はじめに
商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務(えきむ:サービス)を指定して、商標ごとにしなければなりません。つまり、商標をどのような商品又は役務に使用するのかを指定して、商標ごとに出願する必要があります。指定された商品又は役務は、「指定商品」又は「指定役務」といいます。
商標権者は、指定商品又は指定役務について、登録商標の使用をする権利を専有します。指定商品又は指定役務は、商標権の権利範囲を定めることになります。
3年以上継続して権利者が各指定商品又は指定役務について登録商標の使用をしていないとき、第三者からの請求により、商標登録が取り消されることがあります。取消しを免れるには、請求に係る指定商品又は指定役務について、登録商標を使用していることを立証する必要があります。
このように、指定商品又は指定役務は、どの範囲で商標の使用を独占できるかを定め、使用しないなら不使用取消の問題を生じることになります。
指定商品又は指定役務についての登録商標の使用に関し、指定商品又は指定役務が具体的に「どのような商品又はサービスなのか」が問題となることがあります。
「指定商品又は指定役務の意義」を示した最高裁判決を確認してみます。特に、指定役務「商品の販売に関する情報の提供」の意義が示されました。
- 本ページの解説動画:商標登録の指定商品又は指定役務の意義(最高裁)【動画】
全体の流れ
- 特許庁の不使用取消審判:登録取消(指定役務に登録商標は使用されていない。)
- 知財高裁:審決取消(指定役務に登録商標は使用されている。)
- 最高裁:原判決破棄(指定役務に登録商標は使用されていない。)
登場人物
- 不使用取消審判の請求人=被告=上告人
- 不使用取消審判の被請求人=商標権者=原告=被上告人
特許庁:取消2007-300303
◆審判請求人(のちの上告人)は、第35類「商品の販売に関する情報の提供」などについて、不使用取消審判を請求した。
◆特許庁は、本件商標を「商品の販売に関する情報の提供」について使用していると認められないとして、請求に係る商標登録を取り消すべき旨の審決をした。
知財高裁:平成20年(行ケ)第10414号
◆原告(商標権者、のちの被上告人)の主張
- 自社のウェブサイトにおいて、自社が開発したゲームソフトを紹介するのに併せて、本件商標を表示して、自社が開発に携わり他社が販売するゲームソフトにつき、その発売日、プレイヤー人数、価格等を表示するなどした。
- 利用者は、上記ウェブサイトを介して、本件商品の販売会社のウェブサイトを閲覧し、本件商品を購入可能である。
◆知財高裁は、本件指定役務についての本件商標の使用を認め、審決を取り消した。
最高裁:平成21年(行ヒ)第217号
主文
原判決を破棄する。被上告人の請求を棄却する。
理由
(1)前提
- 商標登録出願は、商標の使用をする商品又は役務を、商標法施行令で定める「商品及び役務の区分」に従って指定してしなければならない。
- 商標法施行令は、同区分を、国際分類に従って定めるとともに、各区分に、その属する商品又は役務の内容を理解するための目安となる名称を付している。
- 商標法施行規則は、上記各区分に属する商品又は役務を、更に細分類をして定めている。
- 類似商品・役務審査基準において、互いに類似する商品又は役務を同一の類似群に属するものとして定めている。
(2)商標法施行規則別表において定められた商品又は役務の意義は、以下を参酌して解釈するのが相当である。
- 商標法施行令別表の区分に付された名称
- 商標法施行規則別表において当該区分に属するものとされた商品又は役務の内容や性質
- 国際分類を構成する類別表注釈において示された商品又は役務についての説明
- 類似商品・役務審査基準における類似群の同一性
(3)本件指定役務である「商品の販売に関する情報の提供」の意義について検討する(前記a~dに対応して)。
- 政令別表第35類の名称は「広告、事業の管理又は運営及び事務処理」である。
- 上記区分に属するものとされた省令別表第35類に定められた役務の内容や性質も考慮する。
- 出願時の国際分類を構成する類別表注釈が、「商業に従事する企業の運営若しくは管理に関する援助又は商業若しくは工業に従事する企業の事業若しくは商業機能の管理に関する援助を主たる目的とするもの」を含むとしている。
- 「商品の販売に関する情報の提供」は、「経営の診断及び指導」、「市場調査」及び「ホテルの事業の管理」と並べて定められ、類似商品・役務審査基準においても、これらと同一の類似群に属するとされている。
以上からすれば、「商品の販売に関する情報の提供」とは、商業等に従事する企業に対して、その管理、運営等を援助するための情報を提供する役務であると解するのが相当である。
そうすると、商業等に従事する企業に対し、商品の販売実績に関する情報、商品販売に係る統計分析に関する情報などを提供することがこれに該当すると解されるのであって、商品の最終需要者である消費者に対し商品を紹介することなどは、「商品の販売に関する情報の提供」には当たらないというべきである。
(4)そこで、本件各行為について検討すると、前記事実関係によれば、本件各行為は、被上告人のウェブサイトにおいて、被上告人が開発したゲームソフトを紹介するのに併せて、他社の販売する本件各商品を消費者に対して紹介するものにすぎず、商業等に従事する企業に対して、その管理、運営等を援助するための情報を提供するものとはいえない。したがって、本件各行為により、被上告人が本件指定役務についての本件商標の使用をしていたということはできない。
参考情報
「商品の販売に関する情報の提供」の解釈について、特許庁のウェブサイトには、次のとおり紹介されています(商品・役務名のQ&A、2023年1月版)。
第35類「商品の販売に関する情報の提供」は、「商業等に従事する企業に対して、その管理、運営等を援助するための情報を提供する役務」であって、企業に対し、「商品の販売実績に関する情報、商品販売に係る統計分析に関する情報などを提供」するものと解されます(平成23年12月20日 最高裁 平成21(行ヒ)217)。
なお、消費者向けに商品を紹介するような情報の提供の役務としては、第35類「消費者のための商品購入に関する助言と情報の提供」(なお、本表示は、第11-2018版より「消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供」へ変更されました。)があります。
(作成2023.05.09、最終更新2023.05.10)
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