「係る」とは?(係るの意味)

法律条文には、「係る(かかる)」の文言がよく出てきます。
「係る」とは、どのような意味でしょうか?
分かるような分からないような印象をお持ちでしょうか。
本日は、「係る」を解明したいと思います。

 


「特許出願に係る発明」とは?

たとえば特許法には、「特許出願に係る発明」との文言が頻繁に出現します。

「特許出願に係る発明」とは、何でしょうか?
出願書類に記載の発明でしょうか。特許出願から登録までの流れに記載のとおり、出願書類として、願書、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書がありますが(特許法第36条)、明細書や図面にのみ記載の発明も「特許出願に係る発明」でしょうか。

いえ、違います。「特許出願に係る発明」とは、「特許請求の範囲に記載された発明」です。従って、「明細書」や「図面」には記載されていても、「特許請求の範囲」に記載されていない発明は、「特許出願に係る発明」には含まれません。

なぜ、そのように言えるのでしょうか。たとえば、次の点から明らかです。
すなわち、特許法第49条第二号には、「特許出願に係る発明」が新規性や進歩性などを有しない場合、審査官は出願を拒絶すべき旨を規定しています。出願書類中、特許を受けようとする発明は「特許請求の範囲」に記載し(第36条第5項)、特許後の権利範囲(技術的範囲)は「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められるので(第70条第1項)、出願発明を特許にするか否かは「特許請求の範囲」に記載された発明で判断すべきことになります。そのため、特許法第49条第二号などの「特許出願に係る発明」とは、「特許請求の範囲に記載された発明」という訳です。

このように、「特許出願に係る発明」とは、単に「特許出願に記載した発明」や「特許出願に関連した発明」という程度ではなく、「特許を求めて特許出願した発明」つまり「特許請求の範囲に記載された発明」ということになります。

なお、特許法では、「特許出願に係る発明」と等価と思われるものに、「請求項に係る発明」(第36条第5項)、「特許を受けようとする発明」(第36条第6項一号)などがあります。

 


「係る」とは?

では、「係る」とは、一般的に、どのように解釈すればよいのでしょうか。

仮に、「係る」を単に「関係する」「関連する」と解釈するなら、「特許出願に係る発明」が「特許出願に関係(関連)する発明」ということになり、明細書や図面にのみ記載された発明の他、先行技術(先願発明)をも含み得ることになり、不合理です。

「・・・に係る」とは、「・・・(対象)の」と捉えてよいのではないかと思います。

実際には「係る」には、各種の用法があるようですが、「係る」が出現する度にいずれの用法か逐一確認するのは煩雑である(しかも用法により意味が異なるのでは困る)し、厳密にいずれの用法かを確定することもできないと思われます。そのため、特許法を見る限りは、「・・・(対象)の」と把握してよいのではないかと思います。つまり、「に係る」≒「の」ということになりますこの「の」は、単に「関係する」「関連する」という程度ではなく、「係る」の前後の文言を、もっと強く結び付けるものです

「特許出願に係る発明」とは「特許出願発明(出願対象の発明=出願発明)」、「請求項に係る発明」とは「請求項発明」、「特許に係る発明」とは「特許発明(特許対象の発明=特許発明)」となります。

 


商標法上の「係る」を確認

念のため、商標法でもいくつか確認しておきます。

商標法第2条第3項には、「この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。」として、第六号に「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為」が規定されています。
たとえば、自動車の修理において修理した客の自動車に標章を付する行為です。自動車修理というサービス提供に当たりその修理を受ける客の「当該役務の提供に係る物」具体的には「自動車修理というサービス提供対象の車」に標章(ネーミングやマーク)を付する行為は、商標の使用に当たるという訳です。

商標法第3条第1項柱書には、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」と規定されています。「自己の業務に係る商品又は役務」とは「自己の業務(対象)の商品又は役務」ということになります。

商標法第13条の2第1項には、「商標登録出願人は、商標登録出願をした後に当該出願に係る内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後商標権の設定の登録前に当該出願に係る指定商品又は指定役務について当該出願に係る商標の使用をした者に対し、当該使用により生じた業務上の損失に相当する額の金銭の支払を請求することができる。」と規定されています。いずれの「に係る」の文言も、概ね「(対象)の」と置換可能と思われます。

 


関連情報

 


参考情報(特許庁資料)

特許庁編『工業所有権法逐条解説 第20版』特許法第48条の6〔字句の解釈〕
〈特許出願に係る発明〉 特許請求の範囲に記載された発明である。したがって発明の詳細な説明の欄には記載されているが、特許請求の範囲に記載されていないような内容の発明は含まれない。」

特許庁編『特許・実用新案 審査基準』第I部第2章第1節「2.本願発明の認定」
審査官は、請求項に係る発明の認定を、請求項の記載に基づいて行う。この認定において、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮して請求項に記載されている用語の意義を解釈する。また、審査官は、この認定に当たっては、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面を精読し、請求項に係る発明の技術内容を十分に理解する。…」

特許庁編『特許・実用新案 審査基準』第II部第3章「2.1 特許出願に係る発明」
特許出願に係る発明とは、「請求項に係る発明」をいう。

特許庁編『特許・実用新案 審査ハンドブック』32.01 優先審査
「特許出願に係る発明」とは特許請求の範囲に記載された各請求項に係る発明をいう。

 


参考条文(2019.06.01)

特許法
第29条の2 特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって当該特許出願後に…特許公報…の発行若しくは出願公開又は…実用新案公報…の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面…に記載された発明又は考案…と同一であるときは、その発明については、前条第1項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。ただし、当該特許出願の時にその出願人と当該他の特許出願又は実用新案登録出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。

第36条第5項
第2項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。

第48条の6 特許庁長官は、出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施していると認める場合において必要があるときは、審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる。

第49条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 一 その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項又は第4項に規定する要件を満たしていないとき。
 二 その特許出願に係る発明が第25条、第29条、第29条の2、第32条、第38条又は第39条第1項から第4項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
 三 その特許出願に係る発明が条約の規定により特許をすることができないものであるとき。
 四 ・・・

第74条 特許が第123条第1項第二号に規定する要件に該当するとき(…)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
2 前項の規定による請求に基づく特許権の移転の登録があつたときは、その特許権は、初めから当該登録を受けた者に帰属していたものとみなす。当該特許権に係る発明についての第65条第1項又は第184条の10第1項の規定による請求権についても、同様とする。
3 ・・・

第17条の2第5項
前2項に規定するもののほか、第1項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(…)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
 一 第36条第5項に規定する請求項の削除
 二 特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
 三 ・・・

第126条第7項
第1項ただし書第一号又は第二号に掲げる事項を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

 


参考文献

(1)小澤達郎・前田敏宣 著『新版 文例で分かる公用文作成ハンドブック』(学陽書房、2018年)
   「公用文における用語」>「法令用語」

(2)法制執務用語研究会 著『条文の読み方』(有斐閣、2015年)
   「法制執務用語編 条文の読み方」>「係る」「関する」

 


(作成2019.06.27、最終更新2019.06.29)
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