進歩性判断

はじめに

 


進歩性判断のフローチャート

進歩性判断フローチャート(進歩性判断の流れ・フロー)

 


以下、上記フローチャート中の各ステップについての説明です。


請求項に係る発明の認定

  • 進歩性の判断の対象となる発明は、請求項に係る発明である。
  • 請求項に係る発明は、特許請求の範囲の【請求項】の記載に基づいて認定される。
  • 特許請求の範囲に二以上の請求項がある場合は、請求項ごとに、進歩性の有無を判断する。
  • 明細書及び図面の記載、出願時の技術常識を考慮して、請求項に記載されている用語の意義を解釈する。

 


主引用発明の認定

  • 先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで「主引用発明」とする。
  • 独立した二以上の引用発明を組み合わせて主引用発明としてはならない。
  • 主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。
  • 「先行技術」は、本願の出願時より前に、日本国内又は外国において、「頒布された刊行物に記載された発明」「電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」「公然知られた発明」「公然実施をされた発明」のいずれかに該当したものである。

 


請求項に係る発明と主引用発明との対比

  • 請求項に係る発明と主引用発明とを対比する。
  • 対比は、各発明の発明特定事項の一致点及び相違点を認定してなされる。

 


相違点の有無

  • 相違点がない場合は、請求項に係る発明が新規性を有していないと判断する。
  • 相違点がある場合は、請求項に係る発明が新規性を有していると判断する。その場合、続いて進歩性の判断を行う。
  • 進歩性の判断は、先行技術に基づいて、当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行う。当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたか否かの判断には、【進歩性が否定される方向に働く諸事実】及び【進歩性が肯定される方向に働く諸事実】を総合的に評価することが必要である。
  • 具体的には、以下の(1)から(4)までの手順により、主引用発明から出発して、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判断する。

 


進歩性が否定される方向に働く要素の検討

(1)相違点を開示する副引用発明の有無、進歩性が否定される方向に働く要素の検討

  •  請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に関し、【進歩性が否定される方向に働く要素】に係る諸事情に基づき、副引用発明を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断する。

【進歩性が否定される方向に働く要素】

主引用発明に副引用発明を適用する動機付け

  • (i) 技術分野の関連性(主引用発明の課題解決のために、主引用発明に対し、主引用発明に関連する技術分野の技術手段の適用を試みる。例えば、主引用発明に関連する技術分野に、置換可能又は付加可能な技術手段がある。)
  • (ii) 課題の共通性(主引用発明と副引用発明との間で課題が共通する。)
  • (iii) 作用、機能の共通性(主引用発明と副引用発明との間で、作用、機能が共通する。)
  • (iv) 引用発明の内容中の示唆(引用発明の内容中において、主引用発明に副引用発明を適用することに関する示唆がある。)

 ※(i)から(iv)までの動機付けとなり得る観点のうち「技術分野の関連性」については、原則として、他の動機付けとなり得る観点も併せて考慮しなければならない。
 ※当業者の通常の創作能力の発揮である下記「設計変更等」は、副引用発明を主引用発明に適用する際にも考慮される。

◆主引用発明からの設計変更等

  • (i) 一定の課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択
  • (ii) 一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化
  • (iii) 一定の課題を解決するための均等物による置換(例えば、湿度の検知手段に特徴のある浴室乾燥装置の駆動手段として、ブラシ付きDCモータに代えて、周知のブラシレスDCモータを採用する場合)
  • (iv) 一定の課題を解決するための技術の具体的適用に伴う設計変更や設計的事項の採用(例えば、携帯電話機から外部のデジタルテレビに画像を表示する際に、その画面の大きさ、画像解像度に適合したデジタルテレビ用の画像信号(デジタル表示信号)を生成及び出力する場合)

