意匠の創作非容易性(意匠審査基準の読解)

意匠の創作非容易性に関する意匠審査基準

意匠の創作非容易性について、特許庁編『意匠審査基準』(令和3年3月改訂版)を確認してみます。下記において、意匠審査基準の記載そのままではありません。弊所において、編集・加工を行っています。本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、「特許庁編『意匠審査基準』のご案内」から、特許庁ホームページにてご確認ください。

 

目次

第III部 第2章 新規性・創作非容易性

第2節 創作非容易性

1. 概要

2. 創作非容易性の判断主体

3. 創作非容易性の判断に係る基本的な考え方

4. 創作非容易性の具体的な判断
4.1 創作非容易性の判断の基礎とする資料
4.2 ありふれた手法と軽微な改変
 4.2.1 ありふれた手法の例
 (a)置き換え(→6.1
 (b)寄せ集め(→6.2
 (c)一部の構成の単なる削除(→6.3
 (d)配置の変更(→6.4
 (e)構成比率の変更(→6.5
 (f)連続する単位の数の増減(→6.6
 (g)物品等の枠を超えた構成の利用・転用(→6.7
 4.2.2 軽微な改変の例
 (a)角部及び縁部の単純な隅丸化又は面取り
 (b)模様等の単純な削除
 (c)色彩の単純な変更、区画ごとの単純な彩色、要求機能に基づく標準的な彩色
 (d)素材の単純な変更によって生じる形状等の変更
4.3 当業者の立場から見た意匠の着想の新しさや独創性について

5. 創作非容易性の判断の基礎となる資料の提示
5.1 出願前に公知となった構成要素や具体的態様等の提示
5.2 当該分野においてありふれた手法等であることの提示

6. 創作容易な意匠の事例(創作非容易性判断の具体例)
6.1 置き換えの意匠
6.2 寄せ集めの意匠
6.3 一部の構成の単なる削除による意匠
6.4 配置の変更による意匠
6.5 構成比率の変更による意匠
6.6 連続する単位の数の増減による意匠
6.7 物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠

その他
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関連情報

 


第III部 第2章 新規性・創作非容易性

第2節 創作非容易性

1. 概要

◆意匠法第3条第2項は、当業者が容易に創作をすることができる意匠については、意匠登録を認めない旨を規定する(創作非容易性)。

◇「当業者」とは、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者をいう。

新規性がある場合にのみ、創作非容易性について判断する。

 

2. 創作非容易性の判断主体

◆創作非容易性については、当業者の視点から検討及び判断する。

◆「当業者」とは、その意匠に係る物品を製造・販売する業界において、当該意匠登録出願時に、その業界の意匠に関して、通常の知識を有する者をいう。

 

3. 創作非容易性の判断に係る基本的な考え方

意匠登録出願前に、当業者が公知となった「形状等又は画像」に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠については意匠登録を受けることができない。

◇「公知となった」とは、日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったことをいう。

◇「形状等」とは、「形状、模様若しくは色彩」又は「これらの結合」をいう。

◆出願意匠が、出願前に公知となった「構成要素や具体的態様」を基礎とし、例えばこれらの単なる【寄せ集め】や【置き換え】といった、【当該分野におけるありふれた手法】などにより創作されたにすぎないものである場合は、創作容易な意匠である。

◇「構成要素や具体的態様」とは、形状等、画像又は意匠をいう。

◆出願意匠において、出願前に公知となった「構成要素や具体的態様」が【ほとんどそのままあらわされている場合】に加えて、改変が加えられている場合であっても、当該改変が【その意匠の属する分野における軽微な改変にすぎない場合】は、なおも創作容易な意匠である(→4.2)。

◆ただし、当業者の立場からみた意匠の【着想の新しさ】や【独創性】が認められる場合には、その点についても考慮して判断する(→4.3)。

◆部分意匠の場合、その創作非容易性の判断にあたり、「意匠登録を受けようとする部分」の【形状等】や【用途】及び【機能】を考慮するとともに、「意匠登録を受けようとする部分」の【位置】【大きさ】【範囲】が当業者にとって容易であるか否かについても考慮して判断する。

 

4. 創作非容易性の具体的な判断

4.1 創作非容易性の判断の基礎とする資料

◆以下の資料を、創作非容易性の判断の基礎とすることができる。

  • 国内外において【公然知られた】「形状等又は画像」
  • 国内外において【頒布された刊行物に記載された】「形状等又は画像」
  • 国内外において【電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった】「形状等又は画像」

◆形状等が刊行物等に記載される場合は、それ自体単独で表されることはほとんどなく、物品等と一体的な状態で表されることが多い。そのような場合でも、「形状等又は画像」が具体的に識別できる場合は、それらの構成要素(【形状等又は画像】)を、創作非容易性の判断の基礎とすることができる。

◆上記の資料には、「形状等又は画像」が、物品等と一体となった【意匠】も含まれる。

◆創作非容易性の判断の基礎とする資料は、出願された意匠と同一又は類似の分野に限られない

 

