物品、建築物、画像の美的な外観・デザインは「意匠(いしょう)」と呼ばれ、その実施を独占したい場合、特許庁に「意匠登録」する必要があります。美的といっても、芸術的な美しさは必要なく、工業製品であっても、意匠登録の対象となります。
同程度の機能、品質、価格ならば、需要者はデザイン的に優れた方を選択すると考えられます。意匠登録出願せずに、市場に出してしまうと、すぐに他社に真似されるかもしれません。意匠は、見てすぐ分かるので、非常に模倣され易いといえます。真似されたくなければ、意匠登録する必要があります。
以下、意匠登録とは何か、意匠とは何か、出願の態様・種別(全体意匠・部分意匠・関連意匠・動的意匠・秘密意匠など)、意匠登録出願から登録までの流れ、意匠登録されるための要件、審査期間、登録費用、出願時の注意点などについて、わかりやすく解説します。
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- 本ページの解説動画:意匠登録とは・意匠権の取り方【動画】
- 参考文献:特許庁『意匠審査基準』
目次
- 意匠登録とは?
- 意匠とは?
>(a) 物品の意匠
>(b) 建築物の意匠
>(c) 画像の意匠 - 意匠登録出願の態様・種別
>(a) 全体意匠
>(b) 部分意匠
>(c) 関連意匠
>(d) 動的意匠
>(e) 秘密意匠
>(f) 組物の意匠
>(g) 内装の意匠 - 意匠登録出願から登録までの流れ
- 意匠登録要件
- 意匠の審査期間
- 意匠登録費用
- 意匠登録出願の注意点
- 意匠登録に関するご相談
- 関連情報
意匠登録とは?
意匠登録とは、物品・建築物・画像の美的な外観・デザインについて、意匠登録出願し審査をパスすることで得られる特許庁への登録をいいます。
意匠登録されることで意匠権を得られ、意匠権者は、登録意匠のみならず、これに類似する意匠についても、独占排他的に実施(製造販売等)することができます。類似範囲は、関連意匠制度を利用して確認することもできます(関連意匠として登録されるなら類似)。
権利侵害に対しては、差止請求権や損害賠償請求権などを行使することができます。また、意匠権を侵害した場合には、刑事罰が科される場合もあります。
意匠権の存続期間は、原則として、出願日から25年をもって終了します。
- 意匠登録の例(どのようなものを意匠登録できるのか)
意匠とは?
意匠法の保護対象は、「意匠(いしょう)」です。
意匠とは、物品・建築物・画像の美的な外観・デザインをいいます。より具体的には、意匠とは、下記(a)~(c)のように、物品の形状等、建築物の形状等、又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます。
(a) 物品の意匠
- 物品の形状、模様、色彩、又はこれらの結合(物品の部分を含む。)
- 物品の意匠の例: まんじゅう、ケーキ、Tシャツ、帽子、傘、メガネ、靴、かばん、家具、鍋、コップ、ナイフ、レンチ、スパナ、ネジ、キャスター、包装容器、時計、置物、造花、自動車用品、バイク用品、自転車用品、スマホケース、楽器、文具、おもちゃ、スポーツ用品、釣り具、化粧道具、医療器具、建具、大工道具、土木用品、園芸用品、ペット用品 など
(b) 建築物の意匠
- 建築物の形状、模様、色彩、又はこれらの結合(建築物の部分を含む。)
- 令和元年の意匠法改正により、建築物も、意匠登録の対象となりました。
- 意匠法の保護対象となる建築物は、「土地の定着物であること」、「人工構造物であること(土木構造物を含む)」が必要です。
- 建築物の意匠の例: 住宅、校舎、体育館、オフィス、ホテル、百貨店、病院、博物館、橋りょう、ガスタンク、学校、商業用建築物、複合建築物 など
(c) 画像の意匠
- 画像(機器の操作の用に供されるもの、又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限る。画像の部分を含む。)
- 令和元年の意匠法改正により、物品から離れた画像それ自体も、意匠登録の対象となりました。
- パソコン、スマホ、タブレットの他、各種装置の液晶画面やタッチパネルなどに表示される画像を保護できます。
- デスクトップ画面の壁紙等の装飾的な画像、映画やゲーム等のコンテンツ画像は、保護対象ではありません。
