はじめに
- 最後の拒絶理由通知に対する応答時、または拒絶査定不服審判の請求時などにおいて、特許請求の範囲についてする補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明に限られます。ここでは、特許請求の範囲の限定的減縮がどのようなものか、具体例を特許庁資料に基づき確認してみます。
- 「明細書・特許請求の範囲・図面の補正(まとめ)」の「最後の拒絶理由通知の指定期間内、拒絶査定不服審判の請求と同時の補正」や「限定的減縮とは?」もご参照ください。また、「特許請求の範囲の減縮・限定的減縮とは」もご参照ください。
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特許請求の範囲の限定的減縮の事例
- 特許庁編『特許・実用新案審査ハンドブック』附属書Aの「目的外補正(特許法第17条の2第5項)に関する事例集」の「特許請求の範囲の限定的減縮(事例1~25)」に基づき、小山特許事務所が編集・加工(基本的には抜粋)したものです。詳細は、特許庁の「目的外補正(特許法第17条の2第5項)に関する事例集」(pdf)をご覧ください。
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備考 | 事例 | 補正前の【請求項1】 | 補正後の【請求項1】 | 判断 (限定的減縮に該当は○、非該当は×) |
説明 |
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発明特定事項の限定 | 1 | 体温を電気信号に変換するセンサ | 体温を電気信号に変換する熱電対からなるセンサ | ○ | 補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の一部である「電子体温計において体温を電気信号に変換するセンサ」を概念的に下位のものにしたものである。また、補正によって、発明の解決しようとする課題や産業上の利用分野は変更されていない。 |
2 | 層厚規制部材20の表面を粗面化する | 層厚規制部材20の表面を粗面化し、その粗さを0.5D~1.5D(ただし、D:現像剤の平均粒径)とする | ○ | 補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の一部である「現像装置において層厚規制部材20の表面を粗面化すること」を概念的に下位のものにしたものである。また、補正によって、発明の解決しようとする課題や産業上の利用分野は変更されていない。 | |
3 | 該把持部表面の少なくとも一部に銅の微細粒子を表面に露出させ、露出させた微細粒子を表面の菌類が繁殖しないような間隔となるように多数混在させてなるノブ | …露出させた微細粒子を表面の菌類が繁殖しないような間隔となるように多数混在させ、微細粒子同志の間隔を100μm以下に設定させてなるノブ | ○ | 補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の一部である「ノブにおいて表面の菌類が繁殖しないような銅の微細粒子の間隔」を限定したものであり、また当該補正前後の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 | |
4 | サーマルプリントヘッドがプラテンゴムに対しその摺動方向に斜めに配置された | サーマルプリントヘッドがプラテンゴムに対しその摺動方向に1~15°の角度で斜めに配置された | ○ | 補正前の特許請求の範囲に記載された発明の発明特定事項の一部である「サーマルプリンタにおいてヘッドを斜めに配置する」点について、角度を特定することにより概念的に下位のものにしたものにほかならない。また、当該補正前後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 | |
5 | 軽合金製歯車箱の周壁部に補強用のリングを鋳込んだ | アルミニウム合金製歯車箱の周壁部に補強用の鋼製リングを鋳込んだ | ○ | 補正により、歯車箱の材質、補強用リングの材質をそれぞれ特定しており、これは補正前の発明の発明特定事項である「変速機の歯車箱における軽合金製歯車箱」、「変速機の歯車箱における補強用のリング」をそれぞれ概念的に下位のものに限定したものとなっている。また、発明が解決しようとする課題及び産業上の利用分野は同一である。 | |