4.2 ありふれた手法と軽微な改変

4.2.1 ありふれた手法の例

◆出願意匠が、出願前公知の「構成要素や具体的態様」を基本として創作されたものであると判断した場合、その意匠の属する分野における【ありふれた手法】により創作されたものか否かを検討する。

◆多くの物品等の分野に共通する主な【ありふれた手法】の例は以下のとおりであるが、当該意匠の属する分野の創作の実態に照らして検討を行う。

(a)置き換え(→6.1
 意匠の構成要素の一部を他の意匠等に置き換えることをいう。

(b)寄せ集め(→6.2
 複数の既存の意匠等を組み合わせて、一の意匠を構成することをいう。

(c)一部の構成の単なる削除(→6.3
 意匠の創作の一単位として認められる部分を、単純に削除することをいう。

(d)配置の変更(→6.4
 意匠の構成要素の配置を、単に変更することをいう。

(e)構成比率の変更(→6.5
 意匠の特徴を保ったまま、大きさを拡大・縮小したり、縦横比などの比率を変更することをいう。

(f)連続する単位の数の増減(→6.6
 繰り返し表される意匠の創作の一単位を、増減させることをいう。

(g)物品等の枠を超えた構成の利用・転用(→6.7
 既存の様々なものをモチーフとし、ほとんどそのままの形状等で種々の物品に利用・転用することをいう。

 

4.2.2 軽微な改変の例

◆上記4.2.1の判断に関し、出願意匠において、出願前公知の「構成要素や具体的態様」がありふれた手法などにより「そのままあらわされている」のではなく、それらの「構成要素や具体的態様」に「改変が加えられた上であらわされている」場合は、当該改変が、その意匠の属する分野における【軽微な改変】にすぎないものであるか否かを検討する。

◆【軽微な改変】の例は以下のとおりであるが、当該意匠の属する分野の創作の実態に照らして検討を行う。

(a)角部及び縁部の単純な隅丸化又は面取り

(b)模様等の単純な削除

(c)色彩の単純な変更、区画ごとの単純な彩色、要求機能に基づく標準的な彩色

(d)素材の単純な変更によって生じる形状等の変更

 

4.3 当業者の立場から見た意匠の着想の新しさや独創性について

◆創作非容易性を検討する際、意匠「全体が呈する美感」や「各部の態様」等、意匠の視覚的な特徴として現れるものであって、独自の創意工夫に基づく当業者の立場からみた意匠の【着想の新しさ】や【独創性】が認められる場合には、その点についても考慮する。

◆ただし、特徴記載書や意見書の記載を参酌する場合は、出願当初の願書の記載及び図面等から導き出される範囲のものについてのみ考慮する

 

5. 創作非容易性の判断の基礎となる資料の提示

5.1 出願前に公知となった構成要素や具体的態様等の提示

【公然知られ】、【頒布された刊行物に記載され】、又は【電気通信回線を通じて公衆に利用可能】となった「形状等、画像又は意匠」を創作非容易性の判断の基礎となる資料とする場合には、当該意匠が記載された刊行物の書誌事項及び当該意匠の掲載ページ等を拒絶理由通知書に記載して意匠登録出願人に当該意匠を提示することが必要である。

広く知られた「形状等、画像又は意匠」を創作非容易性の判断の基礎となる資料とする場合については、証拠の提示を要さない

 

5.2 当該分野においてありふれた手法等であることの提示

◆意匠法第3条第2項の規定により拒絶理由を通知する場合、原則、出願意匠の創作手法が、当該分野における【ありふれた手法】や【軽微な改変】などにすぎないものであることを示す具体的な事実を出願人に提示することが必要である。

その手法が当該分野において【ありふれたものであること】や【軽微な改変等にすぎないこと】が、顕著な事実と認められる場合、例えば、玩具の分野において、本物の自動車の形状等をほとんどそのまま自動車おもちゃの意匠に転用するという手法等の場合には、必ずしもその提示を要さない

 

6. 創作容易な意匠の事例

◆以下に示す各事例は、いずれも新規性を有するものと仮定した場合における、創作非容易性の判断手法を模式的に表したものである。

 

6.1 置き換えの意匠

【事例1】「なべ」
公知のなべの蓋を、ほとんどそのまま他のなべ用蓋に置き換えて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-1-1:置き換えの意匠1「なべ」

(注)本事例は、なべの分野において、蓋部を他のなべ用蓋に置き換えることが、ありふれた手法であり、かつ、出願意匠において当業者の立場からみた意匠の着想の新しさや独創性が見受けられないと仮定した場合の例である。出願意匠が新規性を有するものと仮定して、創作非容易性の判断手法を模式的に表している。(以下の各事例についても、審査基準には同様の(注)が付されている。

 

【事例2】「帽子」
公知の帽子のワッペン部を、他のワッペンに置き換えて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-1-2:置き換えの意匠2「帽子」
なお、帽子本体及びワッペンの色彩を変更したものである場合であっても、当該変更が帽子の分野における軽微な改変と判断される場合は、創作容易な意匠であると判断する。

