意匠審決の読解14(類否判断事例)

【14】不服2022-18640

意願2021-28301「傘」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法第3条第1項第3号(新規性)

【弊所メモ】部分意匠、基本的構成態様、略S字状と略直線状、対称形と非対称形、縁取りの有無、稜線が視認できるか不明か、底面視の態様が視認できるか不明か、時計回りと反時計回り、本願出願前より公然知られている状況、類否判断に与える影響、本願出願前より普通に見られる、ごく一般的に見受けられる比率、通常の使用の状態において見えやすい部分に係る相違、しなやかな印象と無機的な印象、相違をより際だたせる視覚的効果

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1 本願意匠及び引用意匠の対比

(1)意匠に係る物品

 いずれも、雨、雪或いは日差し等を避けるために頭上にかざして用いる傘であり、意匠に係る物品は一致する。

(2)両意匠部分の用途及び機能

 いずれも、本願意匠において破線で表現された部分を除いた傘地部分であり、両意匠部分の用途及び機能は一致する。

(3)両意匠部分の位置、大きさ、及び範囲

 いずれも、破線で描かれた以下の各部分、すなわちハンドル部、シャフト部、石突き部、親骨部及び露先部を除いた傘地の部分であり、位置、大きさ、及び範囲は共通する。

(4)両意匠部分の形状等

 (共通点1) 全体に係る基本的構成態様は、平面視において8枚の花弁状の生地が石突き近傍から斜め放射状に配され、隣接する生地の側面に一部が重なるよう構成された形状である点。

 (共通点2) 生地は、外側端部の露先部の近傍が緩やかな曲線で構成され、露先部に向かい凸条をなす花びらを想起させる形状である点。

 (共通点3) 側面視において、横幅全長に対する高さの比率を略10:3とする緩やかに湾曲したドーム状の表面を形成している点。

 

 (相違点1) 本願意匠の生地の輪郭は、平面視中央部が略S字状に湾曲し、露先部付近が左右対称で、剣弁を有する蓮の花びらのように湾曲している。それに対し、引用意匠の生地の輪郭は、平面視中央部が略直線状をなし、中央部から露先部にかけて左側に凸状に湾曲し、露先部付近の右側は直線状であって露先部付近は非対称形となっている点。

 (相違点2) 本願意匠は、生地の外縁部が縁取りされて2重線状に表されているのに対し、引用意匠には縁取りはない点。

 (相違点3) 本願意匠は、生地の中央部に生地の裏側に位置する親骨から表れる直線状の稜線が視認できるのに対し、引用意匠は稜線の有無が不明である点。

 (相違点4) 本願意匠は、底面視における傘地の態様や意匠登録を受けようとする部分以外の親骨の構成配置まで視認できるのに対し、引用意匠は底面視の態様が不明である点。

 (相違点5) 本願意匠は、平面視において生地が重なるように配されている部分に着目すると、時計回りの規則性で構成されているのに対し、引用意匠は、生地が重なるように配されている部分に着目すると、反時計回りの規則性で構成されている点。

 

2 類否判断

(1)意匠に係る物品

 両意匠の意匠に係る物品は、ともに、雨、雪或いは日差し等を避けるために頭上にかざして用いる傘であり、同一である。

(2)両意匠部分の用途及び機能、並びに位置、大きさ、及び範囲

 両意匠部分の用途及び機能、位置、大きさ、及び範囲は共通する。

(3)両意匠部分の形状等の共通点及び相違点の評価

 ア 共通点の評価

 (共通点1)について、両意匠部分に共通する基本的構成態様については、傘地全体の形状や生地の構成配置を概括的に捉えた場合における共通性に止まり、傘地を花弁状とした傘が本願出願前より公然知られている状況にあっては、両意匠部分の類否判断に与える影響は小さい

 (共通点2)及び(共通点3)についても、例を挙げるまでもなく外側端部を花びら状とした傘は本願出願前より普通に見られ、傘地表面の曲率もごく一般的に見受けられる比率であることから、これら共通点が、両意匠部分の類否判断に与える影響は小さい。

 

イ 相違点の評価

 (相違点1)について、傘地の表面の形状等は通常の使用の状態において見えやすい部分に係る相違であることを前提に、

 本願意匠において平面視中央部から右側に湾曲した後に露先部に向かい左側に湾曲した略S字状の輪郭線をなし、露先部付近は緩やかな湾曲線で対称形の輪郭とした態様は、花びらを強く想起させ、しなやかな印象を与えるのに対し、

 引用意匠の生地は、平面視中央部は略直線状で、露先にかけて左側に湾曲しつつ露先部に至り、露先部付近は非対称形をなしている点において、直線を用いた無機的な印象を看取させるもので、

 相互に視覚的印象が大きく異なり、この相違が両意匠部分の類否判断に与える影響は非常に大きい。

 

 (相違点2)について、上記(相違点1)の評価で挙げた生地の輪郭形状の相違をより際だたせる視覚的効果をもたらすので、両意匠部分の類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。

 

 (相違点3)ないし(相違点5)について、何れの相違もこの物品が属する分野において本願出願前より一般的に見られる態様に基づく相違であり、これら相違が両意匠部分の類否判断に与える影響は僅かに止まる。

 

(4)両意匠部分の形状等の類否判断

 両意匠部分の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠部分全体として総合的に観察し判断した場合、(共通点1)ないし(共通点3)が類否判断に与える影響は小さいのに対して、(相違点3)ないし(相違点5)については類否判断に与える影響は僅かに止まるものの、(相違点1)が類否判断に与える影響は非常に大きく、相違点(相違点2)も類否判断に一定程度の影響を与えるものといえる。

 したがって、両意匠部分の形状等を総合的に観察した場合、共通点に比べて、相違点がもたらす影響の方が大きいものであるから、両意匠部分の形状等は類似しない。

 


関連情報

 


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(作成2024.02.02、最終更新2024.02.02)

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