目次
意匠の新規性とは
意匠の新規性とは、意匠が客観的に新しいことをいいます。
特許庁への意匠登録の要件として、新規性が要求されます。
出願前に公知の意匠については、原則として、意匠登録を受けることができません。
新規性のない意匠
次の意匠は、新規性がありません。
- 【公知】意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠
- 【文献公知】意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠
- 【インターネット公知】意匠登録出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
- 【上記の類似意匠】上記各意匠に類似する意匠
なお、上記の【公知】【文献公知】【インターネット公知】の意匠をまとめて、「公知意匠」といいます。
「公知意匠」と同一・類似の意匠は、出願しても意匠登録を受けることができません。
特許の場合、先行技術と同一の発明についてのみ新規性ナシとし、(先行技術と同一ではないが)先行技術から容易にすることができるものは進歩性ナシとしますが、意匠の場合、同一のみならず類似についても、新しい創作ではないとして、新規性ナシとなります。なお、意匠の登録要件には、新規性以外にも、創作非容易性などもあります。
公知意匠が自分の創作意匠である場合
公知意匠が他人の創作意匠である場合はもちろん、自分の創作意匠である場合も、その公知意匠と同一・類似の意匠については、出願しても意匠登録を受けることができません。
つまり、仮に自分が創作したものであっても、出願前に公知となった意匠については、原則として、意匠登録を受けることができません。
そのため、原則として、商品を市場に出したり、デザインを第三者に開示したりする前に、まずは意匠登録出願が必要です。
但し、所定の場合、例外規定の適用を受けることができる場合もあります。
新規性の判断
特許庁編「意匠審査基準」(令和3年3月31日改訂版)には、「新規性の判断の基礎となる考え方」が記載されています。弊所において編集・加工したものをご紹介いたします。
出願意匠と公知意匠とを対比し、両意匠が同一であると認められる場合は、出願意匠は新規性を有していません。
出願意匠と公知意匠とを対比し、両意匠が同一でなくても(つまり差異があっても)、両意匠が類似すると認められる場合は、出願意匠は新規性を有していません。
公知意匠について
刊行物に記載される等して公知となった物品等に係る意匠はもちろんのこと、その物品等の中に含まれる、その物品等とは非類似の物品等に係る意匠(例えば部品に係る意匠)であっても、当該意匠自体の具体的な形状等を認識できるものについては、新規性の判断の基礎とする資料として取り扱われます。そのため、完成品が公知になった後に、その部品について出願しても、新規性がないとして意匠登録を受けられないことがあります。
また、意匠公報に掲載された物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の「意匠登録を受けようとする部分」以外の「その他の部分」において、意匠に係る物品等の具体的な形状等を識別できるものについても同様に、新規性等の判断の基礎とする資料として取り扱われます。そのため、公知意匠が部分意匠の意匠登録であって、「意匠登録を受けようとする部分」が実線で示され、「その他の部分」が破線で示される場合において、その部分意匠の登録公報発行後に出願された意匠については、実線部だけでなく破線部も根拠に、新規性がないとして意匠登録を受けられないことがあります。
類否判断について
意匠登録出願の審査において、意匠が類似するか否かの判断(類否判断)は、特許庁の意匠審査基準に基づき行われます。
詳しくは、次のリンク先をご覧ください。
新規性喪失の例外
上述したとおり、意匠登録出願前に公知意匠となった意匠や、その類似意匠については、原則として意匠登録を受けることができません。
しかしながら、所定の場合、例外規定の適用を受けることで、登録を受けられる場合があります。
最初の公開から1年以内に出願し、所定の証明書を提出するなどの要件を満たせば、公開意匠は公知意匠ではないとみなされます。
しかしながら、下記のようなデメリットがありますから、できるだけ例外規定の適用を受けずに、公開前に出願することが原則となります。
- 例外規定の適用を受けるために、余分な手続(特許事務所にご依頼の場合は余分な費用)が必要となる。
- 第三者がたまたま独自に同一・類似の意匠を創作して出願・公開した場合には、自分が先に創作し公開した意匠であっても、意匠登録を受けることができなくなる。
- 後日の関連意匠制度の活用に制約が生じるおそれがある。
- 後日の外国での権利取得の際、不利になる可能性がある。
関連条文
意匠法
(意匠登録の要件)
第3条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠
2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、同項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
(意匠の新規性の喪失の例外)
第4条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、同条第1項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から1年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同項及び同条第2項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を意匠登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第3条第1項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠が前項の規定の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を意匠登録出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。
4 証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなつた日から14日(在外者にあつては、2月)以内でその期間の経過後6月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。
関連情報
(作成2022.01.12、最終更新2022.07.03)
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