目次
- はじめに
- 減速機事件の東京高裁判決
- 主文
- 事実及び理由
- 第1 当事者の求めた裁判
- 第2 事案の概要
> 当審における控訴人の追加的な主張の要点 - 第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件登録意匠の構成態様)、同(2)(本件登録意匠の要部)及び同(3)(被控訴人製品の意匠の構成態様)について
2 争点(4)(本件登録意匠と被控訴人製品の意匠との類否)について
3 争点(5)(被控訴人製品における意匠の利用関係)について
4 結論 - 関連情報
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はじめに
「減速機」と「減速機付きモーター」との類否、利用関係について争われた意匠権侵害訴訟「減速機事件」の続きです。今回は、東京高裁判決についてです。東京地裁判決については、次のリンク先をご覧ください。
以下、東京高裁判決です。
なお、弊所において編集・加工を行っています。詳細は、事件番号から判決全文をご確認ください。図面や写真についても、詳しくご確認いただけます。
減速機事件:東京高裁、平成15年(ネ)第1119号、平成15年6月30日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
・・・(省略)・・・
第2 事案の概要
1 本件は、意匠に係る物品を「減速機」とする意匠登録第798521号の意匠権(本件意匠権)を有する控訴人が、被控訴人に対し、本件意匠権に基づき、被控訴人が被控訴人製品を製造販売する等の行為は本件意匠権を侵害すると主張し、それらの行為の差止め及び被控訴人製品の廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき損害金合計2090万円及びこれに対する不法行為の後である平成14年3月22日(本件訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は、控訴人の本訴請求をいずれも棄却したのに対し、控訴人はその取消しを求めて本件控訴を提起した。
2 本件の争いのない事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の追加的な主張の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点及び当事者の主張」に記載のとおりである。
(1) 意匠法が創作保護法であることは、以下の理由により明らかである。すなわち、・・・(省略)・・・
(2) 原判決は、「意匠保護の根拠は、流通過程における混同防止にあると解されるから、意匠法の保護の対象となるのはあくまで物品の外観であって、外観に現れず、視覚を通じて認識することがない物品の隠れた形状は、意匠権侵害の判断に当たっては考慮することはできない」と判示した。
しかし、上記(1)のとおり、意匠保護の根拠は創作の保護であると解すべきであり、これを前提とすると、自己の商品に他人の意匠の創作をそのまま冒用するような行為は、たとえ最終的な製品において他人の意匠が外部から認識できなくても、許容されるべきではないから、原判決の前記判断は誤りである。
(3) また、原判決は、被控訴人製品の「減速機部分は、減速機付きモーターの一構成部分にすぎないというべきであるから、被控訴人製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできない」、「控訴人が主張するように、モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」や、減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目したとしても、減速機付きモーターにおいて登録意匠の要部が外観に現れなければ、意匠権侵害といえない」と判示した。
しかし、部分意匠制度が導入されたことを考慮すると、「独立して取引される物品の意匠を保護対象とする」ことの根拠は明らかでないし、また、仮に、そのような解釈に立っても、これは「物品が独立して取引されている場合に限り保護を与える」ことと同一ではない。前記のとおり、意匠法が創作保護法であることを前提とすると、当該物品を内製さえすれば意匠の創作を冒用しても許されるというような原判決の解釈は、不当である。
(4) 結局、被控訴人製品の意匠における本件登録意匠との類似性及び利用関係を否定した原判決の判断は失当である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件登録意匠の構成態様)、同(2)(本件登録意匠の要部)及び同(3)(被控訴人製品の意匠の構成態様)についての認定判断は、原判決の「事実及び理由」の「第4 争点に対する判断」の「1」ないし「3」のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決…「2ミリメートル程度と」、及び…「が、塞板の周縁部は円弧状に90度屈曲している」を削除し、…「シンクロナスモーター」を「ステッピングモーター及びシンクロナスモーター」と改め、…「塞板の周縁部の形状、」、及び…の「2ミリメートル程度でごく」を削除し、…「フランジは、全般に平面状に形成されているが、円形に削られた中央縁部が円弧状に90度屈曲して円筒状のケーシングと連続している。」を加える。)。
