はじめに
- 特許法第36条~第38条について、条文を解読してみます。
- 条文等は、本頁末尾の掲載日時点の弊所把握情報です。
- 本ページの解説動画1:特許法第36条~第36条の2の条文解読【動画】
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目次
(特許出願)
第36条
特許を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した「願書」を特許庁長官に提出しなければならない。
一 特許出願人の「氏名又は名称」及び「住所又は居所」
二 発明者の「氏名」及び「住所又は居所」
- 出願人(将来の権利者)は、自然人でも法人でもよい(一号には自然人の「氏名」以外に法人の「名称」がある)。
- 発明者は、自然人に限られる(二号には「名称」がない)。
2 「願書」には、「明細書」、「特許請求の範囲」、「必要な図面」及び「要約書」を添付しなければならない。
- 特許出願には、「願書」「明細書」「特許請求の範囲」「要約書」が必須であり、さらに必要な場合には「図面」を添付する。
3 前項の「明細書」には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
- 実施可能要件=その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
特許庁編『特許・実用新案審査基準』によれば、「その実施」とは、請求項に係る発明の実施のことをいいます。そして、「物の発明」について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることをいいます。「方法の発明」について実施をすることができるとは、その方法を使用できることをいいます。「物を生産する方法の発明」については、その方法により物を生産できることをいいます。
- 委任省令要件=経済産業省令で定めるところにより記載したものであること。
特許法施行規則
(発明の詳細な説明の記載)
第24条の2 特許法第36条第4項第一号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。
二 その発明に関連する文献公知発明(第29条第1項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、
その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
- 先行技術文献情報開示要件
5 第2項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。
- 前段(第1文)=「この規定は、出願人が特許を受けようとする発明を特定する際に、全く不要な事項を記載したり、逆に、必要な事項を記載しないことがないようにするために、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明を特定するための事項を過不足なく記載すべきことを示したものである。」(特許庁編『特許・実用新案審査基準』)
- 前段の「特許出願人が」とした理由=「どのような発明について特許を受けようとするかは出願人が判断すべきことであるので、特許を受けようとする発明を特定するために必要と出願人自らが認める事項の全てを記載することとされている。」
- 後段(第2文)=「この規定は、一の発明については、一の請求項でしか記載できないとの誤解が生じないように確認的に規定されたものである。」
- ご参考:特許請求の範囲について
- ご参考:特許法36条5項後段「一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない」とは?
6 第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。(サポート要件)
二 特許を受けようとする発明が明確であること。(明確性要件)
三 請求項ごとの記載が簡潔であること。(簡潔性要件)
四 その他経済産業省令で定めるところにより記載されていること。(特許請求の範囲の記載に関する委任省令要件)
- 特許法施行規則
(特許請求の範囲の記載)
第24条の3 特許法第36条第6項第四号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
一 請求項ごとに行を改め、一の番号を付して記載しなければならない。
二 請求項に付す番号は、記載する順序により連続番号としなければならない。
三 請求項の記載における他の請求項の記載の引用は、その請求項に付した番号によりしなければならない。
四 他の請求項の記載を引用して請求項を記載するときは、その請求項は、引用する請求項より前に記載してはならない。
五 他の二以上の請求項の記載を択一的に引用して請求項を記載するときは、引用する請求項は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用してはならない。
7 第2項の要約書には、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要その他経済産業省令で定める事項を記載しなければならない。
- 要約書には、明細書等に記載した発明の概要を記載し、必ずしも特許請求の範囲に限られない。
- 特許法施行規則
(要約書の記載)
第25条の2 特許法第36条第7項に規定する経済産業省令で定める事項は、出願公開又は同法第66条第3項(特許掲載公報)に規定する特許公報への掲載の際に、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した発明の概要と共に特許公報に掲載することが最も適当な図に付されている番号とする。(選択図)
第36条の2
特許を受けようとする者は、
前条第2項の明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、
「同条第3項から第6項までの規定により明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面及び必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの(以下「外国語書面」という。)」並びに「同条第7項の規定により要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面(以下「外国語要約書面」という。)」
を願書に添付することができる。
- 特許を受けようとする者は、
明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書に代えて、
「外国語書面」と「外国語要約書面」
