商標登録の必要性

商標登録は必要か?、商標登録のメリットは?

商標登録の必要性、商標登録のメリットについて、解説します。

商標登録は必要なのか、商標登録しないで使用しているとどうなるのか、商標登録の必要性(登録のメリット)について、考えてみたいと思います。

また、「ありがちな商標登録しない理由」として、(a)商標登録に手間と費用をかけたくない、(b)権利行使するつもりはなく商標を使用するだけだ、(c)全国的に商売する訳ではなく地域で使用するだけだ、(d)先に使用していれば商標登録は要らないのではないか、(e)いますぐ商標登録しなくてもよいのではないか、などがあると思います。これら認識が正しいのか、弊所の考えを述べます。

 


目次

 


はじめに

商標とは

商標(しょうひょう)とは、商品又はサービスに使用するネーミングやマークなどをいいます。自分(自社)の商品又はサービスを、他人(他社)のものと区別するために用いるものをいいます。

たとえば、キャラメルに「グリコ」、ビールに「キリン」、不動産業に「三井不動産」、コーヒーショップに「ドトール」などがあります。

大企業に限らず、中小企業や個人事業主でも、ビジネスする上で「商標」は、通常、必要不可欠です。

 

商標登録とは

商標登録とは、商品又はサービスに使用するネーミングやマークなどについて、その保護を求めて出願し、審査をパスすることで得られる特許庁への登録をいいます。

商標登録されることで商標権を得られ、商標権者は、指定した商品又はサービスについて、登録商標を独占排他的に使用することができます。また、登録商標と同一のみならず類似範囲についても、他人の使用や登録を排除することができます。

詳しくは、商標登録とは・商標権の取り方をご覧ください。

 


ありがちな商標登録しない理由?

商標登録しない理由として、たとえば次のものを挙げることができます。これら認識は正しいのでしょうか?

  • 商標登録に、手間と費用をかけたくない。
  • 権利行使するつもりはなく、商標を使用するだけだ。
  • 全国的に商売する訳ではなく、地域で使用するだけだ。
  • 先に使用していれば、商標登録は要らないのではないか。
  • 将来的には考えたいが、いま商標登録しなくてもよいのではないか。

商標登録は必要なのか、商標登録しないで使用しているとどうなるのか、商標登録の必要性(登録のメリット)について、考えてみたいと思います。

商標登録の必要性について検討した後、上記各認識(商標登録しない理由)に対する弊所の考えを述べます。

 


商標登録の必要性(登録のメリット)

商標登録を受けることで、
(1)安心して使用できる!(他人の登録を排除)
(2)独占排他的に使用できる!(他人の使用を排除)
(3)商標の財産的価値を高め保つことができる!
 

(1)商標登録を受けることで、安心して使用できる!(他人の登録を排除)

商標登録を受けることで、同一・類似範囲での他人の登録を排除することができます。つまり、登録商標と同一・類似の商標については、のちに他人が出願しても商標登録を受けることができません。自社(自分)が先に商標登録を受けることで、もう他人に権利を取られるおそれはなくなり、自社は安心して使用できることになります。

商標登録出願の審査では、商標の「使用」の先後(せんご:順序のあとさき)ではなく、「出願」の先後に基づき、一日でも早く出願した者に権利が付与されます。そのため、仮に自社が最も早く使用を開始しても、出願して商標登録を受けておかなければ、他人が先に出願して商標登録を受けるおそれがあります。同一・類似の商標について先に他人が登録すると、あとで自社が出願しても拒絶され、登録を受けることはできません。同一商標だけでなく類似商標も拒絶(使用対象の商品・サービスが同一・類似で、ネーミングやマーク等が同一・類似の場合に拒絶)されるため、予期せぬ他人の商標が障害となることもあります。

同一・類似の商標について、他人が先に商標登録を受けた場合、商標権侵害として、警告を受けたり、使用差止めや損害賠償を請求されたりするおそれがあります。使用を継続したい場合、権利者から権利譲渡を受けたり、ライセンスを受けたりする必要がありますが、権利者がそれを認めるとは限りません。使用を継続できない場合、商標を変更する必要が生じます。その場合、パッケージ、カタログ、ホームページなどの変更も必要となります。

「先使用権(せんしようけん)」として、先に使用していれば継続的に使用を許される場合もありますが、単に先に使用していた事実だけでは足りず、ある程度有名になっていることが必要です。また、継続的に使用できる範囲も限られます。

そのため、商標が決まれば、同一・類似の商標について他人の出願や登録がないことを確認し、できるだけ早く特許庁に出願する必要があります。商標登録を受けることで、後日の同一・類似の他人の登録を排除することができます。

 

(2)商標登録を受けることで、独占排他的に使用できる!(他人の使用を排除)

商標権者は、指定した商品又はサービスについて、登録商標を独占排他的に使用することができます。また、登録商標と同一のみならず類似範囲についても、他人の使用を排除することができます。

権利侵害に対しては、差止請求権や損害賠償請求権などを行使することができます。また、商標権を侵害した場合には、刑事罰が科される場合もあります。

 

(3)商標登録を受けることで、商標の財産的価値を高め保つことができる!