6 | 従動プーリの上方部に該従動プーリの接線方向に向かって突出する吐出ノズルを有する送風機を設けた | 従動プーリの上方部に該従動プーリの接線方向に向かって開口部が縮径し突出する吐出ノズルを有する送風機を設けた | ○ | 吐出ノズルを開口部が縮径するよう補正する点は、吐出ノズルの形状を特定したものであって、補正前発明の発明特定事項の一部である「バケットコンベアにおける吐出ノズル」を概念的に下位のものにしたものである。また、補正前発明と補正後発明において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 | |
7 | 圧縮機を所定時間断続運転させる制御手段 | 圧縮機を所定時間断続運転させるとともに警報装置を作動させる制御手段 | × | 「警報装置を作動させる」という作用(働きや役割)は、「圧縮機を所定時間断続運転させる」という作用とは別個の作用であるから、「警報装置を作動させる」という作用は、「圧縮機を所定時間断続運転させる」という作用を概念的に下位にしたものではない。したがって、この補正は、補正前の発明特定事項を限定するものではない。 | |
8 | 前記第1のトランジスタと前記第2のトランジスタとのコレクタ間に、…挿入されたダイオード | 前記第1のトランジスタと前記第2のトランジスタとのコレクタ間に、…挿入されたトランジスタのベースとコレクタを短絡させた等価ダイオード | ○ | 「ダイオード」とは、p-n接合ダイオードと等価ダイオードの両者を含むものである。したがって、補正前の「ダイオード」を「等価ダイオード」に下位概念化したものであるから、発明特定事項の一部の限定であると認められ、また、発明の課題及び利用分野が補正の前後で変更されないから、この補正は請求項の限定的減縮である。 | |
9 | 送信器と受信器が一体構成部材として互いに結合され、 | 送信器として発光ダイオードが、受信器としてフォトダイオードが使用され、両者は一体構成部材として互いに結合され、 | ○ | 「送信器」が「発光ダイオード」、「受信器」が「フォトダイオード」であると特定されたものであり、補正前の発明の発明特定事項の一部を概念的に下位にしたものにあたり、補正前後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題も同一である。 | |
10 | 表示画面上にタッチパネルを設け、…次に入力すべき部分の表示箇所を点滅表示する | 表示画面上にタッチパネルを設け、…次に入力すべき部分の表示箇所を点滅表示するとともに、スピーカーを設け、入力すべき項目を音声案内する | × | 「スピーカーを設け、入力すべき項目を音声案内する」という作用(働きや役割)は、「次に入力すべき部分の表示箇所を点滅表示する」という作用とは別個の作用であるから、「スピーカーを設け、入力すべき項目を音声案内する」という作用は、「次に入力すべき部分の表示箇所を点滅表示する」という作用を概念的に下位にしたものではない。したがって、この補正は、補正前の発明特定事項を限定するものではない。 | |
11 | 前記重要度情報に対応するコンテンツの番組欄の表示形式は、文字色、文字色の濃淡、フォント、背景色のうちから前記作成手段によって予め設定されたものであり、 | 前記重要度情報に対応するコンテンツの番組欄の表示形式は、文字色、文字色の濃淡、フォント、背景色のうちからユーザによって選択されたものであり、 | × | この補正は、重要度情報に対応する番組欄の表示形式を、番組表作成装置(作成手段)によって予め設定されたものから、ユーザによって選択されたものへ変更するものであって、概念的に下位にしたものではない。 | |
発明特定事項の限定 /解決しようとする課題の同一性 |
12 | …錠位置検知手段と、…接近検知手段と、その錠を持った人の手が錠に接近した時に該錠を照明する照明手段を設けた | …錠位置検知手段と、…接近検知手段と、その錠を持った人の手が錠に接近した時に該錠を照明する照明手段を設けるとともに、接近検知手段の作動によりタイマー接点が所定時間オンとなり、一定時間照明できるタイマー部を設けた | × | 補正により追加された「タイマー部」は、補正前発明発明特定事項のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、発明特定事項の限定といえない。また、補正前の発明の課題が「暗い場所でのキーシリンダーの開閉操作を容易とする」点にあるのに対して、補正後の課題には「電源の消費電力を小さくする」ことが追加されており、補正前後の発明の解決しようとする課題も同一ではない。 |
