部分意匠について

目次

 


部分意匠とは?

部分意匠とは、物品等の部分の形状等をいいます。より具体的には、物品の部分の形状等、建築物の部分の形状等、又は画像の部分であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます。ここで、形状等とは、形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合をいいます。

さらに言えば、部分意匠とは、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠登録出願に係る意匠(出願意匠・登録意匠)であり、端的にいえば、物品等の一部分について権利請求する意匠です。

意匠法において、「部分意匠」という用語が出てくる訳ではありません。物品等の部分についての意匠を、便宜上・実務上、「部分意匠」と呼んでいます。

 


全体意匠と部分意匠

物品等のデザインを保護したい場合、特許庁に意匠登録出願して審査をパスしなければなりません。出願に際し、どのようなデザインなのか、図面や写真などで、意匠を特定します。意匠登録して保護したい箇所が、物品等の全体であれば「全体意匠」となり、一部であれば「部分意匠」となります。

たとえば、ボールペンについて意匠登録を受けたい場合、ボールペン全体について意匠登録を受けることもできますし、ボールペンの一部について意匠登録を受けることもできます。ボールペンの一部について意匠登録を受ける場合に、ボールペンの替え芯などの「部品」として意匠登録を受けることもできますが、物理的に分離できない箇所についても「部分」として意匠登録を受けることができます。部分ではなく部品全体として意匠登録を受ける場合、通常の全体意匠と同様に出願すれば足ります。

全体意匠と部分意匠の例1(図面出願)

全体意匠(完成品・部品) 部分意匠
全体意匠の例(完成品・部品):図面出願 部分意匠の例:図面出願
【意匠に係る物品】
・完成品=ボールペン
・部品=筆記具用クリップ、ボールペン用替え芯
【意匠に係る物品】ボールペン
【意匠の説明】実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である。

 

全体意匠と部分意匠の例2(写真出願)

全体意匠(完成品・部品) 部分意匠
全体意匠の例(完成品・部品):写真出願 部分意匠の例:写真出願
【意匠に係る物品】
・完成品=ボールペン
・部品=ボールペン用替え芯
【意匠に係る物品】ボールペン
【意匠の説明】赤色で塗った部分以外の部分が、意匠登録を受けようとする部分である。

 


全体意匠と部分意匠のどちらで出願?

出願人により、あるいは弁理士により、考え方が異なるかもしれません。弊所では、主として、出願がはじめての中小企業様や個人事業主様からの案件が多く、予算(出願できる件数)も非常に限られた範囲での対応のことが多いです。このような状況下での経験からいえば、次のとおりです。

全体意匠か部分意匠かは、案件によると言わざるを得ません。たとえば、商品化する意匠そのものズバリを保護したい場合、全体意匠を検討します。審査において、意匠全体について、他社権利との抵触を確認できます(同一・類似のものがあれば拒絶されます)。一方、特に真似されたくない特徴部があれば、その箇所の部分意匠を検討します。費用的に許せば、様々な態様での権利取得が望まれます。

どちらの権利がよいかは、一概にはいえません。部分意匠で登録すると、登録を受けた部分の模倣は排除できますが、その部分が変更されてしまえば、侵害を問えないことになります。また、部分意匠の場合、物品等の一部についての権利として、侵害訴訟において、損害賠償額が低く算定されるおそれもあります。一方、全体意匠で登録すると、全体としての類否が問題となり、一部を模倣されても全体として非類似なら侵害を問えないことになります。

どちらが登録しやすいかも、一概にはいえません。基本的には全体意匠の方が登録しやすいと思いますが、全体意匠では通らないが部分意匠では通ることもあります。従来から知られた製品の一部だけを変更した場合、その変更部が特徴的なものでも、全体意匠では埋没して登録を受けられない場合がありますが、部分意匠としてなら登録を受けられる場合もあります。一方、部分意匠として出願した場合、全体としては非類似でも、部分意匠に係る部分が公知なら、登録を受けられません。

先行意匠としてどのようなものがあるのかも把握(調査)して、出願の仕方を決める必要があります。また、全体意匠と部分意匠の他、関連意匠の活用も考えられます。

全体意匠と部分意匠、通常意匠と関連意匠、物品の違いによる類否判断事例については、次のページをご覧ください。
 >部分意匠の類否と活用(関連意匠・全体意匠・非類似物品との関係)

