出願審査の請求時期

はじめに

  • 出願審査の請求について」で述べたように、特許出願の場合、出願内容を審査してもらうには、出願とは別に「出願審査の請求」が必要です。出願審査の請求は、誰でも可能ですが、通常、出願人によって行われます。出願審査の請求があってはじめて、特許庁は実体審査に入ります。所定期間内に出願審査の請求がなかったときは、出願は取り下げたものとみなされます。
  • 通常、出願日から3年以内ならば、出願審査の請求をすることができます。出願後すぐに請求しても構いませんし、期限ぎりぎりに請求しても構いません。
  • “いつ”請求するかの判断は、(他人が請求しない限り)出願人に任されています。そこで、ここでは、出願審査の請求をいつすべきかの判断基準として、早く請求した場合のメリット・デメリットなどを考えてみたいと思います。「出願審査の請求について」や「特許Q&A」(「私は「出願審査の請求」をいつすべきでしょうか?」など)で述べてきた事項をさらに詳細にまとめたものとなります。
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出願審査の請求期限

  • 原則として、出願日から3年以内なら、いつでも請求することができます。
  • 分割出願、(実用新案や意匠からの)変更出願、実用新案登録に基づく特許出願については、もとの出願日から3年経過後であっても、新たな出願日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができます。
  • 国内優先権の主張を伴う特許出願については、優先権主張の基礎とされた「先の出願」の出願日ではなく、優先権主張を伴う「後の出願」の出願日から3年です。
  • 上記期限の徒過後でも、所定の救済措置の適用を受けることができる場合があります。

 


いつ請求すべきかの判断基準

模倣品対応

  • 出願審査請求して審査を受け、特許を取得するまでは、模倣品が出ても、差止請求や損害賠償請求等の権利行使をすることができません。
  • 出願審査請求が早いと、早期に特許を取得することができます。特許を取得することで、模倣品が出ても、迅速に対応することができます。
  • 出願審査請求が遅いと、その分、権利化が遅れます。その間、模倣品が出ても、直ちに権利行使することができません。

 

特許性判断と自社出願公開

  • (a)出願審査請求して審査を受けても、特許になるとは限りません。(b)特許出願すると、原則として、出願日から1年6月経過したとき、出願公開(公開公報発行により出願内容が公開)されます。(c)出願審査請求して審査を受け、審査をパスして特許が成立すると、特許公報(特許掲載公報)が発行されます。
  • 出願審査請求が早いと、早期に審査結果を得て、事業化・商品化の判断材料にしたり、外国出願に関する手続の判断材料にしたりできます。最悪、自社実施を阻害する他社先願が見つかるかもしれません。万一、特許性が乏しいと判明した場合、出願公開(出願内容公開)前に出願を取下げ可能な場合もあります。また、出願の出し直しや、国内優先権制度の利用により、出願内容を充実させて、再トライ可能な場合もあります。
  • 出願審査請求が早いと、早期に拒絶査定が確定するかもしれません。万一、拒絶査定が確定した場合、「特許出願中」による他社けん制効果も失うことになります。仮に、明細書や図面(あるいは特許請求の範囲の一部の請求項)に本来特許になり得る発明が含まれていても、一部に拒絶理由があれば、出願全体として拒絶されます。
  • 出願審査請求が早いと、万一拒絶査定になっても、前述したとおり、公開公報の発行を防止できる場合があります。すなわち、出願公開前に出願が取下げ、放棄または却下され、あるいは拒絶査定が確定した場合、原則として、公開公報は発行されません。そのため、特許されないのなら、出願を取り下げるなどして、出願内容の公開を防止できる場合があります。但し、出願公開されないと、第三者の権利化を阻止する効果も得られません(出願による他者権利化阻止効果(防衛出願))。出願公開を早めるように請求する手続はあります。
  • 出願後、しばらく出願審査請求を保留すれば、万一拒絶査定になっても、その前に出願公開により出願内容は公開されています。出願公開されることで、第三者の後願の特許化を阻止することができます(出願による他者権利化阻止効果(防衛出願))。

 

特許性判断と他社出願公開

  • 出願しても、原則として出願日から1年6月経過するまで、出願内容は公開されません。そのため、出願前に先行技術調査(特許調査)をしていても、直近1年6月分については、調査できておりません。その調査で同一類似の他社出願が見つからなくても、実は先に他社が出願していた可能性があります。それを確かめるためには、自社出願から1年6月経過後に今一度、先行技術調査することが考えられます。その際、自社の公開公報等に特許分類(FI、Fターム)が示されますから、それを参考に調査することもできます。
  • 出願審査請求が早いと、自社出願の出願公開後に先願を再調査したり、その調査結果に基づいて出願審査請求の要否を検討したりすることができません。

 