- 意匠法の保護対象となる画像には、以下のものがあります。
(c1) 画像意匠(物品から離れた画像自体)
◆操作画像(機器の操作の用に供される画像)
◆表示画像(機器がその機能を発揮した結果として表示される画像)
◆画像意匠の例: 情報表示用画像、コンテンツ視聴操作用画像、取引用画像、学習用画像、音量設定用画像、数値入力用画像、インジケーター用画像、トグルボタン用画像、スクロールバー用画像、チェックボックス用画像、ツールバー用画像、ドロップダウンリスト用画像、テキストボックス用画像、プログレスバー用画像、アイコン用画像、タブ用画像 など
(c2) 物品等の部分に画像を含む意匠
◆物品の機能を発揮するための操作画像(画像を表示する物品の機能を発揮できる状態にするための操作の用に供されるもの)
◆物品の機能にとって必要な表示画像(画像を表示する物品の機能を果たすために必要な表示を行うもの)
意匠登録出願の態様・種別
以下、「物品の意匠」を例に説明しますが、「建築物の意匠」や「画像の意匠」についても同様です。つまり、建築物や画像の意匠についても、部分意匠や関連意匠などの出願が可能です。
(a) 全体意匠(完成品・部品)
完成品について
部品について
(b) 部分意匠(物品等の一部)
(c) 関連意匠
- 関連意匠とは、自己の出願意匠又は登録意匠のうちから選択した一の意匠(本意匠)に類似する意匠をいいます。
- 同一人が互いに類似する意匠について意匠登録を受けようとする場合、一を本意匠とし、他を関連意匠として出願します。
- 関連意匠を出願できる期間は、本意匠が消滅等していないことを条件に、基礎意匠(最初に選択した本意匠)の出願日から10年を経過する日前までです。
- 関連意匠の意匠権の存続期間は、その基礎意匠の出願日から25年です。
- 関連意匠制度を活用して、類似範囲の確認や拡張ができます。
- 関連意匠制度とは?
- 関連意匠登録のメリット
- 関連意匠の例(実際の登録例)
下図において、黒・青・緑のそれぞれについて、中心点は登録意匠そのものを示し、それを取り囲む円は類似範囲を示しています。黒の意匠Oを登録後、その類似範囲内(つまり黒の円内)にある青の意匠Aについて、黒の意匠Oを本意匠として関連意匠の意匠登録を受けることができます。青の意匠Aと類似する緑の意匠Bについて、青の意匠Aを本意匠として関連意匠の意匠登録を受けることができます。最初に本意匠として選択した意匠Oを「基礎意匠」といいます。
(d) 動的意匠(物品等の機能に基づく一連の変化)
たとえば、ボールペンの軸部が伸縮する場合、その変化の前後にわたる形状について動的意匠の意匠登録を受けることができます。
(e) 秘密意匠(登録されても指定期間だけ非公開)
秘密意匠は、意匠登録されても、指定期間だけ、登録意匠の内容が公報に掲載されないので、模倣を防止できると共に、製品発売まで斬新性を保つことができます。
(f) 組物の意匠(同時に使用され統一感のある複数物品等)
たとえば、ボールペンと シャープペンシルとにより「一組の事務用品セット」として、意匠登録を受けることができます。
(g) 内装の意匠(統一感のある内装)
たとえば、カフェの内装、自動車ショールームの内装、観光列車の内装などです。
意匠登録出願から登録までの流れ
意匠登録出願から登録までの流れは、典型的には次のとおりです(pdf:意匠登録手続の流れ図(フローチャート))。
- 意匠登録出願
- 審査(登録できない場合には拒絶理由通知が出され、出願人に反論の機会あり)
- 登録査定(登録する旨の通知)
- 設定登録料納付(意匠権を維持するには毎年登録料の支払いが必要でその第1年分の前払い)
- 意匠登録(意匠権の設定登録)
より具体的に述べると、次のとおりです。すなわち、意匠登録を受けたい場合、特許庁に意匠登録出願します。その後、出願は、審査官による実体審査に付されます。審査において、審査官は、所定の拒絶理由を発見した場合、出願人に拒絶理由を通知し反論の機会を与えます。拒絶理由通知に対し出願人が応答しないか、応答しても拒絶理由が解消しない場合、拒絶査定がなされます。拒絶査定に対しては、審判や訴訟で争うことができます。一方、拒絶理由を発見しないか、拒絶理由が解消した場合、登録査定がなされます。出願人が設定登録料(第1年分の登録料)を納付することで、意匠権の設定登録がなされます。
詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
- 意匠登録出願から登録までの流れ(【解説動画】へのリンクあり)
- 意匠出願書類の例
- 意匠図面の例(図面で意匠登録出願)
- 意匠写真の例(写真で意匠登録出願)
意匠登録要件
意匠登録出願の審査では、所定の登録要件を満たしているかが審査されます。
代表的な登録要件として、次のものがあります。
- 新規性があるか(出願前に公知・刊行物記載等された意匠と同一・類似でないか)
- 創作非容易性を有するか(容易に創作することができないものか)
- 先願(せんがん)か否か、つまり最先の出願か否か(わが国では「創作」の先後ではなく、「出願」の先後にて一日でも早く出願した者に意匠権が付与されます)
詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
- 意匠登録出願から登録までの流れの「特許庁における審査」の「(1)登録要件(工業上利用性・新規性・創作非容易性・先願など)」(【解説動画】へのリンクあり)
- 意匠の新規性
- 意匠の創作非容易性
- 意匠法第3条の2(先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護除外)
- 意匠の先願要件
- 意匠の類否(類似/非類似)(意匠が類似するか否か)
- 意匠の類否判断事例(意匠の類似/非類似を事例で確認)
意匠の審査期間
「出願」から「登録査定又は拒絶理由通知書」が出願人等へ発送されるまでの期間は、平均6.5か月です(2021年)。
所定の場合、審査を早めてもらうことができ、その場合は、2.3か月です。
詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
意匠登録費用
特許庁に支払う費用は、意匠登録費用(意匠の出願から登録までの費用)をご覧ください。
出願手続を特許事務所の弁理士にご依頼される場合、別途、代理人費用がかかります。代理人費用は、現在自由化されており、事務所により異なります。
小山特許事務所にご依頼いただいた場合、出願時の弊所手数料は、次のとおりです。
- 現物で出願できる場合=税込14,850円(税抜13,500円)
- 図面又は写真で出願する場合=税込55,000円(税抜50,000円)~
※出願対象により異なります。図面代・写真代込みの料金です。
※お客様において図面又は写真をご用意いただける場合は減額します。どのような図面又は写真が必要かはご相談いただけます。 - 登録時に、別途、税込11,000円(税抜10,000円)が必要です。
- 詳しくは、意匠登録費用【事務所版】をご覧ください。
意匠登録出願の注意点
(1)意匠登録出願を完了するまで、そのデザインをむやみに開示するのは危険です。権利がとれなくなったり、デザインを盗まれたりするおそれがあるからです。原則として、製品を市場に出したり、デザインを第三者に開示する前に、まずは意匠登録出願が必要です。但し、所定の場合、例外規定の適用を受けることができる場合もあります。既に公開後の場合、それ以上の公開を控え、早めにご相談ください。
(2)意匠登録は、「創作」の先後ではなく、「出願」の先後にて、一日でも早く特許庁へ出願した者に付与されます。そのため、できるだけ早く出願することが必要です。
(3)典型的には六面図により意匠を特定して出願しますが、もし各図が相互に整合せず、意匠の内容を特定できない場合、出願は拒絶されます。そのため、図面の作成には、出願当初から万全を期す必要があります。出願日を基準に審査される関係上、出願後の図面の修正は非常に困難です。
意匠登録に関するご相談
◆意匠登録に関するご相談・ご依頼は、特許事務所の弁理士が適任です。特許事務所や弁理士を探される場合、次のページをご覧ください。
◆小山特許事務所では、無料の意匠登録相談を実施しています。お問合せのページからお気軽にご連絡ください。詳しくは、次のページをご覧ください。
- 意匠登録相談(直接面談・リモート面談)
◆弁護士・弁理士以外は、出願代理することができません。無資格で代理すれば、弁理士法違反で処罰されます。
関連情報
(作成2021.05.10、最終更新2023.05.20)
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