意匠審決の読解10(類否判断事例)

不服2015-13721

意願2014-18744「コップ」拒絶査定不服審判事件

原査定を取り消す。本願の意匠は、登録すべきものとする。

意匠法第3条第1項第3号(新規性)

【弊所メモ】意匠に係る物品が共通、引用意匠はコップと言って差し支えない、基本的構成態様、具体的構成態様、細身とずんぐり、円錐台形状と円筒形、約半分の部分と約4分の1部分、帽子の鍔状と鳥のくちばし様、突起の有無、一見若干の共通感、異なる目的を合理的に達成させるための態様、使用の目的が異なることを想起させる態様

◆図面・写真・画像は、審判番号から、特許庁の審決公報をご覧ください。

 


1 意匠に係る物品について

 本願意匠の意匠に係る物品は「コップ」であるところ、

 引用意匠の考案の名称は「喫飲用食器」であるが、…飲み口部を備えた飲みやすい飲食用の食器であって、…おおむね細い円筒形であることを加えて勘案すると、引用意匠は「コップ」と言って差し支えないものであるから、

 両意匠の物品は、共通する。

 

2 形態について

(2-1)共通点

 基本的構成態様において、周面から底面にかけて角丸とした縦長の略円筒形であって、具体的構成態様においては、開口上縁部の一部分を下り傾斜にしつつ、突出部を設けている点で、共通する。

 

(2-2)相違点

 具体的構成態様において、

 (a)全体のプロポーション(縦横比)につき、本願意匠は、相対的にやや細長いのに対して、引用意匠は、ややずんぐりとしている点、

 (b)周面の角度につき、本願意匠は、円錐台形状(下すぼみ形状)と直ちに分かるほど角度が付いているのに対して、引用意匠は、ほぼ円筒形と思われるほど垂直に近い点、

 (c)上縁部の、下り傾斜していない部分につき、引用意匠が、開いてやや外側に広がる態様としているのに対して、本願意匠は、そのような態様としていない点、

 (d)下り傾斜の部分につき、本願意匠は、側面視で上縁部の長さの約半分の部分であるのに対して、引用意匠は、約4分の1部分である点、

 (e)突出部の態様につき、本願意匠は、三日月状平面で、帽子の鍔状(つばじょう)としているのに対して、引用意匠は、垂直断面形状を先端に向かって徐々に小さくなる丸V字状の溝とした鳥のくちばし様としている点、

 (f)内底面の態様につき、本願意匠は、突起を1つ設けているのに対して、引用意匠は、突起を設けていない点、で相違する。

 

3 類否判断

 上縁部に突出部などを設けないのが通常であるこの種物品分野においては、上縁部の一部分に突出部を設けたのみで、一見、若干の共通感を生み出すものである。

 しかし、相違点(a)及び同(b)が相まって、本願意匠は、より細身であると感じさせる態様であるのに対して、引用意匠は、ずんぐりとした感じであるから、この点については、僅かに両意匠の類否判断に影響を与えるもので、

 相違点(d)及び同(e)に示した各々の態様は、本願意匠は、…傾斜倒立させる際に、より安定するようにしたものであるのに対して、引用意匠は、口内に注ぎやすいようにしたものであって、それぞれ両意匠の異なる目的を合理的に達成させるための態様であって、これらの相違点は、両意匠のそれぞれの使用の目的が異なることを想起させる態様と認められるから、両意匠の類否判断に強く影響を与えるものである。

 よって、その他の相違点を挙げるまでもなく、上記相違点がもたらす印象で、共通点が醸し出す印象をしのいでおり、見る者に両意匠が別異であると認識させるものであり、両意匠の形態は類似しないといえる。

 したがって、両意匠の意匠に係る物品は共通しているが、形態は類似しないから、両意匠は、類似しているとはいえない。

 


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(作成2023.10.26、最終更新2023.10.26)

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