改良発明等出現と国内優先権制度

  • 出願後、改良発明等が生じるなど、出願書類を修正したい場合があるかもしれません。しかし、出願後、出願書類に新規事項を加入することはできません。出願日から1年以内でしたら、国内優先権制度を利用して、現在の出願内容に改良発明等を加えた形で、新たな出願をして、技術開発の成果を包括的に漏れのない形で保護することができます。
  • 国内優先権の主張を伴う「後の出願」の際に、「先の出願」について査定又は審決が確定している場合、先の出願を国内優先権の主張の基礎とすることができません。そのため、先の出願について、出願審査請求が早いと、国内優先権制度を利用できなくなる場合があります
  • 国内優先権の主張の基礎とされた先の出願は、その出願日から所定期間経過時に、取り下げたものとみなされます。そのため、先の出願について、出願審査請求していても、取下げ扱いとなる場合があります。所定手続により出願審査請求料の一部は返還されますが、手間や費用に無駄を生じさせます。先の出願を基礎として国内優先権主張出願をする場合、先の出願は所定要件下、後の出願に組み込まれて一本化されますから、先の出願について、出願審査請求する必要はありません。

 

改良発明等出現と別出願

  • (a)特許出願すると、原則として、出願日から1年6月経過したとき、公開公報が発行されます(出願公開)。(b)出願審査請求して審査を受け、審査をパスして特許が成立すると、特許公報(特許掲載公報)が発行されます。
  • 通常、公開公報が先に発行されますから、出願公開までは出願内容は公開されません。そのため、それまでは、自社の先願が(公報発行により)先行技術とはならないので、改良発明等について別出願しても権利を取得しやすい時期となります。
  • 出願審査請求が早いと、出願公開より前に、特許が成立し、特許公報が発行される場合があります。そのため、その後、改良発明等についての権利化が難しくおそれがあります。つまり、特許公報発行後に出願された発明は、公報に記載の発明から容易に考えられる(進歩性がない)として拒絶されるおそれがあります。

 

自社製品をカバーする特許

  • 特許を取得する目的の一つとして、自社製品の保護が挙げられます。そのためには、自社製品をカバーする特許を取得、言い換えれば特許請求の範囲(権利範囲)に自社製品が含まれるように特許を取得します。出願時、自社製品をカバーするように特許請求の範囲を作成して出願するにしても、出願後の自社製品の開発状況に変化(改良・仕様変更)が生じるかもしれません。そうすると、当初想定していた権利範囲と、自社製品との関係に齟齬が生じ、自社製品をカバーできていない状況になるおそれがあります。
  • 出願審査請求が早いと、特許化が早まり、権利範囲が早く確定します。そのため、自社製品の開発状況に合わせて、特許請求の範囲を見直したり、前述した国内優先権主張出願をしたりする機会を逃すおそれがあります。
  • 出願後、しばらく出願審査請求を保留すれば、自社製品をカバーする記載振りで権利取得を目指すことができます。もちろん、出願当初の開示の範囲を超えることはできません。現在の出願でカバーしきれない場合には、時期にもよりますが、出願の出し直しや、追加の出願、国内優先権制度の利用なども考えられます。また、出願後の状況により、権利化が不要となった場合には、出願審査請求しないことで、無駄な手間や費用の発生を防止することができます。

 

他社製品をカバーする特許

  • 特許を取得する目的の一つとして、同一類似の他社製品の排除・けん制が挙げられます。そのためには、他社製品をカバーする特許を取得、言い換えれば特許請求の範囲(権利範囲)に他社製品が含まれるように特許を取得します。出願時に他社製品は存在しない(仮に存在するのなら新規性がないとして出願は拒絶される)ので、自社製品の模倣品が発生する場合、出願後(多くは自社製品発表後)ということになります。
  • 出願審査請求が早いと、特許化が早まり、権利範囲が早く確定します。他社からみれば、権利範囲が確定していない状況は(どの範囲で権利が成立するか分からないので)対処方法が難しいですが、権利範囲が一旦確定してしまうと、それとずらして実施する(あるいはもはや実施しない)ことで、権利侵害となるのを免れやすくなります。そのため、早期の権利化は、他社へのけん制効果を弱めるおそれがあります。

 

費用の発生時期

  • 出願審査請求が早いと、その分だけ、各種費用が前倒しにかかってきます。審査請求自体には、比較的高額の印紙代が必要ですし、審査において拒絶理由通知に対する応答(代理人費用)が必要となるかもしれません。さらに、特許された後も、毎年特許料を支払う必要が生じます。所定の場合、減免措置の対象にはなりますが、基本的には、出願審査請求すると、次々と手続や費用が発生します。

 

費用の額

  • 特許後、権利を維持するには、毎年、特許料の支払いが必要です。特許料は、特許権を維持する期間が長くなるほど、高額となります。
  • 早く権利化するということは、その分だけ、特許料の高額期間への突入が早まります。仮に、存続期間満了まで権利を維持する場合、早く権利化した方が、トータルの費用は高額となります。特許料が高額となるため、資金力によっては、途中で権利を手放す場合もあるかもしれません。但し、所定条件下、特許庁の減免措置の対象となり、特許料の軽減を図ることができます。

 


関連情報

 


特許印紙代

出願審査請求料などについては、次のリンク先をご覧ください。

 


(作成2020.08.06、最終更新2022.03.07)
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