商標が使用されると、その商標を目印・手がかりとして、需要者は所望の商品やサービスを選択(購入)することができます。つまり、需要者は、商標により他の同種商品等と見分けて、所望の商品等を選択でき、その内容に満足した場合には、その商品等のファンになります。商標使用者の側からすれば、商標により、需要者をつなぎ止めて市場の維持開拓を図れます。このようにして、商標によって需要者をつなぎ止めておくことができるとすれば、その顧客吸引力に基づき、商標に財産的価値が見出されます。

品質が同等でも価格差が生じる一因には、ブランドイメージに基づく商標の価値が含まれます。商標権が「無体」財産権の一つに含まれるのは、商標に蓄積される「信用」や「ブランドイメージ」が無体の財産といえるからです。

この財産的価値を守るためにも、商標登録が必要です。商標登録しておくことで、権利者のみが登録商標を使用できるので、登録商標が使用された商品又はサービスがどの業者によるものか、明らかとなります。権利者のみならず、需要者にもメリットがあります。

また、商標権は、財産的価値のあるものですから、ラインセンスや権利譲渡などの対象にもなります。

詳しくは、商標の役割と商標登録をご覧ください。

 


前記「ありがちな商標登録しない理由?」に対する答え

>商標登録に、手間と費用をかけたくない。

特許事務所(弁理士)を使わずご自身で手続されるとしても、商標登録を受けるには、特許庁費用として、出願料12,000円、5年分の登録料17,200円で、合計で29,200円が最低限必要です(2022年9月現在)。

他人の権利がない限り、いますぐに商標登録しなくても、商標が使えない訳ではありません。しかしながら、同一・類似の商標について、他人からいつ出願されるかは分かりません。

先行商標調査せずに、また商標登録せずに使用していると、他人から警告を受けたり、使用差止めや損害賠償を請求されたり、ライセンス料の支払いが必要になったり、商標の変更が必要になったりして、かえって高くつく場合もあり得ます。

このあたりの事情も考慮して、商標登録の要否を決める必要があります。

 

>権利行使するつもりはなく、商標を使用するだけだ。

商標登録するのは、他人の使用を排除するだけでなく、自らの使用を確保するためでもあります。

自社が出願しない内に他人が出願して登録を受けた場合、それ以後は、原則として、他人の商標権を侵害することになります。商標権の効力は類似範囲まで及びますから、類似商標が登録された場合も、自社の使用が制限されることになります。

商標を使用するだけだとしても、継続して安全に使用したければ、商標登録を受ける必要があります。

 

>全国的に商売する訳ではなく、地域で使用するだけだ。

商標権の効力は、日本全国に及びます。そのため、ある地方で小さくビジネスされていても、商標制度と無縁ではありません。他人の登録商標と同一・類似範囲での使用は、原則として、他人の商標権を侵害することになります。また、ネットで広告したり通信販売したりするなら、地域は関係ありません。個人商店、個人事業でも同じです。

◆ご参考(平成22年(ワ)第11115号 商標権侵害差止請求事件)
『仮に被告が本件商標登録を知らずに被告各標章の使用をしていたとしても,単に被告が基本的な調査を怠ったというにすぎないというべきであるから,これを被告に有利な事情として酌むことはできない。』
『商標権は,全国的に効力を有するものであり,現時点において競合していないからといって,差止等の請求を否定する根拠とはならない。』

 

>先に使用していれば、商標登録は要らないのではないか。

「先使用権(せんしようけん)」として、先に使用していれば継続的に使用を許される場合もありますが、単に先に使用していた事実だけでは足りず、ある程度有名になっていることが必要です。また、継続的に使用できる範囲も限られます。最終的に先使用権が認められるにしても、その立証が必要となります。

 

>将来的には考えたいが、いま商標登録しなくてもよいのではないか。

商標権は、出願日を基準に一日でも早く出願した者に付与されます。出願が遅くなると、他人に先を越されるリスクが高まります。

なお、自社は商標登録しないとしても、既に他人が商標登録している可能性はありますから、使用前に先行商標調査する必要があります。

 


関連情報

 


(作成2022.09.17、最終更新2022.09.23)
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