 


部分意匠の出願割合

特許庁編「特許行政年次報告書2019年版」によれば、出願全体に占める部分意匠の出願件数割合は、42.3%です(2018年)。

 


部分意匠の出願方法

願書の【意匠に係る物品】の欄は、次のとおりです。たとえば、ボールペンの全体ではなく一部(クリップ部分)について意匠登録を受けようとする場合でも、物品名は、「ボールペン」となります。「ボールペンのクリップ部分」などにはなりません。

願書の【意匠の説明】の欄は、次のとおりです。たとえば、図面において、意匠登録を受けようとする部分を実線で、その他の部分を破線で描いた場合、「実線で表した部分が、意匠登録を受けようとする部分である」旨、記載します。

【図面】又は【写真】については、上記でご紹介のとおりです。図面において、実線と破線とで描き分けたり、写真において、一部を着色したりして、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」とが分かるようにします。

 


部分意匠とならない意匠

特許庁の意匠審査基準によれば、次のとおりです(2025年2月現在)。

【A】意匠登録出願は、意匠ごとにしなければなりません。一つの物品等の中に、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれている場合、原則として、意匠ごとにした意匠登録出願に該当しないと判断されます。

しかしながら、「形状等の一体性がある場合」や「機能的な一体性がある場合」などは、物理的に分離した二以上の「意匠登録を受けようとする部分」が含まれているものであっても、一意匠と取り扱われます。

部分意匠:一意匠と判断するものの例

 

【B】他の意匠と対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分であることが必要です。すなわち、「意匠登録を受けようとする部分」は、意匠に係る物品全体の形状等の中で、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分、すなわち、当該意匠の外観の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域でなければなりません。また、「意匠登録を受けようとする部分」と「その他の部分」の境界が明確でなければなりません。

(1) 他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断しないものの例

  • 「意匠登録を受けようとする部分」が稜線のみのもの
    稜線は面積を持たないものであるため、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当しない。
    【事例】「建築用コンクリートブロック」
    部分意匠とならない意匠:「意匠登録を受けようとする部分」が稜線のみのもの
  • 意匠に係る物品全体の形状等のシルエットのみを表したもの
    当該意匠の外観の形状等の中に含まれる一つの閉じられた領域とは認められないため、他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当しない。
    【事例】乗用自動車の側面を投影したシルエットのみを表したもの

(2) 他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断するものの例

  • 以下の事例は、いずれも「意匠登録を受けようとする部分」が包装用容器という物品全体の形状等の中で他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分である。
    【事例1】「包装用容器」 【事例2】「包装用容器」
    部分意匠:他の意匠との対比の対象となり得る一定の範囲を占める部分に該当すると判断するものの例

 


部分意匠の類否判断基準

部分意匠の類否判断では、単に部分意匠に係る部分の【形状等】だけでなく、物品等や部分の【用途】及び【機能】の他、部分意匠に係る部分の物品等全体に対する【位置】、【大きさ】、【範囲】も考慮されます。

 

特許庁の意匠審査基準によれば、部分意匠の場合、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断されます。

(1) 出願意匠と公知意匠の「意匠に係る物品等」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること

(2) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【用途】及び【機能】が同一又は類似であること

(3) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】と、公知意匠における「相当する部分」の当該物品等の全体の形状等の中での【位置】、【大きさ】、【範囲】とが、同一又は当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内のものであること

(4) 出願意匠の「意匠登録を受けようとする部分」と、公知意匠における「相当する部分」の【形状等】が同一又は類似であること

 

意匠審査基準における類否判断について、詳細は、「意匠の類否判断(意匠審査基準の読解)」をご覧ください。

 


部分意匠の類否判断事例

部分意匠について、類似か否かが争われた事件の例です。詳しくは、各リンク先をご覧ください。

また、全体意匠と部分意匠、通常意匠と関連意匠、物品の違いによる類否判断事例については、次のページをご覧ください。

 


部分意匠のご相談

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関連情報

 


(作成2025.02.15、最終更新2025.03.22)
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