2 争点(4)(本件登録意匠と被控訴人製品の意匠との類否)について
(1) 本件登録意匠に係る物品と被控訴人製品の物品とを対比すると、本件登録意匠に係る物品は、減速機であるのに対し、被控訴人製品は、減速機部分にモーター部分を連結して1個の物品とした減速機付きモーター(ギヤードモーター)であるから、両者は物品が異なるものである。
(2) 次に、本件登録意匠と被控訴人製品全体の意匠を比較する。
まず、基本的構成態様においては、
本件登録意匠の構成態様が「本体は、内部に減速ギアが収納された深い鍋型の円筒状のケーシングであり、その開口した一端である出力側端に、フランジを形成し、出力側端を塞板で閉塞し、この塞板に軸受けを突設し、この軸受けから回転軸を突出させている」というものであるのに対し、
被控訴人製品の全体の構成態様は、本件登録意匠と基本的構成態様を同じくする第1のケーシング(減速機部分)のみならず、「該第1のケーシングの他端に、その一端を連結し他端には開口部を有する円柱状の第2のケーシング(モーター部分)とからなる。」、「第2のケーシングの直径は第1のケーシングの直径と略同一であり、その長さは第1のケーシングの約2倍であって、第1のケーシングと連結していない他端の開口部は、プラスチック製の塞板で閉塞されている。」、「第1のケーシングと第2のケーシングの連結部分は、ねじによって固定されており、第1のケーシングの膨出部の存在により、僅かな間隙が形成されているが、膨出部の背面視における形状全体は外部からは認識できない。」というものである点で相違している。
また、本件登録意匠と被控訴人製品の第1のケーシングの具体的構成態様を比較すると、
①プロポーションについて、ケーシングの直径と長さの比は、約3:2である点、
②フランジについて、正面視において、中央部が円形に削られた環状の隅丸正方形であって、厚さは薄く、四隅に正円型の透孔が形成してあり、また、全般に平面状に形成されているが、円形に削られた中央縁部が円弧状に90度屈曲して円筒状のケーシングと連続している点、
③軸受け及び回転軸について、塞板の正面視において、上部に偏芯して設けてある点において共通する。
しかし、他方、
①本件登録意匠では、塞板は、全般に平面状に形成されており、塞板の平面状部分とフランジ部の平面状部分とは同一平面上に設けられているのに対し、
被控訴人製品の第1のケーシングでは、塞板は、全般に平面状に形成されており、その周縁部には3つの小さな取付ねじがあり、塞板の平面状部分とフランジ部の平面状部分とは同一平面上ではなくわずかな段差が設けられている点、
②本件登録意匠では、軸受けの軸方向の長さと、軸受けから突出した回転軸の長さはほぼ同じであるのに対し、
被控訴人製品の第1のケーシングでは、軸受けの軸方向の長さと、軸受けから突出した回転軸の長さの比が約1:2である点、
③本件登録意匠では、ケーシングのモーター側端の形状が、中央部をわずかに膨出させて周縁部に段部を形成しており、膨出部は、背面視において、頂部及び下部両側の3か所が膨出部分の円周に沿ってほぼそれぞれ120度の角度をおいてケーシングの外縁方向に突出した変形円輪郭であり、その中央部に膨出部の直径に比して約3分の1ほどの直径を有する比較的大径の透孔が設けてあり、頂部の突出部には縦長の透孔が、また、下部の2つの突出部にはやや縦長の透孔がそれぞれ設けてあり、その下部の2つの突出部の間に正円型の透孔が設けてあるというものであるのに対し、
被控訴人製品の第1のケーシングでは、膨出部の背面視における形状全体は外部からは認識できないものである点
が、それぞれ相違している。
(3) 前記(1)認定のとおり、本件登録意匠に係る物品と被控訴人製品の物品とは、異なるものであるし、また、前記(2)認定の本件登録意匠と被控訴人製品全体の意匠の共通点と相違点によれば、両者の構成態様は、①被控訴人製品の全体の構成態様が、第1のケーシング(減速機部分)のみならず、その直径と略同一の直径であり、その長さの約2倍の長さである第2のケーシングと連結されたものである点、②被控訴人製品の全体の構成態様においては、本件登録意匠の要部である前記ケーシングのモーター側端の具体的な形状(膨出部の背面視における形状全体)が外部から認識できない点において、大きく異なっているものといわざるを得ないから、被控訴人製品中の第1のケーシングの基本的構成態様や具体的構成態様の一部が本件登録意匠のそれらと共通するものであるという前記共通点を十分参酌しても、本件登録意匠と被控訴人製品の意匠は、全体として、看者に異なる美観を与えるものというべきであり、両者が類似しているということは到底できない。
(4) これに対し、控訴人は、被控訴人製品のモーター部分と減速機部分は、ねじにより着脱可能に取り付けられ、減速機部分の膨出部の存在により取付部分に僅かな間隙が形成されているため、減速機部分は独立して認識されるものであるから、本件登録意匠との類否判断の対象となるべきものは、被控訴人製品の減速機部分である旨主張し、また、部分意匠制度が導入されたことを考慮すると、「独立して取引される物品の意匠を保護対象とする」ことの根拠は明らかでないし、さらに、仮に、そのような解釈に立っても、これは「物品が独立して取引されている場合に限り保護を与える」ことと同一ではなく、意匠法が創作保護法であることを前提とすると、当該物品を内製さえすれば意匠の創作を冒用しても許されるというような結論は不当である旨主張する。