◆先行技術の単なる寄せ集め

  • 発明特定事項の各々が公知であり、互いに機能的又は作用的に関連していない場合(例えば、公知の昇降手段Aを備えた建造物の外壁の作業用ゴンドラ装置に、公知の防風用カバー部材、公知の作業用具収納手段をそれぞれ付加する場合)

 

(2)進歩性が否定される方向に働く要素の検討に基づく論理付け

  • 上記(1)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。
  • 例えば、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明がなく、相違点が設計変更等でもない場合は、論理付けはできなかったことになる(進歩性あり)。

 


進歩性が肯定される方向に働く要素の検討

(3)進歩性が肯定される方向に働く要素の検討

  • 上記(1)に基づき、論理付けができると判断した場合は、【進歩性が肯定される方向に働く要素】に係る諸事情も含めて総合的に評価した上で論理付けができるか否かを判断する。

【進歩性が肯定される方向に働く要素】

◆有利な効果

引用発明と比較した有利な効果が、例えば、以下の(i)又は(ii)のような場合に該当し、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることは、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる。なお、意見書等で主張、立証がなされた効果が明細書に記載されておらず、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない場合は、その効果を参酌すべきでない。

  • (i) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測できない場合
  • (ii) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、際だって優れた効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測できない場合

◆阻害要因

阻害要因の例としては、副引用発明が以下のようなものであることが挙げられる。

  • (i) 主引用発明に適用されると、主引用発明がその目的に反するものとなるような副引用発明
  • (ii) 主引用発明に適用されると、主引用発明が機能しなくなる副引用発明
  • (iii) 主引用発明がその適用を排斥しており、採用されることがあり得ないと考えられる副引用発明
  • (iv) 副引用発明を示す刊行物等に副引用発明と他の実施例とが記載又は掲載され、主引用発明が達成しようとする課題に関して、作用効果が他の実施例より劣る例として副引用発明が記載又は掲載されており、当業者が通常は適用を考えない副引用発明

(4)進歩性が肯定される方向に働く要素の検討に基づく論理付け

  • 上記(3)に基づき、論理付けができないと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していると判断する。
  • 上記(3)に基づき、論理付けができたと判断した場合は、請求項に係る発明が進歩性を有していないと判断する。
  • 例えば、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明があり、かつ、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けがあり、進歩性が肯定される方向に働く事情がない場合は、論理付けができたことになる(進歩性なし)。

 


進歩性の判断における留意事項

  • 請求項に係る発明の知識を得た上で、進歩性の判断をするために、以下の(i)又は(ii)のような後知恵に陥ることがないように、留意しなければならない。
     (i) 当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたように見えてしまうこと。
     (ii) 引用発明の認定の際に、請求項に係る発明に引きずられてしまうこと。
  • 前述のとおり、主引用発明として、通常、請求項に係る発明と、技術分野又は課題が同一であるもの又は近い関係にあるものを選択する。なお、請求項に係る発明の課題が新規であり、当業者が通常は着想しないようなものであることは、進歩性が肯定される方向に働く一事情になり得る
  • 周知技術について、周知技術であるという理由だけで、論理付けができるか否かの検討(その周知技術の適用に阻害要因がないか等の検討)を省略してはならない。
  • 本願の明細書中に本願出願前の従来技術として記載されている技術について、出願人がその明細書の中でその従来技術の公知性を認めている場合は、出願当時の技術水準を構成するものとして、これを引用発明とすることができる。
  • 物自体の発明が進歩性を有している場合には、その物の製造方法及びその物の用途の発明は、原則として、進歩性を有している。
  • 商業的成功、長い間その実現が望まれていたこと等の事情を、進歩性が肯定される方向に働く事情があることを推認するのに役立つ二次的な指標として参酌することができる。ただし、出願人の主張、立証により、この事情が請求項に係る発明の技術的特徴に基づくものであり、販売技術、宣伝等、それ以外の原因に基づくものではないとの心証を得た場合に限って、この参酌をすることができる。

 


(作成2020.10.30、最終更新2020.10.30)
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