を願書に添付することができる。 - 願書については、通常の特許出願と同様に、日本語で作成された願書を提出する。
- 外国語書面=「第36条第3~6項の規定により、明細書又は特許請求の範囲に記載すべきものとされる事項を経済産業省令で定める外国語で記載した書面」及び「必要な図面でこれに含まれる説明をその外国語で記載したもの」
- 外国語要約書面=「第36条第7項の規定により、要約書に記載すべきものとされる事項をその外国語で記載した書面」
- 特許法施行規則
(外国語書面出願の言語)
第25条の4 特許法第36条の2第1項の経済産業省令で定める外国語は、英語その他の外国語とする。(英語に限らない。)
2 前項の規定により外国語書面及び外国語要約書面を願書に添付した特許出願(以下「外国語書面出願」という。)の出願人は、
その特許出願の日(第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日、第43条第1項、第43条の2第1項(第43条の3第3項において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、最初の出願若しくはパリ条約(…で改正された工業所有権の保護に関する1883年3月20日のパリ条約をいう。以下同じ。)第4条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願又は同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願の日、第41条第1項、第43条第1項、第43条の2第1項(第43条の3第3項において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日。第64条第1項において同じ。)から1年4月以内に
外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。
ただし、当該外国語書面出願が
・第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、
・第46条第1項若しくは第2項の規定による出願の変更に係る特許出願
・又は第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願
である場合にあつては、本文の期間の経過後であつても、
その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から2月以内に限り、
外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。
- 外国語書面出願の出願人は、出願日から1年4月以内に、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。ただし、外国語書面出願が分割出願、変更出願、実用新案登録に基づく特許出願である場合には、前記期間の経過後であっても、その分割、変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から2月以内に限り、外国語書面及び外国語要約書面の日本語による翻訳文を提出することができる。
- 特許出願の日とは?
・第41条第1項(国内優先権主張)の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、同項に規定する先の出願の日
・第43条第1項(パリ条約優先権主張)、第43条の2第1項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項(パリ条約の例による優先権主張)の規定による優先権の主張を伴う特許出願にあつては、「最初の出願」若しくは「パリ条約第4条C(4)の規定により最初の出願とみなされた出願」又は「同条A(2)の規定により最初の出願と認められた出願」の日
・第41条第1項(国内優先権主張)、第43条第1項(パリ条約優先権主張)、第43条の2第1項(優先期間徒過救済措置による優先権主張)(第43条の3第3項(パリ条約の例による優先権主張)において準用する場合を含む。)又は第43条の3第1項若しくは第2項(パリ条約の例による優先権主張)の規定による二以上の優先権の主張を伴う特許出願にあつては、当該優先権の主張の基礎とした出願の日のうち最先の日
・なお、この定義は「第64条第1項(出願公開)において同じ」である。 - パリ条約
(優先権)
第4条
A.
(1) いずれかの同盟国において正規に特許出願若しくは実用新案、意匠若しくは商標の登録出願をした者又はその承継人は、他の同盟国において出願をすることに関し、以下に定める期間中優先権を有する。
(2) 各同盟国の国内法令又は同盟国の間で締結された2国間若しくは多数国間の条約により正規の国内出願とされるすべての出願は、優先権を生じさせるものと認められる。
(3) 正規の国内出願とは、結果のいかんを問わず、当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいう。
B. 省略
C.
(1) A(1)に規定する優先期間は、特許及び実用新案については12箇月、意匠及び商標については6箇月とする。
(2) 優先期間は、最初の出願の日から開始する。出願の日は、期間に算入しない。
(3) 優先期間は、その末日が保護の請求される国において法定の休日又は所轄庁が出願を受理するために開いていない日に当たるときは、その日の後の最初の就業日まで延長される。
(4) (2)にいう最初の出願と同一の対象について同一の同盟国においてされた後の出願は、先の出願が、公衆の閲覧に付されないで、かつ、いかなる権利をも存続させないで、後の出願の日までに取り下げられ、放棄され又は拒絶の処分を受けたこと、及びその先の出願がまだ優先権の主張の基礎とされていないことを条件として、最初の出願とみなされ、その出願の日は、優先期間の初日とされる。この場合において、先の出願は、優先権の主張の基礎とすることができない。
D.~ 省略
3 特許庁長官は、
前項本文に規定する期間(同項ただし書の規定により外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を提出することができるときは、同項ただし書に規定する期間。以下この条において同じ。)内に同項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文の提出がなかつたときは、
外国語書面出願の出願人に対し、その旨を通知しなければならない。
4 前項の規定による通知を受けた者は、
経済産業省令で定める期間内に限り、
第2項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
- 特許法施行規則 第25条の7第4項
特許法第36条の2第4項の経済産業省令で定める期間は、同条第3項の規定による通知の日から2月とする。