しかしながら、意匠の保護は、最終的には産業の発達に寄与することを目的とするものであるから(意匠法1条)、意匠保護の根拠は、当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合において、取引者、需要者が当該意匠に係る物品を混同し、誤って物品を購入することを防止すると同時に、上記取引者等の混同を招く行為を規制することにより意匠権者の物品流通市場において保護されるべき地位を確保することにあると解すべきである。そうすると、意匠権侵害の有無の判断に際しては、流通過程に置かれた具体的な物品が対象となるものというべきである。
そして、本件においては、被控訴人が被控訴人製品を減速機部分とモーター部分とが一体のものとして製造販売していることは当事者間に争いがないし、前記のとおり、被控訴人製品の減速機部分は、ねじによりモーター部分と固定されているものであるから、結局、被控訴人製品において減速機部分は減速機付きモーターという物品の一構成部分にすぎないというべきである。したがって、被控訴人製品の減速機部分のみを切り離して本件登録意匠との類否判断の対象とすることはできない筋合いである。
(5) また、控訴人は、意匠法は意匠の持つ「形態価値」を保護するものであり、「形態価値」を保護するためには保護されるべき意匠が物品の流通過程で見えるかどうかは問題ではなく、モーターと減速機を結合させる「組み立て場面」と、減速機付きモーターとして「使用される場面」に注目しなければならない旨主張し、また、意匠保護の根拠は創作の保護であると解すべきであり、これを前提とすると、自己の商品に他人の意匠の創作をそのまま冒用するような行為は、たとえ最終的な製品において他人の意匠が外部から認識できなくても、許容されるべきではないから、意匠権侵害の判断に当たっては、外部から認識できない物品の隠れた形状も考慮すべきである旨主張する。
しかしながら、意匠とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいうのであるから(意匠法2条1項)、外部から視覚を通じて認識できるものであることを要するものであり、また、前記のとおり、意匠保護の根拠は、当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合において、取引者、需要者が当該意匠に係る物品を混同することを防止することにあると解すべきであるから、結局、当該意匠に係る物品の流通過程において取引者、需要者が外部から視覚を通じて認識することができる物品の外観のみが、意匠法の保護の対象となるものであって、流通過程において外観に現れず視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状は考慮することができないものというべきである(なお、控訴人主張のとおり、意匠保護の根拠が「創作」であると解したとしても、それが必ずしも意匠権侵害の判断に当たり、物品の隠れた形状をも考慮すべきであるとの見解には結びつかない筋合いである。)。
3 争点(5)(被控訴人製品における意匠の利用関係)について
控訴人は、①他の登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を包含すること、②他の登録意匠の特徴を破壊することなく包含すること、③他の構成要素と区別しうる態様において包含すること、という要件を満たす限り、意匠の利用関係が認められると解すべきであるところ、この観点から見ると、被控訴人製品は本件登録意匠を利用ないし包含しているといえるから、本件意匠権を侵害しているというべきである旨主張する。
しかしながら、控訴人の主張するように、利用関係による意匠権の侵害が認められるとしても、前記認定のとおり、被控訴人製品の全体の構成態様においては、本件登録意匠の要部である前記ケーシングのモーター側端の具体的な形状(膨出部の背面視における形状全体)が外部から認識できないものであるから、被控訴人製品が本件登録意匠を利用ないし包含しているということはできない(なお、利用関係の判断においても、前記のとおり、当該意匠に係る物品の流通過程において取引者、需要者が外部から視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状は、考慮することができないものというべきである。)。
以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
関連情報
- 減速機事件:減速機と減速機付きモーターとの類否及び利用関係:東京地裁
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- 机事件(意匠権侵害訴訟):意匠の利用関係
- 手提袋事件:「形状だけの意匠」とは何か、「模様・色彩付き意匠」との利用関係
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(作成2025.09.12、最終更新2025.09.12)
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