る物品は「飲料容器用ラベル」であり、その内容は、フィルム状の飲料容器用ラベルである。
両意匠の意匠に係る物品は共通する。
両部分の、用途及び機能、並びに位置及び範囲は、一致する。
本願部分の大きさは、容器本体をほぼ全て覆う程度の大きさであるのに対して、引用部分の大きさは、容器の胴部の一部を覆う程度のものである点で相違する。
「全体の半径と高さの比率」の相違点については、ラベルとして使用する際の、印刷する量や配置など、ラベル・デザインに関わる点、内容物の保護の観点から、その使用態様が異なり、この種物品の選定基準として、大きく関わる要素であるため、両部分の類否判断に与える影響は大きい。
「切取部の幅と摘み部の高さの比率」や「摘み部の形状」の相違点については、本願部分は、突出度合いが小さく扁平な二等辺三角形であるから、分別する際までは余り目立たず、フィルム本体になじむような形状と認められるが、引用部分は、突出度合いが大きく単純な半円形であるから、通常から目に付きやすく、フィルム本体になじむ形状ではないという点からも、目に付きやすい形状と認められるから、両部分の類否判断に与える影響は大きい。
共通点によっては、両部分の類否判断を決するものとまではいえないのに対して、相違点による形状の相違は、需要者に別異の印象を起こさせるものであるから、両部分の類否判断を決するものといえる。
よって、本願部分の形状と引用部分の形状は、部分における全体観察においては類似しないと認められる。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、両部分の用途及び機能、並びに位置及び範囲は一致していると認められるが、両部分の大きさが相違し、両部分の形状が、上記のとおり類似しないから、本願意匠と引用意匠とは類似しないものといえる。
(2) 不服2024-6488:「飲料容器用蓋」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2023-012611/30/ja
本願意匠の意匠に係る物品は、伸縮性があり、飲料容器に密着して用いられる「飲料容器用蓋」であり、引用意匠は、飲料容器から容易に取り外しができ、コースターとしても用いることができる飲料容器の蓋であると認められ、飲料容器の蓋であることから、両意匠の意匠に係る物品は、類似する。
本願部分と引用部分の用途及び機能は、共に、飲料容器の周側面を覆う蓋体の周側部及び蓋体周側部の下端縁部にある波形の装飾部であるから、両部分の用途及び機能は、一致する。
両部分の位置及び範囲は、いずれも蓋体上面の縁部から下方へ向かって延びる周側部であることから、両部分の位置及び範囲は、一致する。
両部分の大きさは、蓋体の側面視で、全幅と周側部の縦幅の比率が、本願部分は約1:0.5の大きさであって、飲料容器の開口部を周側面にかけて深く被う深型であるのに対し、引用部分の当該比率は約1:0.3の大きさであって、飲料容器の開口部を被う際に周側面も被っている程度の浅型であるから、両部分の大きさは相違している。この大きさの相違は、需要者の強い注意をひき、両意匠に相違感を与えるものといえるから、両部分の大きさの相違は、両意匠の類否判断に与える影響が大きい。
この種の物品の分野において、蓋体の周側部の態様については、飲料容器に蓋を被せる際や、飲用時に飲料容器を手に取る際に認識しやすい部位であって、特に、内容物がこぼれないようにするという使用目的からくる印象の違いは、需要者の注意を強くひくものであるから、胴部の縦幅が広く、厚みが極薄く端部が直角である本願部分に対し、胴部の縦幅が狭く、肉厚で端部が略曲面である引用部分とでは、需要者に異なる美感を起こさせるものであるので、相違点が、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
さらに、裾部の態様については、波の大きさがパターン化された本願部分の波形と、ランダムな引用意匠の波形とで違いがあり、これは、下端部の全域に亘る装飾部に係るものであるから、両意匠の類否判断に一定の影響を与える。
両意匠は、意匠に係る物品は類似で、両部分の用途及び機能並びに位置及び範囲は同一であるものの、大きさが相違し、形状等については、共通点は未だ両部分の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対し、相違点が両部分の類否判断に与える影響は共通点のそれを凌駕しており、意匠全体として見た場合、両部分は、需要者に異なる美感を与えているというべきであるから、本願意匠は引用意匠に類似するということはできない。
(3) 拒絶2019-9606:「埋込型コンロ」拒絶査定不服審判事件
- 本件に関する審決書と図面は、次のリンク先をご覧ください。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2018-016197/30/ja
本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は、どちらもキッチンのカウンターに埋め込んで使用するガスこんろと認められ、特に相違点は認められない。
本願部分と引用部分の用途及び機能は、どちらも「こんろ」において、点火操作部等を含む、前面パネル部の用途及び機能を有するものであり、特に相違点は認められない。
両部分の位置及び範囲は、どちらもコンパクト・キッチン用の幅の狭い埋込型の「こんろ」のうち、天板部における、側面視山状に盛り上がった前面パネル部の正面、上面及び側面上方、並びに操作つまみとしたものであり、特に相違点は認められないが、
両部分の大きさについては、本願部分は、天板部の横幅を1とした場合の高さを約0.14とし、正面視において後方のバーナー部が隠れて見えないものであるのに対して、引用部分は、天板部の横幅を1とした場合の高さを約0.10とし、正面視において後方のバーナー部が隠れずに見えるものであるから、相違する。
両部分の位置及び範囲は、特に相違点が認められないから、同一であるが、両部分の大きさは、正面視において後方のバーナー部が隠れて見えない高さであるか否かという点において相違し、この相違は、点火時に手元がしっかりガードされる安心感を得られる大きさか否かという、異なる印象を両部分にもたらすものである。
両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の用途及び機能、並びに位置及び範囲は同一であるが、両部分の大きさは相違し、両部分の形状については、その共通点及び相違点の評価に基づくと、
共通点は、前面パネル部及び操作つまみを概観した場合のものであって、いずれの点もこの物品分野において従来からよく見られる形状に過ぎず、両部分の類否判断に及ぼす影響は小さいものであるのに対して、
相違点は、特に前面パネル部の上面の形状の相違、前面パネル部の高さの相違、操作つまみの具体的な形状の相違が、両部分に異なる印象をもたらし、両部分の類否判断に及ぼす影響は大きいものであるから、相違点は共通点を凌駕するものであって、両部分の形状は、類似するものとはいえない。
よって、両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の用途及び機能、並びに位置及び範囲が同一であるが、両部分の大きさが相違し、両部分の形状は類似するものとはいえないから、本願意匠は、引用意匠に類似するものではない。
関連情報
- 部分意匠の類否判断事例(位置の相違)
- 部分意匠の類否判断事例(範囲の相違)
- 意匠登録とは・意匠権の取り方
- 意匠の類否(類似/非類似)
- 意匠の類否判断(意匠審査基準の読解)
- 意匠審決の読解(意匠の類否と創作性の判断事例のまとめ)
- 意匠登録解説
(作成2025.01.27、最終更新2025.02.09)
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