5 前項に規定する期間内に外国語書面(図面を除く。)の第2項に規定する翻訳文の提出がなかつたときは、
その特許出願は、同項本文に規定する期間の経過の時に取り下げられたものとみなす。
- 明細書及び特許請求の範囲について、翻訳文の提出がなかったときは、出願は取り下げられたものとみなす。
- 図面について、翻訳文の提出がなかったときは、図面はないものとして取り扱われる。
- 外国語要約書面の翻訳文の提出がなかったときは、補正が命じられる。
6 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、
第4項に規定する期間内に当該翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、
経済産業省令で定める期間内に限り、
第2項に規定する外国語書面及び外国語要約書面の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
- 特許法施行規則
第25条の7
1~4 省略
5 特許法第36条の2第6項の経済産業省令で定める期間は、同項に規定する正当な理由がなくなつた日から2月とする。ただし、当該期間の末日が同条第4項に規定する期間の経過後1年を超えるときは、同項に規定する期間の経過後1年とする。
6 特許法第36条の2第6項の規定により翻訳文を提出する場合には、同項に規定する期間内に様式第31の9により作成した回復理由書を提出しなければならない。
7 前項の回復理由書を提出する場合には、特許法第36条の2第6項に規定する正当な理由があることを証明する書面を添付しなければならない。ただし、特許庁長官が、その必要がないと認めるときは、この限りでない。
8 第6項の回復理由書の提出は、二以上の事件に係る回復理由書について、当該書面の内容(当該回復理由書に係る事件の表示を除く。)が同一の場合に限り、一の書面ですることができる。
7 第4項又は前項の規定により提出された翻訳文は、
第2項本文に規定する期間が満了する時に特許庁長官に提出されたものとみなす。
8 第2項に規定する外国語書面の翻訳文は前条第2項の規定により願書に添付して提出した明細書、特許請求の範囲及び図面と、
第2項に規定する外国語要約書面の翻訳文は同条第2項の規定により願書に添付して提出した要約書とみなす。
- 外国語書面の翻訳文=願書に添付して提出した「明細書」「特許請求の範囲」「図面」
- 外国語要約書面の翻訳文=願書に添付して提出した「要約書」
第37条
二以上の発明については、
経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは、
一の願書で特許出願をすることができる。
- 特許法施行規則
(発明の単一性)
第25条の8 特許法第37条の経済産業省令で定める技術的関係とは、二以上の発明が「同一の又は対応する特別な技術的特徴」を有していることにより、これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは、発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第1項に規定する技術的関係については、二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず、その有無を判断するものとする。
特許庁編『特許・実用新案審査基準』から抜粋
例1:
[請求項1] 高分子化合物A(酸素バリアー性のよい透明物質)。
[請求項2] 高分子化合物Aからなる食品包装容器。
(説明) 高分子化合物Aが先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴である。請求項1及び2に係る発明は、いずれもこの技術的特徴を有しているから、同一の特別な技術的特徴を有する。
例2:
[請求項1] 光源からの照明光を一部遮光する照明方法。
[請求項2] 光源と光源からの照明光を一部遮光する遮光部を備えた照明装置。
(説明) 照明光を一部遮光する点が先行技術に対する貢献をもたらす特別な技術的特徴である。請求項1及び2に係る発明は、いずれもこの技術的特徴を有しているから同一の特別な技術的特徴を有する。
例3:
[請求項1] 窒化ケイ素に炭化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
[請求項2] 窒化ケイ素に窒化チタンを添加してなる導電性セラミックス。
(説明) 請求項1及び2に係る発明は、窒化ケイ素に添加する物質がそれぞれ、炭化チタン及び窒化チタンである点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、請求項1及び2に係る発明が先行技術に対して解決した課題は、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることである。したがって、請求項1及び2に係る発明は、先行技術に対して解決した課題が一致又は重複しているから、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通しているものであり、対応する特別な技術的特徴を有する。
なお、この例で、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることが、本願出願時に未解決である課題とはいえない場合は、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通している、又は密接に関連しているとはいえない。したがって、請求項1及び2に係る発明は、対応する特別な技術的特徴を有しない。
例4:
[請求項1] 映像信号を通す時間軸伸長器を備えた送信機。
[請求項2] 受信した映像信号を通す時間軸圧縮器を備えた受信機。
(説明) 請求項1及び2に係る発明は、それぞれ、時間軸伸長器を備える送信機及び時間軸圧縮器を備える受信機である点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、送信機において時間軸を伸長し映像信号を送信することと、受信機において映像信号を受信して時間軸を圧縮することとは、相補的に関連するものである。したがって、請求項1及び2に係る発明は、対応する特別な技術的特徴を有する。
(共同出願)
第38条
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。
- 本条の条文解読は、次のページをご覧ください。
共同出願と特許権共有>第38条(共同出願)
(作成2021.06.09、最終更新2022.03.27)
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