意匠の創作非容易性の例6-1-2b:置き換えの意匠2´「帽子」

 

【事例3】「テーブル」
公知のテーブルの脚部を、他のテーブルの脚にほとんどそのまま置き換えて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-1-3:置き換えの意匠3「テーブル」

 

【事例4】「調理台」
公知の調理台のシンク部を他のシンクに置き換えて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-1-4:置き換えの意匠4「調理台」
なお、扉部の色彩を変更したものである場合であっても、当該色彩の変更が調理台の分野における軽微な改変と判断される場合は、創作容易な意匠であると判断する。

意匠の創作非容易性の例6-1-4b:置き換えの意匠4´「調理台」

 

【事例5】「包装用容器」
公知の包装用容器の模様部を、他の模様に置き換えて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-1-5:置き換えの意匠5「包装用容器」

 

6.2 寄せ集めの意匠

【事例1】「キーホルダー」
公知の「キーホルダー用下げ飾り」と「キーホルダー用金具」を寄せ集めて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-2-1:寄せ集めの意匠1「キーホルダー」

 

【事例2】「包装用容器」
公知の「包装用容器」と、公知の「包装用容器の窓部」を寄せ集めて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-2-2:寄せ集めの意匠2「包装用容器」

 

【事例3】「スピーカーボックス」
公知のスピーカーを寄せ集めて表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-2-3:寄せ集めの意匠3「スピーカーボックス」

 

6.3 一部の構成の単なる削除による意匠

【事例】「ごみ箱」
公知のごみ箱の一部の構成を削除して表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-3-1:一部の構成の単なる削除による意匠1「ごみ箱」

なお、模様等を削除したものである場合であっても、当該改変がごみ箱の分野における軽微な改変と判断される場合は、創作容易な意匠であると判断する。

意匠の創作非容易性の例6-3-1b:一部の構成の単なる削除による意匠1´「ごみ箱」

 

6.4 配置の変更による意匠

【事例】「室内灯用スイッチプレート」
公知の室内灯用スイッチプレートのボタンの配置を変更したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-4-1:配置の変更による意匠1「室内灯用スイッチプレート」
なお、角部を隅丸状に改変したものであっても、当該改変が室内灯用スイッチプレートの分野における軽微な改変と判断される場合は、創作容易な意匠であると判断する。

意匠の創作非容易性の例6-4-1b:配置の変更による意匠1´「室内灯用スイッチプレート」

 

6.5 構成比率の変更による意匠

【事例】「包装用容器」
公知の包装用容器の構成比率を変更したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-5-1:構成比率の変更による意匠1「包装用容器」

なお、一部の区画の色彩を変更したものであっても、当該変更が包装用容器の分野における軽微な改変と判断される場合は、創作容易な意匠であると判断する。

意匠の創作非容易性の例6-5-1b:構成比率の変更による意匠1´「包装用容器」

 

6.6 連続する単位の数の増減による意匠

【事例】「回転警告灯」
公知の回転警告灯を、ほとんどそのまま、段数を減らして表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-6-1:連続する単位の数の増減による意匠「回転警告灯」

 

6.7 物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠

【事例1】公知の形状等に基づく意匠の例「装身用下げ飾り」
周知の幾何学形状を、装身用下げ飾りとして表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-7-1:物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠1「装身用下げ飾り」

 

【事例2】自然物等(動物、植物又は鉱物)の例「ペーパーウェイト」
自然物等を、ほとんどそのままペーパーウェイトとして表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-7-2:物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠2「ペーパーウェイト」

 

【事例3】著作物の例
・ロダンの彫刻「考える人」の形状を、ほとんどそのまま置物として表したにすぎない意匠
・レオナルド・ダ・ビンチの絵画「モナリザ」を、ほとんどそのまま壁紙として表したにすぎない意匠

 

【事例4】建築物の例
・「エッフェル塔」の形状を、ほとんどそのまま置物として表したにすぎない意匠
・「平等院鳳凰堂」の形状を、ほとんどそのまま置物として表したにすぎない意匠

 

【事例5】「自動車おもちゃ」
公知の乗用自動車の形状を、ほとんどそのまま自動車おもちゃとして表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-7-5:物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠5「自動車おもちゃ」

 

【事例6】「チョコレート」
公知の卓上電子計算機の形状を、ほとんどそのままチョコレートとして表したにすぎない意匠

意匠の創作非容易性の例6-7-6:物品等の枠を超えた構成の利用・転用による意匠6「チョコレート」

 


特許庁編『意匠審査基準』のご案内

最新かつ正確な情報、さらに詳細な情報は、次のURLから、特許庁ホームページにてご確認ください。

  • 意匠審査基準(特許庁)
    https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/shinsa_kijun/index.html

 


関連情報

 


(作成2022.01.21、最終更新2024.01.13)
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