意匠審決の読解6(類否判断事例)

不服2022-18107

意願2021-17784「包装用容器」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法第3条第1項第3号(新規性)

【弊所メモ】形状等を箇条書きで認定して対比(共通点、相違点)、ネット掲載写真の一部を引用意匠、構成の推認、この種物品分野において出願前から数多く存在、両意匠のみの特徴、共通点に相違が内在、躍動感と安定感、丸みのある印象とシャープな印象、ほとんど目に触れない部分、透明と有色半透明

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1.本願意匠

(1)意匠に係る物品

 本願意匠の意匠に係る物品は「包装用容器」である。

(2)本願意匠の形状等

〔A1〕本願意匠は、雄ネジを形成した口部を、上端に設けた本体部から成っている。

〔A2〕本体部は、水滴型の上端と下端を水平面で切ったような形状である。

・・・

〔A11〕本願意匠は、全体が透明である。

 

2.引用意匠

(1)意匠に係る物品

 引用意匠の意匠に係る物品は、ノズル及びキャップを除く「包装用容器本体」である。

(2)引用意匠の形状等

〔B1〕…に掲載された意匠は、本体部の上方にノズル及びキャップを搭載していることから、引用意匠は、雄ネジを形成した口部を、上端に設けた本体部から成っていると推認することができる。

〔B2〕本体部は、水滴型の上端と下端を水平面で切ったような形状である。

・・・

〔B11〕引用意匠は、全体が水色半透明である。

 

3.両意匠の対比

(1)意匠に係る物品の対比

 本願意匠に係る物品は「包装用容器」であり、引用意匠に係る物品は、ノズル及びキャップを除く「包装用容器本体」である。

(2)両意匠の形状等の対比

ア.共通点について

〔共通点1〕雄ネジを形成した口部を、上端に設けた本体部から成っている。

〔共通点2〕本体部は、水滴型の上端と下端を水平面で切ったような形状である。

〔共通点3〕本体部は、口部の下端に接している上端の肩部と、その下の胴部から成っている。

〔共通点4〕本体部の縦長さ(高さ)を100とすると、本体部の最大直径は、75前後である。

〔共通点5〕本体部が最大直径になる高さ位置は、下から約3分の1の位置である。

イ.相違点について

〔相違点1〕本体部の縦長さ(高さ)を100としたときの本体部の最大直径につき、本願意匠は、約73であるのに対して、引用意匠は、約77である。

〔相違点2〕本体部が最大直径になる高さ位置につき、本願意匠は、下から3分の1弱の位置であるのに対して、引用意匠は、下から3分の1強の位置である。

〔相違点3〕肩部の角における角丸のRの大きさにつき、本願意匠は、やや大きめのRであるのに対して、引用意匠は、とても小さいRである。(A6とB6)

〔相違点4〕肩部の上方の形状につき、本願意匠は、本の僅かに裾広がりであるのに対して、引用意匠は、垂直である。(A7とB7)

〔相違点5〕肩部の下方の形状(胴部へのつながり形状)につき、本願意匠は、肩部の下半分は、へこみRとなっており、それから胴部につながっているのに対して、引用意匠は、下端で屈曲(谷折り)して胴部につながっている。(A8とB8)

〔相違点6〕本体部の縦長さに対する肩部の縦長さにつき、本願意匠は、約10分の1であるのに対して、引用意匠は、ごく僅かである。(A9とB9)

〔相違点7〕底面の脚につき、本願意匠は、ごく僅かな高さの細い円弧状の脚を3か所設けているのに対して、引用意匠は、脚を設けていない。(A10とB10)

〔相違点8〕全体につき、本願意匠は、透明であるのに対して、引用意匠は、水色半透明である。(A11とB11)

 

4.判断

(1)意匠に係る物品の類否判断

 …本願意匠と引用意匠は、表記が異なるが、共に被包装物を入れておく器部分であるから、両意匠の意匠に係る物品は共通する。

(2)両意匠における形状の評価

ア.共通点について

 共通点1については、この種物品分野においては、本願意匠の出願前から数多く存在し、両意匠のみの特徴とはいえず、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

 共通点1ないし5によって、一見大まかには共通感を生み出している。

 しかし、共通点4には、詳細には相違点1の相違を内包しており、両意匠の類否判断に与える影響は限定的である。

 そして、共通点5には、詳細には相違点2の相違を内包しており、両意匠の類否判断に与える影響は限定的である。

イ.相違点について

 相違点1の相違は小さいが、相違点2と相まって、引用意匠は、重心位置がやや高く見えることから躍動感(不安定)を感じさせるが、本願意匠は、重心位置がやや低く見えることから安定感を感じさせており、両意匠の類否判断に与える影響は、大きいといえる。

 相違点3ないし6については、本願意匠は各部のR半径が大きく、全体的に丸みのある印象を与えるのに対して、引用意匠は、シャープな印象を与えており、両意匠に別異の印象を生じさせているといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は、大きいといえる。

 相違点7は、販売陳列時や使用状態において、ほとんど目の触れない部分における相違であるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さいといえる。

 相違点8については、この種物品分野においては、全体を透明、有色半透明、不透明などとしたり、または無色や各種の色を採用したりして、様々な態様のものが認められるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さいといえる。

(3)両意匠における形状の類否判断

 以上のとおり、共通点は、両意匠の類否判断に与える影響が、小さいまたは限定的なものであり、この共通点によっては、両意匠の類否判断を決するものといえないのに対して、相違点1ないし6によって、需要者に別異の印象を起こさせるものであるから、両意匠の類否判断を決するものといえる。

 そうすると、本願意匠の形状と引用意匠の形状は、類似するとは認められない。

(4)両意匠における類否判断

 よって、両意匠は、意匠に係る物品は共通するが、上記のとおり本願意匠と引用意匠の形状は類似するものではないから、本願意匠と引用意匠は類似するとはいえない。

 


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正確な全文は、審判番号から審決公報をご確認ください。
(作成2023.08.25、最終更新2023.08.25)

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