13 | 流体圧力を測定するために歪センサを形成した半導体ダイアフラムと、該歪センサの出力を高度信号に変換する演算回路と計時回路とを、ムーブメントに内蔵した | 流体圧力を測定するために歪センサを形成した半導体ダイアフラムと、該歪センサの出力を高度信号に変換する演算回路と計時回路とを該ダイアフラム上に半導体薄膜回路で形成し、ムーブメントに内蔵した | × | 「電子腕時計において演算回路と計時回路とを該ダイアフラム上に半導体薄膜回路で形成すること」は、補正前発明の発明特定事項のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、発明特定事項の限定といえない。また、補正前の発明の解決しようとする課題は「計時情報と高度情報とを示す腕時計を提供すること」であったのに対し、補正後の発明の解決しようとする課題は「ムーブメントの薄型軽量化」であるから、補正前後の発明の解決しようとする課題は同一ではない。 | |
14 | ハウジング2にそれぞれ別個のハンドル(3、4)を設けた電動工具装置において、バッテリーパック(7、8)をハンドル(3、4)のそれぞれの自由端部(5、6)に設けた | ハウジング2にそれぞれ別個のハンドル(3、4)を設けた電動工具装置において、バッテリーパック(7、8)をハンドル(3、4)のそれぞれの自由端部(5、6)に設け、前記バッテリーパック(7、8)のうち最高の充電状態になっている方を電力供給用に選択する切替スイッチ回路を有する | × | 切り替えスイッチ回路は、補正前発明の発明特定事項のいずれを概念的に下位にしたものともいえないから、発明特定事項の限定といえない。また、補正前の発明では、解決しようとする課題がバッテリーパックを分散配置することにより重量のバランスを図る点にあったが、補正後の発明では、充電状態の良好な方のバッテリーから電力を使用できるようにして、バッテリーの効率的利用が行えるようにする課題を有するようにしている。この補正は、課題を変更するものである。 | |
15 | 化合物Aと化合物Bを反応させる化合物Cの製造方法 | 化合物Aと化合物Bを80℃以上で反応させる化合物Cの製造方法 | × | 温度を特定することは、温度条件について言及せずに単に「化合物Aと化合物Bを反応させる」とした発明特定事項を概念的に下位のものにしたとはいえない。また、補正前の発明の課題が「化合物Cの新規な製造方法を提供する」ことであるのに対して、補正後の課題には「化合物Cの収率を高める」ことが追加されており、補正前後の発明の解決しようとする課題も同一ではない。 | |
16 | イカすり身に粉末状大豆蛋白、香辛料、調味料及び小麦粉を加えたものを材料とする煎餅 | イカすり身に粉末状大豆蛋白、香辛料、調味料及び小麦粉を加えたものを材料とするイカの形状をした煎餅 | × | 煎餅の形状を限定することは、補正前の特許請求の範囲に記載された発明の発明特定事項のいずれを概念的に下位にするものでもないから、発明特定事項の限定といえない。また、発明が解決しようとする課題が、補正前の発明では食感の良好な煎餅の提供であったのに対して、補正後の発明においてはイカが主原料であることがその形状から明確に見て取れることを追加しており、発明が解決しようとする課題を変更するものでもある。 | |
解決しようとする課題の同一性 | 17 | 順次積層して成る発光素子を、防湿性のフィルムにて被覆した | 順次積層して成る発光素子を、防湿性のフィルムにて被覆するとともに、前記発光層が異なる発光色を呈する複数の発光層からなる | × | 解決しようとする課題が、補正前発明では防湿であったが、補正後においては、多色発光の実現を新たに加えたものとなっている。この補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連しているとはいえない。したがって、この補正は解決しようとする課題を変更するものである。 |
18 | 起動信号発生手段により制御回路を作動させ | 光線銃の入射光を検出することにより起動信号を発生する起動信号発生手段により制御回路を作動させ | × | 補正前の請求項に記載された発明の発明特定事項の一部である「トランプ組み合わせゲーム装置における起動信号発生手段」を限定したものである。しかし、当該補正により、発明の解決しようとする課題が補正前の「偶然性の大きなトランプ組み合わせゲーム装置を得ること」から、「光線銃の的として使用することができるトランプ組み合わせゲーム装置を得ること」に変更されている。補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連するとはいえないから、この補正は課題を変更するものである。 | |
