可撓伸縮ホース事件(最高裁)の「意匠自体」とは?

可撓伸縮ホース事件(最高裁)のさらなる検討

以前、可撓伸縮ホース事件(最高裁)について、確認してみました。

その判決文中に、次の記載があります。

意匠は物品と一体をなすものであるから、登録出願前に日本国内若しくは外国において公然知られた意匠又は登録出願前に日本国内若しくは外国において頒布された刊行物に記載された意匠と同一又は類似の意匠であることを理由として、法3条1項により登録を拒絶するためには、まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、更に、意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。

さて、意匠とは、物品の形状等(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)をいいます(2条1項)。

そのため、判決文中の「意匠自体」とは、「物品+形状等」をいうのか、「形状等(形態)」をいうのか、多少疑問が残ります。

この点について、弊所なりに考えてみたいと思います。

 

まず、ここでは、「公知意匠と同一又は類似の意匠である」として拒絶される要件について述べています。意匠が同一又は類似と認められる要件についての話です。

そして、その要件は、
・まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、
・更に、「意匠自体」においても同一又は類似と認められるものでなければならない、
とのことです。

 

さて、仮に、「意匠自体」が「意匠(物品+形状等)」とするなら、意匠が同一又は類似と認められるためには、「意匠が同一又は類似と認められるものでなければならない」ということになり、問いに問で返すことになりそうです。

 

ここでは、既に物品についての検討を終えた上で、「意匠」ではなく「意匠自体」としていることもあり、「意匠自体」とは「形状等」と考えてよいのではないかと思います。

その場合、意匠が同一又は類似と認められる要件は、
・まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし、
・更に、「形状等」においても同一又は類似と認められるものでなければならない、
ということになります。

 

物品が同一又は類似であるかを判断した後、形状等が同一又は類似かを判断する際、物品が何であるか(使用状態等)を考慮することはあっても、あくまで形状等についての類否判断です。

特許庁の審査基準や各種審決の構成とも合致するのではないかと思います。たとえば、意匠審査基準「第III部 第2章 第1節 新規性」には、次の記載があります。

意匠審査基準「2.2.2 類否判断の手法」
意匠は、物品等と形状等が一体不可分のものであるから、対比する両意匠の意匠に係る物品等が同一又は類似でなければ意匠の類似は生じない。したがって、審査官は、対比する両意匠が以下の全てに該当する場合に限り、両意匠は類似すると判断する。…
(1)出願された意匠が物品等の全体について意匠登録を受けようとするものである場合
 ① 出願された意匠と公知意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能が同一又は類似であること
 ② 出願された意匠と公知意匠の形状等が同一又は類似であること
 なお、上記①及び②がいずれも同一の場合、両意匠は同一と判断する。

ただ、結局は、意匠全体として類否判断しますから、「意匠自体」の解釈がどうであれ、類否判断の結論は変わらないです。

 

なお、意匠登録出願の願書においても、【意匠に係る物品の説明】と【意匠の説明】とに分けられており、【意匠の説明】は、主として形態面の説明欄となっています(意匠法第6条、施行規則第2条様式第2)。つまり、【意匠の説明】の「意匠」とは、主として「形態(形状等)」となっています。

 


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(作成2024.02.03、最終更新2024.02.25)
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