意匠審決の読解7(類否判断事例)

不服2022-19488

意願2021-12382「いす」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法第3条第1項第3号(新規性)

【弊所メモ】基本的構成態様と各部の態様、引用意匠に不明な点、本願の出願前から公然知られている、両意匠のみに共通するものか、使用感、需要者が最も強く注意を払う部位、基本的構成が一般的なら需要者はより具体的な形状等に着目する、小振りで控え目な印象と大きく目立つ印象、最も目立つ正面

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1 本願意匠と引用意匠の対比

(1)意匠に係る物品

 共に「いす」であるから、一致する。

(2)両意匠の形状等

 ア 共通点

 (ア)基本的構成態様

 両意匠は、本体は、背もたれと座を一体状に形成したものであって、外枠を略変形楕円形のフレームで枠取り、これにやや粗目のメッシュ材を張設し、底面に4本の略丸棒状の脚を裾広がり状に開脚して取り付け、脚の中程に2本の略角棒状の貫(ぬき)を対角線状に形成している点、

 各部の態様として、

 (イ)本体は、全体的にやや背面側に傾斜している点、

 (ウ)背もたれは、左右に凹湾曲状とし、上端はほぼ水平左右の角から前方に向かって外側に膨らみながら緩やかに傾斜している点、

 (エ)脚は、前脚より後脚の方が外側に傾斜し、両側の前脚と後脚の付け根の間に略横棒状の座枠を取り付けている点において、共通する。

 イ 相違点

 (ア)本体について、本願意匠は、座面の奥行きが浅く、左右の湾曲度合いも緩やかであるのに対し、引用意匠は、座面の奥行きが深く、左右の湾曲度合いが急で上に迫り上がっている点、

 (イ)背もたれについて、本願意匠は、両側が上方に向かって内側に傾斜しているのに対し、引用意匠は、両側が上方に向かって外側に傾斜している点、

 (ウ)本体のフレームについて、本願意匠は、フレーム全体を細い平紐で籐巻き(とまき)状に巻いているのに対し、引用意匠は、不明である点において、相違する。

 

2 類否判断

(1)意匠に係る物品

 両意匠の意匠に係る物品は一致するから、同一である。

(2)形状等の共通点及び相違点の評価

 ア 共通点の評価

 この種物品の分野において、メッシュ材で張設した略変形楕円形の本体底面に4本の脚を開脚して取り付け、脚の中程に対角線状に貫を形成し、両側の前後の脚の付け根の間に座枠を取り付けたものが、…本願の出願前から公然知られていることから、この共通するとした態様は、両意匠のみに共通するものとはいえず、共通点(ア)ないし共通点(エ)が、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。

 イ 相違点の評価

 当該物品において、背もたれや座は、身体に接し、使用感に大きく関わるから、需要者が最も強く注意を払う部位であり、また、前記アのとおり、両意匠の基本的な構成はごく一般的なものであるから、需要者は、本体のより具体的な形状等に着目するものといえるところ、

 相違点(ア)のとおり、座面の奥行きが浅く、左右の湾曲度合いも緩やかである本願意匠と、座面の奥行きが深く、左右の湾曲度合いが急で上に迫り上がっている引用意匠とは、一見して異なる視覚的印象となって、需要者に異なる美感を起こさせるものであるから、相違点(ア)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

 相違点(イ)についても、背もたれの両側を内側に傾斜している本願意匠の態様は、座に比べて小振りで控え目な印象を与えているのに対し、引用意匠の背もたれは、外側に大きく張り出して大きく目立っており、需要者に別異の印象を与えるものといえるから、相違点(イ)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

 相違点(ウ)についても、最も目立つ正面のフレームにおいて、本願意匠は、メッシュ材の隙間から籐巻きされたフレームがはっきり確認できるところ、フレームの態様が不明である引用意匠との相違は、需要者に異なる美感を起こさせるものといえるから、相違点(ウ)は、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。

 ウ 形状等の類否判断

 両意匠の形状等における共通点及び相違点の評価に基づき、意匠全体として総合的に観察し判断した場合、共通点は、両意匠の類否判断に与える影響は小さいものであるのに対し、相違点(ア)ないし相違点(ウ)が、両意匠の類否判断に与える影響は大きいものである。

 したがって、両意匠の形状等を全体として総合的に観察した場合、両意匠の形状等は、共通点に比べて、相違点が両意匠の類否判断に与える影響の方が大きいものであるから、両意匠の形状等は類似しない。

(3)小括

 以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品は同一であるが、形状等において、共通点が未だ両意匠の類否判断を決定付けるまでには至らないものであるのに対して、相違点が両意匠の類否判断に与える影響は共通点のそれを凌駕しており、意匠全体として見た場合、両意匠は、需要者に異なる美感を与えているというべきであるから、本願意匠は、引用意匠に類似するということはできない。

 


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正確な全文は、審判番号から審決公報をご確認ください。
(作成2023.08.26、最終更新2023.08.26)

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