特許請求の範囲の減縮・限定的減縮とは

目次

 


特許請求の範囲の減縮とは?

特許請求の範囲の減縮とは、特許請求の範囲(特許の権利範囲)を減少・縮小することをいいます。

特許出願人は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、または図面について、所定要件下、「補正(補充又は訂正)」をすることができます。その際、特許請求の範囲についてする補正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とすることができます。

特に、(a)最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正、(b)第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知を伴う拒絶理由通知の指定期間内の補正、(c)拒絶査定不服審判の請求と同時の補正であって、特許請求の範囲についてする補正は、「特許請求の範囲の減縮」のうち所定のもの(「限定的減縮」)に限られます。

さらに、特許後、訂正審判における「訂正」、特許異議の申立てや特許無効審判における「訂正」は、「特許請求の範囲の減縮」などを目的とするものに限られます。

以下、「特許請求の範囲の減縮」の具体例の他、「特許請求の範囲の限定的減縮」とその具体例について、「補正」を例に確認してみます。

 


特許請求の範囲の減縮の例

択一的記載の要素を削除する補正

  • 【補正前】 AまたはBを備える装置
  • 【補正後】 を備える装置

*たとえば、「AまたはBを備える装置」(つまり「Aを備える装置」または「Bを備える装置」)を権利範囲として出願したけども、審査において、先行技術として「Aを備える装置」が示されたので、Aを削除して、「Bを備える装置」に限定する場合です。

 

発明特定事項を直列的に付加する補正(外的付加)

  • 【補正前】 AとBを備える装置
  • 【補正後】 AとBとCを備える装置

*たとえば、「AとBを備える装置」を権利範囲として出願したけども、審査において、そのような装置について新規性・進歩性を否定されたので、さらにCを備えることを明らかにする場合です。

 

上位概念から下位概念へ変更する補正(内的付加)

  • 【補正前】 弾性体を備える装置
  • 【補正後】 コイルバネを備える装置
    (弾性体にはコイルバネが含まれる。言い換えれば、コイルバネは、弾性体の一種である。)

*たとえば、「弾性体を備える装置」を権利範囲として出願したけども、審査において、弾性体としてゴムを用いた装置が示されたので、弾性体がコイルバネである旨を明らかにする場合です。

 

その他

多数項引用形式請求項の引用請求項を減少させる補正

  • 【補正前】 …を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の装置
  • 【補正後】 …を備える請求項1または請求項2に記載の装置

n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更する補正

  • 【補正前】 [請求項4]…を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の装置
  • 【補正後】 [請求項4]…を備える請求項1に記載の装置
          [請求項5]…を備える請求項2に記載の装置

発明特定事項が択一的なものとして記載された一つの請求項について、その択一的な発明特定事項をそれぞれ限定して複数の請求項に変更する補正

  • 【補正前】 [請求項2]前記Aが、a1、a2またはa3である請求項1に記載の装置
  • 【補正後】 [請求項2]前記Aがa1である請求項1に記載の装置
          [請求項3]前記Aがa2である請求項1に記載の装置

 


特許請求の範囲の限定的減縮とは?

(a)最後の拒絶理由通知の指定期間内の補正、(b)第50条の2(既に通知された拒絶理由と同一である旨の通知)の規定による通知を伴う拒絶理由通知の指定期間内の補正、(c)拒絶査定不服審判の請求と同時の補正であって、特許請求の範囲についてする補正は、[1]請求項の削除、[2]特許請求の範囲の限定的減縮、[3]誤記の訂正、[4]明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限られます。そして、限定的減縮を目的とする補正については、補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が独立して特許を受けることができるものでなければなりません(独立特許要件)。

特許請求の範囲の限定的減縮とは、特許請求の範囲の減縮を行う補正のうち、請求項に記載した発明特定事項を限定するものであって、補正前発明と補正後発明の「産業上の利用分野」及び「解決しようとする課題」が同一であるものをいいます。

 


特許請求の範囲の限定的減縮の例

たとえば、請求項中の「体温を電気信号に変換するセンサ」を「体温を電気信号に変換する熱電対からなるセンサ」とする補正は、特許請求の範囲の限定的減縮に該当します。補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の一部である「電子体温計において体温を電気信号に変換するセンサ」を概念的に下位のものにするからです。また、補正によって、発明の解決しようとする課題や産業上の利用分野は変更されないからです。

一方、請求項中の「圧縮機を所定時間断続運転させる制御手段」を「圧縮機を所定時間断続運転させるとともに警報装置を作動させる制御手段」とする補正は、特許請求の範囲の限定的減縮に該当しません。この補正は、制御手段に、警報装置を作動させるという作用(働きや役割)を付加することにより特許請求の範囲を減縮するものですが、「警報装置を作動させる」という作用(働きや役割)は、「圧縮機を所定時間断続運転させる」という作用とは別個の作用ですから、「警報装置を作動させる」という作用は、「圧縮機を所定時間断続運転させる」という作用を概念的に下位にしたものではありません。したがって、この補正は、補正前の発明特定事項を限定するものではありません。

限定的減縮について、さらなる具体例は、特許請求の範囲の限定的減縮の事例をご覧ください。

 


関連条文(特許法)

(願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の補正)
第17条の2 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第50条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。

  一 第50条(第159条第2項(第174条第2項において準用する場合を含む。)及び第163条第2項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第50条の規定により指定された期間内にするとき。

  二 拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。

  三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第50条の規定により指定された期間内にするとき。

  四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。

 2 第36条の2第2項の外国語書面出願の出願人が、誤訳の訂正を目的として、前項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。

 3 第1項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第36条の2第2項の外国語書面出願にあつては、同条第8項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第2項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第34条の2第1項及び第34条の3第1項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

 4 前項に規定するもののほか、第1項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。

 5 前二項に規定するもののほか、第1項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第50条の2の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

  一 第36条第5項に規定する請求項の削除

  二 特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)

  三 誤記の訂正

  四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)

 6 第126条第7項の規定は、前項第二号の場合に準用する。

 

(意見書の提出等)
第120条の5 審判長は、取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し、特許の取消しの理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。

 2 特許権者は、前項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

  一 特許請求の範囲の減縮

  二 誤記又は誤訳の訂正

  三 明瞭でない記載の釈明

  四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

 3~9 省略

 

(訂正審判)
第126条 特許権者は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすることについて訂正審判を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

  一 特許請求の範囲の減縮

  二 誤記又は誤訳の訂正

  三 明瞭でない記載の釈明

  四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

 2~8 省略

 

(特許無効審判における訂正の請求)
第134条の2 特許無効審判の被請求人は、前条第1項若しくは第2項、次条、第153条第2項又は第164条の2第2項の規定により指定された期間内に限り、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することができる。ただし、その訂正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。

  一 特許請求の範囲の減縮

  二 誤記又は誤訳の訂正

  三 明瞭でない記載の釈明

  四 他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。

 2~9 省略

 


関連情報

 


(作成2021.05.18、最終更新2021.06.08)
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