つつみのおひなっこや事件(最高裁):結合商標の類否判断

つつみのおひなっこや事件:最高裁、平成19年(行ヒ)第223号、平成20年9月8日

本件商標が引用各商標と類似するか否かが争われた事件です。

最高裁まで争われ、結合商標の類否判断の仕方が示されました。

その最高裁判決を確認してみます。

なお、仙台市堤町(現仙台市青葉区堤町)で製造される堤焼の土人形として、「堤人形」があります。堤人形は、宮城の伝統的工芸品であります。

 

本件商標
(第4798358号)

引用各商標

引用商標1
(第2354191号)

引用商標2
(第2365147号)

つつみのおひなっこや事件:本件商標(第4798358号)

つつみのおひなっこや事件:引用商標1(第2354191号)

つつみのおひなっこや事件:引用商標2(第2365147号)

土人形および陶器製の人形

土人形

土人形

 


事件全体の流れ

(1)特許庁の無効審判

本件商標は、商標法4条1項8号、10号、11号、15号、16号、19号及び同法8条に違反して登録されたものと認めることはできないから、その登録を無効とすることはできない。

(2)差戻前の知財高裁

本件商標は商標法4条1項11号に該当するとして、審決を取消し

(3)最高裁

本件商標は商標法4条1項11号には該当しないとして、上記判決を破棄して事件を知財高裁に差戻し

(4)差戻後の知財高裁

商標法4条1項11号以外の原告主張の登録無効事由(同項8号、10号、15号、16号、19号)の存否について判断し、いずれにも該当しないとして、原告の請求を棄却

 


特許庁:無効2006-89030号

◆本件商標は引用各商標のいずれにも類似しないから法4条1項11号に該当しない。

◆審判請求人の主張するその余の無効理由も認められない。

 


知財高裁:平成18年(行ケ)第10532号、平成19年4月10日

◆特許庁がした審決を取り消す。

◆本件商標は、「堤」という土地・人物の「ひな人形屋」、あるいは「堤人形」の「ひな人形屋」との観念が生じる。したがって、本件商標は、「つつみ」と「おひなっこや」とが組み合わされた結合商標として認識されるものであるが、その構成において「つつみ」の文字部分を分離することができないほど一体性があるものと認めることはできないから、冒頭の「つつみ」の文字部分のみが分離して認識され、そこから、地名・人名としての「堤」、ないし堤人形の「堤」の観念を生じるとともに、「ツツミ」のみの称呼をも生じる。そうすると、本件商標と引用各商標は全体として類似する商標であると認められる。

 


最高裁:平成19年(行ヒ)第223号、平成20年9月8日

結論

◆【主文】知財高裁がした原判決を破棄する。本件を知財高裁に差し戻す。

◆原審の上記判断は是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

 

商標の類否判断の基本

法4条1項11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである。

 

◆氷山印事件の引用です。詳しくは、氷山印事件(最高裁):商標の類否判断をご覧ください。

 

結合商標の類否判断

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。

 

複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、次の場合などを除き、許されないというべきである。

 【場合1】その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合

 【場合2】それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合

 

本件についての具体的判断

(1)本件商標は、「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり、各文字の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから、「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない(前記【場合1】に当たらない。)

(2)本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名、人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても、本件審決当時、それを超えて、上記「つつみ」の文字部分が、本件指定商品の取引者や需要者に対し「引用各商標の商標権者が本件指定商品の出所である」旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできない(前記【場合1】に当たらない。)

(3)本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については、これに接した全国の本件指定商品の取引者、需要者は、ひな人形ないしそれに関係する物品の製造、販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても、「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから、新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると、上記部分は、土人形等に密接に関連する一般的、普遍的な文字であるとはいえず、自他商品を識別する機能がないということはできない(前記【場合2】に当たらない。)

(4)このほか、本件商標について、その構成中の「つつみ」の文字部分を取り出して観察することを正当化するような事情を見いだすことはできない。

(5)したがって、本件商標と引用各商標の類否を判断するに当たっては、その構成部分「全体」を対比するのが相当であり、本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分だけを引用各商標と比較して本件商標と引用各商標の類否を判断することは許されないというべきである。

本件商標と引用各商標は、本件商標を構成する10文字中3文字において共通性を見いだし得るにすぎず、その外観、称呼において異なるものであることは明らかであるから、いずれの商標からも堤人形に関係するものという観念が生じ得るとしても、全体として類似する商標であるということはできない。

 


関連事件

差戻後の知財高裁

  • 平成20年(行ケ)第10348号、平成21年1月27日

引用商標1について

  • 拒絶査定不服審判:昭和58-24600(請求成立:3条2項)
  • 無効審判:無効2007-890027(請求不成立)
  • 不使用取消審判:取消2009-300474(請求不成立)

引用商標2について

  • 拒絶査定不服審判:昭和58-24601(請求成立:3条2項)
  • 不使用取消審判:取消2008-300294(請求不成立)

 


(作成2022.09.19、最終更新2022.09.19)
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