19 | 太陽電池が上面に張設された船艇を覆う、透光性素材で形成されたカバーシート | 太陽電池が上面に張設された船艇を覆う、太陽電池の上面に位置する部分以外を遮光性素材とした透光性素材で形成されたカバーシート | × | 補正前の発明では、解決しようする課題が「バッテリー上がりを防止するとともに風雨から太陽電池を保護する」ことであったのに対し、補正後には、「紫外線の影響から船艇を保護する」という新たな課題が加わっている。この課題は補正前の課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連するものとはいえず、この補正は解決しようとする課題を変更するものである。 | |
20 | シャンクにくびれを設けたタップ | シャンクにくびれを設け、シャンクの四角柱部をくびれの両側にわたって延在させたタップ | × | 発明の解決しようとする課題は、補正前の発明ではシャンクの任意箇所に設けたくびれ部分に応力集中を生じさせることによりくびれ部で破断させ、タップの刃部のみがワーク内で折れ込むことを防ぐことであった。これに対して、補正後の発明においては、くびれをシャンクの四角柱部の中央付近に設けるようにすれば、タップがくびれ部分で破断した後、残った部分の四角柱部をタップハンドルに把持させることにより、破断したタップを容易に回転させて抜き出すことができることから、破断したタップの把持と抜き取りの容易化という課題を追加するものとなっている。この補正後の課題は、補正前の課題を概念的に下位にしたものでも、同種のものでもないなど、技術的に密接に関連しているとはいえないから、この補正は、発明が解決しようとする課題を変更するものである。 | |
産業上の利用分野の同一性 | 21 | …を有してなる平面表示パネル。 | …を有してなるプラズマ・ディスプレイ・パネル。 | ○ | 「プラズマ・ディスプレイ・パネル」は「平面表示パネル」の一つであるから、補正前の発明の技術分野と補正後の技術分野は技術的に密接に関連するものであると認められる。したがって、この補正の前後の発明の産業上の利用分野は同一であると認められる。また、この補正は補正前発明の発明特定事項である「…平面表示パネル」を概念的に下位にしたものであり、発明特定事項の限定である。さらに、発明の課題も補正前後で変更されていない。 |
22 | …を特徴とするクラッチ。 | …を特徴とする自動変速機用クラッチ。 | ○ | 自動変速機は、クラッチが組み込まれる最も代表的なものの一つであるから、クラッチと自動変速機用クラッチとは技術的に密接に関連する発明の技術分野である。また、この補正は、補正前の発明特定事項である「…を特徴とするクラッチ」を概念的に下位にしたものであるから、補正前の発明の発明特定事項を限定したものである。さらに、補正前後で発明の解決しようとしている課題も同一である。 | |
23 | (a)多価アルコール (b)尿素 (c)アニオン界面活性剤 (d)カチオン界面活性剤 の配合されている化粧料。 | (a)多価アルコール (b)尿素 (c)アニオン界面活性剤 (d)カチオン界面活性剤 の配合されている化粧水。 | ○ | 化粧料の下位概念である各種化粧料のうち、最も代表的なものの1つが化粧水であるから、補正前の発明の技術分野と補正後の発明の技術分野は技術的に密接に関連するものと認められる。したがって、この補正前後の発明の産業上の利用分野は同一と認められる。また、この補正は、補正前発明の発明特定事項である「(a)多価アルコール…の配合されている化粧料」を概念的に下位にしたものであるから、補正前発明の発明特定事項を限定したものである。さらに、補正前後で、発明の解決しようとする課題は同一である。 | |
24 | 物質Aからなる界面活性剤 | 物質Aからなる殺虫剤用界面活性剤 | × | 殺虫剤用界面活性剤は界面活性剤の特殊な用途であり、界面活性剤の代表的な用途ではない。また、「界面活性剤」の技術分野と「殺虫剤」の技術分野は、特に関連性を有しないので、「界面活性剤」の技術分野と「殺虫剤用界面活性剤」の技術分野は、技術的に密接に関連しているとはいえない。したがって、補正前後の発明の産業上の利用分野は同一ではない。 | |
25 | 耐食性合金の皮膜を有する電気弦楽器用弦。 | 耐食性合金の皮膜を有する電気ギター用弦。 | ○ | 電気弦楽器の下位概念である各種楽器のうち、最も代表的なものの1つが電気ギターであるから、補正前の発明の技術分野と補正後の発明の技術分野は技術的に密接に関連するものと認められる。したがって、この補正前後の発明の産業上の利用分野は同一と認められる。また、この補正は、補正前発明の発明特定事項である「…皮膜を有する電気弦楽器用弦」を概念的に下位のものとしたものであるから、補正前発明の発明特定事項を限定したものである。さらに、補正前後で、発明の解決しようとする課題は変更されていない。 |
関連情報
(作成2021.05.16、最終更新2021.06.13)
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